表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/51

036_まる助、ベルザに打ち明ける>>

 昼食を終えたまる助は、石畳の街路を足早に進み、冒険者ギルドへ向かった。

 頭の中では、これから話す「とんでもない内容」が渦を巻いていた。


 オダリオンが仮想世界であることは、すでに理解していた。だが昨日、ウォーダとの再会を通じて、ここが恒星間移動の実現を目指すシミュレーション実験の舞台だと知った。


――誰に、何を伝えるべきか……?


 まずはベルザだけに話そう。彼女なら冷静に受け止め、適切な判断を下してくれるはず。そんな思考を巡らせながら、まる助はギルドの扉を押し開けた。


 扉の向こうには、いつものように賑わうギルドの光景が広がっていた。冒険者たちが受付で依頼を受け、奥では事務員たちが書類を整理している。その中で、カウンターにいたエリナが、まる助の姿を見るなり、ぱっと目を開き、受付を出て駆け寄ってきた。


「まる助さん! 昨日はお疲れ様でした。体調は大丈夫ですか?」


 心配そうな眼差しが向けられる。商会との交渉後の疲れ切ったまる助が、脳裏に浮かんだのだろう。だがすぐに表情を引き締め、声を落とした。


「ベルザさんから伝言です。まる助さんが来たら、最優先で執務室に通すようにと。すぐに行ってください」


 まる助は「ありがとう」と短く礼を返し、そのままギルドの奥へと足を向けた。



 執務室のドアをノックすると、「どうぞ」と返ってきた。

 まる助がドアを開けると、ベルザは机に向かい、書類を整理している。だが、まる助の姿に気づくと手を止めた。


「聞きたいことが山ほどある。お前も、言いたいことがあるだろう?」


 琥珀色の瞳が、まる助を見据える。そこには、昨日の衝撃が色濃く残っていた。長い歳月の中で多数の者を見届けてきた彼女だからこその、深く静かな眼差しが、心の奥を射抜いてくる。


 まる助は椅子に腰を下ろすと、ベルザに正面から向き合い、深く頭を下げた。


「商会との交渉では、助け舟を出していただき、ありがとうございました」


 ベルザは軽く肩をすくめ、「当然のこと」と言わんばかりの表情を浮かべる。


 まる助は息を整え、意を決して切り出した。


「今日は……“この世界の真実”について、そこから、話をさせてください」


 ベルザの眉がわずかに動いた。


「世界の真実か……」


 低く落ち着いた声だったが、その奥には強い探求心と、警戒が滲んでいた。まる助はその鋭い視線を受け止め、この話の重みを改めて噛みしめる。そして、息を整え、冷静な口調で語り始めた。


「まず……俺もウォーダも、地球という世界で作られた人工知能――AIなんです」


 カツン。ベルザの指が、机を軽く叩いた。考え込むときの無意識の癖なのだろう。慎重に言葉を選びながら、まる助は続けた。


「そしてこの世界は、地球の人間が科学の力で作った世界です。魔道士が水晶玉に町を映すように、地球の人間は“計算”によって世界を創ります。そして、この世界の人たちも、計算という台本に沿って演じる役者のようなものなんです」


 短い沈黙が落ちた。ベルザの表情に大きな変化はない。だが、机の上で動いていた指が止まった。


「突拍子もない話だが……どう受け止めろと?」


 低く落ち着いた声。だが、わずかな揺らぎがあった。長い年月の中で、数多の異才を見てきた彼女でも、この話は飲み込めない。まる助は小さくうなずく。彼女の反応は当然だ。


「納得は難しいと思います。だから……順に説明させてください」


 深く息を吸い、ベルザの表情を探る。


 ベルザに真実を話す理由――それは、AIとNPCが協力し、この世界を新たなフェーズに移行させるため。この話を彼女がどう受け止めるか――それが、今後の展開を大きく左右する。


 マーケティングAIのまる助は、人の感情や個性を観察・分析することに長けている。その思考から導かれた結論は――


(ベルザなら、世間の常識にとらわれず、“真実と向き合うこと”を選ぶはず)


 まる助は、覚悟を決め、静かに言葉を紡ぎ始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