隠し扉
「や、やばい」
高垣は目の前の状況に呆然となった。
召喚の儀式が行われた神殿は崩壊して美しかったステンドグラスや精巧な彫刻がなされていた柱も今は一本も残っていない。
先ほどまでこの世界の説明してくれていた神官、勇者を召喚するために力を貸したとみられる魔術師のような格好をした人々(ざっと見ただけで50人くらい)、魔王討伐を依頼してきた王女様(超絶美少女)、その奥にいた王様、王妃様が一瞬、本当に瞬き一つする時間で消え去ってしまった。というか見渡す限りのすべてが粉々に吹き飛んでしまっている。
「これって、俺のせいだよな・・・・逃げよう」
罪悪感からか手足が震え始めるがそれを無理やり抑えるために呟く。人間自分では対処できないことがあれば人のせいにしてしまえばいいんだ。
「事故だし、こんなことになるなら最初から説明してくれなかったほうが悪い。うん。」
周りを見ると色々なものが散らかっている。中には、というか周辺のほとんどには人間の一部が飛び散っていて瓦礫よりも先に目に入る。高垣はそれを極力見ないように周囲を確認する。
生き残りは・・・いないな。
「逃げるにしても先立つものがないとどうしようもないか。ん?」
周りの瓦礫で転ばないように慎重に探索していると瓦礫の下にあってもなおキラキラ光る宝石を見つけることができた。そこは宝物庫だったのだろう、崩れる前はさぞかし立派だっただろう壁や柱は見る影もないが、そこに仕舞われていた宝石や貴金属は今もその美しさをたたえて自己主張している。
高垣はそこからいくつかの宝石をつまみ出したところで近くにあったポーチにそれらを詰め込んでいく。
「ん?全然膨らまないな。なんだこれ」
魔法のポーチはこの世界で一般的に使われているポーチで中には見た目以上に物が入り、重さもかなり軽減されるという元の世界では考えられない代物だ。しかも、宝物庫に保管されていたポーチなだけあって従来の物では上限がせいぜい10キロ程度に対して100キロを超えても大丈夫の国宝級のお宝である。
入るのだから目につく宝石や調度品、アクセサリーまですべて詰め終えた高垣は改めて今自分が置かれている状況を考えてみる。
これって犯罪者になるのかな?というか大虐殺を起こしたってことで魔王じゃなくて俺が討伐対象になるんじゃないか?
なんというかやばすぎる。逃げるのは当然として、これからは極力人に会わないようにしていったほうがいいだろう。でも、まだこの世界にきて一時間もたっていないのだ右も左も分からない。何とかして人気のないところでスローライフを送りたい。勇者だしそれくらい何とかなるようなスキルとかないだろうか。
宝物庫を見つける前から先ほどのスキルを使おうと試みているが掌の上で小さく爆発が起こる程度でそれ以上の変化はない。
「いや、さっきみたいな大爆発がおいそれと起こっても困るんだけどさ」
ひとしきり掌の上で爆発を起こした後それ以外にもスキルがないか試してみたが何も起こらなかった。
そろそろ出発しようかと思ったところで宝物庫の床に奇妙な扉があることに気付いた。
「隠し扉、かな」