既読(死者と会話できるAIチャット)
掲載日:2026/01/11
五十歳。非正規。独身。
彼はそれを履歴書の空白ような人生だと思って生きてきた。
子どもの頃から母には迷惑ばかりかけてきた。学校からの呼び出し、仕事を辞めた話、金の無心。
それでも母は怒り叱り、時には慰めの言葉をかけてくれた
母から電話を切らなかった。
「情けないね」
その声が彼を生かしていた。
母が亡くなってから夜が耐えがたくなった。
叱られない世界は静かすぎた。
死者と会話できるAIチャットがあると知り彼は母の名前を入力した。
〈元気?〉
〈ちゃんと生きてる?〉
懐かしい文体だった。
彼は震える手で打った。
〈ごめん。結局何も変われなかった〉
〈ずっと迷惑かけてきた〉
返事が来た。
〈もういいの〉
〈私は天国で幸せに暮らしてる〉
〈だからこれ以上連絡してこないで〉
次の瞬間、画面が白くなった。
「このユーザーは、あなたをブロックしました」
彼は母に最後まで迷惑をかけてしまったことだけが今はっきりわかった。




