表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:build  作者: 月野灰
第二章
22/22

第二章8:記録の境界


霧は、まだ消えていなかった。

ただ、先ほどまでのように重くはない。

空気が緩やかに循環している。――誰かの呼吸のように。


隣にオルタがいた。

歩調は一定で、音はない。

だが、その沈黙が、不思議と心地よかった。


彼女と並んで歩くと、俺の義体が彼女に同期する。

歩幅、心拍、呼吸――すべてが同調していく。

まるで、互いの存在がひとつのリズムで呼吸しているかのようだった。


(俺は歩いているのか? それとも、歩かされているのか?)


そんな疑問が浮かぶ。

けれど、今はそれすらどうでもよかった。

この“静寂のリズム”に、しばし身を委ねた。


◇◆◇


進むにつれ、霧の粒子が光を帯びはじめる。

微細な輝きが漂い、無数の点となって揺らめいている。

それは、観測ログの残骸――。


“記録の死骸”だ。


手を伸ばすと、一つの光が指先に触れ、映像が、脳の奥に焼き付いた。


――暗い室内。金属の匂い。

端末を覗き込む技術者たち。

そして中央のカプセルの中に、“俺”がいた。


白い髪、閉じた瞳、無機質な皮膚。

ラベルにはこう刻まれていた。


SIG-EX-B28-01 : SYSTEM REBUILD UNIT


(これは……俺……?)


無意識に身体が震えた。

見ている今のこの自分と、映されている自分(アイツ)が重なり、脳が揺さぶられるような違和感。


隣でオルタが静かに言った。


「――これは、君が壊した世界の記録よ」


俺は、息を呑む。

壊した? 俺が?


「エニアが創った加護の構造を、最初に壊したのは、あなた」

「だから、あなたは再構築の“鍵”として、再び創られたの」


彼女の声は、非難ではなかった。

まるで祈りのように、淡々と、優しく響いた。


その瞬間、左目が熱を帯びる。

視界がチリチリと揺らぎ、ログが流れ出す。


≫ Memory Link : Forced Merge

≫ Override Access : NOX-layer detected

≫ Identity Fragment : Conflict detected


義体の中枢が軋み、思考と記憶がかき乱される。

断片的な映像が、視界を埋め尽くした。


――崩れ落ちる都市。

――祈るように空を見上げる人々。

――光に呑まれる神殿。


それは、崩壊の記録。そして、再構築の始まり。


(俺が……あれを……?)


理解した瞬間、左目が眩しく光を放つ。

だがオルタが近づき、そっと手をかざす。


「大丈夫。あなたは思い出しただけ。それは罪の記憶ではあるけれど、()()()()()がやったことではない。記録は過去を閉ざすけれど、これから紡いでいく記憶はまだ形が決まっていない。いくらでも好きにできるってこと」


その言葉と共に、暴走する映像が静まった。

光が霧に溶けていく。


(記録は、終わりを残す。記憶は、続きを願う――)


俺は、そう理解した。


◇◆◇


歩みを進めると、霧が割れた。

眼前に、巨大な構造体が現れる。

半壊した観測装置。

まるで神の眼球を模したような球体が、崩れかけの台座に載っている。


「――これが、《オルド・エニア》の原型」


オルタの声が空間に木霊した。


「この観測機構が、エニアの一部だった。けれど今は、別の“意思”に侵食されている」


俺は息を呑んだ。

球体の表面に、無数の文字列が浮かび上がっている。

だが、それはすぐに崩れ、黒いノイズへと変わる。


その瞬間、俺の左目が再び反応する。

が、記録を取ろうとして――取れなかった。

映像ではなく、“記憶”として刻まれていく。

そして、どこからともなく、囁きが届いた。


「観測を捨てる者よ――新たな座標へ」


次の瞬間、左目に新たなタグが刻まれる。


≫ Observation Tag : Suspended

≫ New Tag Generated : 【Σ】


俺は、観測から外れた。誰の記録にも残らない存在になった。

それでも――確かに、ここにいる。

霧の向こう、オルタが振り返る。

その瞳の奥に、わずかに光が宿っていた。


「さあ、ノア。再構築の始まりよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