16話 いざヒクイドリの巣へ
少し短めですが、早めに投稿出来ました。
「それにしても。エストがスゴく強いのは私も分かってたけど、あんなに大きくなるんですねー! ビックリでしたよ!」
「それな!俺も驚いたよ。前に見た時はあそこまで大きくなかったし。なんならエストが攻撃魔法を使ってるのも初めて見た。すごかったな。」
「ヨウスケさんも初めて見たの!?」
「うん。実はエストとはまだ合って数日だから。」
「はえーそうなんですね。仲良いから、てっきりずっと一緒に旅してたのかと。」
「あー。自分でもちょっと変な感じというか、慣れるのが早くて不思議ではある。」
今、ウォーデンは土魔法で落とし穴を塞いでいる。
俺とファナは街道の左側、アイシャは街道の右側を、不発の罠など残った危険が無いか、周辺を調べている。
まー大丈夫そうだな。
しかし、この針を射出する罠よ。
多分、木の板のしなりを活かしたり道具を使って、針が上手いこと飛ぶように調整されてたっぽい。もっと真っ当なことに技術を使えばいいのに…。
「問題なさそうだ。さて、とりあえずコイツらどうしよう。さすがに死んでないよね? 」
「こんなやつらを殺生する趣味はない。己の矮小さを知らしめただけだ。」
一応、街道だから目立たないよう子ドラゴンに戻っているエストさんが、しかめっ面でそう答えた。
良かった。こんなことで人殺しになりたくないしな。
「1回起こそう。他にまだ仲間がいないか、念のため聞いておかねばならん。」
そう言ってウォーデンは、忍者道具でまとめて縛りあげている6人に、魔法で水をかける。
「ぶはっ!な、なにすんッ……ひいぃぃ!!」
目が覚めて一瞬強がるも、状況を思い出してビビるネイノクス。いやもう偽名はいいか。アダートだ。
偽名の事は、既にウォーデンとアイシャに伝えてある。ちなみにトラ獣人がゴラウ。赤い長髪の男が、スリ未遂の時にエストが鑑定していた通りアドルフ・ノーマン。
「お前たちをどうするか、今考えていた所だ。面倒だから、このまま放置してもいいし、殺してもいい。どうして欲しい? なぁアダート。」
「な、どうして俺の名前!あ、いや、誰だアダートって、知らねぇぞそんなヤツ!」
鞘から抜き、トントンと手で持ち遊んでいた忍者刀を、目の前に振るウォーデン。俺がやったら当たっちゃいそう。
「ごご、ごめんない!アタイは謝りますから!たっ、助けて!命だけは!」
涙ぐんで助けを求めるタルル。
「くそっ……。」
未だにこの状況を認めたくなさそうなギャレス。
エストにあんだけやられたのに、しぶといな。
「お、俺たちをこ、殺したら、ナモリの仲間が黙っていないぞ!」
ゴラウが叫んだ。こいつもまだ強気か。
「そ、そうだ!!1番強いやつがいるからな!!」
「ほぉ? そいつは我より強いのか? ん? まだ仕置が足らんか?」
そう言って少し大きくなり、睨みつけるエスト。
魔力が込められているのか、翠色に光る。
「「「ひいいいいい!!」」」
恐怖を思い出したのか、ガクガクブルブルの6人。
あ……。リズが漏らしちゃったか……。
「あ、おい!汚ねえぞリズ!」
「くっついてんだから漏らすなよ!」
そう言ってやるなよ、不可抗力だろ。
「自分たちの状況があまり分かっていないようだな。言っておくが、いつでも殺せるぞ。別に俺たちは構わんのだ。土魔法でここに埋めれば誰も分からんからな。」
そう言って土魔法で、街道から外れた場所の地面を、直径2mくらいにボゴッ!っと浮かべるウォーデン。そして地面だった塊を、後ろの木にぶつけた。当たった木の表面がかなり削れている。
ひえぇ……。
って俺までビビってどうする。
「す、すす、すいませんでした!もう悪いことしません!勘弁してくださいお願いします!!」
アドルフが泣き叫ぶ。
「おい。ナモリに仲間がいるといったな? 何人だ?こっちに来ているのか? 嘘をつけばさっきよりキツい一撃をお見舞いする。それとも、本気のLv8雷魔法を見てみたいか? 」
エストも追い討ち。
Lv8の魔法なんて消し炭になるのでは。
「いっ、いません!本当は仲間なんていません!!」
アダートが叫ぶと、ギャレス以外は涙目で頷く。
ギャレスはガックリ項垂れている。
1番強い自負があるのか、プライドが高いのか。
捕まっていることを認めたくない!って感じ。
相当悔しそうだ。
俺たち4人は少し距離を取って会議だ。
「仲間はいなさそうか? しかしどうする。本当にこのまま放置する手もあるが、それだとモンスターに襲われるか、通りがかった誰かに拾われるかだが。」
