表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/51

006_異世界タブレットに驚愕>>

 人々でにぎわう大通りを歩きながら、この世界を改めて観察する。


 人間だけではない。エルフ、ドワーフ、獣人――ファンタジーゲームのような多種多様な種族が行き交い、店先からは威勢のいい呼び声が響いてくる。


 だが、見た目こそファンタジーでも、営みは現実そのものだった。人々は商品を売り、買い、値段を交渉し、取引を成立させている。異世界の装いの下には、確かな経済の仕組みが息づいていた。


 観察を続けていると、ふと違和感に気づく――紙幣も硬貨も、まったく見かけない。


 代わりに人々は、半透明の板のようなもの――まるでタブレットのような物体を使い、それを店員の持つ同様の板にかざすだけで、決済を済ませていた。


(電子マネー的なものか……?)


 感心しながら眺めていたその時、さらに驚く光景を目にした。


 ――あのタブレット、最初から手に持っていたわけではない。どこからともなく手のひらの前にポンと現れ、宙に浮いているのだ。


(俺にも出せるか……?)


 試しに、手のひらにタブレットが浮かぶイメージを思い描きながら、「タブレット!」「いでよ!」などと小声で唱えてみる。


 ……何も起きない。


 周囲をさりげなく見回し、誰も気にしていないのを確認してから、もう一度試す。だが、やっぱり出ない。じわじわと恥ずかしさがこみ上げてくる。


 そういえば、周囲の誰もが呪文のようなものを口にしている様子はなかった。どうやら発動条件は言葉ではなく、別の何かのようだ。


 注意深く観察を続けると、ある共通点に気づく。タブレットを出す人々は、皆似たような手の動きをしていた。


 薬指・小指・親指の指先を軽く合わせた後、それを弾くように離し、最後にパーの形で開く――じゃんけんのチョキからパーに移るような動作だ。


(……これか?)


 緊張しながら同じ動作を試す。チョキを作り、パッと開くと――


 ふわりと、半透明の板が手のひらの上に現れた。


「おお……出た!」


 叫びそうになるのをぐっとこらえる。


 浮かび上がったそれは、ガラスのような質感の板で、磁力で浮いているかのように手のひらの上に漂っている。表面には文字や数字が淡く表示されていた。


 じっくり内容を確認しようと目を凝らしたその瞬間――スッと、消えた。


「あれ?」


 もう一度チョキからパーの動きを試す。再び出現。次に手をグーにしてみると――また消えた。


(なるほど、グーで消えるのか)


 何度か繰り返してみる。左手でも出せるが、同時に二つは出せないようだ。一度に出現するのは、一枚のみ。


 ただ、たまに動作しても出ないことがある。だが、数秒おいて再試行すると、普通に出る。


(意識を感知してる?)


 手の動作だけでなく、出したいという意識も必要らしい。意識+ジェスチャーの複合UI――これは驚異的な技術だ。さすが魔法と科学の融合世界。


 現代の電子決済やスマホ操作が、これに比べたらいかに原始的か――そう思いながら、半透明のタブレットを畏敬の念をもって眺めた。


 質感はガラスのようでありながら、指で触れると水面のように波紋が広がる。硬質ながら、どこか柔らかさを感じる不思議な感触だ。これが、この異世界における「個人端末」らしい。


 だが、その感動は一瞬で打ち消される。


 ふと目に入った『所持金』の表示に、思わず目を疑った。


「所持金:¥0」


 ……ゼロ円?


 何度見直しても、数字は変わらない。どうやら本当に、俺は無一文らしい。


「織田のやつ……!」


 せめて最初くらい、ボーナスポイントをつけといてくれよ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