>>059_合同確認会議>>
大規模演習の開始に合わせ、冒険者ギルド、オルデス商会、市場維持軍のトップが集合した。さらにオブザーバーとしてウォーダと聖女セシリアが同席する。
少数精鋭の会議。目的は防衛計画の最終確認だ。
ここに集まったのは、新たな方針を決めるためではなかった。すでに動き出した巨大な防衛計画が、互いに矛盾なく、同じ方向を向いて進んでいるかを確認するため。
これを「戦争準備」と呼べば市場が混乱し、「平時」のままだと侵攻に後手を踏む。
その二律背反を避けるため、軍は行動を「演習」として位置づけ、商会は兵站を「流通の最適化」として整え、ギルドは任務を「情報の精度向上」に限定した。
三者は同じ目的を共有しているが、役割は異なる。どれか一つでも独走すれば、全体は破綻する。だからこそ、それぞれの「噛み合わせ」を確認する場が必要だった。
机の上に広げられているのは、戦術図というより物流図と配置図、そして膨大な報告一覧。ここは「目詰まり」を潰すための、事務的で冷徹な点検の場である。
ギルド長ベルザ・ナイトグレイスが口を開く。
「行方不明者の捜索と、偵察の状況を報告する」
その声に迷いはない。ベルザは感情を排し、運用上の事実だけを淡々と述べた。
「偵察はすべて複数編成による相互監視とする。定時報告が途絶えた場合は救出を優先せず、二次被害を出さないことを最優先に、ルートを閉鎖し情報を切る」
ベルザは一拍置き、続けた。
「行方不明者については、最後に確認された地点周辺までの限定捜索を実施したが、戦闘痕跡や遺留品はなく、追加情報は得られていない。深追いはしない――それが現時点での判断だ」
ベルザは名簿に一瞬だけ目を落とし、すぐに視線を戻した。ここで感傷に傾くことは、判断を鈍らせる。
次に、まる助が商会側の補給計画について報告した。
「兵站について。商会の役割は、軍事行動を『平時の延長』として偽装し続けることです」
戦争に見せずに補給体制を整える。市場のパニックを防ぐためだ。同時に、奇跡へ過度な期待が集まる状況を避ける狙いもある。聖女の力は前面に出すものではない。
「その前提で、医療物資の配分も設計しています。聖女の奇跡を前提には置いていません。消耗率にもとづいて管理し、分散発注と時間差投入によって、外見上の『平常』を保ちます。奇跡は不足を埋める手段ではなく、最終局面まで温存されるべき支えです」
セシリアは否定しなかった。膝の上で重ねた指先に、わずかな力がこもる。自分に求められているのは奇跡を起こすことではない。その事実を静かに受け止めていた。
そして、最高司令官クロノスが、その小さな体を椅子に預け、短く告げた。
「軍の再配置は順調に進んでいる」
幼い外見に反し、その声には一切の揺らぎがない。
「演習の名目で防衛戦力を段階的に移動中だ。急激な兵力変動を避けることで、敵の警戒を引き上げない。その間に配置を終える。初動対応速度は改善している。遅れは出さない」
三者の報告が出揃い、部屋の空気がわずかに締まった。それは達成感ではなく、責任という名の重みが、各々の肩に分散された感覚だった。
ギルドの偵察は「点」。軍の防衛は「面」。商会の兵站は「線」。 これらを噛み合わせて、魔王軍という「破壊装置」による初撃を受け止める。
「理論上の抜けは、ほぼ塞がっています。準備不足という懸念は排除されました」
まる助の結論に、ベルザとクロノスは静かにうなずいた。責任を共に引き受ける覚悟を示す表情だった。
最後に、オブザーバーとして同席していたウォーダが口を開いた。
「魔王は効果的な破壊を狙う。だから同時に複数の地点から侵攻する。判断を分断し、市場を混乱させるためだ」
(具体的だな。ゲームの経験が言葉の端々ににじんでいる……)
まる助がそう感じた直後、ウォーダは続けた。
「だが、何度も見た攻め筋だ。こちらはそれを前提に対策を進めている。これ以上、詰める余地はないな」
できることは、すべてやった。その事実を確認する言葉だった。
ベルザが静かにうなずいた。彼女は根拠を問う必要はない。この世界の真実と、まる助とウォーダの正体を、すでに知っている。
一方で、クロノスはわずかに眉をひそめ、セシリアは言葉を探すように視線を泳がせていた。二人には、ウォーダの「経験」の出所が見えていない。
だが、この場でその根拠を掘り下げる必要はなかった。時間は待ってはくれない。必要なのは説明ではなく、行動だ。
会議は拍手もなく静かに終わった。来たるべき「衝撃」を受け止める準備は整っている。オダリオン市場国の防衛の歯車が力強く回り始めた。




