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23話 食後の運動と絶叫マシン


お昼を食べてから、俺たちは宿でのんびり過ごしていた。


ザカルさんとスバーナさんも、本を読んだりゆっくりしている。働く時は働き、休む時は休む。メリハリが大事らしい。その通りだと思う。


にしても、お昼ご飯は本当に至れり尽くせりだった。煮汁をおかわりしたけど、それとは別に少量の年明け蕎麦、もとい年明けスバも食べた。豪華にホワイトタイガーというエビの天ぷら付き。


さらに食後のデザートまで。小さめに切られた餅にアンコを絡めた、チュウイーアンコだ。


パレルノ村の正月フルコースでお腹もいっぱい大満足。なのだが恐ろしいことに、ファナとエストは俺達より2倍以上は食べていた。チュウイーライス多めで。


ザカルさん達は、美味そうに食べるファナの食事を見るのが好きらしく


「正月にケチケチするのは性にあわねーんだ!ドンドン食え!」「神竜様もすごいね!流石だよ!」


とか言ってた。


でも最後の方は、大食い選手権のような様相を呈してきて。


「美味しいので食べすぎちゃいます!でも流石に悪いので!もうやめときます!」

「うーむ、まだまだ食えるが仕方ない!今日の所はこの辺でいいだろう!」


と、エンドレス食欲&胃袋を発揮していたので、流石のザカルさん達も、一瞬口をポカーンと開けて固まっていた。


まぁブローニャでもあんだけ食べてたし、本当に余裕なんだろうけど。チュウイーライスを何個も食べられるのはすごいわ…。


エストは腹が膨らんで、ヘソの部分のバッテンが大きくなっていた。ヘソのような何かだろうか。神竜って胎生なのか? ていうか親とか居るのか。ちょっと気になったけど、お腹いっぱいで脳がエストのヘソについて深く考えることを拒否したので、ナゾのままだ。



そんな感じで、しばらくまったりしていると。


「こんにちわー!しんりゅうさまいますかー?」

外から、子供たちの元気な声が聞こえてくる。


「なんだ。 我の眠りを妨げるのは誰だ。」

無駄に雰囲気のあるエストの返し。まるで神竜だ。


「しんりゅうさまー!お菓子持ってきたのー!遊ぼー!」


「テンツォ!神竜さまは休んでるんだから、起こしちゃダメよ!お菓子置いて帰るって言ったでしょ!」


「えー、でもドラゴンもう1回見たいもん!」

「あたしだってみたい!お菓子あげゆの!」


どうやらタリムさん達がエストに会いに来たようだ。今この村で唯一小さい子供がいるご家族。昨日の祭りでは途中で寝てしまい、両親の背中で眠ったまま帰っていった、6歳のテンツォくんと4歳のミラちゃんだっけ。


「なんだ小僧共か。我は忙しいのだぞ。」

嘘つけ。腹を上に向けて寝っ転がってただろ。


「しんりゅうさまー!遊んでー!」

「や、やめろ!翼を引っ張るんじゃない!」


「こら!すいません神竜様!エンツォ、言う事聞かないと夕御飯なしにするよ!」

「やだ!でもしんりゅうさまと遊ぶの!」

「まぁまぁ。エスト、少しだけ遊んであげたら?」

「むぅ……。仕方ない。少しだけだぞ!」


「本当にいいんですか? 旅で疲れてるところにこんな、すいません。」

「大丈夫ですよ。軽く腹ごなしってことで。」


「やったー!じゃあシュウキューしよ!」

「シュウキュー? なんだそれは。美味いのか?」

「うん!ぼく上手いんだよ!」


多分、話が噛み合っていない。


「シュウキューってなに?どんな遊び?」

「ボールを蹴るスポーツだよ!いつかプロになるんだ!」


ボールを蹴るって、もしかしなくても蹴球そのままか。


そう言ってどこかに走っていくテンツォくん。まさかサッカーがアースコルトにあるとは驚いたな。しかもプロまであんのか? 魔法や身体強化がある世界でのスポーツ、面白そうじゃん。


すると、フットサルとかハンドボールくらいの大きさの、白いボールを抱えてテンツォくんが戻ってきた。


「じゃあそこの木の間がゴールね!シュートして決めたら勝ちだよ!先攻は譲ってあげる!」


どうやら2本の木の間がゴールらしい。

1体1かPKみたいな感じかな?

