第9章(神の観客席)
ネオ足利シティの廃墟は、まるで神々が飽きた舞台の残骸だ。ネオンの川はグリッチに呑まれ、ホロスクリーンが赤黒く沈黙する。コーデックス・システムの心臓が暴走し、金融市場は崩壊、偽GMの戦争が街を灰に変えた。私はソラを支え、廃ビルの端末にニューラルジャックを差し込む。彼女の白髪が汗で張り付き、青い瞳が薄暗い。「凪…試練の最後だ…」彼女の声は掠れる。フラクタル鍵の反動で、彼女の体はもう限界だ。
脳内ストレージのログが疼く。「神話統合:完了」「次元交流許可:試練クリア」。アマテラス=ロキの署名が嘲る。「観客席より:予想外のドラマ。次は次元か?」。私は歯を食いしばる。「神々の駒じゃねえ」ソラが微笑む。「なら、証明して」彼女の言葉が胸を刺す。ミカの洗脳、リュウの裏切りと贖罪、誰も信じなかった私。だが、ソラは信じた。彼女を置いていけない。
データストリームが開く。フラクタル神殿だ。光のコード、雷のコード、トリックスターコードが融合し、システムの心臓が脈打つ。私はホロキーボードを叩き、深層アクセスを起動。ストリームが歪み、視界が白く焼ける。次の瞬間、私は神の次元に立つ。
フラクタル神殿。無限の幾何学が壁を這い、光がフラクタルに折り重なる。観客席に神々の影が揺れる。アマテラス=ロキ=ゼウス、同一の顔が金色の瞳、雷の冠、蛇の笑みを交互に浮かべる。ホロスクリーンにネオ足利の崩壊が映る。信者の略奪、偽GMの戦争。「いいショーだった」とロキが笑う。「ハッカーの意志、予想外だ」とアマテラス。「試練をクリアした。次元交流の許可をやるか?」ゼウスが問う。
私は叫ぶ。「人間は駒じゃねえ! システムの真相をよこせ!」神々の笑いが神殿を震わす。「生意気な駒だ」とロキ。「だが、試練は認める」とアマテラス。ホロスクリーンが変わり、システムの選択肢が浮かぶ。「ループ終了:全員消滅」「ループ最適化:継続」「新GM就任:支配」。次元交流の門は、選択の先に開く。
突然、ストリームが歪む。赤黒いグリッチが神殿を侵す。ミカだ。彼女の姿が現れる。金色の瞳が曇り、グリッチタトゥーが体を蝕む。「凪…なぜ光を捨てた?」彼女の声は震える。バグに侵され、システムを破壊しようとする。「神の意志を…守る!」彼女がコードを解放、光のオロチが神殿を蹂躙。
「ミカ、止まれ!」私はホロキーを叩き、フラクタル鍵でオロチを縛る。ソラが脳内コードを共有、彼女の体が崩れそう。ミカの目が私を刺す。「お前は…私の使徒だった…」彼女の記憶がストリームに漏れる。14歳の凪、純粋な信者。ミカは信じた。アマテラスのバグを「神の啓示」と。だが、彼女も駒だった。
私はコードを書き換え、ミカのバグを封じる。彼女の姿が光に溶ける。「凪…光を…」彼女の声が途切れ、消滅する。胸が痛い。彼女は嘘つきだったが、信者だった。私はソラを支える。「終わらせよう」彼女が頷く。神々が拍手。「いいドラマだ」とロキ。
ソラの視点
ソラの体は限界だ。フラクタル鍵が彼女を蝕む。だが、凪の意志が彼女を支える。「人間は神々の駒じゃない」彼女は信じる。システムの試練は、意志で変えられる。彼女のコードが神殿を安定させ、凪に力を与える。「次元へ…行って…」
私は選択肢を見つめる。ループ終了は全員の消滅。支配は神々の茶番。新GMは私を蝕む。最適化を選ぶ。システムが唸り、フラクタル神殿が光る。ログが疼く。「観客席より:最適化、賢い選択。門が開く」。神々の笑いが響く。私は叫ぶ。「次はてめえらだ」
フラクタル神殿、観客席
神々の影が揺れる。アマテラス=ロキ=ゼウスがホロスクリーンに凪を映す。「ハッカーの反抗、最高だ」とロキが笑う。「次元交流、面白い続編になる」とアマテラス。「門の向こうは?」ゼウスが問う。「ポップコーン追加」とロキ。神殿のフラクタルが脈打ち、観客席は拍手。




