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後宮冒険の書〜転生ギフトが『マヌケ』ってどういうことですか!?

作者: 桃巴
掲載日:2026/08/21

 そりゃあないよー、神様ぁ。

 異世界転生で、授けられたギフトがまさかの『マヌケ』。


「冗談だよねぇ?」


 転生指南書を読む。

 気づいた時には、すでに手に持ってたし。

 表紙に転生ギフト『マヌケ』ってさ、あるわけ。それもポップな感じでさ。冗談だって思うでしょ。

 表紙を捲る。


「何々……転生先が、なんちゃって後宮か。まあ、よし」


 いわゆる中華系の衣装を着て満足ですわ。楊貴妃ですか? 則天武后ですか? ってな衣装だし。

 テンション上がるっしょ。


「で、転生役が脇役以下。以下ってなんなん? 後宮最下位妃か、ああ、はいはい。なるほど、脇役以下って、背景みたいな? ゲームでいうところの、村人Aでしょうね」


 うんうん、と頷く。


「でさ、肝心の物語が……おかしくなぁい? 普通、知ってる物語に転生するもんじゃないの? 『あれ、ここは私が読んでた物語の世界なのぉ?』みたいな感じが冒頭のはずじゃんか」


 題名見ても知らないんだよ。

 読んでた本に転生するから、知ってる前提で窮地を回避したり、陰謀を暴いたり、そういう展開知ってなきゃ駄目なんじゃないの?


「まあ、主人公(ヒロイン)じゃないからいいのか……。そりゃあ、村人A的な者に転生するんなら、知らなくていいもんね」


 そこは、納得しておこう。


「でもさ、転生のギフトが『マヌケ』って、どういうことですかぁ!?」


 ガクッとうなだれる。

 主人公(ヒロイン)なら、現実世界からアイテム召喚できたりするんだろうな。もしくは、覇気みたいな超能力持ちだったりとかさ。

 マヌケって……、絶望的。なーんも役に立たんって。


『では、プロローグ入りまーす』


 いきなり、奇妙な声が脳内を巡る。

 持ってた転生指南書がパッと消えた。


「ちょ、まだ読み終わってないって」


 唖然、愕然っすわ。


『ここは、桃幻(とうげん)国後宮。あなたは蘭蘭(らんらん)。後宮最下位妃・采女です。侍女は一名、寧寧(ねいねい)。後宮設定は以下のとおり』


皇后

四夫人

ーー貴妃、淑妃、徳妃、賢妃

九嬪

ーー昭儀、昭容、昭媛、修儀、修容、修媛、充儀、充容、充媛

二十七世婦

ーー婕妤、美人、才人

八十一御妻

ーー宝林、御女、采女←蘭蘭はここ

合計百二十二名の最下位百二十二番目


『さあ、後宮生活のはじまりです。マヌケをいかんなく発揮し、異世界転生をご堪能ください!』


「は?」


 なんなんだよー。


「アトラクションの案内かよ!?」


 突っ込んでみても反応はなく、途方に暮れるっての。


「まあ、脇役以下に丁寧な案内なんてないか……気ままに過ごせばいいよね。いや、待てよ……」


 ここは、後宮。

 女の園。

 つまり、足の引っ張り合い、陰湿な虐め……陰謀、策略、ドロッドロな場所。


「冤罪かけられでもしたら……冷宮行き、いや、厳罰に処させる?」


 ブルリと背筋が凍えた。


「毒杯とか、絹の白布で首吊り賜ったりとか、最悪斬殺なんて……ヒィー」


 うん。回避一択だ。

 ちゃんと、村人A的に過ごせばいい。間違っても、皇帝になんて会っちゃいけない。寵愛競うあれに参戦なんて、命を投げ出すようなもの。


「よし、ひっそりこっそり背景に徹しよう。天寿を全うしたら、きっと現実世界に還れるはず。んで、目覚めた時には『夢だったのね』のオチに違いない」


 かくして、蘭蘭の後宮生活は始まったのである。


 


「最下位妃の住処、うん、納得っすわ」


 江戸時代の長屋ですか?

 もしくはうなぎの寝床ですのん?

 塀一枚でお隣さんの造りなんだもん。


 塀で区切られた住処は、塀門入って縦に長い造りっていうの?

 いわゆる、門からスロープ的な外エリアがあるわけ。普通車の並列駐車二台分の長さって感じ。


 その奥が住処。


 玄関扉入って一間、衝立奥に一間。

 以上、終わり。


 最初の一間に円卓あり。

 奥の一間に寝台あり。

 両サイドは壁であり塀であり、お隣と共用。

 まさに、壁一枚のれお……いかん、ついつい。

 そんで、窓は玄関方向と奥にしかない薄暗さ。

 奥の窓だって、開けても塀しか見えないの。殺風景を絵にしたような感じ。


「蘭蘭采女、夕食をお持ちしました」


 侍女の寧寧ちゃんが登場したわ。


「あの、今日もこれだけです」


 取っ手つきの重箱みたいなやつから、料理が出される。

 今日も、ってことは、今までも、ってことよね。


 菜っ葉料理一皿と、具無しおかゆ。

 病み上がりの飯か!? みたいな。もしくは、精進料理ですのん?


「うぅ、お労しや……」


 寧寧ちゃんが打ちひしがれてるから、ポンポンと肩を叩いて労った。

 寵愛なし後宮最下位妃の食事なんて、こんなもんよね。


「食べられる食事があるってだけでいいじゃないの」

「あ! 食べられるかどうか、まず確認します」


 寧寧ちゃんが懐から細い円筒を取り出して、蓋を外す。

 銀針だ……。

 それを、菜っ葉料理とおかゆに刺して色の変化がないか確認した。


 毒入りなら、銀針が黒く変色するってやつ。


「大丈夫です。お召し上がりください」


 寧寧ちゃんが下がって控える。

 たったこれだけで、胃が縮むよぉ。

 毒入りかどうか確認する世界だって、まざまざと見せられて、平和ボケしてる私には衝撃っすよ。

 元世界じゃ、出された料理に毒が入ってるなんて、万に一つもないじゃん。


「味がしない」


 そういう心境で、料理の味なんて感じられないもん。


「はぃ。茹でただけ、炊いただけの料理ですので」


 寧寧ちゃんが申し訳なさげに言ったわ。

 心境の問題じゃなかったみたい。


 こんな状況も、何気に『マヌケ』のせいかもね。

 苦笑しか出てこないわ。


『指南でーす』


 あ、また脳内に巡る。


『采女の残り物を侍女が食します』


 なぬ!?

 つまーり、寧寧ちゃんのご飯でもあるのね、これ。

 全部食べちゃったら、侍女虐めになるのか。


「……もういいわ。下げて」


 おかゆ二匙。

 菜っ葉一箸。

 で、終了。


「もう少しお召し上がりになった方が」

「ううん。いらないわ」


 元世界で極貧生活してた時は、一日一食とかだったし、問題ないもんね。

 人は限界を超えると、食事を欲しないって知ってた? 私だけかな、そんなん。ほら、ヨガの達人って、仙人みたいになるでしょ。あれね。食の欲求が消えるわけ。


「代わりにお茶をちょうだいな」

「かしこまりました」


 寧寧ちゃんが食事を回収し、出ていった。

 ホッと一息つく。


 外でゆっくり食べてね、寧寧ちゃん。

 後宮じゃあ、主と一緒の席で食事なんてできないから。捌けさせてあげるのも、主の度量なわけ。


 信頼関係が一番大事じゃん。

 この後宮で生き残るには、寧寧ちゃんの助けなくできるわけないし。

 一蓮托生だと思うわ。


「まずは、『蘭蘭の後宮散歩』っしょ。ゲームでいうところの、最初の地図探し、村人確認みたいなやつ」


 後宮地図がなきゃ、生活に支障をきたすから。登場人物知ってなきゃ立ち回れないじゃん。


「そういうの一丁目一番地だっけ?」


 違うか、政治家の口癖だった。


「それにしても……」


 壁一枚、塀一枚の弊害か、お隣さんの動向がわかるのよ。

 食事ぶちまけて、癇癪を起こしてる。そりゃあ、後宮妃ブービーじゃあね。ブービーって、最下位から二番目ってことよ。


「可哀想に。お隣さんの侍女は食事なしか……あ、そうだ」


 外に出て、お湯を沸かしながら食事を摘む寧寧ちゃんに声をかける。


「お隣さんの侍女の分、少しだけ、ね?」


 寧寧ちゃんの分減っちゃうけど、ごめんって手を合わせて頼んだわ。


 外には、脇に作業台と板小屋がある。小屋には簡易な釜や細々した物も収まってる。水瓶とか生活備品色々。

 侍女寧寧ちゃんの専用域ね。


「蘭蘭采女、お優しいのですね」

「そんなんじゃないわ。味方を作っておいた方がいいじゃない。恩を売っとくのよ」


 フフッと笑う。

 後宮妃らしく、ね。

 手持ちの駒増やしってもんよ。


 寧寧ちゃんも心得た、と言わんばかりに頷いた。

 

