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12話 みんなで買い物

各話のタイトルから話数表記を1度消したのですが、やはりあった方が分かりやすいかと思い、付け直しました。


俺たちが入ってきた門から見て、街のやや左側の区画に入った。ウォーデンの言う通り、少し雰囲気が違う。


落ち着いた料理店や住居よりも、やや個性的な外観で、様々な用品店らしき店が並ぶ。


けどなによりも目を引くのは、大きな広場の中央。

カラフルなテントの屋根を張った出店が、ズラっと3列で縦に並んでいる。


店員の客呼びの声や、客が値段を聞く声も聞こえて活気を感じる。


「おおぉ~またすんごい雰囲気!」

区画によって見せる顔が結構違うんだな。


「すごいですよね。私も初めて見た時テンション上がっちゃった。」

ファナはキョロキョロと店に後ろ髪を引かれている。


「賑やかで私も好きです。ですが、細かい買い物はあとですよ? まずは服から買いましょう。」


「「はーい。」」


「あった、あの店だな。」

ウォーデンが広場の端、青い木造の造りに白い雨避けがついている店を見て言った。


「高くない? 大丈夫?」

「ん? あぁ値段の話か。大丈夫だ。色々と揃う店だならな。」


「それなら助かるけど。着れればなんでもいいからね?」


少々派手な外観をした店に向かう彼についていき、中に入っていく。


店内は想像してたよりも、庶民的で少し雑多な感じだった。でも絶妙に小洒落ている。


「わー!中も可愛い!」

「ふふふ。良いのがあれば1着買いますか?」

「えっ!私は大丈夫です!」


「いらっしゃい。おや、あの時の旦那さんかい」

女性の店員がウォーデンを見て声をかけてきた。


「あぁ。また入り用で買いに来た。」

「それは嬉しいね。旦那はいっぱい買ってくれたからね。覚えちゃったよ。」


「常連?いやこの街初めてだよな?」

「この間が初めてだ。鎖帷子の下に着る簡単なものだが、大森林に行く前に、予備が無かった衣服をここで買い込んだからな。往復で1ヶ月を想定したのだ。」


「あーそっか」

たしかに普通に旅をするならともかく、戦闘もあるとなると話は変わる。それが1ヶ月だもんな。


「でも他の冒険者はいっぱい買わないの?」

「買いますが、普通はそこまで遠出はしないので、何着も買うことは少ないと思います。マジックバッグが無いと嵩張りますし。」


なるほど。地味に勉強になる知識だ。


「例の件はしばらく先だが、ここは質が良い。

ヨウスケ殿の予備も買っていこう。」


「アイシャは巫女装束が基本で、やっぱりこういう服は着ないのか?」


「…………。」

手に取った服を無言で凝視しているアイシャ。

こちらの声は全く届いてない?


ウォーデンが珍しく焦った顔でコソコソと耳打ちしてくる。


「アイシャはな……。巫女装束が正装だと言って聞かんのだ。たしかに魔力増幅の効果もあるし、特殊な素材なので丈夫だ。滅多に替えが要らないのも分かる。だが本当は別の服も着てみたいのだろうな…。しかし俺が言っても聞かんのだ…。」


「あぁ、そういう……。妹ってそうだよな。兄が勧めても聞かないんだ。巫女装束しか着ないのは流石に勿体ない感じするけど……。」


力強く頷くウォーデン。


妙に分かり合う兄2人。この世界の、しかも貫録があるウォーデンでもそうなら俺はもうお手上げだ。


「あ、これなんてどうです? 黒と水色でアイシャさんにも似合いそう!」


「………………。えっ私ですか!? 私は大丈夫です!!そ、それよりホラ!ファナさんは1着くらい予備が欲しいんじゃないですか? どうせいつか必要になりますよ!買ってあげますから!」


「えっ、私こそダイジョーブで、って、ちょちょっと、アイシャさん!!」


何やらキャッキャしている女子2人。

なんだこれ。ここって異世界だよな?

まるで男女2組でショッピングしているような感覚に襲われて目眩がする。


何となくエストに視線をやる。

「服など要らん!我は食べ物さえあればいいぞ!」


お前はそうだよな……。地球の、ペットに服を着せる文化を思い出して、首を振る。さすがにナイナイ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「毎度どうもー!」

元気な店員さんが見送ってくれた。


俺は適当な布の服を選び、ウォーデンに買ってもらった。ひとまず2着で銀貨3枚と銅貨50枚だ。硬貨の価値や物価の基準が分からないけど、確かに良い店みたい。


あと面白い発見もあった。普通の服屋だと思っていたけどあったのだ。そう。魔法効果のついたものが。


風元素が糸に練りこまれていて敏捷性の上がる服。

他にも、炎元素を宿した魔法陣が、生地の裏地に刻まれていて耐性upがつく服などなど。


中でもいちばん高いのは、金貨が3枚の服。デスパラライズワームという、なかなか危険な種類のモンスターが吐く繭から作られていて、土耐性と麻痺耐性までつくそうだ。その効果抜きでも、下手な革の鎧よりも丈夫な素材らしい。


ただ、効果付きの服は安くても銀貨50枚以上と、値段が何倍も変わるので、さすがに買いはしなかった。まぁまとまった金が手に入ったら1着くらい買ってもいいな。


それを言ったら店のマダムも喜んでいた。

効果付きの装備って、それだけでちょっとテンション上がるのだ。


ちなみに女性陣はというと。アイシャは何やら顔を少し赤くしている。その横ではニコニコのファナ。どうやら、ファナが選んだアイシャ用の服を買ったようだ。女同士、楽しそうでなにより。


