Act.2~京介~
Act.2~京介~
桐島京介は驚いた。
「な、何だ!?今の!勇太が黒い穴に落ちたぞ!」
「勇太は、お母様に思いを残していた樣です。」
死神めありーが事もなげに言う。
「あの瞬間に切り替えたのか?容赦ねえな。」
「私は一度失敗してますから…」
「でもまあ、勇太も無事成仏出来たし、めありーちゃんも晴れて1000ポイント獲得でめでたしめでたしだな。」
「そうですね…まだ終わってませんけど…」
「終わってない?」
京介が怪訝そうに問う。
「ええ、神様から特別優先業務命令が出てますので。」
「ああ、何かそんな事言っていたな。何をするんだ?」
「それは…桐島京介さん。貴方を殺し、魂を奪う事です。」
めありーの言葉に、京介はポカンとする。
「…はあ?何言ってんだ?何で俺が殺されなきゃいけないんだ?」
「あら?惚ける気ですか?勇太と絵莉子さん。2人を殺したのは貴方じゃないですか。」
「はあ?何だそれ!何言ってんだ!?アイツらは自分達でお互いを刺したんだろ!」
「ええ、確かにそうです。でも、そう仕向けたのは貴方…ですよね?」
「…馬鹿馬鹿しい。んな訳無いだろ?何で俺が…」
「全ては京介さん、貴方の趣味にあります。」
「趣味だと!?」
「ええ、小さい頃からの趣味ですよね?ナイフの蒐集。お母様の京子さんは、そんな貴方の趣味に反対でした。お父様の和典さんも幼い貴方の趣味を快く思ってませんでしたが、特に危険な事もせず、ただただ蒐集と鑑賞を目的としていたので黙認していました。しかしながら貴方が6年生の時、京子さんが貴方のコレクションのナイフで自殺するに至り、和典さんは貴方に全て処分する樣に命じました。でも貴方は密かにその趣味を続けていましたね?そして、あのナイフを勇太に見せられ、手に入れたい欲求に駆られた貴方は、その目的の為に2人を殺したのでしょう?」
「何を言っている?仮にナイフが欲しければ盗めば済む事だ。わざわざ2人を殺す必要なんか無いさ。」
「憎かったんでしょ?」
「何!?」
「2人の事が憎かったんでしょう。まあ、可愛さ余ってって感じでしょうけど。特に絵莉子さんに対しては…」
「何だそれ!?」
「好きだったんでしょう?絵莉子さんの事が。勇太と付き合う以前から、付き合いだして以後も…勇太は貴方を本当に親友だと思っていました。しかし、貴方は勇太を自分の下僕くらいにしか思っていませんでした。生まれながらの俺様気質ですから。周りの人達は貴方と勇太の関係を不思議に思っていました。勇太が何故、貴方と仲良く出来るのか…貴方、周りから嫌われてましたからね。絵莉子さんは貴方に言い寄られて大変困った筈です。貴方は諦めそうに無いし、勇太に言うにしても変な誤解を生むかも知れない。まあ、これには勇太の鈍感さ、貴方の傲慢さが主な原因ですけど…」
「あのなあ、好き勝手言ってるけどな、俺がどうやって2人が殺し合う樣に仕向けたって言うんだ?ナイフの祟りの話は勇太も知らなかったじゃないか!」
「ええ、勇太は知りませんでした。でも…」
「でも何だよ!」
「貴方は知ってましたよね?」
めありーの言葉に、京介は一瞬ポカンとした。
「おいおい、俺がどうやって祟りを知る事が出来るんだよ!」
「貴方は、見えるそうですね?」
「何が?」
「霊です。まあ、霊そのものは特別な力が無くても見えるものですが、貴方の樣に頻繁に見えるというのは大変珍しいです。そういう意味では貴方には特別な力があるのかも知れません。」
「何が言いたい?」
「貴方、勲さんに会いましたね?」
京介の表情が強張る。
「さ迷う勲さんは、人から忌み嫌われ、恐れられる事を出来る限り回避する為、人目を避けていました。しかし、勲さんと出会った貴方は、まるで頓着せず平気で勲さんに応対しました。それが自分の子孫の友人である事も嬉しかったのでしょう。貴方と勲さんは度々会って話しをする樣になりました。そして、そのうちにあのナイフの存在を聞かされた。違いますか?」
