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042_ウォーダとの対応会議>>

 会長就任式を終えた後、俺はすぐさまウォーダに使者を送り、打ち合わせを申し込んだ。式の余韻に浸っている場合じゃない。急いで確認すべきことがあった。


 急な要請だったが、ウォーダは快く応じてくれた。そして翌日、商会の一室で、俺たちは向かい合っている。


「どうした。就任早々、何か気になることでもあったか?」


 部屋に入るなり、ウォーダが聞いてきた。


 俺は、前日の会長就任式での出来事を簡潔に伝えた。儀式の最中、セシリアが何度もタブレットを覗こうとしていたこと。あれは意図的だった。


「彼女が何を見たがっていたのか……見当はつくか?」


 俺が尋ねると、ウォーダは首をかしげながら答えた。


「さっぱりだな。ま、単に資産が気になったのかもしれないし、感恩や帰恩の色を見たかっただけかもしれない。ただの好奇心かもな」


「俺が警戒してるのは、『聖女権限』みたいなものがあるのかどうか。もしパラメータを下げる力なんて持っていたら、笑えない」


 俺がそう答えると、ウォーダは意外そうに眉を上げた。


「そんな権限はないな」


「でも、意図的に俺達の事前学習データから外された可能性は?」


「意図的に隠されたら、俺達には見抜けない。だがな――オダリオンの物理エンジンは、織田が昔ハマってたファンタジーゲームがベースで、俺はかなり詳しい。この記憶は、詳細かつ整合性が取れていて、抜け漏れがある可能性は低い」


「織田がゲームの話をしていたのは、聞いたことがある」


「ああ。あのゲームでは、聖女、魔王、勇者、賢者……そういう“称号”ごとに固有のスキルがあってな。聖女のスキルは癒やしや浄化、つまり支援系に特化していた」


「つまり、バフとかヒール系ってことだな」


「そう。パラメータを直接いじれるキャラは居ない。この手の管理権限は――たぶん、俺だけが持っている」


 俺はうなずいた。わずかに肩の力が抜けた気がした。


「まあ、危険がなさそうでよかった。ただ、管理者権限を知ってからは、個人IDを晒す気にはなれない」


 そう言いながら、俺はタブレットを呼び出す。やはり無意識に、他人の目に触れないよう位置や向きを慎重に調整してしまう。昨日の式でも、同じようにしてセシリアの視線をかわした。


 敏捷性を9.9倍にしていたのが効いたのか、絶妙なタイミングでタブレットを視線から外すことができた。この敏捷性がなければ、覗き見られていただろう。


「俺が個人IDを見せたのは、お前とベルザだけ。聖女が何者かわからない以上、見せるつもりはない」


 そう続けると、ウォーダは「それがいい」と短く相槌を打った。


「ともあれ、相談に乗ってくれてありがとう。助かったよ」


 礼を述べると、ウォーダは「気にするな」と手を振る。そして、意味ありげな表情を浮かべながら言った。


「聖女との面談が終わったら、また話そう。“魔王イベント”だ。数ヶ月は先だが、事前に共有しておきたい」


 “魔王”という言葉が、唐突に飛び込む。聞き返したい気持ちが芽生えたが、今はセシリアへの対処が先だ。ウォーダの言葉を聞きながら、俺は静かにうなずいた。


「わかった。聖女の件が片付いたら、聞かせてくれ」


 こうして打ち合わせは終わった。ウォーダが部屋を出る頃には、俺の気持ちは固まっていた。


(――面談には、準備万端で臨む)


 聖女が、何をあれほど見たがっていたのか――それを見極める。


 俺は椅子に深く腰を下ろし、次の一手を思い描いた。

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