 さて、翌日から『蘭蘭の後宮散歩』である。


 この後宮において、情報が命。

 自分を除いて、合計百二十一人をわかっておかなくちゃ、立ち回れないじゃん。この場合の立ち回りって、上を目指す方じゃなくて、命を守る方。


 相手の位がわからなくて、詰むのだけは勘弁だし。


 来る日も来る日も歩き回り、百二十一人を覚える日々を続けたわ。

 皆が、寵愛を競う中でね。

 とにかく、覚えた。

 顔と名前と位。後ろ盾や関係性。それから、後宮全貌地図も脳内に叩き込んだ。


「ふぅー」


 今日の分の後宮冒険の書を記し終えて閉じる。

 毎日、綴ったわよ。

 かれこれ、転生してから二カ月が過ぎているわ。


 でもまだ、皇后と四夫人、九嬪が残ってる。ビビっちゃってさ。朝夕の挨拶の時にチラッと顔の確認だけ。

 接触をはかろうものなら、采女ごときがわらわの視界に入るな、って言われそうじゃん。

 なんてったって、後宮最下位妃だし。不機嫌ムーブされて、鞭打ちとか……、もう耳に入ってきてるんだよ。虐められた妃情報がさ。


 上位妃の取り巻きになろうとしたんだろうね。そしたら、運良く皇帝陛下に会えるかもしれないじゃん。

 そんな思惑に気づかない上位妃なんているわけがなく、すでに、数人の妃は……消えてる。

 おー、怖い怖い。


 隠密で情報収集しなきゃね。


「蘭蘭采女、本日はお肉が」


 寧寧が嬉しそうに、円卓にお皿を並べる。


「もしかして、才人(さいじん)から?」

「はい」


 本日の成果だわ。


 互いに位がわからなくて、対峙する妃がいてね。笑みが張り付いてたわよ、二人とも。

 で、割って入り、『まあ、〇〇婕妤(しょうよ)、本日もお綺麗で。〇〇才人もお健やかでいらっしゃいますね』って、声をかけた。そうすると、上位妃への膝折挨拶で場が流れるの。


 二十七世婦で才人より婕妤が上位だから、才人の方から感謝のお肉が届いたってわけ。


『マヌケ』なんて言わせないわ。


「じゃあ、また分け合って食べましょ」

「はい」


 寧寧が心得たと言わんばかりに行動を開始する。


「馴染みの侍女たちに分けてきます」

「ちゃんと、寧寧の分は取っておくんだよ」


「それを言うなら、蘭蘭采女の分が先ですわ」


 そう言って、寧寧がお肉の半分を残す。


「ありがとね」

「いえ。こちらこそでございます。蘭蘭采女に助けられた侍女は、八十一御妻の侍女の中で、すでに二桁行きですわ」


「そのおかげで、情報が回ってくるから、動きやすくなったね」


 これぞ、ひっそりこっそり生きるための土台作りってもんよ。

 引きこもってるだけじゃ、つまらないじゃない。

 そんな奴だと、いつなんかの身代わりにされてもおかしかないしね。


『ピンコンピンコン』


 うわっ、久しぶりの脳内アナウンスだ。


『イベント発生イベント発生。定番の水落ち! このイベントに参加すると、なんと危機回避券一枚がもらえます! どうぞ、奮ってご参加あれ』


「だが、行かん!」


 即答ですわ。

 だって、ひっそりこっそり後宮生活したいなら、イベントスルーが必須だもーん。


『さらにさらに、現場に行くだけでもらえる抹茶フラペチーノ券』


「クハッ……なんという誘惑」


 この異世界で味わえないヤツきたー。


「現場に行くだけ……か。いやいや、誘惑に負けちゃいかんのよ」


『初回イベントだけの特典だよ。ほぉら、フラペチーノの口のなっちゃてるでしょ。現場は孤月園、さあ行った行った!』


 追撃アナウンスだな、おい! 煽りやがって!

 孤月園ってのは水場のある風流な庭園。

 後宮内のだーれでも行ける公園のような所。


「ちっきしょー、行ってやらぁ」


 蘭蘭は異世界転生初イベントに出向くのだった。

 出向くのだった?




 バッチャーン!


事件(イベント)は現場で起きてません!』


 私、蘭蘭、今、水に落ちました。

 ええ、落ちましたとも!


 板小屋の水瓶に頭から突っ込んでますの。


 イベントに行こうと外に出たところ、

 なぜか、足下に転がってた竹筒に足を取られ、

 必死に手を振り回し、

 エアークロールみたいになっちゃて、

 玉乗りならぬ筒乗り状態で、

 大道芸人ばりに、

 板小屋に向かっていき、

 釜に体当たりしちゃって、

 その反動で……水瓶に頭からドボン。


 頭隠して尻隠さず、ならぬ、頭隠れてニョキ足二本。


『イッヌ神家じゃーん!』


 後宮の妃がイッヌ神家とか……どないすんの?

 ってか、現場行く前に水落ちしちゃっうって、完全に『マヌケ』やないかーい。


「ゴッボッ……」


『いや、ちょっと待て。苦しい……このままじゃ溺死しちゃうって!』


 スッポリはまっちゃってるんだよ。

 両腕、気をつけ、状態でさ。


 頼みの寧寧ちゃんは肉配りに出てて不在だし。寧寧ちゃん帰ってくるまで、私の息は持つのか!?


「ゴホッゴホッ」


『だ、誰かー、助けてー!』


 唯一動かせる足をバタバタさせる。


『苦しいよぉー。まさか、私、これで死ぬのぉ?』


 諦めたら終わり、水瓶に頭突きをかます。


『……ぁ、駄目だ、意識が、飛びそう……』


 こんな、マヌケな死で異世界転生生活に幕を閉じるの?

 村人Aだって、こんな死に方しないって。

 流行りのナレーション死かよ。

ーーその日、後宮の末端妃が人知れず非業な死を遂げた。なーんてねーー


『サヨナラ、私の異世界転生生活……』


 心残りは後宮妃 図鑑(イラスト)を仕上げられなかったこと。

 それと……


『ひと目……皇帝に会ってみたかったな………………』




 ペチッペチッ


 頬を叩かれてる?


 ペチッペチッ


「もぅっ、何よぉ」


 頬を叩く手を振り払う。


「あー、良かった! 蘭蘭采女」


 あら、寧寧ちゃんの声だ。

 ん?

 じゃあ、私、死んでない?


 薄っすら目を開ける。

 寧寧ちゃんが顔を覗き込んでいる。

 どうやら、助かったみたい。


「全身ずぶ濡れで、水瓶の横で倒れていたので、心配しました」

「え?」


 待って待って、私、どうやって水瓶イッヌ神家から脱出したの?

 

「隣の侍女と一緒に、部屋に運んで着替えも手伝ってもらいました」

「そう……ありがとう」


 なんか、釈然としないな。

 自力で脱出した記憶はないんだけど。

 ま、異世界転生補整かも?


 ……にしても、初イベント見損なったな。

 水落ち主人公(ヒロイン)皇帝(ヒーロー)が助ける系か、

 主人公(ヒロイン)が悪役の企てを華麗に回避して悪役の方が水落ちか。

 後宮ものの水落ちって、これが二大展開でしょ。


 ま、脇役以下の私の立ち位置は、遠目の傍観者あたりだったはず。

 ……抹茶フラペチーノ、初回イベント特典、あーあ、やらかしちゃったな。イベント現場に辿り着けない無能っぷり。


「そういえば、孤月園で何かあったみたいですよ」


 でしょうね!

 水落ちイベントだよ、それ。

 今さら気づくけど、主人公(ヒロイン)確認できたチャンスだったのに。


「あとで情報収集だね」


 後宮冒険の書に記載しとかなきゃいけないし。

 寝台横の机に目が行く。

 そこに後宮冒険の書があるから。


 おかしいぞ。

 置いてた場所が少々ズレてる気が……。寝転んでる視点だから、そう見えるだけ?


「気絶するくらい疲れていらっしゃるうようなので、本日はこのままお休みくださいませ」


 いや、水瓶イッヌ神家だったせいなのよ。それもこれも……『マヌケ』ギフトのせいな気がする。全く泣けるぜ。


 その日、蘭蘭は昏昏と深い眠りについたのだった。





 蘭蘭が眠りについた頃、深宮(しんきゅう)に火が灯る。


 深宮は皇帝の隠れ家。城内にある秘密の宮である。

 宮とはいうが、それほど広くない。深宮は周囲にそれと気づかれてはいけない宮だからだ。一見、空屋敷のように人の気配はない。

 元より、皇帝が入らねば火が灯らない宮である。

 その深宮に入れる者は、皇帝の標符を持った者のみ。いわゆる暗部だ。互いに知らぬ顔はなく、間者が入り込む隙を与えていない宮。


「……はあ」


 濡れた袖を振る。

 あれは、衝撃的だった。


 水瓶から出た魅惑の生足二本。

 思わず、足首を掴んで引き上げた。


 さらに衝撃が襲う。

 白目で気絶していたから。

 いや、息絶える寸前だった。

 咄嗟に、背中をバーンと叩いて水を吐き出させ、息を吹き込んで蘇生させた。


 頬に血色が戻り安心したところで、配下から侍女が近づいていることを伝えられ、退散したわけ。


 背中合わせの深宮に。

 塀一枚で隔てられたそこに。

 つまり、最下位妃の住まいの裏が深宮である。


 だから、素早く動けた。

 だが、その途中でまた驚かされる。後宮冒険の書なるものにだ。サラッと目を通して感嘆する。とんでもなく詳細に調べ上げられたブツだったから。


 妃間の構図。

 表話。裏話。噂話。

 考察。調査。真相。

 今日の出来事。成果。

 ……後宮内の地図。

 姿絵まで。

 間者だと疑うほどの出来栄えだった。


「間者、なわけねえな」


 あれほど、ドドーンと机に置かれていた。普通、間者なら隠しておくものだろ。

 それに、表紙にまで表題をつけていた。

『後宮冒険の書・生き残りをかけてここに記す』

 なるほど、最下位妃たらん思考だと頷いたわけ。


「……ここに記す、か。クックッ、かっこつけたのか。面白えな」

「お着替えの用意ができました」


 暗部の者が声をかける。

 

「ああ」


 衣装を着替えてドカッと椅子に座る。


「ちょいと探るか」


 興味深い(さいじょ)だから。

 その皇帝は口角を上げたのだった。




『ノルマイベント発表ノルマイベント発表!』


「うるせえー」


 まさかの脳内アナウンスアラームですのん?

