026_ウォーダ、押し付ける>>
「オルデス商会の会長になれ――」
シミュレーション世界の話をしていたはずが、突然、商会トップを譲る話になった。
「お前はやれる。AIだろ? 俺もAIだが……正直、研究に戻りたい。だからこの世界の“実質トップ”を、お前に譲る」
「ちょ、ちょっと待て! BPO計画だって始めたばかりで……」
「ちょうどいい。商会のトップになれば楽に進められる」
ウォーダは満面の笑みを浮かべるが、まる助は開いた口が塞がらない。
「お前……冗談だろ? いきなり大商会の会長職なんて無理に決まってるだろ」
「お前こそ、合理的に考えろよ。商会長になれば、ギルドのBPOは思い通りに進む。そして、お前には能力がある」
どうやら、冗談ではなさそうだ…… ウォーダは本当に商会のトップに“飽きた”らしい。
「だいたいお前、今日は商会に協力を求めに来たんじゃないのか? これ以上の協力はないだろ?」
(まあ、それは確かに……)
反論しようとするまる助をよそに、ウォーダは愉快そうに笑いながら言い放つ。
「決まりだな!」
しかし「決まり!」と言われても、まる助としては途方に暮れるしかない。
「俺なんかが会長に就任して、関係者は納得しないだろ」
「関係ない。株を過半数持っているからな。文句があっても何もできない。まぁ多少のゴタつきはあるだろうが、そこは力で――じゃなかった、頭で押し通せばいい」
にやりと笑うと、ウォーダはタブレットを出した。
「まず、お前に“俺の個人資産”を移す」
ウォーダはタブレットを重ねるように促す。まる助は唖然としながらも、タブレットを呼び出し、ウォーダのそれと重ね合わせた。
「こうするだけで、移るのか?」
「そうだ。俺が『渡す』ことを意識して、お前が『受け取る』ことを意識すればいい。ほら、やってみろ」
戸惑いながらも、受け取りを意識した瞬間――
「ピコン」
小さな音が鳴り、二人のタブレットに一瞬、光の波紋が走った。
「…… 完了した?」
「完了だ。この世界の魔法技術はシンプルだろ?」
あっけなく終わった受け渡し。拍子抜けしたまる助が、タブレットの画面を見つめる――
「ちょ、ちょっと待て……数字、桁がヤバいんだが!」
画面には、大量のゼロが並んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
QQZ128QQE
感恩: グリーン
帰恩: グリーン
所持金: ¥ 15,373,432,579
保有銘柄:
・オルデス商会(ORDS)
1,710,000,000株
12,825,000,000,000円
ーーーーーーーーーーーーーーー
「所持金…153億円!? 評価額…12.8兆円!? いやいや、ちょっと待て……」
頭がクラクラして、脚がふらつく。
「思ったより少ないか? まあ、この世界の市場規模はまだ小さいからな。12.8兆でも、この世界じゃダントツだぞ」
ウォーダは自信ありげに腕を組む。その顔を見て、まる助は反射的に突っ込んだ。
「多いんだよ!! 多すぎて、頭が追いつかんわ!」
「まぁ、既にお前はオルデス商会の筆頭株主。何をどう動かすかは、お前次第だ」
言われてみれば、BPO計画も損害保険もファンドも、この資本力があれば、成功が約束されたようなものだ。しかし、大きすぎる権限と責任が一度にのしかかったことで、得体の知れない重圧が胸を締めつける。
(どうなるんだ……こんな資産、怖すぎるぞ)
「贈与税は……?」
「納税済みだ。この市場国には王様や貴族はいない。贈与税率はたった0.1%――受け渡し時に自動で、所持金から差し引かれる仕組みだ」
「色々凄いな……普段なら感激するところだが、今は沢山の事が重なりすぎて、正直、頭がパンクしてる」
まる助はタブレットを消しながら、小さく息を吐いた。
「うん、これは夢だ……見なかったことしよう」
「ははっ。それもアリだな」
(あの顔……研究したさに、全部俺に押し付けたな、お前……)