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Re:build  作者: 月野灰
第二章
20/22

第二章6:侵入

霧は、なお濃かった。だんだんと重みすら増していくようだ。

音の残響すら呑み込まれ、光は削がれ、世界そのものを曖昧にしていく。

俺は歩いている。足裏の感触でそれが辛うじて分かる。

左目の機能を切ってから、この曖昧さが楽しかった。


――だが。


胸の奥に、ざらりとした異物感が走った。

次の瞬間。


「――なっ!?」


≫ Reboot Sequence : success …  ≫ Control Override [外部入力] …許可…  ≫ Optimal Program ///running  ≫監視対象:SIG-EX-B28-01 【接続成功】


視界内に突如として現れたUI。

ダイアログが進んでいく。

そして。


(身体がっ!?)


四肢の()()()()()

それでも身体は歩みを止めない。

足が前に出て、腕が振れる。呼吸のリズムすら制御されていた。

自分の身体感覚が何かと二重に重なっている。

錯覚、ではない。ナニかが俺の中にいる。


(やめろ……!俺の身体……俺の……)


抵抗も意味を成さない。

持続的に何処からか発せられる電磁パルスに従って、強制的に人工筋肉が収縮している。

ナニかの意思を持って。

俺はただ、乗っ取られた身体の中に閉じ込められる囚人に成り下がる。

そして、耳の奥に――いや、脳に直接、声が流れ込んできた。耳を塞ぎたくなるような、不協和音にも似た音。


『――器。――芽吹――。ようやく――』


意味の輪郭を結びきれない断片。

だが、()()は俺を視ていることだけは分かる。


すると霧の奥に、鏡のような壁が現れる。

その表面に映ったのは――無数のノアだった。

あれは……過去のノアか? 視た覚えがある。

こいつは、まだ経験したことがない。未来? 存在しなていないはずのノア


(これは……俺なのか……?)


見るともなくそれらの虚像を見せられつつも、身体の動きは止まらない。

そして腕が壁へ伸ばされ。触れた瞬間、すべての像がこちらを向いた。

笑い、怒り、沈黙。どれもが俺の顔をして俺を見つめてくる。


「やめろ……。やめてくれっ!」


声にならない声で。

叫んだ、その刹那。

視界に白が舞い降り。

左目を覆った。

触れた掌は温かかった。



◇◆◇



「もう大丈夫」


その声と共に、不思議な安堵感が胸に広がった。

気付けば、暴走していた身体の制御が自分に戻っている。

膝をつき、呼吸を整える。

恐る恐る目を開くとUIは消えていて、あの気持ち悪い二重に重なった感覚も鳴りを潜めていた。

視界の片隅に立つ白い外套――。


「……オルタ?」


フードの奥の目が印象的だった。彼女は微笑んだように見えた。


「こちら側に踏み込みすぎると、取り込まれるわ」


「今のは……何だ? 何か知っているのか?」


「まだ全部を知る時じゃない。でも――あなたはもう一人じゃない」


その言葉は、俺の胸に重く響いた。

初めて感じる心地よさだった。


霧が僅かに揺れる。

その奥で、黒い光のような揺らぎが漂っていた。

オルタが視線をそちらに向ける。


「薄々感じているとは思うけれど、この領域は以前とは違う、()()()()()よって、“監視されている”の」


息を呑む。

彼女は続ける。


「静域を包んでいた“観測”とは違う、別の意思。”監視”。……それ以上は、今は言えないわ」


曖昧な響きの言葉だったが、そこに彼女の恐れは感じられなかった。

ただ、静かにこの世界の成り立ちを端的に伝える響き。


俺は拳を握る。

今は取り戻しているが、あの瞬間この身体は確かに俺だけのものじゃなかった。

また取り込まれるのではないか、という恐怖。

と同時に、隣にオルタがいることの安心感。


「行こう。まだ、先がある」


そう言ったのは俺だったのか、彼女だったのか。定かではない。


ただ、歩みは確かに重なっていた。



≫ 再接続 Sequence: running……//ERROR//DENIED//  ≫ Entity detect: SIG-ALT-03 [敵性認証]  ≫ Elimination Seq……実行中……//DENIED//DENIED//DENIED//  ≫ Bypass process: calculating……  ≫ 監視継続……target=SIG-EX-B28-01 / SIG-ALT-03

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