 気持ち良く寝てたってのに。


「何さぁ? ふ、ふぁあー」


 あくびしながら、体を伸ばす。

 水瓶事故のせいで、爆睡でしたわ。ほら、夏休みの海水浴後みたいにさ。


『イベント名発表。ーー采女は見た、御花園でーー』

「はい?」


『御花園でアクシデントが発生します』

「はいはい……あー、なるほど。そのアクシデントをーー采女は見た、御花園でーーってこと?」


『物陰から覗き見てください』

「できなかないけど……御花園って、皇帝の庭園でしょ。上位妃なら入れるだろうけど、私、采女だよ。無理ゲーじゃね?」


『ノルマイベントをスルーすると……』

「すると?」

『死にます』

「極端過ぎるでしょ!?」

『このイベントの特典は』


 ワクワク。

 抹茶フラペチーノにありつけなかったからさ。期待するっしょ。

 難易度の高いイベントなら、それなりにいい特典のはず。そうじゃなきゃ、やる気が起きないってもの。


『青汁です』

「……」

『ほぉら、青汁の口のなっちゃてるでしょ』

「なってねえ!」


 抹茶フラペチーノの互換品のつもりかよ!?

 抹茶フラペチーノのジェネリックに青汁ぶっ込んでくんなぁー!


 難易度高くて、したくないイベントに、いらない青汁、罰ゲームかなんかですか!?


『健闘を祈る!』


 脳内アナウンスがそこで消えた。

 と、忙しない足音が聞こえてくる。


「蘭蘭采女、『牡丹会』のご案内が届きました!」


 寧寧ちゃんが嬉々として現れた。


「牡丹……?」

「はい!」


「……それって、何?」

「宮中行事の一つ、花見の会ですよ」


 わかんねえ。

 宮中行事には疎いんだよぉ。

 あ、でも、牡丹って皇后の花だっけ? 富貴花だよね。


「皇后陛下主催で、御花園にて開催されます」


 ハイ、キター!

 なるほど、ノルマイベントなわけだ。


「冬の梅見や秋の菊見は、八十一御妻は参加できませんが、牡丹会だけは参加できるのです」

「へえ」


 つまり、後宮百花繚乱。

 華人も花もまさにそれ。


「開催は一週間後です。楽しみですね」


 楽しかねーよぉ。

 覗きして青汁だよ。

 罰ゲーなんだから。


「万が一、蘭蘭采女が陛下の目に止まれば……」


 寧寧ちゃんが言った。

 無理、無理、絶対に嫌だぁー。

 泥沼の女の戦いに足を踏み入れるわけにはいかないのさ。

 それこそ、本当の罰ゲー。きっと後宮展開にありがち無惨な死が決定になっちゃう。


「待遇は良くなっても、平穏な生活ができなくなっちゃいますね」


 悩ましげに寧寧ちゃんが続けたのさ。きっと、この暮らしが楽しくなってるっぽい。最下位妃の散歩生活が。


「でしょ? だから、目立たず行こうね」

「はい、蘭蘭采女」


 ということで、一週間経っちゃってますのん。


「完璧な地味妃です」

「だね」


 寧寧ちゃんと鏡越しに頷き合う。


 単色の淡色衣装。髪飾りは簪一本。ハーフアップのまとめ髪お団子にブスッと挿しているだけ。

 遠目なら侍女と見間違うほどだろう。


「いつもと同じで、こっそりひっそりに徹しようね」

「はい、蘭蘭采女についていきます!」


 牡丹会であろうが、いつも通り背景妃に徹していれば、災が降りかからないはず。

 それどころか、物陰から覗き見して上位妃の情報収集もできる。

 まさに、

ーー采女は見た、御花園でーー

 になるもんねー。


「後宮冒険の書を更新できるわ」


 気分はもう勇者ってもんよ。


「よし、行こうか」


 準備した手巾(ハンカチ)を袖口に入れ、団扇(うちわ)を寧寧ちゃんに預けた。

 最下位妃の采女に輿なんて迎えはないから、御花園まで歩きだし、牡丹会でも立ち仕事のようなものだしね。

 庭園を歩いて牡丹を鑑賞するんだから。

 座席が下位妃に用意されてるなんてあるわけないし。


 あ……これは、あれだ。

 アクシデント内容わかっちゃったかも。

 フラッときちゃうあれ。

 歩き疲れた主人公(ヒロイン)が躓いちゃってのあれ。

 それを、皇帝(ヒーロー)が抱きかかえるあれ。

 クルッと回転して、社交ダンスのポージングばりのあれ。

 どこからともなく、風がヒロインとヒーローの髪をなびかせ、見つめ合うあれ。

 背景キラキラ加工されるあれ。

 花びらまで舞っちゃうあれ。

 中華系ドラマや漫画によくあるあれ。

 もう、あれ、としか言いようがないじゃん。


 いやあ、あれを直で鑑賞できるなんて覗き甲斐があるってものよ。


ーー采女は見た、御花園であれをーー


 イベント名に追加しといたわ。


 蘭蘭は意気揚々と御花園に向かったのだった。




 御花園に到着。

 一人で闊歩してきたものだから、散々訝しまれたし、嘲笑を向けられたわよ。


 じょっしー(女子)の群れ化に入らないからさ。ほとんどの妃は、群れ化して御花園に現れたから。


 でもね、助けた馴染みの侍女たちは目礼してくれたから、よし。

 妃は後宮から消されても、宮仕え侍女は去らないしさ。悪いことしてなきゃだけど。


「風光明媚だね」


 しみじみ。

 広大な御花園を見回す。

 これが、皇帝の庭っすか。

 いわゆる、山水を表現した庭。

 その庭を囲むように八角造りの回廊。

 蘭蘭は回廊を進む。


 回廊の途中、全貌を望める楼閣(ろうかく)あり。迷わず、二階に上がって庭を眼下にする。

 中央の池にアーチの橋。

 舟遊び用の桟橋に浮堂。

 緑豊かな樹木に生け垣。

 石庭のような石もあり。

 四阿(あずまや)はもちろん。

 円卓と椅子も随所に。

 楼閣対面に庭園を眺める高床の建物。まるで、能舞台のよう。

 出入口は二箇所。

 皇帝専用の出入口と、蘭蘭が入ってきた後宮側に一つ。

 二つの出入口と楼閣、高床の建物は、四方位にあるようだ。

 全てが調和の取れた配置で成っている。

 そして、そこかしこに牡丹が地植えや植木鉢で咲き乱れていた。


「よし、大まかに頭に入った」


 気分は巨大迷路を上から見てる感じ。

 牡丹鑑賞で、人があちこちに散らばっている。

 宮中行事っていうけどさ、儀式的じゃなくて、自由鑑賞なんだってさ。

 これって、元世界でいうところの、福利厚生みたいな? 今日は仕事はねえから貸切公園で寛げぃ的なノリ。

 だって、御花園には後宮妃だけじゃなく王族や重臣らもいるし。花見遠足(ピクニック)みたいじゃね?


 そん中から、皇帝を探せ、状態。


「たぶん、あそこだ」


 皇帝にしか許されない黄染の龍衣がも目立っている。


「覗き見しに行こう。地味妃、背景に溶け込みますわ」


 蘭蘭はこっそりひっそりと目をつけた覗き場所へと向かった。

 妃はモンスター。ときおり出くわす妃から、隠れる一択でボス戦現場まで直行するわ、勇者のごとく。

 

 そして、山を模しただろう大きな石の裏に身を潜めて覗く。


 あれが、皇帝陛下か。

 ご尊顔は……キラキラ加工されてるみたいで眩しいって! きっとヒーロー補整ってやつだ。

 面はキラキラと逆光と遠目でよくわかんない。


 ま、いっか。

 顔なんてどうでもいいし。

 それよか、早くアクシデント始まんないかな。

 牡丹見てたって時間は過ぎないんだもん。

 花見なら、桜。あれは、ずーっと見てられるじゃん。でも、牡丹はさ……違うんよ。綺麗だよ、綺麗なんだけど、桜に比べたら飽きちゃう。


 これぞ、美人は三日で飽きる、って感じなんだろな。


「あ、陛下が」


 寧寧ちゃんが指をさす。

 アーチ橋を渡ってこっちの方に向かってくる。

 そして、こちらからも一人の妃が……。


 アーチの一番高いところで、二人は出会う……。妃がハッとして、膝を折ろうとする、が、フラリとよろけ、皇帝の方へ倒れていく。

 皇帝がサッと腕を出す。妃の腰に腕を回す。


 ハイ、キター!


 クルッと回転する二人。

 そして、見つめ合う……?


