4話 これからの目標
今回も説明が多いですね汗
堅苦しくなりすぎないようにはしているのですが…。
まだ出てない情報もありますが小出しにしていこうと思います。
次回から少しずつ話が動いていきます。
「お察しの通り、私がその人身御供として選ばれてしまいました。兄はそれを阻止すべく………。」
うわー。つまるとこ生贄じゃん。
そんなの兄として黙って見過ごせるわけないよな。
「あぁ…。正体は分からないのだが謎の女が現れて我に告げたのだ。 ‘’星の神獣士の魂核である星辰の大器を用いれば水の獣神の暴走も止めることが出来る。そしてそれは、東方の国の中央、ドラグ大森林の星櫃の碧殿の地下にある‘’ とな……。」
それって俺が目覚めたあの地下墓所みたいなところか。
「星の神獣士はまだこの世界に顕現していないが、星殿の周囲と、碧櫃にも強固な結界があり、そこに『星辰の大器』が封印されているという話しだった。ではどうするのかと問うと、神殿までの道のりを示した魔法地図と、結界を無効化する魔法具を渡されてな。星殿の外の結界を無効化し、中入ろうとしたところにお主がいたのだ…。」
当然ウォーデンも、得体のしれない女とその内容を怪しんだ。当初は全く信じていなかったらしい。
里の事情を知っていることもそうだし、そんな秘匿された情報を知る時点で普通じゃない。しかも上手くいく保証はない。さらに星辰の大器に手を出したことが公に伝われば里だけに収まらず国家間レベルの問題になる。
そう考えて、初めはそんな眉唾で危険な手段には頼らず他にアイシャを救う手段を探っていた。
だがアイシャは他者の犠牲は望んでおらず、かと言って犠牲無しに解決する方法も見つからないという八方塞がりのまま時が経ち。里内では既にアイシャを犠牲にして水鼬を鎮めるという方向で大規模な儀式の準備を始めていた。
二人で一族を抜けて遠くへ逃亡することも考えた。
しかし他の国へ逃亡すると言っても単純なことではない。水の神獣と神獣士の守護という責任から逃れることになり、おそらく一族の追っ手もあるだろう。そうなれば常に人目を気にする、逃亡生活になってしまう。水の神獣が被害を出している世界で。
悩んだ結果、ウォーデンはアイシャに置き手紙を残し、謎の女のいう手段に賭けて里を発ったのだ。
『星辰の大器』を手に入れ、根本の神獣をどうにかする為に。
その末であの祠へ辿り着き、外に出た直後の俺と遭遇したわけだ。ウォーデンからすれば俺の目覚めに間に合わなかったんだな。
計画の中止も当然考えたようだ。だがアイシャのことを思いここまで来て、躊躇っている時間も余裕は無かったというわけだ。
一方のアイシャは、ウォーデンの置き手紙を読み、すぐに里を抜けて後を追ったらしい。結界が解けたおかげで碧殿付近に近づけて、昨日やっと二人は再開できたと。
ちなみに俺が星殿を出た時の謎の揺らぎは、ウォーデンが結界を解いた時の現象だったらしい。
俺はここまで話しを聞いて何とも言えなくなってしまった。ウォーデンはぽつぽつと話しを続けている。
「我は…焦りの余りにどうかしていた…。 妹を助ける為とは言え、正体不明の者の怪しい話しに乗り、最終的には星の神獣士である貴公を殺めて、魂核を奪い去ろうとするなど…………。」
「はぁ…なるほどね……………。」
なんと言えばいいのか逡巡していると、ウォーデンは座り直して土下座をし始めた。頭を床につけている。その隣のアイシャも。
「誠に申し訳ないことをした。改めて切腹を命じられても仕方ないと思っている。これでも覚悟は出来ている……。」
「切腹!?戦国時代みたいな文化あんの!? いやいやそこまでしなくても!」
そこまで言うのは何でだ? 俺が神獣士とやらだから?
うーむ……………。
怖いしまだ分からないけど、ここまで話を聞いてた感じだけでも、この世界の命のやり取りって俺が元いた現代日本とは違う気がするんだよな。異世あるあるな倫理観というか。
弱肉強食とまでは言わないけど。なんていうか、表現が難しいけど、ちゃんとした理由があろうとなかろうと人を殺したら法律で99%裁きます、みたいな文化は無さそう。
端的に言うと命が軽い?
