19話 ポイニクス
サンダーワイバーンはついに地に伏せた。
光の粒子のカーテンが、キラキラと余韻を残しつつ、少しずつ消えていく。
辺りが少しずつ元の色に戻っていった。
「………ハッ。見とれてた。倒した…んですよね?」
「おそらくな。」
「すごかったですね星魔法。戦闘中なのに呑気ですけど、キレイでした。」
「あれだけの戦闘のあとの感想とは思えないけど、確かに綺麗だった。」
「ふぅ…。」
エストが空から降りてきた。
「お疲れ様、エスト。」
「うむ。お主達もな。」
やれやれホッと一息、と言った感じで見合う一同。
疲れてへたり混んでいると、同じく巣に降りてきたファイヤーバードに、ファナが近づいていく。
「そうでした!ファイヤーバードがまだ残ってました!ファナさん危ないですよ!」
「大丈夫、だと思う。最初から私たちに攻撃してくる気配はなかったから。」
「そうは言ってもだろ!本当に大丈夫か?」
と慌てたが、ファイヤーバードにしても激闘だったのだろう。MPは残り僅か。戦う気力はないか。
翼は所々がボロボロで、かなりのダメージが見て取れる。オスの方は残りHP200も無い。サンダーワイバーンの、最後の攻撃の凄まじさが分かる。
「えーっと…。アナタ達がいなかったら、もっと苦戦してたよ。ありがとう。」
そう言ってファナがファイヤーバードにお礼をしている。
まぁ、元々はサンダーワイバーンがこの巣を狙ってきたのが原因で、彼らはここで子育てをしていただけだしな。結果的にはお互いに助けて助けられた感じか。
「クエェェェ。」
すると、ファイヤーバードがファナに頭を擦り付けた。
「えへへ、くすぐったい」
おいおい。ファイヤーバードと人間がコミュニケーションを取ってるよ。
「すご。もしかしていきなり懐いてるの? ムツ〇ロウさんか何か?」
「誰ですか?」
「地球の生物飼育のレジェンドみたいな人。 麻雀のレジェンドでもあるけど。」
「ほぇ?」
何のことやらって顔のアイシャ。
「運搬ワイバーンもそうだが、モンスターと人間が共存する事はある。モンスターの括りとは違うが、エスト殿と我らもそうだろう。」
「そう言えばそうか。でもファイヤーバードって懐くの?」
「私は聞いたことありません。」
「我をモンスターと一緒にするな。あれはファナとあのファイヤーバードが特殊なのだ。」
俺達が傍観してる間も、触れ合ってる1人と2匹。
しかし急に変化が起きた。
「キュエエ?」
異変に気付いたのか、メスのファイヤーバードがタマゴに寄り添った瞬間、薄い赤色に黒い斑点がある卵2つが、淡く光り始めたのである。
卵にヒビが入り、光が漏れる。
一際光ったあと中からヒナが姿を現した!
「クエー!」
「クエ!」
「「う、産まれたぁぁ!!?」」
「「クエエエエエエエエエエ!」」
声を上げて、喜ぶ親鳥2匹。
ヒナ達はよちよちとコケながらも、親鳥の足にくっつこうとしている。
「カ、カ…………カワイイ!!」
「なかなかやりますね!トカゲに匹敵する可愛さですよ!」
「こ、これは………愛らしいな。」
あのウォーデンにすら愛らしいと言わせるヒナ達。
でも確かにメチャクチャかわいい。首を傾げて鳴く姿は、己の可愛さを認識しているとすら思える。
アイシャは…うん、アイシャなので。
にしても、まさか今産まれるとは。
なんつータイミング。
親鳥が5m近くてタマゴは1m弱だが、ヒナは30cmくらいか。自分で殻を破るって感じじゃなかったもんな。まだ羽毛はまばらでピンク色、体色は黄色。色がキレイで大きい文鳥みたいだ。
「もう1つのタマゴは大丈夫かな? 戦闘の余波で悪い影響がないといいけど……。」
そうか。メスが巣を守っていたとは言え、近くであんな戦闘してたのって相当危なかったよな。でもそう考えると、俺達が来てサンダーワイバーンから卵を守れたのは、彼らからしても本当に僥倖だったのか。
「クエエエエッ!」
と、メスのファイヤーバードが翼で添えるように、残ったタマゴを持ち上げた。曇りのない真っ赤に燃えるような色のタマゴだ。
それをファナに差し出す。
「へ?」
なんだ? ファナに持てって?