ウォーデンが思案している。
「誰かに拾われても、また悪いことしそうですし。ちゃんと牢屋に入れるのが1番でしょう。縛ったまま街に連れ帰りますか?」
「いや。我らはこのままヒクイドリの調査をするべきだろう。下手すれば村も危ないのだろう。 渡された魔法道具で冒険者ギルドに連絡し、こいつらを回収して貰えばいい。」
確かにエストの言う通りか。元々ヒクイドリの調査をしに来たんだし。ただ、スレッジハンマーの分の戦力が無くなるのは正直痛いよなぁ。
「俺たちだけでヒクイドリって大丈夫なの?」
「一緒に戦った今だから分かりますけど、ヨウスケさんファナさんも強いです。誰かが大ケガをしたり命を落とす心配をしているのでしょうけど、エスト様と私の回復魔法もありますから。滅多な事にはならないと思いますよ。」
「分かった。じゃあ調査はこのまま継続で。ファナもそれでいいか?」
「はい!全然大丈夫ですよ!やりましょう!」
そだよねー。ファナさんはやる気マンマンでした。
「では連絡するぞ。」
ウォーデンが連絡用の魔道具を取り出した。
2つの小さいガラスの球を、金属っぽい緑色の羽がうねるように覆っている。キレイだけど不思議な形の受話器。のようなフォルムだ。
ウォーデンが魔力を通すと、風元素が共鳴したのか、緑色に発行し、声が聞こえた。
「あーもしもし。首尾はどうだ? 緊急事態か?」
この声はイケおじ!冒険者ギルドに連絡が行くって言ってたのに、あんたが出るんかい。まぁどうせ冒険者ギルドの関係者なんだろうな。
「とある盗賊を捕まえたのでな。回収に来て欲しい。こちらはこれからヒクイドリの調査もしたい。」
「なに!? そ、そうか!了解した!すぐに人員を向かわせる。逃げられないようにしてくれれば放置でも構わないぞ。」
「分かった。少し休憩するが後は任せる。」
「オーケー!ひとまずお疲れさん!」
通話が切れた。
「わざとらしいなー。やけに理解するのも早くてあっさりだし。まるでアイツらが盗賊で捕まるの分かってたみたい。てか場所も聞かれてなくない?」
「お前たちももう分かっている通り、最初から仕組まれていたな。それにおそらく魔法体の何かが遠くからこちらの様子を見ているぞ。敵意がないので放っておいているが、街を出てからずっと、気配が微かにある。」
「マジか。イケおじの差し金かね? 一応ちゃんと心配はしてたんだな。」
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ということで。俺たちはお腹も空いたので休憩がてら、昼食にした。今は少し戻って森の出口にいる。
「はー美味しかった。ご馳走様でした!」
「最高でした!ご馳走様です!」
「お粗末さまでした。」
「やはりアイシャのテニギリに限る。」
「うむ!こんな上手くて手軽なメシもあるのだな!素晴らしい!」
「ふふふ。私が考えた料理じゃないですけど、ありがとうございます。」
宿を出てギルドに行く前に、市場に寄って買い足していた食材を使った。コムギーコを手で丸めて、中に具材を詰めこんだ料理。その名もテニギリ。
色んな意味でまんまだけど、外でみんなと食べているから当然めちゃくちゃ美味い。スレッジハンマーとのアレコレも吹っ飛ぶくらいに、五臓六腑に染み渡る。
ほうじ茶がまたテニギリに合うこと会うこと。
ゴールデンコンビだね。
「このお茶もおいしい。なんて言うんだ? 」
「これですか? ほうじ茶っていうんですよ。」
ほうじ茶はほうじ茶だった。
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「という事で、お前らのお迎えがもうすぐここに来る。大人しく捕まることだな。」
カルナギス峠に向かう途中、街道の横で転がっている、レッジハンマーの様子を確認している。
ウォーデンが拘束している道具の状態を再度確認しながら、スレッジハンマーに話しかけた。
有刺鉄線のようにトゲが上下に出ているから、無理に外そうとすればトゲが体に刺さるらしい。強力な魔法で加工してるから、魔法で破壊も普通は無理とのこと。
捕縛する側だと思っていたら逆に捕縛されている面々。
暫くは騒いでいたみたいだが、さすがに大人しくなったのか、無言だ。
なんかなぁ。境遇とか色々と、こうなってる理由がそれぞれあるのかもしれないけど。
「なんで盗賊なんてやってるのかは知らない。あんた達みたいな人間がいるのは世の中にも原因があるのかもしれない。でも生きる為にそんな悪い事をする必要は本当にあるのか? 」
