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ここがシミュレーション世界、オダリオンであることに疑いはない。
次に浮かぶ疑問は、なぜ俺がこの仮想世界にいるのか、ということだ。歩きながら考えを巡らせるが、答えは簡単には見えてこない。
何しろ、21世紀の現代に、生身の人間をデータ化して仮想世界へ転移させる技術なんて存在しない。どう考えても不可能だ。
……なのに俺は、ファンタジー風の街を歩き、人々の会話を聞き、風を肌で感じている。これは現実そのものだ。
どうやって、ここに?
道端のベンチに腰を下ろし、頭を整理する。
まず、ここがオダリオンであるのは間違いない。そして、人間を仮想世界に送り込む技術が存在しないのも事実。
一見すると矛盾しているこの二つの事実。だが、それを統合して導き出される答えは、一つしかない――
たぶん、俺はまる助だ。
平沢という人間ではない。「平沢の人格に似せて設計されたAI」――辻褄が合う。いや、それ以外に考えられない。
織田が言っていた、「まる助バージョン3」へのアップデート。きっとその処理の結果、俺――まる助は、この仮想世界に実装されたのだろう。
靴がブーツに変わっていたのも、その影響かもしれない。足元のスキャンがうまくいかず、適当なデータで補完された可能性がある。
つまり俺は、平沢の人格をベースに作られたAI。オダリオンというシミュレーション世界に組み込まれ、そこで意識に目覚めた存在。
自分は平沢だと思っていた。けれど、状況証拠を客観的に突き合わせれば――
俺は、まる助だ。