第3章:偽GMの群雄
ネオ足利シティの夜は、ネオンの血管が不規則に脈打つ。メインストリートのホロスクリーンがちらつき、株価や仮想通貨の数字が一瞬、フラクタルの静寂に飲み込まれる。コーデックス・システムがまた血を吐いている。街全体がそれを感じている。私はフードを深く被り、雑踏をすり抜ける。光の教団のサーバーから盗んだログが脳内ストレージで疼く。「次元交流許可」「神話統合」「アマテラス=ロキ」。意味不明だが、命を賭ける価値のある謎だ。
リュウが前を歩く。革ジャンがネオンの光を跳ね返す。元詐欺師のグリッチランナーのリーダー、笑みが胡散臭い。信用できないが、彼の技術は教団のセキュリティを破るのに必要だ。信頼は贅沢品、だから私は駆け引きで縛る。「ついてこい、凪」リュウが振り返らずに言う。「ロキ・シンジケートのサーバーは自分でハックする気ないだろ」
偽GMたちがネオ足利を食い荒らしている。ミカの光の教団は金融街を握り、アマテラスを模した光ドローンで街を照らす。だが、独占じゃない。北部スラムのオーディン連合は、雷ドローンとエキゾスーツで武装し、「システムの真の継承者」を名乗る。ロキ・シンジケートはカオスを愛するハッカー集団、市場をクラッシュさせて笑う。それぞれがシステムのアクセスコードを「神の意志」と偽り、街を戦場に変える。みんなくそくらえの嘘つきだ。
グリッチランナーのアジト、廃倉庫に滑り込む。中では十数人のハッカーがホロキーボードを叩き、画面にデータが踊る。冷却ファンの唸りとオゾンの匂いが漂う。リュウがカスタムファームウェアのニューラルジャックを渡す。「ロキのサーバーは地下都市だ」彼の声は軽い。「市場をグリッチ爆弾で荒らしてる連中だ。コードを割れば、システムの深層に近づける」
私はジャックを差し込む。データストリームが冷たい波のように脳を駆ける。ロキのサーバーは罠の迷宮だ。ループする暗号、偽のノード、マルウェアの叫び声。指がホロキーを叩き、カオスを切り裂く。シンジケートのコードはロキそのもの――トリックスターのフラクタル結び目、解けば行き止まり。私はそれより上手い。ノードを突破し、コードの断片を掴む。教団のログと同じパターン。「ロキも同じ闇を掘ってる」と呟く。
突然、ストリームが歪む。デジタル狼――フェンリル、腐敗データでできた牙が私のアバターに襲いかかる。システムのバグが生んだグリッチビーストだ。ジャックが熱を持ち、視界が揺れる。「何だこれ」私はファイアウォールハックで狼をループに閉じ込める。だが、ただのコードじゃない。フェンリルの目はログと同じフラクタルで輝く。「お前、何者だ?」私は接続を切る。
リュウが見ている。ホロレンズが光る。「何か見つけた?」あまりに軽い口調。私は肩をすくめる。「ノイズだ」ログを共有する気はない。彼の笑みが深まる。裏切りの計算が目に透ける。
北部スラム、オーディン連合の要塞。雷ドローンが空を巡り、ルーン刻まれた装甲が唸る。司令官トルヴァルド、元傭兵の自称「オーディンの後継者」が兵を見下ろす。ニューラルインプラントにシステムのアクセスコードが流れる。闇市場から奪ったものだ。市場クラッシュは彼の武器、富を吸い上げる。「システムは我々のものだ」と彼は唸る。「ミカのカルトもロキのネズミも偽物だ」だが、心の奥で疑念がちらつく。グリッチが制御を超え、暴走している。画面のルーンが脈打つ。「オーディン=アマテラス」。ノイズだと無視するが、消えない。
地下都市、ロキ・シンジケートの巣窟。サーバーがトーテムのように並び、ケーブルがフラクタル模様で光る。リーダーのヴェックスが笑う。彼女のグリッチ爆弾が市場を再びクラッシュさせ、仲間が歓声を上げる。「カオスが真実だ」彼女のアバター、コードを這う蛇が言う。バグは彼女のアート、クラッシュは傑作だ。だが、サーバーの奥、ログの断片が脈打つ。「神話統合」。ヴェックスは無視する。カオスに酔う彼女は、コードの奥のフラクタルな目を見ない。
グリッチランナーのアジト。私はリュウのクルーとロキのサーバーを襲う計画を立てる。地下都市は崩れたトンネルと野良AIの迷宮だ。ドローンを避け、トリックスターコードの罠をくぐる。ニューラルジャックが唸り、シンジケートのネットワークに潜る。データストリームは嵐だ。ロキのハックがフラクタルの罠を編む。私は刃のように切り抜け、コードの断片を奪う。「次元交流:神話統合必須」。ログと同じだ。システムは何かでかいものを隠してる。
街が揺れる。ホロスクリーンが静寂を叫び、市場がまたクラッシュ。ネオ足利のネオンが暗転、赤黒いグリッチに染まる。群衆がパニックに陥り、露店が閉まり、信者が偽GMに祈る。オーディン連合の雷ドローンが頭上を轟き、ミカの光ドローンと衝突。