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8

 特別授業が始まる前に、私とローガンとオリバーは話しをしていた。

「北の洞窟に魔物が出たって話しを聞いた事があるか?」

「あの話し本当なの?」

 朝の市場で大人達が噂をしているのを聞いていた。

「あぁ、本当らしいよ」

「商会でも噂になっていたよ。おかげで荷物を運ぶのに、周り道をしなければいけないって」

 貴族と商家の二人の耳は早い。それに情報の信頼性がある。

「俺たちでどうにか出来ないかな」

 ローガンは突然そう言った。

「危なくない?」

 いくら他の子より魔法が使えると言っても私達はまだ子供だ。

「スカーレット、君はわかってないみたいだから言うけど、俺達みたいに強い魔法が使える大人なんてこの村には一人もいないんだぜ」

 ローガンがため息交じりに言う。

「本当に?」

「強い魔法の使える子供は以前も生まれた。けど、十五才までにちゃんと使いこなして試験をパスしないと、枷を付けられて永遠に魔法を使えなくなってしまう」

 それは魔法学の教科書に乗っていた。

「それじゃ人材が育たないからって作られたのがこの『特別授業』なわけさ。でも、以前はそんな支援は無かった。強い力を持った子供は軒並み魔力を封じられてしまったわけさ」

「でも、大人達が対処するでしょ?」

「一応、コノート国に認定魔法使いの要請依頼を出したって父が言ってた。けど、来てくれるのは、いつになるかわからないらしい。もしすぐ来てくれたとしても、伝令が行って、返事が来て、魔法使いが来るのに早くても一ヵ月はかかるらしい」

「実は僕も同じ事を考えていたんだ……」

 彼は鞄から、地図を出す。地図に朱色で☓が付けられている。

「この道が通れないせいで、みんな困っているらしい。荷物が運ばれて来ないので、商会に勤める父も困ったように、頭を抱えていた。特にこの道を通って来る荷物は、薬の材料になるものが多いらしいんだ。僕のお婆ちゃんは、いつも心臓の薬を飲んでいるんだけど、それが予定通り届かなかったらと思うと……」

 問題は急を要するものだった。

「僕達三人で、どうにかできないかな……」

 オリバーは困ったように、小さく肩を丸めた。

 私は少し迷ってしまった。一人では難しい、二人でならどうにか、三人ならきっと大丈夫。

「俺は手伝うよ。元々そのつもりだったし。けどスカーレット。君は無理に来なくてもいいよ。コレは危ない事だからね……」

 そう言われて私は逡巡した後に、顔をあげた。

「私も手伝うよ」

 もしもこの事が両親にバレたら、怒られるかもしれない。けれど、私の道は私が決めて良いのだ。

 どのくらい役にたてるかわからないが、ココで見て見ぬフリはできない。

「本当に良いのかい」

 私は頷いた。

「ありがとう、三人で頑張って魔物をやっつけよう」

 私達は拳を突き合わせた。


 三日後、三人は草原で落ち合った。

「スカーレット、これを」

 オリバーが私にナイフを渡す。

「出来る限り僕らが守るけど、もしもの時はそれで身を守ってくれ」

 ナイフなんて初めて持った。鞘から抜いて刀身を見ると、綺麗に磨き上げられていた。ローガンは剣を腰に下げて、オリバーは長い棍棒を持っていた。

「それじゃ行こう」

 草原から歩いて、森の奥にある北の洞窟は、中に入ると昼でも暗い。しかし、商会が使うように点々と松明が置かれているので歩きながら火を灯していく事ができた。オリバーが地図を見る。

「魔物が出るのは洞窟の中頃だ。他のモンスターが出る事もあるから、気を引き締めていこう」

 私はナイフを握って進む。すると、暗がりから突然何か飛び出してきた。グルグルと唸っている。赤い目を光らせる狼だった。

「俺がやろう」

 ローガンが出て来て雷を撃つ。狼は雷に撃たれて黒く焦げて動かなくなる。死んだのだと思う。狼の死体の横を通り過ぎる。私は死体を横目に見て恐ろしさに胃が締め付けられるのを感じていた。

 その後も数体、魔物が出る。ローガンとオリバーがすぐに倒してくれるので、私の出番は無かった。むしろ現在の私は足手まといである。付いて来ない方が良かったんじゃないかとすら思い始めていた。

「この先だ。魔物はこの先にいるらしい」

 オリバーが振り向く。

「行くぞ」

 私とローガンは頷いて、武器を構えた。


 洞窟の奥は暗い。その暗闇の中に、大きな塊が見えた。低く唸る声。ローガンが松明を持ち上げる。そこに映し出されたのは、大きな狼だった。全長三メートルはある大きな狼が私達の前で唸り、牙を剥いていた。息を殺して近づくと、狼は目を開けて私達に飛びかかろうした。ローガンが手を上げる、右手に凄まじい力の雷のエネルギーが溜まり振り下ろした瞬間に狼の上に落ちた。狼はひるみながら、身体を起こす。それに続いて、オリバーが風の魔法で狼を壁に吹き飛ばす。吹き飛ばされた狼は壁の下で蹲っている。