 ……ことなく、皇帝がクルッとクルッとクルッと妃を回して、ポーンッと放った。

 妃は体をくの字にされて放り出されたわけ。

 見つめ合うどころの話じゃねえ。円盤投げならぬ、妃投げであーる。


「へ?」


 唖然としか言いようがない。


「足腰弱い妃など後宮に不要」


 ワァーオ。こんな展開予想外。


「不用意に近づく者は暗殺者と同じ」


 皇帝がとんでもなく冷めた声で告げちゃった。

 まあ、確かに。

 あれで、妃が袖口に小刀でも忍ばせていたら大事(おおごと)だし。

 そうなんだよなぁ、魅せ場の展開って、皇帝の防衛線を完全に無視しちゃってるんだよね。

 ま、それが物語のご都合主義ってもんだろうけど。


 倒れ込んでいた妃が土下座で何度も額を橋に打ちつけて謝っている。


 だが、皇帝が軽く手を払った。

 衛兵が妃を捕らえ強制退場となるのを眺めてたわ。


「……」

 

 なんか思ってたのとちっがーう。

 いや、確かに皇帝が言ってた通りなんだけどさぁ。

 キラキラ魅せ場期待してたのに、そうあれっくらいのキラッキラッ……ん?


 あれ、なんで楼閣の屋根がキラッてるんだ?


 人影だ。

 あ、構えた。

 構えた?

 っ!? 弓矢だ!


「楼閣!」


 飛び出したと同時に叫んで、アーチ橋を駆け上がる。

 皇帝が身を翻して楼閣に向く。

 皇帝の袖がふわりと舞い上がった。

 矢はもう放たれていて、黄染の袖先をかすめる。

 矢の勢いは衰えず、


 ブスッ!


 皇帝の袖先をかすめた矢は、アーチ橋を駆け上がった蘭蘭に……刺さっていた。


 蘭蘭はそれでも、龍体(こうてい)を庇うように手を広げて楼閣に向いて立った。

 暗殺者は二矢を放たない。

 失敗を深追いしない本物の暗殺者だ。

 楼閣から御花園の外側へと飛び下り、一瞬で姿を消した。


「追え! 捕らえよ!」


 皇帝が命じた。

 その腕が蘭蘭の広げた手を掴む。


 クルッと回転だけした蘭蘭は……ズンッと立って皇帝と見つめ合った。


『髪舞う風いりますか?』


 脳内アナウンスが巡る。


 いらん!


『キラキラ背景は?』


 いらん!


『花びらは?』


 いっらーん!


『では、謙虚な采女(あなた)に、とびっきりの贈り物を』


 いらねーって!


 この状態を早く解除したいだけなのよぉ。


『皇帝の瞳に采女が映っていまーす。どうぞ、ご確認あれ、拡大して魅せてまーす』


 皇帝の瞳に映る采女(らんらん)を……ーー采女は見た、御花園でーー

 それはもう拡大鏡ばりにバッチリ映っている。


 ハーフアップにまとめ髪団子した頭に、ブスッ! っと刺さった矢姿を。


 なんじゃこりゃ~!


 なんと『マヌケ』な見た目であろうか。

 どこぞの落ち武者みたいなわけ。コメディ寄りのさ。あの、こめかみからこめかみに矢が貫通した姿を連想させるから。


 なんてこったぁ~!


 顔を(そむ)けられないじゃんか。

 右向けば、(やじり)が皇帝に当たる。

 左向けば、矢羽が皇帝に当たる。

 見つめ合うしかない。

 完全に詰んだ状況。


 ということで、蘭蘭は両手をそーっと皇帝の胸元に押しあてて、退く。


 アーチ橋を下りるまで退く。

 一歩もブレることのない足さばきで。

 それから、矢柄を手に進行方向へ引っ張り抜く。

 袖口に忍ばせていた手巾で鏃を包み、寧寧ちゃんから受け取った団扇に乗せて、両手で掲げた。


「証拠品です」


 暗殺者のなんらかの手がかりになるかもしれない。

 かつ、鏃に毒が仕込まれていたら、それも手がかりになる。

 だから、蘭蘭は皇帝と見つめ合うしかなかったし、退くしかなかった。

 鏃を誰にも触れさせないように。


 蘭蘭の行動は、見る者が見たらわかるだろう。


 蘭蘭が手巾で鏃を包んでハッと気づく者もいたようだ。


「見事な牡丹である」


 皇帝が言った。

 蘭蘭はこの皇帝、なかなかやりおるのぉ、と伏した顔でニヤリと笑った。


 蘭蘭の手巾には大きな牡丹が刺繍してあるから。


 皇后が主催したこの牡丹会の面目を保つための言葉だったし、蘭蘭も地味な装いでも牡丹を忍ばせて牡丹会に敬意を払っていたわけ。


 衛兵が蘭蘭から矢を回収した。

 蘭蘭はホッとする。

 だが、まだ終わりではない。


 鏃に毒が仕込んであれば、蘭蘭の髪に毒がついてしまっていることになる。

 御花園から早急に辞さなければならない。

 皇帝とて着替えが必要だろう。


 願ったり叶ったりか、と蘭蘭は思った。

 関わりを避けられるから。


「お褒めいただき恐悦至極に存じます。これにて、下がらせていただきます」


 広い御花園を迷うことなく退く。

 その姿を、アーチ橋の上から皇帝が目で追っていたことに蘭蘭は気づいていなかった。




「どっと疲れが」


 住処に戻った蘭蘭は自身で髪を洗い、一息ついた。


「ですね」


 寧寧ちゃんが髪を拭こうと手を伸ばしたが、制した。

 毒矢だったかどうかわからないから。


「それにしても、別の方向で皇帝陛下の目に止まってしまいましたね」


 最悪だ。

 皇帝に認識されちゃうって、脇役以下になれてないもん。


「嫌な予感がするよね……」


 そういう予感って当たるのが常ってもの。


勅命(ちょくめい)であぁーるぅー」


 外から聞こえてきたわけ。

 素早く髪をまとめ上げ、二人して住処を出て跪く。


 皇帝の勅命が書かれた黄色 聖旨(せいし)を、皇帝の近侍(きんじ)宦官(かんがん)が広げる。


「暗殺を阻止した蘭蘭采女の功績を称え、御女とすぅーるぅー」


 ゲッ、八十一御妻(宝林、御女、采女)の位二番目になっちまったよ。


 とりあえず、聖旨を受け取る。


「続きましてぇー」


 はい?


「蘭蘭御女に勅命であぁーるぅー」


 何気に甲高く伸ばした語尾にムカつく。

 なんで、まだ聖旨があるのん?


「証拠品を有効に残した蘭蘭御女の功績を称え、宝林とすぅーるぅー」


 ちっきしょー、受け取るってば。

 これで八十一御妻の位一番目。

 でも、なんで受け取った矢先にまた近侍の手に聖旨が運ばれるん?

 泣けてくるぜ。


「見事な牡丹を咲かせた蘭蘭宝林の功績を称え、才人とすぅーるぅー」


 ぎゃあー、二十七世婦に上がっちまった。

 泣いていいですか?

 今回も受け取った矢先に近侍がまた後ろに手を伸ばしたんよ。聖旨じゃないよね?


「こちらをどうぞ」


 青磁の器が出されて、寧寧ちゃんが受け取ったわ。


 チラッと見て……白目になりかけた。

 どう見ても青汁なのだ。


「な、なんでしょうか?」


 頬がヒクヒクしちゃってる。


「滋養強壮の薬でございますぅー。陛下からのご褒美でございますぅー」


 飲めと言わんばかりの眼光で見られてる。

 泣く泣く飲み干したわ。

 苦っ、まっずっ。

 ぅぇっぷ、しそうなのを必死に堪えたわよ。


『ノルマイベント終了でーす。お疲れ様でした。次回も乞うご期待』


 脳内アナウンスが流れた。

 腹立つ!