「さて。あとは少し出店や露店を見てから、ギルドに行くとするか。」


「いいね。そういやサワーアップルもここで売れるのか?」


「あぁ。商人ギルドの方が売値は間違いないが、時間も時間だしな。買い取ってくれるならどこでもいいだろう。」


そう言えば、日も暮れてきた。


「サワーアップル?」


「俺たち、ちょっと遠くから来てな。その時に少し珍しいアップルを採ったんだよ。」


「へ、へぇ~、どんなのですか?」

「おい、ヨダレ垂れてるって。まだ食べたばっかりだろ。」


「あれは美味いぞ。肉好きな我でも好きだからな。高く売れるだろう。」


アイシャが取り出してファナに見せる。

「これです。ひとつは手元に残すつもりなので、宿を取ったらみんなで食べましょう。」


「いいんですか!? ドンドン借りが増えるばかりですけど…。でも食べます!」


増える借りでも食い意地には勝てないらしい。


そんなこんなで、ガヤガヤした出店の間を進んでいると、各種フルーツがズラっと並ぶ店の前まで来た。


アイシャが話しかける。


「失礼します。ちょっとみて欲しいものがあるのですが。」

「はい、なんでしょう?」

少し恰幅のいい、赤い帽子に黒ヒゲの店主だ。


「このサワーアップルなんですけど。昨日ドラグ大森林で採れたもので、マジックバッグに入れていたからまだ新鮮です。4つほどですけど、買い取って貰えませんか?」


「ほほうサワーアップルですか!珍しいですね!どれどれ?」


そう言ってサワーアップルを手に取る店主。

むむむ~という顔で、虫眼鏡を使って色んな角度から見定める。そして徐々に驚いた顔に変わっていく。


「あの、これはドラグ大森林のどの辺りで採りましたか?」


「ええと…色々あって、中央付近で。」


「やはりそうですか!ドラグ大森林は街から近いとはいえ、奥まではまず行けませんからね!出口付近のサワーアップルも数は少ないで、それなりに価値が高いのですが、これは糖度と香りがかなり違うんですよ!表面のツヤと、ヘタの色に特徴があってですね!」


すごい饒舌だ。それだけレアで品質もいいのだろ。


「1つ銀貨15枚で買いましょう!!」


1つで銀貨15枚!?

あのステーキ何枚分なんだ?

服が何着も買えてしまう。

思った以上なのか、ウォーデンもアイシャも驚いている。


「ではそれでお願いします。」


「ありがとうございます!」

ニコニコの店主。まぁそんなに希少なら貴族にでも売れるのかもしれないな。


代わりにアイシャは、銅貨80枚の、実が大きめのブドウのような果物を買って店をあとにした。


「すごいですね!1つで15枚なんて!」

「えぇ、私も驚きました。1つで銀貨3枚くらいかと思ってましたから。」


「我が認めるフルーツだぞ。お主らの見る目がないのだ。あの店主はなかなかの慧眼だな!」


確かに今回は言い返せないな。

人間の料理を食べた経験が無かっただけで、天然モノに関しては舌が肥えてるのか?


「さて。それでは冒険者ギルドにいくとするか」


と、歩き始めると、背後から男の怒声が聞こえた。

「テメェ!待ちやがれ!!」


ザワっとして俺たちとその他、数人の視点がその声の主に集まる。


この街の住民だろうか? これと言って特徴のない格好をした金髪の男と、駆け出したのは虎っぽい獣人。


トラ男は、人の間を縫って既に広場から出ようとしている。


「そいつはスリだ!俺のサイフを盗みやがった!!誰か捕まえてくれ!」


叫びながら自ら追いかていく、金髪の男。

周囲のザワザワが大きくなる。


男はそのまま追いかけて、すぐに広場から見えなくなった。


スリだって!?そうらしいぜ? 物騒ですねぇ。

などなど、ザワザワしているがすぐに収まり、平時の賑やかさに戻っていく。


俺も仲間のいる後ろを振り返って、話そうとした。

その時。


「その手をどけろ。さもなくば……。」


後ろにいたウォーデンが、忍者刀を抜いて男に突きつけていた。


「えっ」

「「っ!?」」

驚く俺と、息を呑むアイシャとファナ。


何も違和感のない、普通の服装をした赤い長髪の男は、アイシャが肩で掛けていたマジックバッグに、横から手を出そうとして止まっている。


「チッ!」


赤髪の男は、すぐさま身を翻して駆け出す。

ウォーデンは追おうとするが、こちらを見て立ち止まる。


「大丈夫か?」

「え、ええ。ありがとう兄さん。」


アイシャも少し動揺しているようだ。


「私、びっくりして声も出ませんでした。い、今のってアイシャさんもスリに…?」


「間違いないな。便乗して狙ったのだろうな」

「俺もビビったよ!立て続けに2件もスリって!」


「こすい事をする人間だな。鑑定したが、一瞬だったから『アドルフ・ノーマン』という名前しか分からなかった」


「今の一瞬で鑑定したの!? 」


「腕の立つ者、こちらを警戒するもの、危害を加えようとするものには一瞬でも早く鑑定をするのが大事だぞ。今のは腕は大した事ないと思うがな。」


「ほえぇ。勉強になるけど、俺もそんな反応よく鑑定を使えるようになる日が果たして来るのか…」


「にしても許せません。この様子だと、17件以上にサイフの紛失者が増えてそうじゃないですか? 私も気をつけますけど、捕まるといいですね。」


「あぁ。しかし怪我が無いなら良い。」


「はい。」

「うん。ウォーデンが居て良かったわホント」


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