5話 エスト先生の授業
2人と1匹から、それぞれの事情や世界のことを色々聞いた次の日。
身体の調子もかなり元に戻った。
もっと治るまで時間がかかるかと思ったけど。
ってことで気持ちのいい朝だ。
昨日はまだ俺とウォーデンが完治していない事と、日も落ちかけていた事もあって、移動はせず小屋に留まった。
ただちょっとしたイベントもあった。
なんとウォーデンが、ほぼイノシシみたいなモンスターを捕まえて捌き、アイシャがそれを調理してくれたのだ。
まさかあんな美味いジビエが食べられるとは。さすがに味付けはユウリの持っていた塩?だけだが、焼いたイノシシの骨付き肉は思ったよりかなり柔らかかったし、簡単な野菜スープも付いていた。
エストは相当腹が減っていたのか、元々食い意地が張っているのか、料理なんて初めてだからか、その全部か、夕飯を作るとなってから終始テンションが高かった。ちょっとうるさいくらいに。そしてイノシシを丸ごとペロリと食べていた。
まぁでも大自然の中でみなで囲む、新鮮な食材のご馳走。そりゃテンションもあがるよな。
俺もキャンプなんて大人になってからは滅多に無かったし、早速この世界の良さに触れられて、大満足ですぐグッスリ。
初モンスター肉がこの感じなら今後も楽しみだ。やっぱり異世界と言えば異世界メシだもんね。
ま、俺は料理できないんだけどね………。
なんて昨日の事を思い出しながらノビをしていると。いきなりボフっと背中を押される。
「おい。ノンビリしている暇はないぞ。身体もそろそろ良くなっただろう。今日から鍛錬だ。」
「え、街に向けて移動するんじゃないの?」
「移動はするがその前に鍛錬だ。ウォーデンの言っていた女の事も気になる。我が常にお主を守れるとは限らないからな。できるだけ早くお主を強くせねばならん。」
「わ、分かったから押すなって!」
小屋から20mほど離れたスペースにまで連れていかれた。
「さて。それではまず基礎知識だな。」
「へーい。よろしくお願いしますエスト先生」
ドヤ顔で腕を組むエスト。
「うむ」
この世界の元素と魔法の仕組み。
昨日もチラッと言ってたけど、星1つ1つには基本的に元素という物があるらしい。
世界で循環するエネルギーみたいなものだ。良くある表現だとマナだろうか。
「まず魂核を中心に、元素エネルギーが集って器となり、自然物、生物、それと霊体などの非生物を形作っていく。」
何をするにも魂核と器が大事。
ざっくり言って存在の‘’格‘’や素質だとか。
基本的にステータスの伸び幅や限界値は、魂核と器に左右される。
そして自己に取り込んで溜めている元素のことを、元素内包量という。元素タンクとも言うらしい。
早い話が元素の最大量、及び現在量。
同じ種類の同じLvのモンスターでも個体が違えば器は僅かに違う。タンクの容量は器よりさらに個体差が出やすいとか。
そして魔力。
これは元素を練り上げられる量と、速さ、上手さ。元素を魔力で練り上げて魔法になるのだ。
これらをまとめると。
「魂核と器が魔法の基本的な才能を決める。元素タンクが多いほど魔法が多く撃てる。そして魔力が高いほど効率よく元素を練れて魔法の威力も増す。ここまでが基本だ。どうだ分かったか?」
「うん。何となくは」
「本当に大丈夫か? それと、身体操作も元素タンクと魔力が密接に関係している。身体的な訓練やLvだけじゃなく、魔力操作によって補強が出来るのだ。お主がウォーデンとの戦闘で動きが良くなっていたというのもそれだ。無意識だろうがな。」
「うん、無意識でも明らかに違ってたのは分かる。」
その後のエスト先生の補足。
重要な例外があるので一応頭の隅に入れとけだと。
例外その1。
魂核は、基本的に生まれた時に決まっているのでほぼ固定。鍛錬などでは変わらない。ただし、何らかの要因の生まれ変わり。存在としての‘’格‘’が変わる時などは例外。進化も同様。
例外その2。
Lvアップとはつまり器の強度を上げること。
そして魂核の変化条件に加えて、さらに器は他の要因でも質が変わり有り得るらしい。
特殊な環境を生き伸びて適応を果たした場合や、一度の極端な戦闘経験など様々。
この世界にはネームドモンスター、或いはユニークモンスターというのがいて、それが大体このパターンらしい。稀にエストでさえ危ないくらいに恐ろしく強い個体もいるとか。神獣以外にもやっぱりヤバいのはいるんだな。
「とりあえずまずはこんな所だな。あとは実践しながらだ。お主は星辰の大器という、この世界の生物でも最上位の器を持っているのだ。おかげで基礎能力が高いので、鍛錬や経験を詰めばどんどん強くなるはずだぞ。」
「はい!先生のおかげで色々と分かりました!ありがとうございます!」
思ったよりは複雑だけど、地球でのオタク知識があるので何となくは掴めてると思う。
「ま、まぁ死なれては困るからな!仕方ないな!」
嬉しそう。チョロかわ。まぁでも本当に教えるの上手いので素直に褒めとこう。
「それではお主。早速だが、試しに魔力を練り上げてみろ。身体の中心で力を込めるイメージだ。」
「ホントに早速だな!」
「ここまで終わってどうする。いいからやってみろ」
「や、やるけど。力を込めるって言ったってな…」
言われた通りに身体の中心、みぞおちの辺りに意識を集中させてみた。丹田ってやつ?