「ではぁー、引越しでございますぅー」

「はい?」


「二十七世婦、才人の住まいに移動でぇーすぅー」

「今から?」


 近侍が頷く。

 決して逆らえない笑顔の圧つきで。

 近侍が、連れてきた宦官(かんがん)や女官たちに目配せする。


「この者らが荷物を運びますぅー」


 まじで、有無を言わさず。

 近侍が手で行けと合図を出すと、宦官と女官たちが住処に入っていく。

 寧寧ちゃんも慌てて後に続いた。


 だけどさ、大した荷物はないんだよね。


 小さい荷箱三つで終了だもん。

 衣服、装飾雑貨、筆記用具、で終了。自前の持ち物なんてそんなもんよ。

 手持ち無沙汰の者大量発生しちゃった。


「では、行きましょうぉぅー」


 連行されるように移動だよ。

 ぞろぞろと向かいまして、辿り着きました。


「こちらになりますぅー」

「あ、はい」


 采女の住処より三倍広い住まいに格上げ。

 全てが三倍仕様。

 部屋は二部屋から六部屋へ。

 外には小さな箱庭。

 貧相な板小屋(さぎょうば)から、造りがしっかりした建物に。もちろん広さは三倍。


「侍女は三名、常侍(じょうじ)の宦官は一名となりますぅー。指名されますか?」


 指名? どういう制度なん? 寧寧ちゃんに視線を向ける。


「下位妃からなら、馴染みの侍女を引き抜いてもよろしいということです。消えた妃の侍女を引き取ることもできます」


 寧寧ちゃんが耳元でコソッと教えてくれた。

 元よりここも、消えた才人の住まいだったはず。


「指名ないようでしたら、こちらで手配いたしますぅー」


 近侍がそう言って、さっき荷運びした常侍候補の宦官と侍女候補の女官らを見回す。この者らから出す、との視線だろう。

 つまり、蘭蘭にこの中に希望の者はいるか? と訊いたようなもの。


「侍女は寧寧に選んでもらうわ。常侍官は……」


 蘭蘭は候補らを観察し、一番薄汚れた者を指さした。たぶん、下っ端。相当上官に虐められている感ありあり。

 近侍が何やら悩しましげに『ふぅーぅん』と鼻息を鳴らす。

 選んでほしかった者とは違うんだろうね。


「……まぁ、よろしぃでっしょぉう」


 近侍の承認が出て、選んだ者が恐る恐るといった感じで蘭蘭の前に出た。

 本人も選ばれると思っていなかったのだろう。


()常侍官よ、蘭蘭才人によく仕えなさい」


 近侍がそう言って顎を突き出すと、李常侍官が蘭蘭の前でひれ伏す。


「命にかけて忠誠を誓い、一生懸命お仕えいたします!」

「よろしく、李官」


 李官が蘭蘭の後ろに控える。

 心なしか、表情が赤みを帯び、瞳が潤んでいる。きっと、嬉しいんだろうね。下っ端の生活なんて、想像するまでもなく過酷だとわかるから。そこから、抜け出せたんだもん。

 妃につくということは、妃の保護下になるということ。寧寧ちゃんと同じで一蓮托生になるわけね。


 さて、次は侍女選び。

 寧寧ちゃんに目配せすると、女官の中から一人、馴染みの侍女も一人指名した。采女のとき、最初に食事を分け与えた隣の侍女だ。

 そういえば、隣の妃も消えてたっけ、と蘭蘭は気づく。

 後宮内の妃はもう百を切っていた。今日の御花園で皇帝自ら妃を退かせたから。


 しばらく待つと、指名した侍女がやってきた。


 寧寧ちゃんと一緒に、蘭蘭の後ろに控えた。

 これで、揃った感じ。

 勇者だったら、仲間全員揃ったぜ、ってなもん。


 なんとなくだけど、妃感増し増しになった気がするわ。体裁が整ったっていうの?


 近侍がうんうんと満足げに頷く。


「では、私はこれにて。あぁ、忘れておりましたぁ。本日、陛下のお渡りが」


 あっ! と気づく。

 妃が位を上げる、つまり、閨を賜ると直結してるんだった!


 ゴキュリ……喉が動く。

 ヤヴァいよ。

 ちょちょちょちょっと、どうすればいい?

 できればご遠慮被りたい。

 女の泥沼の戦いに参戦したくないし。


「毒の影響を鑑み、当面ございません」

「ょっしゃー!」


 ヤベ、思わずガッツポーズしちゃった。

 喜んでいるのが、完全にバレバレ。


「ぁ、ぇへ……はあぁんっ、悲しゅうございますぅ」


 涙一滴も流していない目元に袖口を添えておいた。


「ぉ労しゃぁ」


 この近侍、お主もやるのぉ、と瞬きで合図を送っておいたわ。


「やっぱり、毒矢だったんだ」

「はい。詳しくは調査中です」


 近侍の声が張る。

 宦官独特のこれまでとは違った声だった。


 確かに毒がどういうものなんかわからない状況で、髪であっても毒に触れたことになる蘭蘭を召すのはいただけない。


「それでは、ごゆるりとぉー」


 だが、すぐに宦官独特のものに変わって、なよっとした挨拶をした。


 蘭蘭は、近侍たちを見送って、李官に目配せを送る。

 李官がサササササッと動いて、塀門を閉めた。


 そして、皆で顔を見合わせる。


「私、蘭蘭。後宮で生き残るため、こっそりひっそり生活を目指してる! 寵愛なんていーらない。女の戦いには不参加よ。他の妃たちとは張り合わないわ。そのつもりでいてね」


 新顔の李官と侍女二人がポカーンとしている。

 普通は寵愛を競い合い、他の妃たちを蹴落とすため、あの手この手と妃の下僕となって動くものだから。


「まんま、こういうお方なんです」


 寧寧ちゃんが言ったわ。


「じゃあ、後宮冒険の書を皆で確認しよう」


 寧寧ちゃんが筆記用具の荷箱からブツを持ってくる。


 今まで、蘭蘭と寧寧だけで更新してたものが、三人加わって内容がより濃厚になっていく。


 その日は、皆で後宮冒険の書を更新したのだった。




 牡丹会を終え、皇帝は深宮で蘭蘭を思い出す。


「完璧だった」


 楼閣! と、ただそれだけを発した判断。

 もし、気をつけて! 危ない! なんて曖昧な言葉だったなら、気を引きたいがための妃の戯れ言だと、眉をひそめるだけで、体を翻すことなく毒矢で貫かれていたことだろう。


 明確な場所を耳にし、すぐに意図がわかった。

 楼閣から狙われていると。

 あれ以上では駄目だった。言葉の多さは行動を遅らせるから。もちろん、あれ以下もない。


「それに身のこなしも」


 狭いアーチ橋で、体を滑り込ませ盾となった。

 あんなことを、(おんな)ができるとは、と感心した。

 腕を取っても崩れぬ体幹にも驚かされた。

 その後も橋を下りる判断と、矢を引き抜き証拠品を温存した手際の良さ。

 鏃を手巾で包み、団扇を台座にまでして、矢を掲げたあれは、現場に潜ませた暗部も目を見張ったことだろう。

 そして、初めて御花園に来たにもかかわらず、迷うことなく退いたこと。一度の回廊巡りで、御花園全貌を頭に叩き込んだのなら、天性の能力としか言いようがない。

 見張っていた暗部も舌を巻いていた。

 やはり、間者の疑念を持つほど。


 その可能性を直に見て確認しようと、衛兵に扮して近侍についていったさ。

 塀門から一挙手一投足、表情まで確認した。


 才人まで位を上げたのを、完全に迷惑がっていた。

 しまいには、『ょっしゃー!』である。


 驚いた。

 妃なら寵愛を競うもんだろ? って。

 もし、間者だったなら喜んで閨を賜り、皇帝を探るはず。

 どっちにしても、皇帝が目的であって然るべきなのに。

 つまり……皇帝(ちょうあい)など眼中にないのか、と。

 間者でもなく、妃としての覚悟もない。だが、後宮冒険の書とやらを綴っている。


 さらに驚いたのは、常侍官につかせようと手配していた暗部の者を選ばず、頼りなさげな下っ端宦官を指名した。

 その宦官以外は、全員こちらの暗部で揃えていたにもかかわらず。


 何か察した観察眼だろうか?


「本当に興味深いな」


 皇帝は外に出て塀を見上げる。

 さっきまで隣の塀門に衛兵に扮していたわけで。

 そう、後ろ隣から横隣に蘭蘭を移しただけだ。


 八十一御妻住処の背面が、塀を隔てて二十七世婦の住まいになっているから。


「陛下」


 暗部の者が声をかける。


「どうだ?」


 隣を指さした。

 密かに隣を探らせているから。

 住まいの広さが三倍になった分、潜入できる物陰がたくさんある。

 常侍官一人と侍女三人では、到底暗部の者に気づけない。


「後宮冒険の書を更新中のようです」

「だろうな」


 さてさて、自分(こうてい)をどう記したのか気になるところだ。


 常侍官で暗部を潜り込ませられなかったのは痛い。書の中身をすぐに確認できないから。


「まあ、お隣さんだ。楽しみは取っておくもんだよな」


 皇帝の目に止まるどころか、網にかかった(らんらん)といったところか。


「それにしても、皇太后には困ったものだ」


 今日の暗殺者が逃げ込んだ先は、皇太后の宮殿だった。

 皇太后、つまり、先代皇后である。

 だが、現皇帝の生みの母ではない。

 生みの太后(はは)は、皇太后との権力争いを避けるため、仏山の寺に籠もっている。

 宮廷に姿を見せるのは年に一度、皇帝の生誕祭のときだけだ。


 まあ、そういう面倒くさい背景がある。


「まだ、泳がせておくか」


 その皇帝は隣も一瞥しながら言った。




『マヌケ』は音もなく突然やってくる。


「くるくるぅるぅーですぅぅぅぅー!」


 雄叫びで目を覚ます。


「何、何、何事!?」


 バッと体を起こした瞬間に、顔にかかった違和感。

 ふわんふわんと揺れる髪……。


「くるくるになっとるやないかーい!」


 縦巻きロールがよろしくって挨拶しちゃってるよ。

 ここ、なんちゃって後宮だったはず。なのーに、なんちゃって西洋中世お姫様ばりの縦巻きロールなんよ。

 私一人シルクロード突っ切ったん?

 後宮に縦巻きロールの妃……『マヌケ』すぎる。


「はっ!」


 寧寧ちゃんが何かに気づいたっぽい。


「こ、これは、もしや」

「もしや?」


「毒矢の」

「影響か!」


 確かに、それしか考えられないじゃん。


「すぐに、李官に上に伝えるように指示して!」

「はい!」


 毒矢は皇帝の袖先をかすったはずだし。龍体(からだ)には影響はないと思うけど。

 寧寧ちゃんが出ていくと、代わりに侍女が二人入ってくる。


「蘭蘭才人!」


 二人とも心配そうに近寄ってきた。

 一人は元お隣さんの侍女、悄悄(しょうしょう)ちゃん。寧寧ちゃんの同期だって。

 もう一人は、近侍が連れてきた女官から選んだ、香香さん。宮仕え三十数年以上のベテランさん。


「あら、まあ」


 香香さんがふわんふわんの縦巻きロールに目を見開いてるわ。


「か、可愛い」


 悄悄ちゃんが呟いたのよ。

 いや、わからんでもないよ。お姫様ロールじゃん。でも、ここ後宮なんよ。可笑しすぎるでしょ。


「クッ……クッフフッ、フハッ……くるくるでしょ?」


 自分でも可笑しくなちゃってさ。

 寧寧ちゃんの言葉通りすぎて。

 頭を動かすと縦巻きロールがふわんふわんと揺れる。


「命名『ふわんふわんの毒』」


 侍女二人も笑い出したわ。


「もうっ! 蘭蘭才人、笑わせないでください。プフッ」


 悄悄ちゃんったら、言った傍から笑っちゃってる。


「ほほほ、可愛らしゅうございますねえ。これは、陛下がご覧になられれば、イチコロでしょう」

「なぬっ!?」


 そりゃあ、いかん。

 脇役以下、背景妃の名がすたるってもんよ。


「塀門閉鎖しといて」

「ほほほ、かしこまりました」


 香香さんったら、もうっ!