わけも分からずファナが手のひら、というか両腕を差し出すと、その上にタマゴを乗せた。サイズがサイズなので絵面が妙なことになっているが。
やはりタマゴが光り始めた。
「えっえっ!?」
先に産まれたヒナのようにヒビが入り、光が漏れる。
そしてヒナが誕生した。
「キュー!」
「えええっ!産まれちゃったよ!?」
「キュ?」
ファナと、両腕の中で産まれたヒナが目を合わせている。
もしかしてこれマズくない?
刷り込みってやつになるのでは?
先に産まれたヒナ達より色が少し濃い。
鶏冠も1本長く伸びているヒナ。
「キュエエエ!キュエェッ!」
「あっ、ゴメン!返すよ!ほら、パパママだよ」
と、ヒナを地面にそっと置くファナ。
しかし、親鳥達はなにやら首を振っている。
「クエエ。」
「クエ? もしかして食えって?」
「ヨウスケさん!? 物騒なこと言わないで!」
めっちゃ睨まれた。冗談ですやん。
「キュー」
地面に置いたヒナがファナの足に擦り寄っていく。
「ちょ、ダメダメ、ママはあっち!ワタシじゃないよ!」
1歩下がるファナ。
しかし。
「キュー……」
悲しそうな声でファナを見上げるヒナ。
「そんな顔で見つめられても……うぅ。」
どうしたらいいのか困っている。
「クゥゥエエェ」
するとオスが翼でヒナをチョンチョンと指して、高く翼を掲げてから、抱くようなポーズのあと、ファナを指した。
「えっ!? 私に預けるから? 育ててくれ!?」
なせ分かる。ちょいちょい通じてるっぽいのナニ。
というかマジかよ。
せっかく守ったタマゴから産まれたばかりのヒナを、人間に預けるって、そんなことあんのか。
「キュー」
地面に置いたヒナがファナの足に擦り寄っていく。
あーこりゃもう完全に刷り込みが成立してる。
「クエエッ。」
うんうんと頷く親鳥。
「そっか…。そこまで言うなら分かったよ…。ワタシが責任を持って育てる!絶対大事に育てるから!!」
「「クエエエエェェェェェェェェ!」」
2匹のファイヤーバードと、3匹のヒナ、ファナが、輪になって喜んでいる。絵になるような不思議なような、とりあえず微笑ましい光景だ。
ファイヤーバード達も優しい表情なのが分かる。
「すごいですねファナさん!リザード系統の子を託されたら、私は昇天してしまいますよ。いいなぁ。」
「ア、アイシャもいつかあるかもよ? 特殊なリザードに会えればさ!」
「う、うむ。」
「そ、そうだな。」
触れ合うファナとファイヤーバード達を見守りながら、謎のフォローをする男達。
一体どうなる事やらと思ったけど。
小さい頃に文鳥を飼っていたことがあるんだよな。
ファイヤーバードのヒナも、今はかわいいペットみたいな感じで、大きくなればファナの頼もしい相棒か?
