013_まる助、調子にのって語りすぎる>>
食堂には穏やかな空気が流れ、客たちの静かな談笑が聞こえてくる。
まる助はゆっくりと口を開いた。
「俺は、この世界を良くしたい。そのためには、経済の活性化が欠かせないと思うんだ」
エリナがスプーンを持つ手を止める。
「世界を良くするって……具体的には、どういうことですか?」
「人々が豊かになれば、より自由に新しい挑戦ができるようになる。経済が動けば動くほど、みんなの可能性も広がっていくと思うんだ」
エリナは少し考え込むように視線を落とし、それからまる助を見上げた。
「……でも、大商会が支援したり、大きな何かが動かなければ、状況はそう簡単には変わらない気がします」
まる助は静かに微笑む。
「大きな変革を一気に起こすのは難しい。だから、小さなところから始めるんだ」
「小さなところから……?」
「たとえば、ギルド業務のBPO化。クエスト管理や事務作業を外部に委託すれば、ギルドの負担を大きく減らせる。事務が効率化すれば、冒険者も依頼人も待ち時間が短くなるし、ギルドの評価も自然と上がる」
エリナは少し驚いた様子だった。
「そんなこと、考えたこともなかったです。でも、確かに……業務がもっとスムーズになれば、みんな動きやすくなりますよね」
まる助はさらに続ける。
「ギルドが変われば、次の手も打てる。損害保険の代理店や、投資ファンドの立ち上げも考えてる」
エリナが目を丸くした。
「えっ、話が急に大きくなりすぎじゃ……?」
「いや、これは冒険者にとっても大きな助けになるはずだ。損害保険があれば、クエストに失敗しても致命的なダメージを避けられるし、投資ファンドがあれば、有望な冒険者に装備や資金を提供できる。リスクとリターンをきちんと管理できれば、挑戦の幅は間違いなく広がるよ」
エリナは少し視線を落とし、しばらく考え込んでから小さくつぶやいた。
「……でも、ギルド長のベルザさんはどう思うでしょうか」
まる助はエリナの表情を見て、やや意外に感じた。
「どういうこと?」
エリナは慎重に言葉を選ぶように続ける。
「ギルドは古くから続く組織です。よく機能している部分もあるけど、非効率だったり、変えたくても変えられない部分も多くて。特にギルド長のベルザさんにとっては……」
まる助は「なるほど」と小さく頷く。
「ベルザさんって、どんな人?」
「すごく厳しい人です。合理的で筋が通っていれば、きちんと聞いてくれる人ですけど、中途半端な考えは一蹴されてしまいます」
(なるほど……下手に挑めば即切り捨てられるな)
まる助は、入念な準備が欠かせないと警戒を強めた。
ふと、エリナが真剣な表情で問いかけてきた。
「まる助さん、本当にそんなことができるんですか?」
まる助は自信満々に頷きかけたが――
(いや待て、俺まだ、この世界に来て二日目だぞ?)
一瞬、冷静な自分が脳内でツッコミを入れる。
エリナはそんなまる助を見て、くすっと笑った。
「でも……まる助さんなら、なんだか本当にやれそうな気がします」
その言葉に、まる助は思わず背筋を伸ばした。
(ヤバいな……これは、完全に調子に乗ってるぞ……)
それでも――
「俺は、この世界の経済を回してみせる!」
力強く宣言すると、エリナは驚いたように目を見開き、それから楽しそうに微笑んだ。