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 二年目の夏である。今年も、ザウルさんとラスカーさんのとこでアルバイトをしようと思っていたのに、その計画は無くなってしまった。みんなから誘われていた、夏の楽しいイベントも全て無しである。何故なら私は現在、コノート国を出て、南東の方にある火の神殿にいるからだ。クロエ先生も夏は用事があるので、私は一人で馬車に乗ってやって来ていた。一応現地で、別の先生? と落ち合う事になっている。夏の間その初対面の先生とずっと過ごす事になるので、少し緊張する。

「いったい、どんな先生なのかなぁ」

 馬車から下りた後、荷物を背負って遺跡の前に歩く。すると前方で手を振る人物がいる。

「おーい」

 なんだか聞き覚えのある声だ。

「スカーレット~!」

 近づく程に見覚えのある人物に見えて来る。

 私は数歩先まで近づいて立ち止まった。

「クラビスさん、何しているんですか…!?」

「何って、もちろん君を出迎えに来たんだよ」

 ここに来るまでに彼、以外の人影は見えなかった。

「つまり、もしかして……」

「そう、先生は僕さ!」

 彼の笑顔を見て、私は力が抜けた。 

「いやー、召喚魔法が得意でそこそこ実力があって、学問に精通して、大学に所属していながら手の空いている人間と言うのが僕しかいなくてね!」

 私はクラビスさんと一緒に遺跡の敷地を歩く。

「緊張して損しました」

「でも、安心しただろ」

「それは、そうですね。よろしくお願いします、クラビス先生」

「先生か! 良いもんだね、そういうのも」

 クラビスが右に曲がって、小さな遺跡の中に入って行く。

「ひとまず、ここが僕らの住まいだ」

 通された場所にはテントが張ってあり、バーベキューで使うような道具が外に置かれている。

 アウトドア生活の幕開けである。

「あぁ、安心してくれ。この空間には空調を調節する魔術装置を置いている」

 部屋の中に入ると、涼しかった。

「あ、本当だ」

「快適だろ。ちなみに作成は、ライアンだ」

「ライアン先生!」

「あいつは、世の中が便利になるようなアイデアグッズを作るのが得意なんだ。しかも、儲けを考えていないらしく特許をとらないんだ」

「え、でもそれじゃパクられちゃいませんか」

「もちろんそうさ。この装置だって発明後すぐに、いろんな魔術師がパクって改良を加えて進化させた。しかしそれがあいつの狙いなんだ。基本は作るから、みんなの努力でそれをより便利なものにして量産してくれって事らしい」

