表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/72

4

 朝起きて自分の身体や髪を触る。ギトギト、ベタベタしていない。今後も身体は清潔に保とう。クシも無いので、手グシを通して整える。気づいたのだが、スカーレットの髪はグレーでは無く、シルバーだった。髪の汚れを落とせば綺麗な銀髪が見えた。生前、ファンタジーキャラの中で銀髪キャラが一番好きだった私にはとても素晴らしい発見だった。せっかくなので、髪を縛ろうと思ったが縛るものが無い。あたりを見回して良いものが無いか探す。スカーレットの部屋は倉庫なので、いらないものが沢山積まれていた。

「ロープ……」

 無骨な紐ロープを見つけて、指で摘む。まぁ、無いよりはましかもしれない。他に良いものが無いか探す。

「あ」

 古びた綺麗な箱を開けると中に布の切れ端や、包装紙、それからリボンが沢山入っていた。たぶん母のものじゃないだろうか。私はその中からリボンを取り出す。どれも短いが、髪を結ぶには丁度いい。私はそれを手に持って下におりた。

 台所で母が忙しく働いている。

「お母さん、このリボン使っても良い?」

 尋ねると母は私の手にのったリボンを見て首を傾げる。

「なにに使うんだい?」

「髪を結ぶの」

「あぁ、ずいぶん伸びたもんね。良いよ、使いな」

 あっさり承諾が貰えたので、私は部屋に戻って三つ編みを両サイドで編んでオレンジのリボンで結んだ。うん、悪くない感じだ。ついでにハサミで髪を切って長い前髪も切った。


 仕事を終えると休憩時間に森に行く。

「にゃーん」

 どこからともなくやって来たフランが足に擦り寄る。

「よしよし」

 私はフランの頭を撫でる。すると、少し遠くに小鳥が飛んで来る。それを見つけたフランは私から離れて静かにその小鳥の側に寄る。狩りをするフランを見ていると、飛びかかるのかと思った瞬間にフランは口から火を出して小鳥を丸焼きにして仕留めたのだった。捕まえた小鳥を咥えて私のところに戻って来る。

「フランって火の魔法が使えるのね……」

 この世界では、動物達にも魔法の力が浸透しているらしい。

「私も使いたいなぁ……」

 フランの頭を撫でてため息をついた。


 それから次の日学校に行くと、教室内がざわつく。いつもぼさぼさ髪の私が三つ編みして、小奇麗にしているのが奇異に見えるらしい。

「なに、その髪。かわいいと思ってるの?」

 気の強そうな女の子がやって来て、私の前に立つ。後ろに何人か引き連れている。

「かわいいかはわかんないけど、こうすると邪魔じゃないよ」

 私は三つ編みを摘んで首を傾げた。

「変な髪型!」

 女の子が私のおさげを引っ張るので、私は思わず彼女の手を振り払った。

「なによ!!」

 彼女が私に掴みかかって来る。私は咄嗟に、彼女の顔面を殴っていた。

 鼻血を出した女の子は鼻を押さえて席に戻ってしまった。その様子を見て、取り巻きの子達も、目を白黒させて席に戻っていった。

 正直、やり過ぎたと思う。

 けれど、彼女が威圧的に襲い掛かって来るのを見た時に、私の脳裏には、これまでスカーレットが受けて来た『加害』の記憶が通り過ぎていった。

 昼食に虫を混ぜられたり。

 石を投げられて血を出したり。

 服を脱がされたり。

 掃除を押し付けられたり。

 ぐっしょり濡れるほど水をかけられたり。

 彼女達は、彼らは、それを笑いながら行った。道徳心を知らない、幼さゆえの残酷さだと思う。

 けれど、それを私は許す事ができなかった。

 だから、咄嗟に手が出てしまったのだ。

 彼女達の横暴を止めるには言葉では足りない。

 こちらに反抗の意思があるのだと、強く示すしかなかった。


 魔法の授業で私は再びなんの成果も得られなかった。外に出て、みんなが木に向かって小規模な雷を落としている中。私は必死に指を振って、空振りし続けた。次の、土の魔法もからきしである。ドカドカと突起状の土をみんなが出しているのに、私は地面に手のひらを当てているだけで時間が過ぎた。もう絶望である。こんなに才能が無いなんて。