「この球を木の間に通すだけか? 簡単だな。こんなのが楽しいのか?」


「エスト、手加減してやれよ?」

コソッと耳打ちする。

「フン。こんな小僧に本気など出さん。」


「よーし!じゃあ良いよ!攻めてきて!」

「では行くぞ!」


気合いを入れて、エストがボールを蹴る。


はずだった。


しかし虚しいかな。身長1m50cmくらいのサイズになっているエストは短足だったのだ……。


ボールに届かず、空を蹴るエストのあんよ。

一瞬何が起こったのか分からず、静寂が場を支配する。


「…………。」

「……………。」


ヤ、ヤバい。テンツォくんが分かってなさそうなのが余計にシュールでジワジワ…ダメだ、笑うな俺!


「しんりゅうさま、どうしたの? 素振りはいいから、早く蹴ってよ!」

「わ、分かっている!今のはイメージトレーニングだ!」


エストのほっぺが真っ赤だ。


「今度こそいくぞ!」


今度は少し助走を取り、どっどっと走ったまま、蹴るというよりボールにぶつかるように突進するエスト。


ボールはそこそこの勢いで木の間に飛んでいく。

本気じゃないとは言え、さすがに入ったか?


しかし、テンツォくんの動きがどうしてなかなか。

低くゴール左側を抜けようとしたボールを、倒れ込むようにして手で弾いていた。


「おお!? マジでキーパーみたいな動きするじゃん!上手いなテンツォくん!あと今、動きが一瞬早くならなかった!?」



「へへへー!すごいでしょ!覚えたばかりだけど、魔法で足腰を強化してるんだ!」


おいおい、とんでもないな。天才なのでは?


「ぬぅ。なかなかやるな小僧。」

意外と手加減が上手いエストは、恨めしそうに転がったボールを見ながら言った。


「じゃあ今度はぼくの番!キーパーは全身使っていいからね!」


ボールをドリブルしながら定位置まで来るテンツォくん。うまっ。パレルノのメッシは言い過ぎだろうけど、6歳でこれはすごいな。


「フン。我には翼もある。余裕だな。」


どこのエナジードリンクのCMだ。

そしてそれはフラグだ。


「いくよー!」

テンツォくんがボールを置いて下がり始めた。


うん、ほどよい距離。助走の距離は短すぎても長すぎても良くないのだ。ほどほどが1番歩幅も合わせやすく、体重も乗せやすい。もちろんプロレベルになると自分の得意な蹴り方を熟知しているし、助走も様々だけど。


テンツォくんは6歳らしからぬ腕の振りも利用し、ボールを蹴った。


威力はそれほど無いが、ボールは右側の木より少し内側へと向かっていく。良いコースだ!


エストが翼を広げて防ぎにいく。

しかしボールは木の内側に当たり、木の間を通っていった。


「うおおお!うめぇぇ!」

「やった!!」

「なんだと!? 今のはアリなのか!?」


「おにーちゃんかっこいい!」

これにはお菓子に夢中だったミラちゃんも大喜び。


「スゴーイ!上手いねテンツォくん!」

「あぁ。際どいコースをついた良いシュートだ。」

「ふふ。エスト様、やられましたね。」

「キュウ~!」


いつの間にかギャラリーが出来ていた。


「ポストに当たって内側に入ったし全然アリだな。テンツォくん、今のは狙ったの?」


「端っこ狙ったけど、思ったより外側に行っちゃったから、一瞬外れたかと思ったよ。へへ。」


末恐ろしいな。

「ほえー。プロシュウキュー選手のレベルは分からないけど、本当にプロなれそうだよテンツォくん。」


「ぐぬぬぬ。小僧もう1回だ!コツさえ掴めば我が勝つ!」


エストがちゃんと悔しがっている。身体強化無しとはいえ、翼使って普通に止めにいったのに決められたもんな。


「いいよ!また勝っちゃうもんね!」

鼻をコスコスするテンツォくん。

元気もあってこりゃ将来モテそうだ。



そのあと。


気付けば1時間以上もシュウキューで遊んでしまった。俺はもちろん、さっき来たギャラリーの仲間たちの他に村人の大人まで混ざり、最終的には4対4でミニフットサルみたいになっていた。


