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短編、SS集

best friend-あなたと歩いた上り坂-

作者: 銀花

 明るい夕暮れ、下校中の上り坂。


 二人で遊びながら帰ったあの日。




「じゃーんけーん」


「ぽん!」


 大きな掛け声と共にわたしは握り拳を突き出した。前方にいる親友の遥花(はるか)は、開いた手を見せている。


「やったー、また勝っちゃった」


 そう言って笑い声を上げる彼女は、背を向けて大股で一歩一歩進んでいく。


「ぱ、い、な、っ、ぷ、る」


 わたしは唇を尖らせながら、遠ざかる遥花の背を見つめていた。

 高校から帰る途中の上り坂で、遥花とわたし、千歳(ちとせ)は遊んでいた。この、じゃんけんで勝った方だけが先に進めるゲームは、二人が小さい頃から何度もやっている。

 わたしはじゃんけんは弱いとは思ってないし、このゲームで勝ったことだってあるし。それでも今日はかれこれ八連敗中。やたらとわたしが負けていた。


 ここまでくると遥花はかなり遠く、坂を登りきろうとしている。それに比べてわたしはまだふもとからそう離れていなかった。そりゃ拗ねたくもなる。


 振り返った遥花がまた片手を挙げた。わたしも右手を挙げて、次は絶対勝つぞ、と内心意気込みながら口を開いた。


「じゃーんけん」


「ぽーん」と遠くで遥花が言う。


 彼女の手はチョキで、わたしの手はパー。連敗記録更新だ。

 遥花は笑い声を上げ、また進んでいった。ついには坂を登りきり、彼女の背は坂の向こうへ消えてしまった。

 それがあまりに唐突に思え、わたしはぞっとした。ゲームも無視し、駆け足で遥花を追う。


 坂道の両脇には木々が植えられていて、夕日の光を反射してきらきら輝いている。

 登りきると木々はなくなり、空が一気に広がった。途端、びゅうと風が吹き抜け、わたしは舞い上がった髪を押さえて空を見上げた。

 きれいな夕焼け空。沈みかけの夕日がオレンジの光を放ち、真上の薄青まで滑らかなグラデーションを作り上げていた。長く伸びた雲も、坂の下の街もオレンジ色。


 久しぶりに風景を見て美しいと思った。わたしはその光景に吸い込まれるように、しばらく佇んでいた。


「……って、遥花ー?」


 数分たってようやく親友を追いかけていたことを思い出し、慌てて辺りを見渡す。しかしそこには誰もいない。

 帰っちゃったのかな、と首を傾げて、ふと考える。


 違和感。


 わたしは一人で学校を出て、帰っていた。遥花が現れたのは、この坂のふもと。

 いつもの人懐っこい笑顔と、明るい調子で「ねえ、グリコしようよ」と言ってきたのだ。


 違和感を覚えたのはゲームにではなくて、遥花が現れたこと自体にだった。

 遥花がここにいるのはおかしい。


 だって遥花は――。


「あれ、思い出しちゃった?」


 突然背後から遥花の声がしてわたしは飛び上がった。振り向こうとすると、遥花に両手で頭を掴まれ、むりやり前を向かされる。

 わたしは彼女の手の感触を頬で感じながら、小さく呟いた。


「遥花……どうしたの」


「……千歳、死のうとしたことあるでしょ」


 ぎくりとわたしは身体を強張らせた。後ろから、はあ、と大きなため息が聞こえる。


「そんなことしても、私、嬉しくないよ。私だけじゃない、色んな人が悲しむの」


 遥花が囁くように言う。

 その声が優しくて、胸に染み、鼻の奥がつんと匂い、わたしは涙ぐんだ。


「……ごめんなさい」


「もう、自分を傷付けたりしたらダメ。約束だよね」


 わたしは「うん」と小さく頷いた。目に浮かんだ涙は、今にも零れそうだった。

 そうだ、わたしは遥花の声が聞きたかったのだ。


 遥花がくすりと笑った。


「私は先にいっちゃうけど……千歳は、何年もかけて、ゆっくり歩いておいで。ね」


 その言葉を最後に、頬にあった遥花の手の感触は一瞬でなくなった。


 振り返っても、誰もいない。


 わたしが遥花の事故死を知ったのは一週間前の電話でだった。

 信じられない気持ちのままわたしは通夜に出て、葬儀に出席していた。遥花の死に顔を見、冷たくなった彼女に触れもしたのに、どこか現実ではないみたいで。

 他の友達や遥花の親類が泣いている中で、わたしは涙が出てこないくらい放心していた。実感がわかなかったのだ。


 遥花がいない。

 幼い頃から共に遊び回り、ケンカしては仲直りを繰返して、時には恋の話に花を咲かせ。そうやってずっと一緒にいた遥花が、どこにもいない。


 そう思うと無性に遥花と話がしたくなって、どうすればいいのか悩んだ結果、わたしが遥花と同じところにいけばいいのだということにいき着いた。

 死ぬためにわたしはあれこれ考えた。

 カッターの刃を腕に当ててみたり、ビルの屋上から下を覗いてみたりもした。ただ、どうしても決めきれなかった。


 どうしようか悩んでいた今日の下校中に、遥花が現れたのだった。

 遥花が死んでも泣きもしなかった、それどころか後を追おうとしていたわたしを彼女は止めてくれた。


「ごめ……な……い」


 震える声でまた謝ったとき、次から次へと涙が溢れだした。


 わたしは夕空を見上げて大声で泣いた。


 何て愚かなことを考えたのだろう。わたしが死んだ後のことなど少しも考えなかった。

 家族や友達の顔が、頭に浮かぶ。


 心から何かが抜け落ち、ぽっかりと穴ができたようだった。やっと実感できた。

 遥花は死んだ。そしてわたしは生きている。


――止めてくれてありがとう……。


 わたしは息ができなくなるぐらい、長いこと泣き続けていた。



 あなたが親友でよかった。

ふっと、気付くとそこにいる。


死ネタはよく考えてしまいます。

あとグリコって遊びは全国共通なのか疑問です笑

私のとこでは、グーがグリコ、チョキがチョコレート、パーがパイナップルでした。


読んでくださりありがとうございました!

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