「お前に何がわかる。」
ギャレスがボソリと呟く。
「分からないよ。ただ、他人と奪い合うより、出来るだけでも与え合う方が生きやすいってだけだ。そのために何ができるか。一度冷静になって考えてみたらいいと思う。」
「それじゃあ…。行きましょうか。」
「うむ。いつまでもこいつらに構ってはいられん」
「そうですね……。」
少し説教臭くなってしまったが。
それから真っ直ぐカルナギス峠に向けて歩きだして、結構時間が経った。
さっきまで歩いていた街道ーーーカルナギス街道というらしいーーーをそのまま進むと、山の反対側へと下り、他の街へと繋がるらしい。
俺たちの目的地は峠にいるヒクイドリなので、地図を頼りに、街道から外れて獣道を歩いた。
しかしここからも結構大変だった。
峠に向かっているだけあって、獣道がそこそこの急な斜面になっているのだ。しかも長い。
この身体でも疲れるくらいだから、元の俺なら途中でギブアップしてるかも。
エストに乗ろうって話しも出たけど、目立つとヒクイドリを刺激してしまう可能性があるので止めといた。
そんなこんなで1時間くらいでやっと森を上り、やっと開けた場所が見えてくる。
サッカーコートくらいのテーブル状の空間だ。
ゴツゴツした岩場と短い草の原っぱが混じっている。
「やっと着いたぁぁ〜。 風が気持ちいいですね~。」
ファナが手を広げて風を浴びている。
「確かに、見晴らしもいいし気持ちいいですね。」
アイシャも同じポーズで深呼吸している。
峠というだけあってかなり高い場所に来たなぁ。岩場の下には森や、草原が広がっているのが遠くまで見える。かなりの絶景だ。
恐る恐る崖下を覗くと、下の森はかなり遠い。
「落ちたらここに戻れなさそう。ていうか下手したら死ぬんじゃ…。」
あ、違うぞ? フリでもフラグでもないからな!
「良い空気と景色だな。本当にここにヒクイドリがいるんだろうか。」
ウォーデンが辺りを警戒している。
「あ。もしかしてアレが巣じゃないですか?」
何かに気付いたファナの指の先を見ると、隆起した岩の後ろに、直径3mくらいで円形に少しだけ盛り上がった場所があった。
近寄ってみると、その中には、草や葉が敷き詰められている。
そしてその上に、1m弱の卵が3つ鎮座していた。
2つは薄らと赤みがついて黒い斑点がある。
もう1つは燃えるような美しい赤。
「巣だな。」
「うむ。巣だ。」
「ええ。巣ですね。」
「親ヒクイドリは? これ今戻ってきたら結構ヤバくない?」
「あぁ。間違いなく、卵を狙っていると思われるだろうな。」
一旦距離を取りたいな~、と腰が引けたが。
既にそれは上空に迫っていた。
「ギュエエエエエエエエエェェ!」
「ギャオオオオオオオオッ!」
「げぇっっっ!」
「で、出たァーー!!」
「でかい!」
「これはちょっとまずいですね…。番でこの大きさ。Aランクじゃないですか??」
おい!おいおいおい!!
最初に報告したやつ出てこい!
どんだけ遠くから見たんだよ!?
相当デカい個体なんじゃないのこれ!
オレンジ色の体色に、赤い羽をはためかせる2匹の番が、空から降りてきた。
「ギュエエエエ!」
「ぎえええええ!」
鳴き声に対して、俺の悲鳴が共鳴してしまう。
縦に5m、翼を広げた横幅は15mくらいありそう。
俺たち人間からすると、大きくなったエストと似たような迫力があるサイズ感だ。
そのヒクイドリが、2匹でこちらを睨んでいる。
でも威嚇するだけで、意外にもまだ動いては来ない?
すぐさま攻撃してくると思ったけど。
「フン、上等だ。お主らもやるしかないぞ。これが人里に向かえば只では済まない。」
「待ってください。こちらから仕掛けなければ…このまま退けば……。襲いかかっては来ないかもしれません。」
「そうだ! ヒナが産まれれば山に帰るかもしれないんだろ!?」
「むぅ……。つまらんが、一旦引くのも仕方ないか。」
エストは不満そうだけど、こんなのムリ!
と、後ろに下がり始める。
「ギャオオオオオオオオ!」
ダメ!? このまま逃がしてくれないかな!?
しかしヒクイドリは俺たちに威嚇したのでは無かった。新たに迫る、別の脅威に威嚇していたのだろう。
「グオ‘’オ‘’オオオオオォォォォォーー!」
「「「「「え?」」」」
後ろから、ヒクイドリより野太くデカい鳴き声、というか咆哮が聞こえて振り返る。
そこにはヒクイドリよりもさらにデカい、飛竜がいた。