「いやーー!久しぶりにサッカーしたよ!やっぱスポーツは最高だな!」

「なにいってんだ!にーちゃん上手すぎ!大人が本気出しちゃいけないんだぞ!」

「ヨウスケにーちゃんかっこいい!」


「そうですよ!ヨウスケさんがこんなに上手いなんて、意外過ぎます!」

「あぁ。完全に経験者のボールさばきだな。」

「ですね。最後はちょっとやりすぎでしたけど。」

「お主が目立ってどうする!我は負け越したぞ!」

「キュエ!」


「ごめんごめん。つい楽しくなっちゃって。昔やってたんだ。」


高校卒業を境にやらなくなって、たまに知り合いとやっても足がつったり満足には動けなくなったのに、この身体はキレッキレよ。


流石に本気ではやってないけど、細かいボールタッチとかフェイントでやりすぎたみたいだ。俺なんかやっちゃいました? がまさかこんな所で発動するとは。



「こりゃ参ったな。」

「まさかヨウスケさんがそんなに上手いなんて。どこかのプロ選手ですか? いやでも、試合で見たことないんですよね。」


途中から参加した2人も話しかけてきた。

タリムさんの旦那さん、アドリアーナさんとイエロンさんだ。イエロンさんは猪?の獣人だ。


「いえいえ素人ですよ。アドリアーナさんもイエロンさんも上手かったじゃないですか。氷魔法でボールを滑らせるなんて驚きましたよ!」


「俺はともかく、アドリアーナは元プロだからな。つっても6年前だが、氷魔法を使った技はこの大陸じゃ1番だったよな。」

「あの時は怪我で引退してしまいましたからね。まぁそのおかげでタリムと出逢えたので良かったですが。」


「怪我の功名ってやつですか。あ、試合って他の街とか村のチームとやるんですか? プロとして?」


「そうそう。大体半年に1回、ナモリやリバホールとか、他のチームと試合やってるぜ。俺たちもたまに見に行ってんだよ。」


「へー!移動ってやっぱり運搬ワイバーンとか?」


「いえ、大人数で荷物も多いのであまりワイバーンは使いませんね。運搬用のシールドエレファントやスクリュートリケラードなどを数頭借りて移動します。少数だとちょっと危ないですが団体になると滅多に襲われませんからね。」