京介は言い返す事が出来ない。
めありーの言い分を認めた樣なものだ。
「貴方は大変、頭のいい方です。勲さんから話を聞いていた貴方は私達、死神の存在も当然知っていました。だから最初に勇太と私が現れた時、すぐに状況が飲み込めた筈です。そして貴方は私の出方や立場を確認する為にわざわざ本題とは関係の無い話題を持ち出したんでしょう?そして私が勇太の成仏を望んでいる事を確認した貴方は勝負に出ましたね?」
「勝負?」
「ええ、正直私も驚きました。まさか貴方自身がナイフの事を口にするとは思いませんでした。尤も貴方も口にしたくはなかったでしょうし、する必要も本来無かった筈です。しかし、私達が現れた事によって不測の事態となった。でもやはり頭がいいんですね。勲さんから話を聞いていた貴方は勇太が記憶を失い成仏出来ない状況だと悟りました。勇太が成仏出来ずに、この世をさ迷う事になったら、そして勇太が真実を知る事になったら、自分は勇太に祟られてしまう。そう考え、あえてナイフの事を口にした。違いますか?」
京介は、黙ったまま返事をしない。
「勲さんから話を聞いて、勇太にナイフを見せてもらった貴方は一目で気に入りました…と、言うよりナイフに魅入られたのでしょう。ナイフを欲する貴方は、ナイフを手に入れ、尚且つ2人に復讐する一石二鳥の方法を採りました。まあ、身勝手な話ですけど…」
「まるで見て来たみたいに言うんだな。」
京介が、めありーを睨みつけながら言った。
「見てましたからね。」
「お前がか?」
「いいえ。」
「なるほど、神様は全てお見通しってか?」
「とんでもない!神様は大変忙しい方です。たかが人間1人の行動を注目してはいません。」
「じゃあ、誰が見てたって言うんだ!」
「勲さんですよ。ナイフに魅入られた貴方は、最近勲さんと会ってなかったでしょう?勲さんは来る日も来る日も貴方を待っていましたが、貴方は現れない。やがて勲さんは再びさ迷いだしました。そして、勲さんは見てしまったのです。」
「何を?」
「貴方が人を殺すところをです。」
「何!?」
「こんな何の刺激も無い樣な片田舎で殺人事件なんて、とてつもなくセンセーショナルでしょうね?2人を殺す事のリスクを考えた貴方は、2人の死を目立たなくする事を思いつきました。」
「目立たなくする?」
「木を隠すなら森の中。貴方は2人の死を目立たなくする為に森を作りました。そうです。この2ヶ月の間、この町を騒がせている通り魔殺人の犯人は京介さん、貴方です。」
京介には言葉もない。
「最初の犠牲者は田沼幸乃さん、24歳のOLです。2番目は高杉澪さん、26歳。絵莉子さんと同じ市民病院に勤める看護師です。勲さんが目撃したのはこの時です。それから、金城朝雄さん、26歳と草野朋子さん、23歳のカップル。さらに藤島彩花さん、25歳の大学院生と、貴方は立て続けに殺害し、そして本来の目的である勇太と絵莉子さんをナイフの祟りを利用して殺害しました。さ迷う中、貴方が高杉さんを殺害するのを目撃した勲さんは、貴方の監視を始めました。」
「監視?何で…」
「何故、貴方がそんな事をするのか、見極める為です。貴方は勲さんにとっては唯一の理解者ですから、そしてあの夜。遊歩道のベンチに座る勇太と絵莉子さんを隠れて見ていた貴方を勲さんも隠れて見ていたのです。最初、勲さんは貴方が2人を殺すつもりかと思いました。しかし、そうはならず勇太と絵莉子さんはお互いを刺しました。そして、2人に駆け寄った貴方はナイフを回収してその場を離れました。貴方の後をつけた勲さんは、ナイフを見ながらほくそ笑む貴方を見て、初めて貴方の目的に気づきました。そして今夜、勲さんは円光寺で私を待っていました。」
