046_感恩レッドから考える>>
セシリアの小さな微笑みを見た瞬間、ふっと肩の力が抜けた。
答えはすぐには出ない。けれど、こうして一緒に考える時間そのものが、彼女の心を前へ向ける一歩になる――そんな気がした。
感恩と帰恩は、平沢の哲学から生まれた概念だ。色分けの基準も、おそらく彼の考えによるものだろう。なのに、俺の事前学習からは、その仕様に関する情報が意図的に抜かれている。理由はわからない。
だが――もしかしたらそれは、“自分で答えを見つけてほしい”というメッセージなのかもしれない。今、セシリアと向き合うことが、その意図に応えることになる――そんな気がしていた。
なぜ、彼女の感恩はレッドなのか。まずはそこから、考えてみる。
「どうして感恩がレッドなのか――まずは、そこから一緒に考えてみませんか?」
そう切り出すと、セシリアは目を瞬かせ、少し身を乗り出した。
「……“どうすればいいか”じゃなくて、“なぜ今レッドなのか”、から?」
「はい。原因がわかれば、対策も立てやすくなります。まずは、自分の今の状態を整理すること。それが近道だと思います」
セシリアはうなずいた。少し気持ちが落ち着いたようで、表情にやわらかな安心が浮かんだ。それを見て、俺は続けた。
「感恩は、“心からの感謝”をもとに色づけされているのかもしれません」
「……心からの、感謝」
セシリアはその言葉を繰り返し、視線を落とした。
「つまり、“ありがとう”と口にしても、気持ちがこもっていなければ“色”には反映されない、ということですか?」
「はい。言葉ではなく、“心の動き”が重視されているのかもしれません。心から『ありがたい』と感じていなければ、感恩には反映されない――そんな仮説です」
セシリアはそっと視線を伏せ、しばらく黙っていた。
「……思い当たります。たぶん、私自身も、それが原因かもしれないと、どこかで感じていました」
そして、早口で続ける。
「でも、どうすれば“心から感謝”できるのか、それがわからないんです!」
彼女の思考が早まり始めたのを感じて、俺は声のトーンを下げて、話の流れを落ち着かせる。
「まずは、原因を整理しましょう。対策はそのあとです。
セシリアは呼吸を整え、うなずいた。
「今の状況は、“ありがとう”と口にすることは多いけど、“心からそう思える機会が少ない”――そんな感じでしょうか?」
「……はい。まさに、そうです」
「なら、ひとつの仮説として、“それが原因かもしれない”と受け止めてみましょう」
セシリアはうつむいたまま、小さくつぶやいた。
「……なんとなく、自分でもそう思っていました。でも、どうしようもないじゃないですか。感謝しようと思っても、感謝できないときだってあるんです」
その通りだった。
感謝しようとしても、心が追いつかないことはある。
それでも――俺には、その悩みに応えるための、ひとつの具体的なアイディアがあった。