神獣のような存在がいて。魔法があって。生贄なんて文化があるのもそう。ファンタジー要素がないだけで地球の歴史も同じ。死がより身近だから自分と身内が生きていくので精一杯で、他者の命に固執しながら生きていくのは限界があるのだろう。
つまりだ。
元の世界で死を予感しても未練が無かったのとは別の意味で、この世界で死んだら俺がそれだけの存在だったということ。
だからこそ生きるために必死に足掻いていくつもりだけど、別に戦国大名や王様とかになったつもりはない。
神獣士なんてのにまだ実感がないんだよな…。
なのに今こうしてここにいる二人に、なにか罰を与える意味や権利が俺にあるとはどうしても思えない。
もちろん最初は怒りと戸惑いが大きかったし、話しを聞くまでは色んな感情があった。でも今はそういった負の感情よりも、ウォーデンの状況なら仕方ないという気持ちと同情の念が強い。それに俺もガッツリ抵抗したわけで。
人を殺したと思ってショックを受けていたのが、その相手が生きててホッとする気持ちすらある。
「頭を上げてくれ。」
静かに頭をあげる二人。
なんか俺、殿様みたいだな…と心の中で苦笑する。
「えっと…。もう怒ってないから命をどうこうとかはやめてくれ。俺も妹がいたんだ。助ける手段があるなら、それに賭けてみたいと思う気持ちは分かるつもりだよ。
例えそれが危険で犠牲を伴う手段でも。同じ状況になったら俺だってどうするか…。そう思うとウォーデンの行動を否定しきれないんだ。」
家族がそんな形で生け贄にされるなんて、そんなの普通でいられる方がおかしい。
「だから許すもなにもない。終わった事だ。俺はまだ生きてるんだからそれで十分だ。」
「ヨウスケ様……。」
「それよりも。その水イタチをどうにかするっていう話し。俺と神竜がいればどうにかなるかもしれない…のか?」
2人の表情が俺の言葉の途中で、驚きに変わる。
思わず前に乗り出すウォーデン。
「それは!まさか」
「そこまでしたいただくわけには!水鼬を鎮めるのは我々の里の責任ですので!」
「え? ていうか、そもそも世界の危機に対処するっていう役割的にも避けては通れないんじゃないの?
二人の事情は痛いほどわかったし。手を血に染めてでも妹を助けたい兄と、そんな兄をどこまでも追う妹。そんな話しを聞かされたら、じゃあ頑張ってなんて放っておけないよ。
何か出来るなら力になりたいと思う。と言っても俺が役に立てるかはともかく、ここには神竜がいるんだろ? 」
静かに話しを見守っていた8歳の小ドラゴンを見やる。
「そうだな。我もまだ目覚めて間も無いゆえ、今の水の神獣を止められるかは疑問だ。だがお主達3人もいる。出来ることは多いだろう。こやつの言う通り、我としても水の獣神が暴れているのは気になっている。」
2人はまさかの流れにただ驚いているようだ。
「って事だけど、それでどう? 半ば強引に協力するみたいな感じになったけど。」
「まさか…あの様な事があったのに、赦しを得るどころか、そこまでしていただくのは恐縮の極み…………。しかし……。私達二人だけではどうにもならないのも事実。恥を承知で、貴殿らの協力の申し出を受けたい。本当にありがとう………。」
ウォーデンはほんの僅かに身体を震わせ目を閉じ、アイシャは目に涙を溜めて再び頭を下げる。
今度は土下座はとめた。居た堪れないから勘弁して欲しい。
まさに乗り掛かった船って奴だな。
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ここでちょっと一息つくために、泣いてまだ少し目の赤いアイシャが何やら飲み物を入れてくれると言って、手持ちの皮カバンから何か出してきた。
湯呑みのような陶器と、竹のようなもので出来た水筒かな?