「お前を?」
「ええ、勇太の死によって当然、お見送りの為に死神が現れると考えたからです。勲さんから話を聞いた私は即座に神様に報告しました。そして神様から特別優先業務命令として貴方を殺し魂を奪う事を仰せつかりました。」
「じゃあ何で俺を先に殺さなかった?勇太のお見送りより優先されるんじゃないのか!?」
「特別な事情の場合を除いては、と申しましたよ。」
「特別な事情?」
「お見送りの対象者と特別優先業務の対象者に重要な関係性がある場合です。特に今回の勇太の場合には、貴方の存在は重要でした。この樣な場合の優先順位は現場の死神に一任されます。」
めありーの言葉に京介はうなだれた。
「残念でしたね。勲さんが見ていなかったら神様は気づかなかったかも知れません。それ以外は警察や周りの人達も貴方の思惑通りに動いていましたからね。」
「ちくしょう…大体、絵莉子のヤツがおかしいんだ!何で勇太なんかと…どう見ても俺の方がいいだろ!」
「まあ、見た目だけで言えばね…ただ、貴方は周りから嫌われていた事に気づいてなかったしね。もっと言えば絵莉子さんは貴方より勇太を選んだ訳ではありません。」
「何だと!?」
「絵莉子さんは最初から勇太しか見てません。」
「何だよ…俺の独りよがりかよ…」
「今頃、気づくのもどうかと思うけど…」
「だから、俺みたいに自分の私欲の為に人を殺す樣なヤツは生きる資格は無いってか?」
「まさか、とんでもない。私達にとってはむしろ有り難い存在です。だってお見送りの為の魂の確保が容易ですから、大歓迎ですよ。」
「じゃあ何で…」
「神様にとって貴方が人を殺そうが何をしようが構わないのです。ただ、神様は御自分の力を悪用されるのを良しとしません。特にさ迷う魂の為のオプションを悪用されるのが我慢出来ないのです。」
「何だよ!神様ったって随分、利己的じゃないか!」
「あら?神様は利己的ですよ。何でも御自分が一番じゃないと気が済まないのです。何せ絶対者ですから。貴方なんか及びもしない俺様主義です。」
「…何なんだ…」
「間もなく、警察が来ます。」
「何で!?」
「勿論、貴方を捕まえる為です。でも安心して下さい。貴方は捕まる事はありません。私が殺しますから…」
「何で警察は分かったんだ!?」
「ロザリオ…」
「えっ!?」
「お母様の形見のロザリオです。どうされました?」
言われて京介は自分の胸に手をやる。
「無い!何で!?」
「京介さん、貴方は今夜、どちらにお出かけでしたか?帰って来た時には顔も赤く、息も荒かった樣ですけど…」
「…お前。」
「須藤彩音さん、15歳。今夜、貴方が殺した女性です。」
「15歳だと!?」
「大人っぽく見えるけど彼女、中学生ですよ。せっかく似た樣な年頃の被害者を選んでいたのに残念でしたね。念には念を入れてですか?2人の死をより目立たなくする為、さらに森を広げ樣としましたね?それが仇となった樣です。貴方のロザリオは彩音さんの右手に握られています。」
「ふざけるな!こんな事でくたばってたまるかよ!」
京介は叫びながら立ち上がり、右手を振り上げた。
そこには、あの呪いのナイフが握られていた。
「何の真似ですか?」
「このナイフを手にした者は、目の前のヤツを刺し殺すんだったよな?」
京介の目が血走っている。
「興奮し過ぎて冷静な判断が出来ない樣ですね。」
「何!?」
「そのナイフに素手で触れた者は、目の前の人間を刺すのです。残念ですが、貴方の目の前にいるのは死神です。」
「……くそったれ!」京介が悪態をつく。
「では改めまして、神様からの特別優先業務命令により、桐島京介さん。貴方を殺し、その魂を奪う事を仰せつかった死神…めありーです。」