 ベテランさんは、やっぱり妃を推したいんだよね、皇帝陛下にさ。そういう世界だもんね、後宮ってさ。


 しばらくして、李官が昨日の近侍と医官を連れて戻ってきた。


 蘭蘭のくるくるを見て固まる。


「こ、このような症状を見たのは初めてでございます」


 医官が物珍しそうに蘭蘭を見ている。診ているのか?


「『ふわんふわんの毒』って命名したんだけど」

「……ぅっ、はぃ」


 医官が吹き出しそうになってる。

 だけど、近侍は流石であのなよっとした笑みを崩さない。


「陛下の衣もクシャッと収縮しておりました。つまり、もしこの毒が体内に入れば……」


 冷や汗が出た。

 心臓を突かれたらと想像しただけで、息苦しくなる。

 皆、一様に険しい顔つきに変わった。


「髪の毛でよろしゅうございましたなぁ。是非、陛下に見ていただきたいでぇすぅ」


 近侍がなよっとした口調に戻り、香香さんと同じようなこと口にしたわ。


「お目汚しになるわ」


 蘭蘭は近侍と微笑み合った。

 ぜってー会いたかねえ、って笑み。

 近侍は香香と同じような気持ちだろう。


「あのー、数本髪の毛をいただいてもよろしいでしょうか?」


 医官が割って入る。


「ええ、いいわ」


 蘭蘭は髪の毛を抜いた。

 前頭部、後頭部、左右と箇所を変えて抜いていく。

 毒の影響範囲を確認するためだ。

 医官がそれにハッとして、紙にどの箇所の髪かを記入して挟んだ。


「毒の残留を確認します。当面は毒の中和薬を飲んでいただきます」


 それで、出されたのは……、

 青汁やないかーい!


「昨日のあれと一緒?」


 涙目で近侍と医官に問う。


「はい、よくおわかりで」


 答えた近侍の横で、医官が青汁をぐるぐるとかき混ぜる。

 昨日の青汁も滋養強壮と偽って、蘭蘭に中和薬を飲ませたのだろう。


「どうぞ、一滴も残さずお飲みください」


 泣いていいですか?


「症状が収まるまでは毎日お飲みいただきます」


 罰ゲー確定であーる。

 イベント終わったんじゃないの!?


『はーい』

 

 いきなり脳内アナウンスだよ。

 陽気な声で登場してきやがって。


『お困りのあなたに選択ターイム。どの選択でも希望の未来到来だよん』


 こいつのせいで散々な目にあってるんだ、信じるもんかぁーー!


『青汁飲みづらいよね! だから、味変チャーンスだよ。三つの選択から選んでねっと』


 ほうほう、それはありがたいかも。


『味変その一、七味』


 は? ないない、絶対ない。

 青汁に七味入れてどうするんよ!?

 次は?


『味変その二、わさび』


 ……ふざけやがって!

 青に青足して、どうするんよ!? ←二回目。

 青林檎ニキだって、そんなツーンとした青臭い青春歌えねえって。


『味変その三、レモン、クェ、スト』


 無性にぶん殴りたい。

 苦いに酸っぱい足して、どうするんよ!? ←三回目。

 そんな、クェ……ストしたあないって!


『さあ、選んで』


 青汁のままでいいっす。


『ボーナス入りまーす!』


 何事よ?

 フンッ、もう、動じないから。


『シークレット選択を選んだあなたの慧眼に感服! ささ、一気に青汁を煽ってください』


 シークレットでもなんでもないんじゃね? 元々青汁だし。

 渋々、渋面で飲んだわよ。


「はあぁー、不味い」

「良薬口に苦し、というものですねぇー」


 近侍め、覚えてろよ!


「では朝昼晩と中和薬をご用意いたします」と医官。


 ふぁっ!?

 朝昼晩だとぉ!


「あの、私蘭蘭、もうくるくるでいいかなって」

「ご冗談を。解毒できない医官が首をはねられますぞぉー」


 近侍が言って、横の医官がうんうんうんと首を縦に振る。

 逃げ道なしかよ。


「それからぁ、元通りになるまでぇー、朝夕の皇后陛下へのご挨拶はなしですぅー」

「ょっしゃー! ぁ、ぃぇ……エヘヘ」


 近侍の細い笑みに睨まれた。

 後宮妃の日中唯一のお役目が、朝夕毎日のご機嫌伺いだしね。

 何気に超絶面倒くせーんよ。

 それが免除されるなんて、くるくるに感謝だわ。


『でしょ! どれ選んでも希望の未来っしょ』


 珍しく脳内アナウンスがいい仕事したんかな?


「香香、近侍と医官をお見送りして」


 シッシッと振り払ってやったわよ。




 香香は澄ました顔で、近侍と医官を見送った。

 そして、ツーッと視線を横に動かす。隣の(から)住まいを見て、フッと笑った。


「さて、私は幻帝につきましょうかねえ」


 呟いた声を誰も拾えないだろう。

 なぜなら、二十七世婦の一番端の住まいだから。突き当たりどん詰まりの場所に、人通りはない。あったら、それこそ不審者だ。


「深宮につくのは、私だけでしょうねえ」


 香香は穏やかな口調ながら、楽しげに言った。




 その皇帝は連絡を受け、密かに隣に潜る。

 誰にも気づかれずに、目的の部屋に入った。


 部屋の主がポカーンと口を開け、固まっている。

 その隙を逃さず、飲み残している青汁の器を手にし、才人の口に注いだ。


 とんでもなく目を見開いた顔。可笑しさが込み上げる。


「っ、にっがっぁーーい! って、なんでよ!?」


 まさか、指をさされる、皇帝(じぶん)がだ。


(さいじん)が部屋に籠城し、青汁を拒否していると訊いて、足を運んでやった」


 才人の指を掴んで言った。


「ぁ、ぇっと……」


 途端に目を泳がせる。

 もう少し虐めたい。そんな衝動にかられ、才人の顎を持ち上げた。


「口を開けろ」

「ムンッ」


 まさかの真一文字で閉じられた。

 あの後宮妃独特のねっとりした駆け引きとは違うもの。

 その純粋な反抗心にゾクッと湧き上がる支配欲。 

 もっと構いたい。

 懐から包みを取り出す。


「砂糖漬けの(あんず)だ」


 途端、パクパクパクパクパクパク。

 お前は、金魚か!?

 口をパクパクさせて要求しているわけ。さっきの真一文字はどこに消えたんだよ?


「はゃくぅ、ちょぅだぃょぉ」


 目を潤ませて言われた。

 別のゾクリが全身を這う。


「悪い妃だ」


 杏を摘み、唇に押し当てた。

 ぅんっパッ……と開いた口に杏が消える。

 なんだよ、その艶めかしい『ぅんっパッ』はよ!

 こいつは、天然か、阿呆か、『マヌケ』かに違いない。


「おいちぃ」


 ……これはいかん。

 背徳感甚だしい。

 才人から離れた。

 だが、指先が残る。

 才人の鼻先にチョンと触れる。


「俺がここに来たのは内緒だぞ。秘密を守ればまた持ってきてやる」


 コクコクと頷く才人のくるくるがふわんふわんと揺れた。


「じゃあな」


 ふわんふわんにさらりと触れて部屋を出る。

 行き先は隣、深宮だ。難しくもなんともない。見つかるはずはないと、高を括っていた。


 けど、いた。


「私、先帝が暗部でございました」


 才人の侍女香香が待ち構えていた。それも、とんでもない発言を引っ提げて。


「流石、元暗部だな。全く見破れなかった」


 暗部は引き継げない。

 だから、現帝は元暗部の者を知らない。

 代々、皇帝は自ら暗部を創り上げるのだ。

 ゆえに、皇帝が崩御すればその代の暗部は、表向きの仕事だけで過ごす。いわゆる、余生というやつになるだろう。


 暗部活動に戻りたけば、現帝の暗部を見つけ出し、認められればいい。

 ……いや、反対にいえば、元暗部に認められれば、戻ってくる。

 もしくは、暗部を創り上げるときに、元暗部とは知らずに拾い上げられるか……その目利きがあるか。


 元暗部とは本当に桃幻国の影になる存在だ。こっそりひっそり国を支えている。


「幻帝にお仕えしたく明かしました」

 