中身はほうじ茶に似たものだった。驚いたのが水筒には、炎元素の魔力が微量に込められているとかで、なんと程よく温かいのだ。
まさかこの世界でもお茶が飲めるとは。
ノドも乾いてたし、思わず大喜びですぐ飲み干してしまい、おかわりも貰ってしまった。
「ふぅ……。結構なお手前で…。」
お茶の作法とか分からないけど言ってみた。
「?? ありがとうございます。」
アイシャは何となく察して微笑んでいる。
滑ったまま思いっきり和んでしまった………。
「そ、それじゃあ落ち着いたところで。目標は決まったけど。水鼬は今どこにいるんだ?」
「はい。姿をくらましているので移動している可能性が高いですが、最後の出現報告はひと月ほど前。ここグレンシャリオ皇国から見て南西方向、国境を跨いだガルセロナ王国の北方の山です。」
「ほうほう。国が違うんだ? どれくらいの頻度で姿を現すの?」
「ええ。水克の里がある国でもあります。
約4年前に暴走してから、水鼬は転々といくつかの地脈に姿を見せ、ここ1年だも約3ヶ月に1回の間隔です。」
「えっと、そうなると次は2ヶ月後くらいか。」
「はい。ですので、ひとまずこの国で情報を得ながらガルセロナ方面に向かうのがいいかと。」
「うむ。次もその通りならしばらくは先だな。丁度良い、道中で主を鍛えねばならんのだ。」
「えっ、俺鍛なきゃダメなの?」
「当然だ。今のお主は神獣士として半人前ですらないのだ。今のままでは水の神獣と相対する前に、そこそこのモンスターでも下手すれば死ねるぞ。」
「あっ、そっすよねー。」
モンスター…鍛える…ヤバい。
やっぱやめたくなってきた…。
「まぁ貴殿なら大丈夫だと思うぞ。こう見えても私は一族でもそこそこの戦闘員だ。
その私を、目覚めてすぐにも関わらず圧倒できるのだ。経験を詰み、鍛えればもっと強くなる。
もちろん神獣士としての力や、星の魔力の事もあるのだろうが、やはり勘や動きについては戦闘センスがものを言う。まだ自分ではあの時の強さが分かっていないのかもしれないが、直接戦った私だからこそ分かる。」
密かにしょげている俺に向かって、あまり慰めにならない事を頼もしいとばかりに言うウォーデン。
「そう言えば、ウォーデンは水の魔法を使ってたのか?なんかスゴイ青いオーラが出て黒い剣まで変わってたけど。」
「あぁ。 あれは黒曜の武器に水元素をエンチャントする魔法だ。得手不得手はあるが我々の里では水魔法を得意とするものが多くてな。
例えばアイシャは水と風の元素を併せた治癒魔法が得意だぞ。私の瀕死の身体を動けるまでに治癒したのは、神竜さまとアイシャがいてこそだ。」
「あっ、そうそれ!ウォーデンがあんな傷を受けて無事だったのにも驚いてたんだけど、コイツって俺が気絶したあとにすぐ来たのか? 」
「そうだぞ!お主はまだ感じ取れないだろうが、我にはお主のいる場所が分かる。お主が目覚めた事に気付いた我がすぐにあの星殿に向かったのだ。」
「あ、そうなの?うーん助かるけど、何かGPSつけられてるみたいだな。」
「じーぴーえすとはなんだ。ワケの分からない事を言い出すヤツだな。お主はまだヒヨッ子なんだから我に感謝しろ。」
「ま、まぁとにかく納得だよ。やっぱりすごいな魔法って」
「そのすごい魔法を使ったのは貴殿なんだがな」
そう言って笑うウォーデン。
「うっ、そうでした。でもウォーデンが生きてて良かったよ」
「はは。よしてくれ、責める立場にはないしそんなつもりはない。そうじゃなく貴殿が強かったおかげで結果的にこちらが助かっている。謝罪はこちらのする事だ。」
ならいいけど。でも本当に良かった。アイシャも会話を聞きながら嬉しそうに微笑んでいる。
「それにアイシャもだ。本当に心配をかけたな。改めて済まなかった。」
「ふふ、心配はお互い様ですけど兄さん、こういう時はありがとうの方がいいんですよ?」
いやー仲睦まじいっていいね。妹か…。
ふと地球の事を思い出してしまった。
「しかしまさか本気で里を出て私を追ってくるとは思わなかったぞ。
アイシャに何かあったら守ってくれとオル八にも頼んでいたのだが、まさか逆にお前に説得されて里を出るための助けになってしまうとは。
いつまでも私が守らねばならない妹だと思っていたが、そういえば頑固な所は私と同じだったな。」
「いえいえ兄さんほど頑固じゃありませんよ。
ただ………助けてくれたオルハは少し心配です。彼女なら余程の事がなければ大丈夫だとは思いますが、色々と騒ぎになりましたからね。やはり早く水の神獣様を鎮めないといけません。」
そっか。里内でも仲間と言える人はいるみたいだな。
助けてくれる人がいるといないでは全く違う。
でも逆に里の状況もあるし心配だろうな。
こうしてる間にも強硬派が何かしてないといいが。