すると、
「おおっ?なんか身体がホワホワする!」
ウォーデンとの戦闘の時ほどじゃないけど、ほんの少し高揚感がある。
「うむいいぞ。それが魔力が練り上げるという事だ。よし。では魔力の練りあげを一旦止めて、次は元素だ。頭で火をイメージしてみろ。」
「星じゃなくて火?俺って火の魔法も使えるの?」
「ん? そうだぞ。星魔法だけだと思っておったのか? 星元素は他の元素と親和性があるから使えるはずだ。多少の得意と不得意はあるが、我も大体の魔法が使えるからな。」
「火をイメージ…。んー。メ〇とかか。」
せっかくだから?某有名RPGの呪文を思い浮かべてみた。すると。
「あ」
ほんのりと火の暖かさみたいなものを感じた。キャンプファイヤーの熱を感じるギリギリの距離にいる感じだ。それと微かにバチパチという燃える音が自分の身体の中から聞こえたような。
「思ったよりすぐ掴めたようだな。では次は雷元素だ。お主なりのイメージでな」
「雷きた!ゲームとかで好きな属性なんだよね。んーと。」
まずは乾燥する冬のドアノブでバチッとする静電気のイメージからいってみるか。
「おっ」
毛が少し逆立ったような。静電気ほどじゃないけどピリッとしたかも。
「うむ。微弱だが雷元素の流れを感じたな」
「よし、ちょっと待って。イメージ次第で変わるんだろ?じゃあ今度は……」
次は嘶く雷鳴、天から落ちる稲光をイメージしてみる。すると。
「おおおお!!」
明らかにブワッと湧き上がる感覚がある。身体の中でパチパチと何かが弾けている。
「おお!やるではないか!魔力を練って変換していないから放電にはならないが、雷元素が主の身体の中でうねっているぞ。」
「すごいな。これが空気中と体内の元素を感じるってことか。」
「そうだ。元素のコントロールと魔力操作に関してもイメージは大事だぞ。魔法の威力や効果の差に如実に影響するからな。例えば呪文の詠唱を行うとさらにその効果は大きくなる。」
「詠唱?」
そう言えばウォーデンが武器に水のエンチャントしてた時に叫んでたのも詠唱か。
「うむ。人間の文化では呪文詠唱のベースとなる文言もあるらしいが、魔術効果や詠唱内容に決まりは無い。元素が応えさえすればいいのだ。だから先程と同じく、己のイメージで己の文言を紡げばいい。」
「へえぇ!極端に言えばイメージさえ出来れば何でも良いってこと!?」
それってなかなか珍しくないか?
いやでも魔法の内容とか詠唱の文言って、そもそも最初に誰が定義したのか判明してない世界が多いし、意外とそんなもんか?
とにかくだ。
中二病的な文言とイメージなら自信があるぞ。
「ただ今のお主に詠唱魔法はまだ早い。普通の魔法から魔力操作のコツを覚えていかんとな。」
「えーなんだよ、今はダメなのか……。」
「何をしょんぼりしている。試してもいいがまた昨日の様な事になりたいか?」
「あっ…いいです、やめときます…」
「全く調子に乗りおって。だが、とりあえず普通に魔法を使ってみてはどうだ。先程の応用だ。元素をイメージしつつ、身体の中心に力を込める。そして元素を混ぜ合わせるのだ。あの木を狙ってみるといい。」
「分かった。いよいよ初魔法か。オラワクワクしてきたぞ」
えーとまず、雷元素をイメージする……。
そして力を込めて魔力を練る…。
混ぜ合わせて……手から放つ!
手から白い細い稲妻が蛇行して走り、5m先の木にぶつかっていた。そしてパリパリ!という電気が奔る音が一瞬遅れて聞こえた。
「うおおおおお!!!!すげー!魔法だ!!!本当に魔法を撃てたぞ!!」
「やったな!狙いも良いし初めてにしては威力もある。なかなかだぞヨウスケ!」
「そ、そう?へへ、ありがとう。」
「こんな感じで、時間を見つけては練習するといい。実践で経験をする方が上達は早いが、元素のイメージと魔力の練り上げは、鍛錬の積み重ねでも洗練されていくからな。」
「オッケー。なんかやる気が湧いてきたよ。色んな魔法を使えるようになりたいしね。」
魔法やその仕組みの説明回でした。
次回は異世界と言えばのアレが登場です。