ちょっと、いやかなり楽しそうでいいな。
あ、でも俺にもエストがいるんだ。
小さくなってペタッと座り休んでいる相棒を見る。
「なんだ、また何か言いたそうだな? 我はお主を育てる側だぞ、感謝しろ!」
「へいへい。ふかーく感謝してますよ。」
出会ったばかりなのに、既に相棒という言葉に違和感がなぜか無い。エストがいて本当に良かった。へへへ。なんかこそばゆいな。
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で、今は峠の端っこで休んでいる。
エストが言うには、サンダーワイバーンの亡骸をずっと放置するのは良くないらしい。今は倒した俺達もいるし、警戒しておいそれと近づいては来ないが、そのうち死骸を漁りに色んなモンスターが寄ってきてしまうとかで。
ただ、マジックバッグにサンダーワイバーン丸ごとなんて到底入らない、かと言ってウォーデン1人でここで解体は、専用の器具も足りずとんでもない時間が掛かるので、冒険者ギルドに回収をお願いすることにした。
連絡に出たのはやはりイケおじ。
ついでにヒクイドリの件も報告。
盗賊たちの件とは違って、サンダーワイバーンの出現といい、ファイヤーバードのことといい、今度は本気で驚いてた。イケの部分が無くなって、ただのおじさんが出るくらいにむせてた。まーでもそりゃそうだよな。
Lv51のサンダーワイバーンと聞いて最初は疑っていたくらいだ。「そんな大物、俺が知る限り10年近くこの付近には出ていないはずだ」との事。
まぁともかく、人員を寄越してくれるそうだ。スマンがそれまでゆっくり休憩しててくれと。
俺達もかなり疲れていたから丁度いい。
今はオヤツということで、アイシャが前に焼いていたプッキーを食べている。
棒状のクッキーにチョコレートでコーティングしたお菓子だ。11月11日に食べろと言われる〇ッキーではない。
「回収部隊が来るまでは、まだ時間がかかりそうですねぇ。」
ポリポリ、ズズズ…。
「仕方ない。スレッジハンマーを回収した部隊がそのままこちらに来るのは無理だろうしな。」
ポリポリポリ。
ポッキーとコーシーが美味い。
良く合うわ。
「キュー」
「あ、コラ。ダメだよ食べちゃ。」
ファイヤーバードのヒナが、俺たちの食べているプッキーに興味津々のようだ。もう馴染んでしまった。
「やっぱりモンスターも人間の食べ物はダメなのか?」
「どうなんでしょうね? 運搬ワイバーンなどの食事は生肉が多いですが、人間と同じ料理も普通に食べると聞きますけど。」
「そうなんですか? じゃあちょっと食べてみる? 」
「キュ!」
パクッとするヒナ。まぐまぐしている。
「キュキュー!」
どうやらイケるらしい。もっとくれといっている。
「はいはい、もう1個だけだよ?」
ファナがすっかりママだ。
「そういや名前はどうするんだ?」
「名前はもうポイニクスってなってますよ。だからポイちゃん。ね、ポイちゃん?」
「キュー!キュキュ!」
気に入ったのかな?
「ポイニクス?」
「鑑定したらそうなってました。」
「あ、そういう事か。」
どれどれ。
『ポイニクス』Lv1
年齢︰0歳
職業︰なし
状態︰普通
HP︰88 MP82
攻撃力︰33 防御力︰24
魔力︰35 魔力操作︰29
運︰99
所持スキル
炎の鼓動・炎の波動・炎の加護(小)・自己再生(中)
所持魔法︰なし
装備︰なし
称号
炎の力を持つもの(小)
契約対象︰ファナ・リーズ・メルト(仮契約)
「ホントだ。ポイニクスって名前が既についてる。他の2匹のヒナには無いのに。なんならスキルとかもかなり違うぞ?」
「珍しいですね。それこそユニークやネームドは別ですが、普通モンスターに名前はなくて、契約する際に契約者が名前を決めるんですよ。スキルが違うことは個体によってたまにあるとは思いますが。」
「そうなんだ? もしかしたら、エストみたいにポイポイも特殊なのかな?」
「ポイポイってなんですか!? 変なあだ名つけないでください!」
