027_ウォーダのタブレット>>
ウォーダは無言でタブレットを操作し、画面をまる助に見せた。
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OZN314ODR
感恩: グリーン
帰恩: シルバー
所持金: ¥ 1,000,000,000
保有銘柄:
・なし
▷管理者メニュー
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「俺の所持金は10億にした。しばらく理論研究だから、派手に使うこともない。紙と鉛筆だけで十分だ」
まる助は、ウォーダのタブレットを覗き込み、画面に違和感を覚えた。
(……管理者メニュー?)
ギルド職員や冒険者、これまで見たどのタブレットにも、そんなものはなかった。
「管理者メニューがあるのか?」
問いかけると、ウォーダはタブレットをわずかに傾けながら答えた。
「管理者メニューでは、いくつかパラメータを調整できる。たとえば、能力の補正値だ」
「能力の補正?」
「エルフは人間の10倍の寿命、獣人は人間の2倍の筋力と俊敏性、そういう設定だな」
まる助は眉を寄せる。
「普通のタブレットには、ないよな?」
「ない。俺は、管理者権限を持っているからな」
「管理者権限……」
「ああ。ただ、すべてのパラメータが自由に変更できるわけじゃない」
まる助は画面の情報を追いながら聞く。
「例えば、俺の寿命を1000倍にしたり、筋力を100倍にしたり、できるのか?」
「寿命は4桁まで入力できる。だから9999倍まで可能だな。筋力は小数点1桁まで入力できて、最大9.9倍まで。IDで個人別に設定できる……試してみるか?」
「いや、今はやめとく。少し考えたい。でも、教えてくれてありがとう」
その時――まる助の視線が画面の一点に留まり、目を見開く。
「お前……帰恩がシルバーだぞ?」
“帰恩”はレッド・イエロー・グリーンの三色のはず。しかし、ウォーダの表示は「シルバー」。そんな区分、聞いたことがない。
「少し前からこうなったんだが、理由をお前に確認したかった。俺がシルバーになったのは、ゼンマイ時計の影響か?」
「知らんよ。俺、この世界に来たのは五日前だぞ」
「知らない……?」
ウォーダがじっとまる助を見つめ、静かに問いかける。
「……本当に知らないのか?」
「ああ、事前学習データにもないぞ」
沈黙――ウォーダはじっとまる助を見つめていたが、やがて、低く呟く。
「妙だな……感恩帰恩は、お前――平沢が提唱した哲学だ」
その言葉に、まる助の思考が一瞬止まる。
「……俺が、考えた?」
「そうだ。タブレットの色区分も、平沢が仕様を考え、織田が実装したはず。なのに、お前も俺も、その仕様を知らない……」
まる助は、ハッと気づいたように言葉を返した。
「ってことは……平沢か織田、つまり、俺たち自身が、意図的に事前学習から外したってことか?」
ウォーダはしばらく沈黙し、低く息を吐いた。
「……そう考えるのが自然だ――いや、待て……そうか、そういうことか……」
「な、何だ?」
「……言えない。口にした瞬間、重大な影響が出る。ただ――」
ウォーダはふっと笑った。しかし、その目は鋭く、何かを悟ったようだった。
「お前が、それを理解する時――世界が変わる……かもしれないな」




