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Fractal Codex  作者: monyolin
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第2章:光の教団

 ネオ足利シティの夜は、ネオンが嘘をつく。光の教団のドローンが去った路地裏で、私は息を整える。脳内ストレージに隠したログが、頭の奥で疼く。「次元交流許可」「全神話統合」「アマテラス=ロキ」。意味不明だが、コーデックス・システムの深層に繋がる匂いがする。追いかけるしかない。だが、今は教団の追っ手が問題だ。ミカの光ドローンは、私を「異端者」として街中から嗅ぎ出す。

 私はフードを深く被り、雑踏に紛れる。メインストリートのスクリーンでは、ミカの演説がリピート再生されている。金色の瞳、太陽を模したドレス。彼女の声は甘く、毒だ。「光の教団は、コーデックス・システムの真の継承者です。バグは神の試練。信じる者に富と永遠を!」 群衆が「アマテラス!」と叫び、膝をつく。吐き気がする。14歳の私も、あの声に酔っていた。ミカに「光の使徒」と呼ばれ、システムのバグを「神の意志」と信じた。

 教団のサーバーをハックする。ログの断片を追うには、ミカが握る表層アクセスが必要だ。教団の拠点は、ネオ足利の旧神社跡に建つ「光の神殿」。浮世絵風の鳥居に、ネオン管が絡まる。信者たちがグリッチタトゥー――バグコードを模した刺青――を誇示し、寄付ガジェットを差し出す。金はミカの私財に流れ、システムのセキュリティを強化する。完璧なビジネスだ。

 神殿の裏手、廃サーバーの陰に潜む。ニューラルジャックを差し込み、教団のファイアウォールに挑む。データストリームが脳裏を駆ける。セキュリティは予想以上に硬い。ミカは表層アクセスで金融市場を操り、仮想通貨を吸い上げている。スクリーンのグリッチは、彼女のハックの副産物だ。だが、コードの奥に、奇妙な痕跡。ログと同じ暗号パターン。「神の干渉」とでも言うのか?

 突然、ストリームに赤黒い影が蠢く。セキュリティAIだ。八つの頭、デジタル鱗の怪物――ヤマタノオロチを模したバグ。教団はバグを「神の守護者」と崇めるが、私にはただの厄介者だ。ホロキーボードでカウンターコードを叩くが、オロチの牙がデータストリームを噛み砕く。脳が熱を持ち、視界が揺れる。「くそっ!」私はジャックを抜き、サーバーから転がる。背後でオロチの咆哮が響く。

「下手なハックだな」低い声が路地に響く。見上げると、革ジャンの男が立つ。30代半ば、片目にホロレンズ、口元に皮肉な笑み。グリッチランナーのリーダー、リュウだ。ハッカー集団のボスで、元詐欺師。教団のドローンをハックで撒いたらしい。「お前、凪だろ? 教団の裏切り者。噂通り、肝は据わってるな」

「助けはいらない」私は立ち上がり、フードを直す。リュウは肩をすくめ、ホロレンズで私のハック痕をスキャン。「教団のサーバーに噛みつくなんて、死にたいのか? けど、面白い。俺たちもシステムの深層を狙ってる。一緒にどうだ?」

 信用しない。誰もだ。だが、リュウの集団なら、教団のセキュリティを破れるかもしれない。私は頷く。「条件は半々。アクセス権は折半だ」 リュウの笑みが深まる。「いいね、取引成立。けど、教団は甘くないぜ」


 光の神殿の最上階、ミカは信者の群れを見下ろす。金色の瞳がネオンに映え、アマテラスの光を模したドレスが揺れる。彼女の脳内には、システムの表層アクセスが流れ込む。仮想通貨の奔流、株価の脈動。金融市場は彼女の掌中だ。信者の寄付が、教団のサーバーを強化する。「神の試練は近い」と彼女は呟く。

 ミカの記憶は断片的だ。転生ループの副作用。だが、システムのバグが彼女に囁いた。「お前はアマテラス、光の使者」。バグコードは、彼女に特権を与えた。日本の転生者は強い。ミカはそれを「神の加護」と信じる。だが、凪の裏切りが心を刺す。「なぜ、光を捨てた?」 彼女はスクリーンに映る凪のハック痕を見つける。「異端者は許さない」


 ネオ足利の雑踏に戻る。リュウが先導し、グリッチランナーのアジトへ向かう。廃ビルに隠されたサーバールーム。ハッカーたちがホロキーボードを叩き、バグコードを解析する。リュウが私に端末を渡す。「教団のセキュリティ、見たろ? あれ、普通のAIじゃない。神話モチーフのバグだ。システムの深層に、なんかヤバいもんが潜んでる」

 私は端末にジャックを差し、ログの暗号を解く。脳が熱を持つ。「次元交流許可」「全神話統合」。そして、新たな断片。「観客席より:ミカの推し活、悪くない。だが、ハッカーはどうかな?」 署名は「アマテラス=ロキ」。またこれだ。神々の嘲笑が、コードの奥で響く。

 リュウが肩越しに覗く。「何だ、それ?」 私は画面を閉じる。「なんでもない。教団のコード、早く破るぞ」 リュウの目が細まる。信用しない。私も彼もだ。だが、今は手を組むしかない。

 別の次元、フラクタル神殿。観客席に神々の影が揺れる。アマテラス=ロキ=ゼウスが、ホロスクリーンにネオ足利を映す。ミカの演説が流れ、信者が熱狂。「推しの子、頑張ってるね」とアマテラスが笑う。「バグを神聖化するなんて、いいセンスだ」ロキ、お前の干渉か?「ちょっとだけ。オロチのコード、ミズで書いたよ。ハマってる?」ロキが笑う。

「だが、ハッカーは?」とゼウス。凪のハック痕が映る。「ログを見つけた。試練の駒だ。次元交流の鍵になるかな?」 神々の瞳が光る。「賭ける? グリッチに喰われるか、俺たちを驚かせるか」「ポップコーン追加!」とアマテラス。神殿のフラクタルが脈打ち、観客席は静かに拍手する。



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