「では、今日は最後に水の魔法を試しましょう」

 ユーリス先生がみんなに水の入った銅のコップを渡す。

「良いですか、よく集中して水を動かしてみてください」

 芝生に座ってコップを見つめる生徒達。一人がコップの中から水を飛ばして空中に円を描く。するとそれを見て他の子達も後に続いた。そして、今回も唯一駄目なのはやはりスカーレットだった。スカーレットのコップの水面は静かで全く何も起きる気配は無い。

(なんで私のだけ何もおきないの!! 私だって魔法を使いたい!!)

 私は目を瞑って祈った。なんでも良いから魔法が使いたい!!

 すると、突然ボンッと大きな音がして私のコップから煙が出た。

「へっ」

 コップの水が空になっている。それに凄く熱くてコップを落としてしまう。

「おや」

 ユーリス先生が私の側にやって来る。コップを拾い上げて私を見る。

「どうやら蒸発させてしまったみたいですね。あなたが今使ったのは水の魔法ではなく、火の魔法ですよ」

 ユーリス先生が私の手にコップを返す。再びコップの中に水が注がれる。

「ですが、よくできました。さぁ、その調子で水の魔法も頑張りましょう。頭の中に動かす水のイメージを抱いて力を注いでみてください」

 私は先生に言われたように、目を閉じて水が宙に描く円のイメージを描いた。しかし、だんだん頭の中が熱くなってくる。そして静かだったコップの水面は再び、大きな音をたてて一瞬で蒸発した。

 先生は笑っている。

「おやおや、むずかしいですね」

 先生は私のコップに水を注いでくれようとした。しかし、水差しの中に水は無かった。

「……?」

 先生は水差しを見て少し首を傾げる。

「ウィロス、そのコップを少し借りても良いですか?」

 先生は少し離れたところにいる生徒に声をかける。

「えー」

「えーじゃありません。ほら、貸してください」

 ユーリス先生が受け取ったコップを私は手渡される。

「いいですかスカーレット。今度はこのコップの水を蒸発させるイメージを持ってください。さぁ、やってみて」

 私は手渡されたコップを見て、水が蒸発するように祈った。数秒後、私のコップが音を出した後に、後を追うようにクラス中の子のコップの水が蒸発した。

「おやおや」

 先生は辺りを見て頬を掻く。

「スカーレット、あなたには特別授業が必要なようですね」

 先生は笑みを見せて私を見るのだった。


 この世界では普通の人間が魔法を使える。学校で魔法を教えるのは、一般の人間がその力を制御し使いこなす為だった。十五才の成人の時までに、魔法が使いこなせなかったものは魔封じの枷を付けられて一生魔法が使えなくなるらしい。