 広く普及させるのが目的なのか。ライアン先生、偉い人だ。

「長旅疲れただろ、授業は明日からだ。今日は、簡単に遺跡の事を説明させて貰うよ」

 長時間の馬車は確かに疲れた。

「というわけでまずはこちら」

 テントをめくる。中には寝袋が一つ入っていた。

「こっちがスカーレットくんのテント、あっちが僕のテントだよ」

 あ、一応気を使って別々にしてくれたのか。私はテントの中に荷物を置く。再び外を見る。

「ここに置いてある機械でお湯が沸かせるよ」

 ポットの下に湯沸かし機がついている。たぶん、燃料は魔石なのだろう。だから持ち歩ける。

「このコンロで火も使えるよ」

 こっちも魔石稼働だった。クラビスが外に出る。

「ここの水道から水が出る」

 この水道も魔力稼働である。水の魔石で、水そのものを作り出して出している。なんて便利なんだ。

「そして、この裏にトイレがある」

 連れて来られたのは、とてもシンプルな掘っ立て小屋だった。中に入ると、穴が掘ってある。ここだけ凄くアナログだ。スカーレットの実家のトイレもこんな感じでした。

「さて、次は向こうの遺跡の中も少しだけ説明するよ」

 遺跡の入り口まで歩いて来る。

「スカーレットちゃんは、古代語読めるのかなぁ?」

「…一応専攻してます。けど、まだ簡単な単語くらいしか」

 元々予定に無かった古代語の授業をとったのは、特級魔術師には必要不可欠なものだったからだ。難しい詠唱とかは、古代語を主に使うらしい。

「それじゃ、僕が解説するね」

 入り口の近くに立てられた石に文字が書かれている。

「『ここは火の神殿。力なき者は通るべからず』」

「へぇ」

「コノートの国の中で一番、火の力が強いのがここなんだ。だから、火の魔力をレベルアップさせるのに向いている。けど、中は危ないからまずはある程度力があるのが前提なんだよね」

 クラビスが手招きする。

「この入り口通ってみて」

「はい」

 私は中に足を踏み入れた。なんの変哲も無い、ぼろい遺跡の入り口だったが、突然頭上から

 ピンポーン!

 と言う音がした。

「なんですか今の」

「通っても良いの合図だよ。良かったね。この遺跡は度々、あんな感じで判定してくれるからわかりやすくて良いね」

 寂れているけど、中身は今も稼働中らしい。

「それじゃ少し入ろう」

 更に遺跡を進む。暗い遺跡の中に、火が勝手に灯る。

「凄いよね。この遺跡は八〇〇〇年以上も前に作られたものなんだ。それなのに、既にこんなに複雑な魔術基盤の技術を持っている」

 私は首を傾げる。

「あの、この遺跡を作ったのは誰なんですか? 確か、三〇〇年前にコノート国が建国される前はこの大陸に人はいなかったと習いましたけど」

「良い質問だ。確かに『人』はいなかった」

「……人じゃない先住民はいたんですか?」

「そういうわけさ。彼らは八〇〇〇年前にこの高度な文明を築いていながら、およそ五〇〇〇年前に滅亡してしまった」

「滅亡…ですか?」

「僕らの先祖はその原因を探りあてた。この大陸は不定期に魔力の大きな変動が起きるんだ。コノートは魔力の濃い土地でね、それらがぶつかりあっていたんだ。そして偶に吹き出す。それは、様々な形で現れた。わかりやすいものだと、自然災害だね。地震、トルネード、山火事、噴火、暴風、豪雨、豪雪、津波、干ばつ。先住民の『クノウス族』はそれらの災害にやられたんだ」

 私は目を見開く。

「それ以外にも、濃い魔力の吹き溜まりがよく出来ていたから、その瘴気にあてられて発狂するものもいた。濃すぎる魔力が土に滲み出した土地で作った作物を食べて、病になったり、奇形の子どもも生まれたらしい」

 私は身震いした。

「僕らの祖先は、どうしてもこの大陸に住みたかったからどうにかしてその魔力変動を制御する方法を考えた。それが、大精霊との契約だった」

「それじゃあ、特級魔法使いってその時から……」

「そうさ。特級魔法使いはこの国の礎なんだ。いなければ、いずれ災害を受けて国は滅ぶ」

「し、知りませんでした」

「まぁね。この事を知っているのは、一部の人間だけなんだ。僕は旅が長いからね。この遺跡も偶然見つけて、自力で踏破して、この国の霊的な構造を理解してしまったわけさ」

 クラビスさん、やっぱり凄い。

 長い廊下の奥に広い部屋が広がっていた。左右と目の前の壁に二つずつ道が続いている。

「明日からこの部屋に一つずつ入って、試練を受けるよ。部屋は全部で六個ある。この試練を全て乗り越えれば、飛躍的にレベルアップが出来るだろうね」

「がんばります!」

「うん、やる気なのは良い事だ。じゃ、戻ろうか」

 来た道を帰る。

「あの、クラビスさん」

「どうしたの」

「私の為に時間を使っくれて、ありがとうございます」

「いやいや、当然の事だからね」

 彼は手をひらひら振って応えるのだった。彼の時間を無駄にしない為に、必ず試練を全て乗り越えたい。

 


つづく



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