表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/51

001_AIと働く夜>>

 夜のオフィス。

 一人の男が、モニターに映る無数のデータと格闘している。


 キャンペーンの効果検証、SNS反応の集計、改善施策のレポート作成……タスクは山積みだ。


「たくさんあるな……」


 男の呟きには、疲労がにじみ出ていた。

 時刻はすでに23時を回っていたが、デスクから立ち上がる気配はない。

 背中にのしかかるプレッシャーと、かすむ視界。それでも、手を止めるわけにはいかなかった。


 男の名は平沢。

 社内で進行中の「マーケティング・オートメーション(マーケティングの自動化」プロジェクトを率いるリーダーだ。

 重い責任と膨大な業務が、彼の肩にのしかかっている。


「……でも、あと少しで、まる助が――」


 呟きながら、画面に並ぶ解析結果を確認する。

 最近導入された「マーケティング支援AI(通称:まる助)」は、施策の立案から効果計測、改善案の提示まで、業務全般を支えてくれる。


 正式な略称はMAAI(マーケティング・オートメーショAI)。

 開発者は、大学からの友人・織田。

 社内ではカリスマ、そして世界では異才として知られる存在だ。


 平沢は、このAIを自分の“右腕”にすべく、チューニングを織田に依頼し、自身のライフログを丸ごと提供していた。

 次第に親しみが湧き、「まる助」と呼ぶようになったのは自然な流れだった。


(……まる助の予測だと、SNS広告は投資効果プラスか)


 眠気をこらえながら、AIが生成した統計モデルとレポートを精査する。

 まる助は、平沢の思考パターンを学習し、先回りするように提案を返してくる。まるで「未来の自分」が示す道筋を追いかけているようだ。


 そのとき、腕のスマートウォッチが振動した。

 PCモニターの隅に、メッセージウィンドウが浮かび上がる。


「まる助バージョン3完成。明日、アップデートについて説明する」


 送信者は、織田。

 大学時代からの親友だが、こんな時間に返信する気力はない。

 眉間にしわを寄せ、平沢は再びデータに視線を戻す。


(オダリオン……そんな名前だったか)


 朦朧とした意識の中で、織田の話がふいに頭をよぎる。


 量子技術とAIを駆使して、経済全体をシミュレーションする仮想世界――その名も『オダリオン』。織田が構想し、開発を進めているプロジェクトらしい。

 天才なのは認めるが、ネーミングセンスはやっぱり壊滅的だ。


 壮大な構想に敬意を払うとしても、今は自分の仕事が最優先。

 レポートを仕上げ、明日の報告会議に備えなければ。


 冷めたコーヒーをすすり、再びモニターに目を戻す。

 まる助のレコメンドに従い、次のタスクに取りかかる。


 気づけば、時刻は深夜0時を過ぎていた。


 平沢は大きく伸び、落ちかけたまぶたを無理やり開ける。

 どれだけ目をこすっても、視界の霞みは消えない。

 限界が近い――そう思いながらも、手を動かし続けた。


「もう少し、やっておかないと……」


 しかし、脳は悲鳴を上げ、思考が途切れ始める。


 重たくなるまぶたに抗えず、平沢の体はデスクに沈み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