 『特別授業』とはその中で特に力の強い人間に、魔法の扱い方を教える授業だった。その授業に呼ばれるという事は、ある意味誉れのある事でもあったのだ。


 私は先生に特別授業の日程の日を聞いて、家に帰った。学校に行く日が増えてしまった。母に話したら怒るだろうか。


 家に帰って母にその事を伝えると、意外にも母は怒る事は無かった。

「ちゃんと今の内に使いこなせるようにして貰うんだよ。制御できなきゃ、私みたいに一生魔法が使えなくなるからね」

 母にも思うところがあったらしい。そういうわけもあって、私は特別授業への参加を許可された。


 森へ行って、フランの頭を撫でる。魔法を使えるようになったのが凄く嬉しかった。するとガサガサと音がして、見覚えのある人がやって来た。

「また会ったね」

 クラビスが私に手を振る。そして私を上から下まで見る。

「髪型変えたかい? いいね、とってもかわいいと思うよ」

 さらっと、褒められた事が嬉しくて、私は小さくはにかんだ。

 例えお世辞でも、褒められると嬉しいのだ。自己を尊重して貰った気がする。

「ありがとうございます。クラビスさんは今日もフィールドワークですか?」

「うん、この森はなかなか優秀で特に変わった虫をよく捕まえてね。研究が捗るよ」

 仕事が楽しいって、良いなと思った。

「ところでスカーレットちゃんにお願いがあるんだけど、いいかな?」

 大人のクラビスさんが、私になんのお願いがあるんだろうか。

「実はね、フランメキャットを見せて欲しいんだ。こんなに人に慣れた子は珍しいから観察できないかと思って」

 研究熱心な人だ。

「良いですよ!」

「本当かい? ありがとう!」

 クラビスさんはとても嬉しそうに笑みを浮かべる。まるで、子供みたいな純粋な笑みだった。研究するのが心の底から好きな人なのだろう。なんだか、その姿はピカピカ光って見えた。村では見た事のない大人だった。

「どうすると良いですか?」

 彼は鞄からスケッチブックと、絵の具を取り出す。

「とりあえず、そうして座っておいて貰えるかな。まずはスケッチをするね」

 彼はそう言って、私の足下に座るフランの絵を描き始めた。木炭で線を描いている。慣れた様子で描き出せれるスケッチに、私は見惚れた。それは今まで見たどんなものよりも、魔法のようだった。

「クラビスさんは、どこからいらっしゃったんですか?」

「僕かい? 僕は、コノート国だよ。」

 コノート国は確か、この大陸で一番大きい国だ。学問も進んでいるのだろう。

「いつ頃、帰るんですか?」

「んーまだ決めてないな。知りたい事はいっぱいあるし、やりたい事も沢山ある。本ならどこでも書けるからね」

 町から町に渡り歩いて、その付近の山や草原の生物や植生を研究して、それをレポートにまとめて本にしているらしい。国に原稿を送って本にして貰い、その本の原稿料で彼は再び旅に出るの繰り返し。なんて自由な生き方だろうか。

「うらやましいです」

「根無し草だとよく言われるよ。学者ってのは普通、工房作って一つの場所に留まって研究するものだからね」

「どうすれば、そんな生き方ができますか?」

 虐げられて生きるスカーレットの為に必要な問いだった。

「僕は落ちこぼれでね。人の多い学校で勉強するのが苦手だった。集団の中にいるのが苦手なんだ」

 伸びやかに描かれた線に、絵の具で色が塗られてゆく。

「そんな僕を見て両親は心配したし、友人もできなかった」

 淡く鮮やかな赤が広がる。

「けどね、森の中で悩む僕の頭の上に、ふわりと大きな葉っぱが落ちて来たんだ。青々としたその葉は、まるで僕を慰めているようだった」

 クラビスは過去を思い出すように目を細める。

「『君はそのままで良いんだよ』と言われているようだった」

 彼は小さく笑みをこぼす。

「それから僕は、『今はコレで良い』と思うようになったんだ。どんな自分でも、何者でもなくても、誰も肯定してくれなくても、『今はコレで良い』と思った。だって、この世界はありのまま僕を受け入れてくれたから。それで良いのだと言ってくれたから」

 クラビスが私を見る。

「自分や周りを責めても何も変わらないんだ。あらゆる環境要因で現状そうなっているのだから、ひとまず『今はコレで良い』と認めて。それから少しずつ、自分の好きな方向に歩いていけばいい」

 クラビスのその言葉は、私の心に響いた。

 『今はコレで良い』。状況は何も変わらないけど、今はこの現状を肯定する事にした。

「はい……ありがとうございます」

 私は肩に載った荷物が下りるような気持ちになった。

 きっと私は気負い過ぎていたのだろう。スカーレットの事を幸せにしなければいけないと思い込んで。けれど『今はコレで良いのだ』。ここから、少しずつ歩いていこう。

 スケッチの終わったクラビスさんはお礼に私に3000ギルもくれた。また、フランの観察をさせて欲しいとの事だった。


 家に帰って藁の布団に入って、私は天井を見る。小窓から星空が見える。

 これから少しずつ、スカーレットと一緒に歩んでいこう。明るい方へ、楽しい方へ、穏やかな方へ。



つづく





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