「いや、男の俺が人のペットにちゃん付けするのって、なんかちょっと抵抗あって……。」
「だからってポイポイは…。」
「ねぇ? アイシャさんもそう思いますよね!」
「わ、分かったよ。ポッ、ポイちゃーん」
「キュ?」
首を傾げるポイちゃん。かわいい。
「あとこの炎の加護とか、自己再生って、割とあるスキルなの?」
「ポイニクスは自己再生持ちなのか? 珍しいがスライムなど一部のモンスターは持っているな。炎の加護なども同じく、強力なモンスターは持っている場合がある。」
「あー何となく分かる。」
「でもそれらのスキルを同時に持っているのは稀かと思います。名前が既にあることもそうですけど、兄妹とも違いますし。本当に特殊な個体なのかもしれませんね。」
「そう言えばタマゴも見た目が違っていたな。」
ウォーデンがポイちゃんをあやしながらいう。
「親のファイヤーバードからして、人に慣れていたりやや特殊な強個体だからな。クアァ。子に突然変異が起こる確率も高かったのかもしれんな。」
エストが欠伸をしなが言う。
なるほど、そう言われると納得だ。
「そういえばポイちゃんとワタシは契約(仮)ってなってるけど、本契約?ってどう違うんですか?」
「具体的には分からんが、仮の器契約と、本契約、つまり魂核契約では結び付きが別物だ。お互いの相互強化など、与え合う影響がかなり違うと聞くな。」
「えぇ。基本的には従魔ショップや、国が管理する施設などで本契約を交わします。最近は簡略化されていますが、一応、魂核で繋がるための魔法の儀式がありますので。」
「儀式ですか?」
「最近のはギルドカード作る時のあれに似ています。ただし強力な種と個体や、神獣様の場合は、もっと特殊な儀式が必要です。そう簡単には出来ませんね。」
「あら、そうなんだ? 俺もエストと魂核契約した方がいいのかと思ってたんだけど。」
「魂核儀式場は、判明・現存しているうちの多くが国の重要施設なのです。」
「なにせ神獣様と神獣士は世界にたった12組。エスト殿とヨウスケ殿のように、最近目覚めた者もいる。強力なモンスターを手懐けるという例も、そう多くはない。そのうえで契約は国や世界に取ってリスクを伴うからな。」
「リスクかぁ。」
たしかに、例えばサンダーワイバーンと悪い人間が契約したら大変なことになるか。想像はできる。
「ちなみにアイシャは神獣士ではないが、水の巫女だからな。魂核契約に立ち会ったことは無いが、儀式を行える数少ない者の1人だ。」
「そっか。水克の里と水の神獣…。」
そうだ。色々あって正直ちょっと忘れてた。
今の一番の目標は、約2ヶ月後に現れるであろう、水イタチを鎮めることだ。
神獣が暴れたら大変なことになるっていうのも、今ならよく分かる。契約に慎重になるのも頷ける。
空気が少し重くなりかけて、事情を知らないファナが、不思議そうな顔をしている。
「じゃ、じゃあ器契約は普通どうやって成り立つんだ?」
思わず話題を変えてしまった。
「器契約は、お互いにその契約を了承、認めることで成り立ちます。私もこれまでに様々なリザードと契約を試みました。愛でました。しかし現実は残酷。これは私への試練です。そうですよね、ポイちゃん。」
「「「…………………。」」」」
「え、えっと。まぁ今はまだ困ってないから、エストと俺はそのうち出来ればってとこかね!」
とエストを見ると、いつのまにか寝ている。
戦闘ではあんなに頼りになるのに、こうしてるとただの子ドラゴンなんだよなぁ。
あ、ポイちゃんが寝ているエストに近づいていって、興味深そうにキョロキョロ見ている。
すっかり仲良くなったポイちゃんを加えて、あとはサンダーワイバーンを回収して貰ったら、ひとまず街に戻るだけかな。
例の目標まではまだ時間がある。
常に気を張っても仕方ない。
俺に出来ることは、Lvを上げたり、アースコルトを見て、無事に過ごすことだ。
みんなLvが上がっているので、あとで後書きにでもステータスを載せようと思います。