 今、それが目の前にいるわけ。


「女官に戻った私めを、元暗部とは知らずに選び、才人の住まいに向かわせたのです」


 香香が微笑む。


「無意識に見つけられた、と私めは思っております」

「そうか……なるほど」


 そう言われて悪い気はしない。


「本帝でなく、幻帝(おれ)でいいのか?」

「私め、先の幻帝の暗部でございます」


「二代の幻帝につくと?」

「はい」


「本帝の方が表舞台だぞ」

「暗部に表は眩しゅうございましょう。ほほほ」


 こういう会話は好ましい。

 懐から出してやる、標符を。

 香香が両膝をついて、両手を掲げた。


「励め」

「はい」


 誇らしく思う。

 初めて、元暗部がついた。

 幻帝(おれ)の方に。


「私めの手土産を一つ」

「ん?」


 香香が立ち上げる。


「後宮冒険の書、興味はございますか?」


 あー、やられたな。

 元暗部の凄さを思い知らされる。

 敗北を喫したような気分だ。

 だが、悪い感情はでない。


「私、香香は一度目にしたら全て記憶することできます。こちらを」


 香香が差し出したのは、後宮冒険の書、写本だろう。


「いただく」

「はい。ご熟読くださいませ、ほほほ」


 香香の微笑みにこそばゆさを感じる。きっと、どの記述を読みたいのかわかっていよう。


「フンッ」


 逃げるように深宮に戻ったさ。


 そんで、写本を確認する。

 まさか、皇帝の記述が『黄色い煌めき』だけとは思わなかった。

 それ、服の印象じゃねえかよ!? と、写本を持つ手がプルプルと震える。次第に笑いが込み上げたから。


「クックックッ、今日の俺はどう綴ってくれるんだろうか?」


 幻帝は隣の才人に思いを馳せるのだった。




 さてさて、ちょっと前に遡る。

 幻帝が蘭蘭の寝室に忍び込むちょっと前だ。


『青汁を選択した謙虚なあなたにご褒美がやってくるよ。三日も待たせてごめーんね』


 寝室の扉を閉ざし籠城して半刻過ぎた頃、脳内アナウンスが流れた。


 どうせ、青汁二杯目とかでしょ。もう、展開は予想できるもん。バーカ、バーカ!


 膝を抱えて寝台に座る。

 横の台には、飲み残した青汁。

 もうさ、朝昼晩、三日めの晩なんだよ。

 ボイコットするって。

 超絶悶絶気絶寸前の苦さなのさ。元世界の初号機青汁を百倍にした味っていえばわかる?

 いや、初号機青汁飲んだことないけど。


 いかにも漢方薬。


『その皇帝がこっそりひっそりやってくるんよ。ガンバッ、才人さん』

「はっ!?」


 ガタン


 嘘でしょ……。

 本当に来た。

 寝台横、はめ込みの丸窓を外してさ。

 そこ、取れるんかーい。

 もう、ポカーンってもんよ。


 そしたら、おもむろに青汁の器持って、流し込みやがったの!

 何かしらの会話もなしにだよ。

 問答無用ってやつ。


 腹立って指さしちゃって、その指掴まれたわけ。


 あ、ヤベ、相手皇帝だったって、気づいちゃって、冷や汗ものさ。目が泳いじゃったよ。


 そしたら、顎クイされて、口開けろ……だよ。

 変態か!?

 いや、面がいい奴だけに許された言動だって。

 何気に俺様皇帝じゃん。

 私の好物じゃん。


 皇帝(ヒーロー)補整よろしくって感じでさ、皇帝ってばキラキラフィルターなんよ。

 変態でも許しちゃいそう……、いや、あかーん!


 でさ、咄嗟に唇ムンッて力込めた。


 だけど、甘美な甘味の誘惑を紡がれて、私め蘭蘭、すぐに屈服したわ。

 砂糖漬けの杏、もうね、お口が欲していて、抗えなかった。


 すんごーく、おいちぃ、のなんのって。


 じゃあな、って消えた俺様キラキラフィルター皇帝。

 夢幻(ゆめまぼろし)みたいじゃんか。


 ……でもさ、おかしかなーい? なんで、皇帝たる者がこっそり忍んできたんだよ? って。


 コテンと小首を傾げた。


「蘭蘭才人、香香にございますよ。どうか、扉を開けてくださいましな。香香が胡麻団子を作ってきましたよ」

「香香しゃーん」


 扉を開けて、香香さんを抱きしめたわ。


 蘭蘭の籠城は一刻も保たず、呆気なく終わった。


 翌日である。

 それはいきなりの訪問だった。

 先触れもなく、皇帝が蘭蘭の住まいにやってきたのだ。


「蘭蘭才人! 皇帝陛下のご訪問です」

「へ?」


 寧寧ちゃんが慌てて知らせてきた。

 青汁の器を持ったまま固まる。

 青汁生活四日目、朝青汁タイムである。


「お見舞いだそうです!」


 あ……もしや、昨日の今日で、甘美な甘味を持ってきてのお見舞いかしら?


「蘭蘭才人、お迎えを!」


 とりあえず、飲みかけの青汁の器を円卓に置く。

 立ち上がると同時に黄染の龍衣が視界に入ってきた。


 えーっと、桃幻国の女性の挨拶は……と。

 両手を重ね左腰あたりで留めて、両膝を右方向に軽く曲げる。できるだけしなやかに優雅に……クネッとさ。


「ケフッ」


 し、しまったぁー、青汁飲んでたから、吐息でゲップしちゃったよぉー。

 いや、吐息のケフッだけど。

 ご、ごまかせる?

 あ!

 イケる文言思い出したわ。


今日(けふ)もご機嫌麗しゅう」


 で、ゆっくり顔を上げる。

 ん?


「あんた、誰?」


 黄染龍衣の男がハッと息を飲んだ後、口角を上げた。


「も、も、も、も、申し訳ありません! 蘭蘭才人はまだ毒の影響がありまして! 頭もお口もオマヌケなのです!」


 ひどいよ、寧寧ちゃん。

 寧寧ちゃんがジャンピングで土下座した。

 あ、そっか。

 黄染龍衣だから皇帝陛下か……。

 うん、皇帝? 

 そう、陛下!?


 ヤベ、さっき何口走ったっけ?

 青ざめる。

 完全にやらかした。

 こういうときは、あれよあれ。

 後宮展開ありありの困った時の十八番(おはこ)、失神発動!


「ぇ、ぁ、はあぁーん、目眩が……」


 この間を抜けちゃえばいいわけ、仮病で。

 マヌケだけにさ。

 

「あらまあ」


 香香さんがスススーと近寄ってきて、支えてくれた。流石、ベテラン香香さんだわ。

 そのまま、寝室に運ばれて寝台に寝かせてくれた。


 でも、なんで黄染龍衣男までついてくるん?

 で、なんで、皆いなくなるん?


 これ、この状況、ヤバない?


「才人は策略家だね。失神のふりで余を寝室に誘うとは」


 きゃあぁぁぁぁーー!

 そんな気は全然ねえってばよ!


「失せろ、影武者(にせもん)!」


 飛び起きて、指さしてやった。

 こいつは偽物だ。

 わかるもん、キラキラフィルターがないし。


「へえ……面白いね、君。わかるんだ」

「わかるに決まってらあ! この蘭蘭の目に狂いはねえ」


 もう、啖呵切ったさ。

 大見得もきって、歌舞伎ばりにね。


「何用だよ、影武者君。言伝を言い給え」

「アーハッハッ」

 

 影武者が笑いよる。


「余を影武者扱いとは……、その慧眼、欲しくなるなあ」


 影武者の手が伸びてくる。

 もちろん、避ける。


()いね、くるくるのふわんふわん」

「触るな、変態! これに触れていいのは、っ」


 グイッとな。

 蘭蘭の身体が引き寄せられる。


「俺だ」


 丸窓から腕が伸びて、蘭蘭を抱えたその皇帝が言った。


(げん)、思ったより早い動きだね。焦ったのかな? 確かにこの子……興味深い。余が欲しいな」


 黄染龍衣男が蘭蘭を指さす。


 幻って?


(とう)、こいつは俺が先に見つけた。俺のもんだ」


 キラキラフィルターの俺様皇帝が返した。


 桃って?


 で、同じ顔二人の視線がオマヌケちゃんを見つめるわけ。


 やだやだ、すっごいやだぁー。

 これ、超絶面倒くせー状況ってやつじゃね?

 絶対首突っ込んじゃいけない系。


 今さら、見猿聞か猿できる? 言わ猿は必須だろうなあ。

 いや、逃げ猿って選択もありじゃね?

 さて、どう逃げ去るか。


 ……良いこと思いついた。


「蘭蘭ねー、お目目がやられちゃったぁー。(お目目ゴシゴシ) 皇帝陛下が二重に見えるのぉー。もう、おねむみたーい。(うとうと)。蘭蘭ねー、起きたらきっと覚えてなぁーいのっ。おやすみぃー」


 思いっきり、幼子を演じてーの、キラキラ俺様皇帝振り払って、バビューンと寝台に潜りーの。


「スピスピー」


 可愛いいびきを聞かせてあげてーの。

 この状況から逃げ去り、離脱完了。

 あとは残った二人でどうにかしてよね。


「……オイ、コラ。無理があんぞ、それ。馬鹿にしてんのか? 今、朝だっての、起きろよ」


 チッ、なんで知らんぷりしてあげてんのに、掘り起こすんだよぉー。

 潜ってた布団、引っ剥がされた。

 キラキラ俺様皇帝め、許さん。


「皇帝の秘密知りてえだろ?」


 思いっきり首を横に振る。


「私、後宮でこっそりひっそり生き残りたいだけ! 秘密なんて知ったら命がいくつあっても足りないじゃんか!」


 両耳を両手で塞いで、ギュッと目を瞑る。


「往生際が(わり)ぃな」


 両手掴まれて、耳元に近づく体温。


「後宮で冒険しようぜ」

「っ!?」


 バッと目を開く。

 キラキラ俺様皇帝の顔が、吐息を食める寸前の距離にあった。

 ヒュッと息を呑む。


 ドクン!


