【05 家の外】
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・【05 家の外】
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「おい! 鈍臭いクソバカ少年! お姉ちゃんができて嬉しいでちゅねー!」
さっきまで家を建てていた男性が僕に話し掛けてきた。
今は持ち場を離れて、だらだら道を歩いていた。
さっきまでは家を建てていたからまだ尊敬するポイントもあったけども、この状態じゃただただ腹立たしい。
ナツツさんはムッと口を真一文字にしてから、
「そういう言い方は本当に良くないと思う!」
と言うと、男性が、
「ナツツだって訳分かんないこと言うじゃねぇか! それと一緒一緒!」
いや笑わせたいナツツさんの言葉と、この男性の言葉が一緒のわけないだろう、と思ったので、本当は言いたいんだけども、それこそこの男性が逆上して何をしてくるか分からないので、僕は黙って目を合わせないように俯いていた。
それを見た男性が笑いながら、
「沈黙の魔法に掛かっているのかな! それとも考える脳が一切無いのかな! かわいそうでちゅねー!」
と言ってきたので、さすがに男性のほうをハッキリ目視すると、僕は少し驚いてしまった。
何故ならその男性のハートマークの色が明るい色ではなくて、むしろ少し淀んでいたからだ。
好きで失礼なことを言っていて、自分としては気分が良い、という色だと思ったら、不安そうなハートマークの色をしていたのだ。
一体どういうことだろうと小首を傾げていると、ナツツさんが、
「この人と会話していても良いことないから、とりあえずシュッカさんに会いに行こうか!」
と言って僕の腕を引っ張って、宿屋のほうへ歩いていった。
宿屋は道中と違い、活気に溢れていて、働いている人達も忙しそうだった。
ナツツさんが店員さんに話し掛けると、店員さんが、
「今は朝のまだ早い時間帯だから待って待って! 用があるなら比較的暇になる昼の時間で! あともうちょっとだから!」
と言ったので、僕とナツツさんは店員さんに促されるまま、ロビーっぽい場所のソファーがある場所に座った。
そこで僕はさっきハートマークが淀んだ色だった男性の話をナツツさんにすることにした。
「ナツツさん、さっきの男性、ハートマークが淀んだ色でした。人に失礼なことを言うことが好きな人で、好きでそういうことを言っていると思ったら、何か違うみたいです」
それにナツツさんはビックリしながら、
「えっ! そうなのっ? あの人はいっつもそうだから私も好きでそういうこと言う人だと思っていた!」
「何かずっと不安になりながら、あんなこと言っているみたいです」
「どういうことなんだろう……私もちょっとそれは分かんないなぁ……」
ナツツさんも一切ボケずに頭上に疑問符を浮かべて唸ってしまった。
そんな時だった。
1人の女性が僕たちに話し掛けてきた。
恰好からして多分店員さんの1人らしい。
でもさっき対応してくれた店員さんとは別の人だ。
「おう! クラッチさんから話石で聞いたで! アンタが異世界から来た少年やな! よろしく! アタシはシュッカちゃんやで!」
何だか妙な関西弁の人だ……異世界にも関西弁とかあるのかなぁ……一体どういうことなんだろうか。
いやそれよりもまず挨拶をしなければ。
さすがに挨拶をしなければ、本当にあの失礼な男性のようになってしまう。
「あの……僕はタケルといいます……2021年の日本から来ました……」
ナツツさんは僕の言葉を理解していないようで、小首を傾げているが、シュッカさんはすぐさまこう言った。
「年代がちゃうみたいやな! 知らん国やし! 時系列がズレていても同じ世界に転移するらしいな!」
僕は聞きたいことがすぐに浮かんだ。
これは絶対に聞かないといけないヤツだ。
僕は意を決して、喋ることにした。
「……ではシュッカさんは年代が違うんですね、国も違って……でも僕はシュッカさんの言葉が僕の国の方言である関西弁という言葉に聞こえるんです……」
するとシュッカさんは僕のほうを指差しながら、
「言葉な!」
と叫んだ。
まるで『それな!』のような感じの表情をしているので、多分そういう意味合いで間違いないのだろう。
シュッカさんは続ける。
「あくまでこれはアタシの仮説やで? 猫や犬のような動物たちも意思疎通をしているけども、複雑な言葉を発しているわけではないやん?」
「はい、そうですね」
「でも通じているのは、きっと電波や波長を脳に飛ばし合っているからだと思うんや」
僕は頷き、シュッカさんはさらに続ける。
「だからアタシたちもそういう電子信号を脳の奥で送受信して会話しているから細かいニュアンスも伝わるんちゃうかなと思うんや。アタシの言葉が関西弁というヤツに聞こえるのは、アタシの口調がタケルの世界のニュアンスで言うとこの関西弁だからちゃうん?」
分からないような分かったような、でも脳の奥で送受信しているというところは確かに、と思った。
言われた言葉を深層心理で分かっていると思えば、ある程度理屈は通じる。
そうだ、これを言わないと。
「シュッカさん、ありがとうございます……少し胸の引っかかりが取れました」
そう言うとシュッカさんはデカい声で笑ってから、
「かまへん! かまへん! というかタケルは礼儀正しいからそのモゴモゴ喋るとこ直ったらすぐさま宿屋で働いてほしいわ! 即戦力やで!」
僕は即戦力なんて言われたことが無かったので、何だか嬉しくなった。
でもまあ確かにこの内気に喋ってしまうところをどうにかしないとダメだなぁ、と、本当にそう思った。
ふと、ナツツさんのほうを見ると、何故かちょっと不満げで、ハートマークも少々淀んだ色になっていたので、僕はナツツさんへ、
「どうしたんですか? 気になることありましたか?」
「いや! 何か勝手に盛り上がってズルいと思っただけ! 私のほうが絶対にズルなのに!」
と言ったところでシュッカさんがすぐさまツッコんだ。
「いやズルを自慢してもアカンやろ!」
するとナツツさんが、
「これはタケルからツッコまれたかったのに!」
と言うとシュッカさんが、
「それは知らんわ! アタシはそもそもツッコミ体質やねん! ガンガンいくほうやねん!」
と言ったところでナツツさんは立ち上がり、また僕の腕を引っ張り立たせて、
「じゃあシュッカさんから情報も得たことだし、帰りましょうか!」
僕は最後にもう一度シュッカさんにお礼を言ってから、宿屋を後にした。
さて、次はどこに行くのかな、と思って、
「ナツツさん、どこに行きましょうか」
「とりあえずまたクラッチさんのところへ行こう!」
そう言ってまたナツツさんは僕の腕を引っ張って歩き出した。