さて、他にはなにか気になることは……。
「あ、そう言えば。この世界ってなんていうんだ? さっきこの国の名前とかも出てたよね? なんて言ったっけ。地名とか覚えときたいな。」
「そうですね。神獣士としても知っておかねばならないでしょうね。
まずこの世界はアースコルトと呼ばれています。
そしてここはエンデュラム大陸。
グレンシャリオ皇国と、ガルセロナ王国、マンチェスナム共和国の3つの大国に別れています。」
ふむふむ。
「そのうち私達が今いるのがグレンシャリオ皇国です。ここはその国土の東に位置するドラグ大森林の中です。 ヨウスケ様のお目覚めになった星の碧殿がありますが、人里からは遠く離れています。
世界でも有数の広さを誇る森林ですので、普通は奥まで足を踏み入れません。」
「へぇ、そこまでの秘境って感じなんだ?」
「あぁ。さらに碧殿は大きな地脈からの元素を利用した物理と魔法、両方の衝撃の無効化。
視認と魔法での探知まで遮断する結界ももちろんあった。情報に聡い者が仮に神殿の存在を知っていても詳しい場所までは普通なら察知できない。今は私のせいで結界は無くなっているが…。」
またジト目でウォーデンを見るアイシャと、冷や汗を垂らすウォーデン。
「神獣や神獣士の眠る地域の多くはそうなっているようだな。特殊な環境だったりと、我の住処も普通の手段ではなかなか入れん所にあった。だがまぁヨウスケが星殿を出ているのだ、件の結界はもう必要ないだろう。」
「しかしそうなると…。魔法地図は少々特殊なタイプで高価だが珍しくはない。しかし怪しい女が私に渡したこの結界を破壊するこの魔法石は………。
一体なんなのか。神竜殿には分かるか?」
そう言って魔法石を取り出すウォーデン。
「どれ………………ふむ?まだ元素が残っているな。これは………。闇。と光、それに土の元素も感じる……。高度な魔力操作によって合成された魔法石のようだ。
おそらく高純度の元素を複合した結晶に、手練が結界破壊の魔力を込めたのだろうか。結界破壊の数回は可能かもしれん。」
「そうか………。私はこれほどの物は見たことがない。相当価値のある魔法具だろう。
しかし、改めてそんなものを渡してきた女は何者なのか。」
「考えようによっては『星辰の大器』を、もっというと目覚めたばかりのヨウスケ殿を狙うように仕向けたとも思えますね。当然その方もヨウスケ様と神殿の事を知っていた事になります。気を付けた方がいいでしょうね……。世界の覇権を狙うため、他の神獣と神獣士に対して排他的な国もあると聞きますし。」
「えぇ…。それめっちゃ怖いな。世界を守る役割を放棄したり暴れる神獣や神獣士もいるって話だけど、何もしてもなくても特定の地域や国から疎まれたりするのか。宗教の違いとかもある?」
「ううむ分からん。正直言って人間の文化については我もまだ詳しくないのだ。なにせ世界は広い。個々人とそれぞれの環境などで様々だろう。ただ具体的な大厄災の内容が分からないし、必ずしも世界や他者を守ろうと思っているとは限らない。目的が違う場合は相反することもある。人間でも人間以外でもそれは同じだろうな。」
深く頷いているウォーデンとアイシャ。
やはり心当たりがあるようだ。
「なるほどなぁ。個人の価値観や善悪だけじゃ測れないのはどの世界でも同じか。てかお前、よく8歳でそんな事分かるな。話せるのも驚いたけど、喋り方とかも妙におっさん臭くて含蓄あるし。やっぱ神竜だから?」
「お、お前!? 8歳言うな!おっさん臭い言うな!お主まだ我をバカにしておるな!?」
コイツ弄られた時の反応が良すぎるだろ。
いきなり年相応になるし。
「いやそんなつもりはちょっとしかないよ。ちゃんと褒めてるじゃん。」
「ちょっとはあるのか!?だがまぁ、確かに神竜としての神格と、僅かにではあるが、世界で循環する元素から読み取れる星の記憶というのもある。大半は元々の知性だがな!!」
そういって胸をはる神竜。憎めないねー。
ウォーデンとアイシャは流石に触れないでおこう、って感じで目線を逸らしている。
「そういやお前の名前って無いの? 星の神獣とか神竜って呼べばいいのか?」
「我の名前はもちろんある。星竜エストレガだ」
「星龍エストレガ!へーすげぇかっこいい名前」
「そうだろうそうだろう。我に相応しいだろう!」
「でも地味に長いし仰々しいからエストでいいか?」
「なぜ略す。長いのか?呼びづらい………?
フンッ、まぁそこまで言うなら仕方ない!我は寛大だからな!好きに呼ぶ権利をやろう!」
とそっぽを向くまだ幼き神竜。
産まれてからの8年の大半が一匹ぼっちだった。
自分以外の生物との交流。会話。
渾名までつけられる事に、満更でも無さそうに尻尾を振る神竜であった。