 あっ、

 駄目だ、

 逃げられない、

 これ、

 きっと、


 堕ちる。


『キラキラフィルターマーックス!』←脳内アナウンス。


 うーっとり。


「大丈夫だ。俺が死なせねえって」

「幻、救ってくれたのは才人の方でしょ」

 

 黄染龍衣男がすかさず突っ込んだ。

 あ、確かに。

 しっかりしろ、蘭蘭(わたし)

 脳内で、自分の頬をパンッパンッパーン、と叩いておく。

 危うく雰囲気に呑まれるとこだったよ。

 キラキラ俺様皇帝を手で押してやんわーり遠ざける。


「うるせー、桃」


 どうやら、俺様皇帝が(げん)。黄染龍衣男が(とう)らしい。

 遠ざけたってのに、手を伸ばしてくるくるで遊びはじめやがった。

 何度もパシッてするけど、全然止めてくれない。


 くる、パシッ、くる、パシッ、くる、パシッ……エンドレスだっての。


『イチャコラキター!』←脳内アナウンス。


「ゃめてったらぁ」

「ん? これ、俺のくるくるだし」


 イチャコラ、イチャコラ。

 もぉ、やだぁー、俺様のちょっかい……好物だよ。

 推しちゃうよ。


「ねえ、余の存在忘れないでくれる?」


 は!?

 ヤバい、また雰囲気に呑まれてた。


「それでさ、才人。普通、周囲が手薄、暗殺者に狙われやすい場を担当するのって、影武者だと思わない?」と桃。


「そうだねー」と私。


 ん?

 ちょっと、待って。

 暗殺者に狙われたのって……幻だよね。

 つうことはだよ、桃がニッコニコで見てくる。


「こいつが本物なん?」


 桃を指さす。


「そう、そいつが本帝の桃帝。俺が幻帝。桃の幻術で創られたのが俺」


 俺様の幻が桃をさした私の指を掴んだの。


「もう、引き返せないぞ。皇帝の秘密、知っちまったからな」


 なんてこった……。

 終わった……。

 最悪だ……。

 蘭蘭は放心した。


『へーい、才人。ご機嫌いかが?』


 ハッとな。


 放心してた蘭蘭は一気に意識が戻る。


 良いわけねえ!

 脳内アナウンスめ、陽気に登場しやがって。

 ん?

 いや、さっきもアナウンスがあった気が……しないでもない?


『やっと、桃・幻帝に会ったね。物語のチェック地点(ポイント)に到達したよ。おめでとう』


 うるせー。

 めでたくもなんでもねえ。


『あー、うんうん。気持ちはわからんでもないよ。そんな才人にやり直しの機会を与えてあげる』


 マジッすか?


『マジマジ。リセットできる。転生初日に戻れる機会だよ』


 うわっ、そうなると、物語の展開わかるから、色々回避できるじゃん。

 まさに、転生生かして、先回りできるよね。

 いいじゃん、めっちゃ。


『戻る? 戻らない?』


 戻……る……ない、か。


『注意事項、言うの忘れてた。このやり直しの機会は一回しか使えないから』


 なるほど。

 悩みどころだなあ。

 でもさ、今の展開が一番危険だと思うんよ。

 皇帝の秘密なんて知っちゃたら、マジで命がいくつあっても足りなそう。


 戻ろう……かな。


『うん、良い選択だと思う。じゃあ、みーんな……()るね』


 ふぁっ!?


『なんで、驚くん? やり直しって、リセットだよ。皆、消えるわけ』


 ぇ……っと……。


『後腐れなく一瞬で終わるし、また、すぐに会えるじゃん』


 違う。

 次の幻帝は、今の幻帝じゃない。


『一緒だって、同じ幻帝だし』


 ……それ、クローンじゃんか。


 ゃだもん。私は、この幻帝がいいんだもん。

 今の寧寧ちゃんがいいんだよ。

 香香さんに、悄悄ちゃん、李官。

 今の仲間を消して、やり直したって嬉しかないよ。


「ゃ、だょ……スンッ、スンッ、グスン」


『じゃあ、このままの世界線でOK?』


 うん。


「なーに、泣いてんだよ。仕方ねえなあ」


 幻帝が涙を拭いてくれる。

 ポンポンって背中撫でてくれる。


「大丈夫だって、幻帝の俺なら、ひっそりこっそり暗躍する方だから、お前もひっそりこっそりしてられる」


「いや、暗躍の方が危険だよ。桃帝の余なら、庇護下における。寵妃として囲ってもいいし、ひっそりこっそり生活させてあげよう」


「邪魔すんじゃねえ、桃」


「選択を与えてるだけだよ、幻」


「だいたい、桃にはたくさんの妃がいるだろ。ら、蘭蘭っ、は俺んだ」


 あ、初めて幻帝が名前言った。

 耳が少し赤いし、名前言うのも……動揺してた気が。


「いやいや、才人だって表向き余の後宮妃だよ」


「俺を見分けられたんだ。俺んだ」


「他の妃も幻を見分けられたら、幻の者になるわけかい?」


 ……だね、確かに。

 幻帝の理論なら、そういうことになる。


「違う!」


 幻帝がギュッと手首を掴んだ。


「俺が蘭蘭がいいんだ! 俺の方が唯一を見分けたんだ」


 何その決め台詞。

 めっちゃ見つめてくるんよ。

 これ、堕ちんやつおるん?

 顔が熱くなって……ぽー、状態。

 ヤバない?

 私、今、超絶乙女じゃん。


「でもさ、たまたま、先に幻が才人に会っただけで、余が先に会ってたら幻を偽者って糾弾してたかもしれないよ。幻の唯一が、相手も同じだって言い切れるわけ?」


「そう……なのか?」


 幻帝が不安そうに覗き込んできた。

 キラキラしてる。

 間違うはずない。

 私の皇帝(ヒーロー)は幻帝だ。


「幻帝は私にとって本物。間違えない。だって、幻帝は煌めいてて、桃帝は背景みたいだし」


 ニカッて笑う幻帝。

 でも、すぐにキリッと表情を整えて、どうだ! って言わんばかりに桃帝に見せつけてる。

 必死に表情保とうとしてる感ありありだけど。


「失礼だよね、本物の皇帝を背景呼ばわりとは、恐れ入った」

「ぁっ、……ぇっと、へへへ」


 桃帝に愛想笑いしといた。


「ねえ、才人。余に機会をくれない? まだ、幻に喰われてないでしょ?」

「喰われて?」


「そう、身も心もってこと」

「っ!?」


「真っ赤だ、やっぱり()いね」

「見るな!」


 桃帝の視界を遮るように、幻帝が壁になってくれた。


「もう、蘭蘭の唇だけは喰んだ!」

「えっ!?」


 いやいやいや、桃帝に見栄を張ってどうすんのよ。

 砂糖漬けの杏、食わせただけじゃんかよ。


「水瓶で溺死寸前だったのを、俺が救ったんだ。あれは衝撃的出会いだった。顔見るより先に、生足二本に出会うなんてさ。それで引き上げた初対面は白目。水吐かせて、息を吹き込んで……今思えば、運命だと思う」


 ……泣いていいですかぁぁーー!

 何、この羞恥(マヌケ)

 私、今、涙目、プルプルなんすけど。


『オーケィ!』


 何何何事。

 脳内アナウンスよ。

 笑いの神に愛された男ばりの登場してくれちゃっティ。←チャラ追加。


『初回イベント回収完了』


 は?


『危機回避券一枚と抹茶フラペチーノ券、獲得おめ!』


 ん?


『強制介入で危機回避券一枚使用しといたよ』


 ……水瓶の?


『そ』


 ……なんも言えねえー。


「才人、心中お察しする。今は退いてあげよう」


 ありがとう、桃帝、察してくれて。

 私、今、穴があったら入りたい気分だよ、まったく!


「これからもずーっと退いとけ」

「必死だね、幻」

「うるせー、消えろ、桃」


 この二人、ずっとこんなやり取りだよね。

 そういえば、幻帝って、桃帝の幻術で創られたって言ってたっけ。


 普通のありがち設定なら、影武者説、双子説とかだろうけど、これって、分身の術系?

 どういう関係性なんかな?

 ……いや、深追いは止めとこう。

 まだ、詳しく知る覚悟はない。


()い者同士お似合いか。幻、喰むときは貪るなよ」

「な、何言ってんだ!?」


「優しくな」

「もう、なんも言うな!」


 あのー、さっきから私置いてけぼり状態ですよ。


 幻帝の袖を引っ張る。


「ん?」


 振り返った幻帝は、やっぱりキラキラしてる。

 幻帝越しで、桃帝が手を振って出ていった。


「あっまーいの、一緒に飲も」


 蘭蘭の手に抹茶フラペチーノ。


「お、おお」


 で、あっまーいよね。


 喰む喰む……→『展開はそれぞれのご想像あれ』by脳内アナウンスでしたぁー。


 

短編のつもりで書いたんですよ。

軽ーい気持ちと軽ーいノリってやつで。

でも、文字数増えていって、短編なのか? ってほど。

内容もあれです。まあ、あれです。

そのあれとあれと……あれ等は、伏して願います、大目に見てね、って。

生温い目で読んでいただきますと、幸いです。


追記

物語の題名

ーーゲンテイノゲンテイヒーー

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