「おーなるほど!すごい!なんか強そう!」

プロスポーツにアースコルトの交通事情も新たに知れてテンションがあがる。何より、魔法を使っての球技ってロマンしか無いもんな。いいなぁ。


どうやらシュウキュー以外にもヤキュー、テイキュー、ハイキュー、ロウキューなどもあるらしい。


一部、名前がアレで焦るけど音読みそのままだもんな…。


「ありがとうございました。楽しかったです!」

「こちらこそ、またいつかやりましょう!」

「にーちゃんまたね!今度シュウキュー教えてね!しんりゅうさまもまたね!次も負けないよ!」


「ははは。そこはパパに教わりなよ。またねテンツォくん!」

「小僧!首を洗って待っていろ!」


エストもすっかり楽しんじゃって。

にしてもセリフが小物臭いし物騒なのはなんなの。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


身体を動かしたので、宿でまた少しゆっくりした。

テンツォくんが持ってきてくれたお菓子を食べながら、平和を満喫したところで。


「さてと。それでは、そろそろブローニャに戻りましょうか。」

「そうだな。これ以上お世話になるのもなんだし。」

「ですねー。」


「なんだ、もう行っちまうのか。もうちょっとゆっくりしてもいいんだぜ。部屋は他にも空いてるしよ。」

「そうしたい所だが、おかげで十分に羽を伸ばせた。ギルドに報告もしないといけないのでな。」


「あら、もう行くのかい?」

地下で食糧の在庫を確認していたスバーナさんも、1階に上がってきていた。


「ハイ!お世話になりました!」


「そうかい。また来ておくれよ!まだ出してない食事もいっぱいあるからね!」


「まだまだ美味いものを隠しているのか!よし、絶対にまた来るぞ!小僧に負けたままだしな!」


「分かった分かった、また来るから。俺を翼でバシバシするなって。」


まだ見ぬ料理とシュウキューのリベンジに思いを馳せて興奮するエストに、みんな笑っている。


名残惜しいけど、荷物もまとめて宿を出る。



「本当にありがとうございました。また機会があればお邪魔します。」


「はいよ!気を付けて帰ってちょうだい!いつでも歓迎するからね!絶対だよ!」


「お世話になりました!ではまた!」



そうして村の中を歩いて外に向かっていると。

「おっ、あんたらもう行くのかい?」


「イエロンさん。はい、このままだとずっといちゃいそうなんで。」


「ファナちゃんみたいにな。ハハハ。まぁまたいつか寄ってくれよ。何にもない村だけどよ。」


「何言ってるんですか、誇ってくださいよ!パレルノ村は居心地が良すぎるくらいなんですから!」

「キューー!」

「祭りに畑仕事にシュウキューに。とても楽しかったです。良い思い出が出来ました。」

「近くに来ることがあったら必ずまた寄ります。ありがとう。」

「皆さんにもヨロシク伝えといて下さい!」


「おうよ!」



イエロンさん、ザカルさん、スバーナさん、アドリアーナさん達が、それぞれ玄関から手を振ってくれている。


あまり時間を取らせるのも申し訳ない。

手を振り返しながら、俺たちは村の出口に向かって歩き始めた。



「本当に良い村だったな。」

「あぁ。」

「えぇ。」

「でしょ? 私はなかなか離れられなくて。」


「はは。そうなるのも分かるよ。ご飯も本当に美味しかったしね。」

「そ、それだけじゃないですけどね!」

「いや、そこは大事だぞ!」


食いしん坊ズはしっかり胃袋を掴まれている。

けどそれも無理はない。

 

それにザカルさん達以外も、余所者だとか邪険にする気配は微塵もなく、みんな陽気だ。ブローニャは賑やかでいい街だと思うけど、また違った良さがあるよね。


「さて。ブローニャまでは少々遠い。我に乗れ。」


村の中では小さいままだったエストが、ドラグ大森林の時よりひと回り大きくなって座り込む。スレッジハンマーの前で見せた大きさくらいだろうか?


「そっか!私たち全員エストに乗れるんだ!?」


「ファナは初めてだもんな。」

「む、そうか。では少しサービスするか。捕まっておれ。」

「キュエ?」


「ポイちゃんも大きくなったら乗せて貰えるのかな?」

「キュー!」

ファナはポイちゃんをしっかり抱えている。


抱っこされたまま、任せろ!と言わんばかりにクチバシを上げてドヤ顔するポイちゃん。


いつになるのか分からないが、「サラマン〇ーより早ーい!」とかファナが言わないといいが。



と、まだ少し慣れないが全員エストの背中に乗り込んだ。


「では、お願いします。」

「よろしく頼む。」

「エ、エスト、最初はほどほどでいいからね?」


「うむ。いくぞ!」

「ちょっと聞いてる!?」


焦ったけど、意外と最初は優しく、身体がフワッと上昇していき、徐々にスピードに乗っていく。


「スゴイ!ワタシ今空を飛んでるよ!」


「なんだ紳士的な飛行じゃん。実はエストって優しいよな。」


「喋っていると舌を噛むぞ。」


えっ

って急にスピード上げるなよ!

ちょちょ、早いって!!


「キャーーーーッ!はやーーーーーい!!」

マジかよ。隣にいるファナは楽しそうだ。

エストの魔力のおかげとは言え、振り落とされず、みんなの声が聞こえるのが不思議なくらいのスピードだ。



「うおおおおおおお!」

「ぬおおおおぉ。この間よりも早い。もう別れ道を超えたぞ。」

「キャアアアアアアア!」

「きゃあああああああ!」

「キュゥゥゥ!」


これにはポイちゃんもニコニコ。きっといつか自分で羽ばたく空を、先に体験か。

女性陣は完全に絶叫マシンの黄色い悲鳴だ。

ウォーデンはいつも通り。



そして、ものの数分でブローニャが微かに見える丘までついた。


急加速に急降下、ロール、連続インメルマンターンなどをしながら………。サービスしすぎでしょ。


おかげで楽しかったけどさ!

需要があるのかは甚だ疑問なので、頻度は相当少めにしますが、またいつかスポーツの回を入れてもいいかな~と思ってます。

あくまでこの世界を知る手段と、羽を伸ばす為のオマケなので、何十話に1回チラっと出るくらいのつもりです。

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