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令嬢シリーズ

結婚して五年。旦那様が奥手すぎて夜のお務めが出来てないんですけど

作者: 無色

「ふぅ……」


 小鳥がさえずる爽やかな朝。


 私エリカ=アーデルハイトは、ベッドの上でシーツを握りしめて額に青筋を立てた。


 今日も何も無かった。


 ベッドの上で甘い言葉を囁かれるでも、手も握られるでも、キスをされるわけでもなく熟睡。


「すぅ……すぅ……」


 隣で寝息を立てている旦那様ことリヒト=アーデルハイトを、私は一分ほど見つめ続けた。


 寝顔は完璧なイケメン。


 貴族界隈では黄金の貴公子なんて呼ばれているほどには、世間的に美男子の部類だ。


 中身も優しく誠実で、誰からも慕われる人格者であり、ついでに剣の腕も立つ。


 正直に言って欠点なんて探す方が難しいほどの理想の男性。


 ただ一つ。


「抱いてこないのだけが問題なのよ……!!!」


 私は今日も、枕に拳を叩きつけた。





 結婚して五年が経つというのに、信じられないことにこの五年間夜のお務めは一度だって無い。


 私たちの間に愛情が無いわけではない。


 なんせ貴族間のしがらみよろしくの政略結婚ではなく、幼なじみ同士の純粋な恋愛結婚。


 しかも私からではなく、彼の方からプロポーズしてくれた。


「君を死ぬまで守るよ。愛してるエリカ。共に幸せになろう」


 とか、白馬の王子様のようなことを言っておいて……!


 なんで五年も守りに入ってんのよ!!


 これでも私は淑女だ。


 結婚して初めて迎えた夜は緊張していたし、何事も無かった次の夜も、しばらくは恥じらいという言葉を胸に秘めて、奥手な旦那様をそっと見守ってきた。


 でも今では、周囲の貴族夫人たちからも言われるのだ。


「まあ、まだ子どもがいらっしゃらないの? 結婚して五年も経つのに?」


「あらあらお可哀想に。睦まじいのは見かけだけなのかしら」


 勝手なことほざくな。


 そう言いたいけれど、ぐうの音も出ない。


 あまりに見かねたらしく、最近では彼の従者にまで心配される始末。


「旦那様はどうして奥様をお抱きにならないのだろう? あれほど美しくて優しい奥様なのに……」


「毎日花を贈るくらいには奥様のことを愛してらっしゃるはずなのに」


「もしかして……旦那様、あちらの方に何かしら問題が……」


「私たちがしっかり支えなきゃ」


 私たちに思慮してくれるのはありがたいのだけど、料理にうなぎやら山芋やらが立て続けに並ぶと私の方だけ元気になるから控えてほしい。




 

 手を出されなかったとはいえ、特段リヒトが不貞を働いているわけではない。


 いや、他所の女にうつつを抜かしてくれていた方が、まだ()()()()()に興味があるんだと安心したかもしれない。


 そんな事になっていたら一生お務めが出来ないようにしてやったけれど。


「こうなったら最後の手段よ……」


 この五年、執事や侍女たち、友人、お義父様にお義母様に至るまでリサーチを重ね、彼の好みを徹底的に調べ上げた。


 その結果がこれだ。


 やや露出の多いナイトガウンに、香水はベリー系の甘いものを。


 湯上がりの熱で火照った身体、度数の高いチョコレートリキュールを含んで頬を赤く染める計算も抜かりない。


 リヒトが書斎から戻ってきた瞬間、さりげなくベッドに横になる。


 かーらーのー、はい!!


「寝ましょう、旦那様……♡」


 完っっっ璧。


 優雅で、そして我ながら色っぽい。


 世が世なら国が傾くレベル。


 さあ飛び込んでらっしゃいリヒト。


 獣の如く息を荒げあなたのために用意した肉を心ゆくまで貪りなさい――――――――


「うん。おやすみエリカ。今日の君も綺麗だった」


「…………あ?」


 寝た?


 この男……私を褒めるだけ褒めて放置して……寝やがった……?


 ……ブチッ。


 はい、もうダメです。


 私キレました。


「リヒト=アーデルハイトぉ!!」


「えっ?! な、なに、どうしたのエリカ!?」


 彼は飛び起き、驚いた顔で立ち上がった。


 そんな顔もカッコいい……けど、その美貌に見惚れていたらこの先の結婚生活は破綻する。


 私は身につけているものを全て脱ぎ捨てて叫んだ。


「抱けぇぇぇ!!」


「っ?!」


 リヒトは鼻血を吹いて、口をパクパクとさせて後退った。


「なななな、何を言い出すんだ急に?!」


「何が急? いいから抱け!! 私は五年も待ったの!! 優しさとか気遣いとかどうでもいい!! 私が抱かれたいの!! もう言葉を濁さずに言うけどシたいの我慢の限界なの!! わかった?! ねえ、わかった?! わかったって言いなさい!!」


「わ、わかったけど!! でも、でも僕は……」


「あぁ?」


「初めてだし……エリカに嫌われたくなかったし……それに、その……は、恥ずかしくて……!」


 リヒトがうなだれるのを見て、私は思わず沈黙した。


 初めて……ね。


 妙に潔癖だったし、手もなかなか握ってこなかったのも……まあそういうことなら頷ける。


 私はそっと、リヒトの頬に手を添えた。


「……リヒト」


「エリカ……」


「あなたが初めてでも嫌わないし笑わないわ。いいえむしろ、むちゃくちゃ好感度高いし嬉しいしありがとうございますの気持ちでいっぱいで正直バチボコにムラムラしてるわ」


「エリカ……?」


「どうしましょうリヒト……このままじゃ私あなたのことを襲ってしまいそうだわ。けれど私も一人の淑女として、愛する旦那様にリードしてほしい気持ちがあるのよ。だから私の理性が残ってるうちに……さっさと抱けぇぇぇ!!!」


 私の叫びが屋敷中に木霊した。


 後、抱かれた。


 



 その夜、やっと旦那様は私とお務めを果たしてくれました。


 意外と大胆で、初めてなのに情熱的で、でもやっぱり最後まで手探りでこちらに具合を訊ねてくるのが、たまらなく愛おしかった。


 翌朝。


 鏡の前で髪を結っている私に、リヒトが後ろから抱きついてくる。


「……ねえ、エリカ」


「なに?」


「ゴメン、今まで寂しい思いをさせて」


「……クスッ。初めての感想は?」


「……すごく、よかった。エリカは?」


「バカね。幸せだったに決まってるじゃない」


「恥ずかしいな……。君以外にはこんなところ見せられないよ」


 当たり前でしょ。


 その甘い顔も声も、私以外に向けたら殺してやるから。


「今夜もちゃんと抱いてよね。五年間も我慢させられたんだから。その分……ちゃんと愛して」


 私は似合わずも、甘えた声でキスをした。

 強いは可愛い。


 当方の(へき)でございます。


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― 新着の感想 ―
365日×5年、ですか.. 奥様が「歯あ食いしばれぇ!」とならなかったのが奇跡ですわね。 淑女の仮面を粉々にさせた罪を一生かけて贖いなさい。
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