「スカーレット!!」  

 声をかけられた私は両手を突き出して、狼に炎をぶつけた。私の身体から大きな炎の竜が出て、狼を飲み込んだ。

 焼かれた狼は立ち上がり、うめき、よろめいた後に倒れた。後は、ただ肉の燃える匂いがするだけだった。

 消し隅になった狼を見届けて、私達三人は顔を見合わせる。今にも叫び出してしまいそうな気持を押さえて、三人はすぐに洞窟を出た。そして洞窟を出た瞬間に叫んだ。

「やったぞーー!! 俺たち魔物を倒したんだ!!」

 ローガンが両腕を上げる。

「どうだ見たか!! 僕達なら絶対やれると思ってたぞ!!」

 オリバーも喜んでいる。

「スカーレット! それにしても君の魔法は凄いな!! 見たかいさっきの。あんな大きな狼が君の攻撃一発でノックダウンさ!」

「ふ、二人が先に攻撃してくれたからだよ!!」

 たぶん、スカーレットが攻撃する前から狼は瀕死だったのだ。

「それはどうかな。俺たち二人だけだったら、もう少しかかったと思うよ」

「うんうん、やっぱり僕らの中では一番スカーレットの魔法が強いね」

 褒められて私は顔が熱くなる。

「我らがスカーレットには、ますます認定魔法使いとしての輝かしい未来に期待しちゃうな」

「本当、本当。その時はぜひぜひ我が商会をご贔屓に!」

 ローガンがスカーレットの右手を握り、オリバーが左手を握って手を繋いで帰った。


 数日後、洞窟の魔物が死んで荷物の運搬が可能になったと市場で噂されていた。魔物がどうして死んだのか、村人達も不思議がっていた。それから家に、私宛に荷物が届いた。

『親愛なる、僕らのお姫様へ。この間のお礼を贈らせていただきます。君のお気に召しますように ローガン&オリバーより』

 箱に入っていたのは、綺麗な服だった。スカーレットが普段着ているようなぼろぼろの服では無い。とはいえ、普段に着ても許される程度の動きやすいエプロンドレスと靴だった。それが、デザイン違いで三着入っている。服はどうにかしなければいけないと思っていたので、この贈り物は本当に嬉しかった。早速、服を着てみた。サイズもぴったりで丁度いい。いつも着てる服は、作業用にして、こちらの綺麗な服は外に出かける用にしよう。母にはちゃんと、誰から服を贈られたか伝えておいた。すると、どちらとでも良いから玉の輿を狙いなさいとアドバイスを貰った。一応、苦笑いを返しておいた。

 学校に貰った服を着て行くと、教室内がざわついた。しばらくすると、以前私が殴ってしまった女の子が机の前に歩いて来る。

「ねぇ、あんた。その格好なに」

 私の服はたぶん、クラス内でも上の方に位置している質の良さだった。たぶん、この子の着ている服よりも。

「贈り物をいただきました」

「はぁ!? あんたなんかに誰が服を贈るのよ」

「上級生のお兄さん達です。特別授業で仲良くなりました」

「嘘よ! あんたみたいに出来の悪くて、汚い女が贈り物なんてされるはずない!!」

 男性に贈り物をされるのは、この世界ではとても重要な事らしい。それこそ、良い男性に嫁いで養って貰おうと思ってる女の子達にとっては大事な事なのだ。

「嘘じゃないです。現に私はこんなに素敵な服をいただきました」

 スカーレットはもう、出来の悪い汚い女の子では無かった。髪を結い、綺麗な服を着て、綺麗な字を書き真面目に家の事をして学校で勉強をする良い淑女なのだ。彼女に何を言われても、心はちっとも痛くない。

「ふん!」

 今回は手を出す事もなく、彼女は去って行った。

 今度は殴らずにすんでホッとした。


 魔法の特別授業に二人に貰った服を着て行くと、二人は顔を綻ばせて喜んでくれた。

「スカーレット、贈った服を着てくれたんだね。すごく似合ってるよ!」

「俺の見立ては完璧だな。やっぱり、青いストライプがよく似合ってる」

 私は二人の前に着てスカートを持ち上げて頭を下げる。

「二人ともありがとう。こんなに素敵な服を贈ってくれて」

「いやいや、これはお礼だからね。君は笑って受け取ってくれれば良いんだよ」 

「そう、男がかわいい女の子に服を贈るのは普通の事だからね。気に入ってくれて嬉しいよ」

 私は二人に花を差し出した。森で摘んだ花をリボンで結んで花束にしていた。

「こんなものしかあげられないんだけど。本当にありがとう」

 二人にそれぞれ花を渡す。それを受け取って二人は顔を赤くした。

「いや、ははっ。女の子に何か貰うの初めてだな。ありがとう」

「僕もだよ……ありがとう」

 二人とも喜んでくれたみたいで良かった。

「はーい、授業始めますよ」

 ユーリス先生が教室に入って来る。

「スカーレットさん今日はかわいい服を着てますね」

 ユーリス先生がニコニコして声をかけて来る。

「ありがとうございます」

 このクラスでの授業は、私にとって天国のようだった。



つづく

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