俺とお前と図書室と
前回の短編を書いたら彼目線を書かないと成り立たないのではと考えて書いてみました。またまたゲロ甘です。皆さん塩水の用意を。
それでは拙い文章ですが宜しければお読み下さればと思います。
彼女は教室でいつも静かに本を読んでいた。
サラリとした黒髪、文字を読むために伏せた長い睫毛、ふるりと震えるような唇に思わずゴクリと喉が鳴った。
お前と初めて話したのは入学式の日、お前は憶えていないだろう。あの時、桜を背にしたお前に恋したことを。
入学式早々、先輩に呼び出された俺はこれまたベタな校舎の隅、誰も来ないようなところに呼び出された。生まれつき色素が薄いのか茶色の髪にこれまた茶色の瞳、高校生活に粋がった新入生だと思われても仕方のないことなのだろう。
勿論呼び出した相手は思いっきりぶちのめしてやった。すぐに泣き言を行って逃げていったのには思わず鼻で笑う。ただ、相手が3人も呼んでたのは予想外だったな…。
殴られた右頬が腫れているのが分かる。口の中も切ったようで鉄臭い味が広がる。
思わず顔をしかめてしゃがみ込む。早速喧嘩をしてまったことに思わずうなだれる。毎回こうだ…、血の気が多すぎるだろうが、俺…。
「…あの、大丈夫ですか?」
聞こえるはずのないか細い声に思わず顔を上げた。
そこには何時の間に表れたのか、真新しい制服に身を包んだまるで桜の精かと見紛うほどの黒髪の彼女がいた。
「血が!…良かったら、あの、これ…。」
目に見えて慌てだした彼女がおずおずと差し出したのは、淡いピンク色のハンカチだった。小さく桜の刺繍がしてある。
「…怖くねえの?」
血だらけで如何にも喧嘩してました!といえるような格好をしているのに、絶対に関わり合いになりそうにないタイプなのに。
「こ、怖いですけど…。」
そう言うと彼女はしゃがみ込みながら俺の口に付いた血を拭った。
「私は、貴方の方が心配です…。」
俺は、このプルプル震えながらも俺をしっかり見つめてくる彼女に、お前に恋をした。
それからの記憶が全くない。気付いたら先程彼女が持っていたハンカチを握り締めて、息を切らせながら家の前にいた。
どうやら親切にしてくれた彼女にお礼も言わず、あろうことかハンカチを奪って俺は逃げ出したらしかった。手のひらを開くと俺の血が付いてしまい汚れてしまったハンカチ。
慌てて家の中に入り、丁寧に汚れを落とし乾かす。
ハンカチを見つめながら知らず知らずのうちに俺の口元は緩んでいた。
新入生だろうか?同じ学年っぽいし、同じクラスメイトだったら仲良くなって、それで…。
そんな浮かれたことを考えていた俺だったが、早々にそんな考えは打ち砕かれた。
「な、なぁ。」
「おーい!!何してんだよ!早く行こうぜ!!」
「あ、あぁ!分かった…今行く!」
同じ学年だった、しかも同じクラスになれた、だがお前は俺のことを微塵も覚えていないようだった。
何度も声をかけようとした、何度も俺だと気付かせようとした。
だが俺が話しかけようとすると悉く邪魔が入る。
悪い事じゃない。中学の頃は不良だと敬遠気味で友達もあんまり居なかったからな。お前に見合う男になろうと必死に猫かぶって笑顔でいたら何時の間にか俺の周りには人が集まった。
けど、決してお前は近付いてこようとしなかった。俺の我慢も限界になろうとしていた。
放課後、すぐに教室から居なくなってしまうお前を探してフラフラと探し回っていたら何時の間にか夕方になっていたらしい。
辿り着いたのは図書室で期待もなく扉を開けた。そこには驚いた表情で俺を見るお前がいた。
まさか会えるとはしかも二人っきりで、思わずゴクリと喉が鳴る。動揺を悟られないように口を動かす。
「帰らないの?」
「うん、先生会議に行ってるから、留守番なの。」
「ふぅん、あそ。」
なんでこんなそっけない事しか言えないんだよ!俺の馬鹿!!!
たまたま目に付いた本を片手にカウンターに座っているお前の一番近くの席に座る。
パラリ、パラリ
一向に顔を上げない彼女を俺はずっと見つめていた。そろそろ暗くなるぞと言おうとしたが、ずっと彼女を見ていたい。
いつの間にか俺は立ち上がり、カウンターの前に立っていた。彼女の髪の毛がサラリと落ち本に陰を作る。その髪を掻き上げたい耳に触れたい頬に触れたい。
食い入るように見つめていた俺の気配に気付いたのか分からないが彼女がふと顔を上げ、俺が目の前に立っているのに気付いた。
ギョッとした様子で立ち上がり椅子を倒して彼女等が読んでいた本が膝から滑り落ちてバサリと大きな音を立てた。
その行動が無性に苛ついた。何故俺から逃げるんだ?俺が何かしたって言うのか?
「…お前さ。」
「う、うん…。」
「そんなに本読んでて楽しいわけ?」
「た、楽しいよ?色んな事を、知れるし、そ、それに」
本のことになると何でそんな嬉しそうな顔をするんだよ。なんでその顔を俺に見せてくれないんだよ。
「それに、なに気になるんだけど。」
お前の事をもっと知りたいんだよ。
「ううん…いいの。それより珍しいね?図書室に来るなんて。」
「別に、俺だって本くらいは読むさ。」
嘘だ。ホントは本なんて全く読んだことはない。なのにお前によく思われたくて見栄を張る。
「そ、そうなんだ!どんな作家が好きなの?芥川龍之介?太宰治?司馬竜太郎?」
いきなり嬉しそうにお前はカウンターから身を乗り出して聞いてきた。話題に夢中で気付いてないようだったがものすごく顔が近い。直ぐにでもキスが出来そうなくらいに…。
今さら気付いたのか驚いて見開かれたお前の瞳に俺が写っているのが見えた。ジワジワと顔が熱くなるのを感じる。恥ずかしいのかお前の瞳が潤んでいく、お前が思わず後ろに下がろうとしているのに気付いたとき、思わず身体が動いた。
「っ!待てよ!!」
カウンターを飛び越えた俺はお前を壁に縫いつける。
俺の腕の中にお前がいる。甘い香りが鼻をくすぐる。
お前が下を向いてギュッと目を閉じたのを感じた。
「…なぁ、上向けよ。」
そんなに俺が嫌いなのか?
「なぁ。」
こんなにもお前に焦がれているのに
「お願いだから、逃げないでくれよ。」
俺のことを見てくれ、そして
「お願いだから、笑ってくれ。」
恐る恐る顔を上げてお前が俺をを見上げる。
俺の視線とお前の視線が絡まる。
鼻と鼻がくっつきそうだ。
「俺さ、ずっとお前のこと…。」
お前が静かに目を閉じる。
恋い焦がれたお前をやっと手に入れた。
なんだこいつ!ただのストーカーだ!((((;゜Д゜))))
とか言わないで!多分純情なだけだから!!純情が暴走しただけだから!!←
前回ではカッコ良く決めたつもりだったけどとんだヘタレでしたねこいつ!
こんな文を最後まで読んで下さり本当にありがとうございました。