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【03 ツッコミ】

・【03 ツッコミ】


 ナツツさんは明るい声でこう言った。

「タケル! 言葉は全部分かるっ?」

 僕は頷いた。

 ナツツは続ける。

「じゃあ結局人見知りで声が出せないってこと?」

 また僕はコクリと頷いた。

 するとナツツさんは満面の笑みになって、ホッと胸をなで下ろしながら、

「良かったぁ! 私が嫌われているわけじゃなかったんだぁ!」

 と叫んだ。

 そうか、そう思われても仕方ないか、喋っていないんだから。

 ナツツさんはさらに、

「じゃあタケルは家が無いだろうから、これから私の家で生活すること!」

 と言いながら、親指を立ててグッドマークをした。

 いや迷惑では、とか思って、いや思うだけじゃなくて、これは言わなきゃ。

 なんとか勇気を振り絞って……!

「迷惑……じゃないかな……」

 と僕が言うと、キョトンとした表情のナツツさん。

 ちょっとした間。

 でもすぐにナツツさんが、

「そんなことないよ! というかそんなことを言わなくていいよ! むしろボケたらツッコミを言ってよ! そっちのほうが明るい!」

 そう言って笑った。

 その太陽みたいな笑顔に何だか心が休まる。

 だから

「ありがとう……」

「うん! どういたしまして!」

 ナツツさんはそう言うと小躍りした。

 本当に明るくて素敵な女の子だ、と思ったその時、何だかもうちょっと喋れるような気がしてきた。

 ここまでいろいろ優しくしてくれる女の子ならば、もうちょっと喋っても怒られないような気がしたから。

「あの、両親は、大丈夫なのかな……急に住むとなったら……」

「あぁ! それは大丈夫! 私の両親は今旅行中でいないの! 家は今私一人で寂しかったんだぁ!」

「それなら……いいけども……」

「というか結構喋れるようになってきたね! じゃあ早速このまま世界旅行だ!」

 うん、多分ボケたんだと思う。

 でもなんというか、ボケにはなかなか反応できない。

 失礼なツッコミになったら嫌だから。

 そうやって沈黙していると、

「まっ、まあ今のボケはちょっとイマイチだったねっ、とにかく! ツッコミたかったらいくらでもツッコんでいいからね! 早く元の世界に戻れるように!」

 しまった、ツッコまないことにより、ボケがイマイチみたいな感じになってしまった。

 う~ん、勇気を振り絞って何か言わないとダメなのに……。

 いやでも、それよりも、言わないことが今あって。

「あの、ナツツさん、僕、何か、家事を手伝わせてくれないかな」

 住むからには何かしなければ。

 対価がどう考えても必要で。

 当たり前の台詞だと思って言ったつもりだったけども、ナツツさんは妙に驚きながら、

「そんなこと言うなんて! すごい! タケルは働き者だね!」

 どうやら喜びつつも驚いているみたいだ。

 いや

「そんな、その……住まわせて頂くなら、普通だよ……」

「さらにそんな丁寧な言葉まで! いいの! いいの! 喋りは普通でいいよ!」

「じゃあ、えっと、とにかく、何か家事を手伝わせてほしいんだ」

 僕がそう言うと、ナツツさんは

「こっち! こっち!」

 と言って、そのまま歩き出したので、僕も付いていくと、そこは台所だった。

「私って料理が全然できないのっ! もうどれくらいできないかというと料理くらいできないのっ!」

 例えているのに例えていない、というボケに違いない。

 でも、うん、勇気を出してツッコんでみよう。

「例えているのに例えてないね……」

 あまり凝った言い回しができず、口にした直後から落ち込んでいると、ナツツさんはパァと明るく笑って、

「ツッコんでくれた! ありがとう! 嬉しい!」

 そう言って僕の手を握ってブンブン振り回した。

 その力が強くて、ちょっと倒れそうになる僕。

 つい口から、

「危ないよっ」

 という言葉が飛び出すと、舌をペロッと出してからナツツさんが、

「いけない! ボケ動作じゃなくてマジ動作しちゃった!」

「別に、ボケ以外の、動作も、して、いいけども……」

「そりゃそうだよね! でも力の加減分かんなくてゴメンね!」

「いや、大丈夫、大丈夫だから……」

 僕は声が先細りになりながらも、そう言い切ると、ナツツさんは、

「だいぶ私に慣れてくれたみたいで嬉しい! ということでどんどんボケていくよ!」

 と言ったんだけども、それよりも1つ、僕は気になっていることがあって言ってみることにした。

「何でナツツさんは、そんなにボケることが好きなの? 僕のため?」

「ううん! ボケるのが好きなだけ! 私は大勢の人を笑わせる王様になりたいのっ! その練習!」

「そ、そうなんだ……」

 あまりにも真っすぐな瞳に少し蹴落とされてしまった僕。

 僕もこのように自分の夢をハッキリ言える人間になりたいなぁ……。

 あぁ、そうだ、そうだ、料理の話をしなきゃ。

「僕、料理は少しだけできるよ、煮たり焼いたりするくらいだけども……」

「それだけできれば十分だよ! 私ってすぐ焦がしちゃうの! 注意サンマなの! 柑橘系絞って食べちゃう!」

「きっと、注意散漫、ですね……」

「それぇ! よく分かってくれたぁ! 脳の滑舌が良いね! タケルはっ!」

 そんな、ちょっと良く分からない言い回しだけども、褒められたことなんてないから僕は照れてしまった。

 すると、

「じゃあもっとボケていこうっと! タケルのツッコミいい感じだから、私と相性いいかも! どんどん練習していこう!」

 そう言って急に足踏みを始めたので、これはきっと、タップダンスだと思って、思い切って言ってみることにした。

 だってナツツさんはきっと、僕が間違ったことを言ったとしても、明るく返してくれそうだから。

「練習って、ボケ、じゃなくて、タップダンス……するの?」

「あっ! タップダンスとかも分かるんだぁ! しっかりツッコんでくれて有難う!」

 そうだ、何で異世界なのに注意散漫などの普通の言葉から、タップダンスのような細かい言葉も通じるのだろうか。

 いやでも呪いなんてものもあるから、そういう言語くらいは勝手に通訳されるのかな。

 とか考えていると、ナツツさんは人差し指を立てて、チッチッチッと鳴らし、こう言った。

「でもちょっとキレが悪いね! ツッコミのキレが! もっとバシンときていいからね! 肩とか叩いても大丈夫だから!」

「なかなか、慣れなくて……」

「じゃあ慣れたら思い切りきていいよ! ところで……」

 急に真剣そうな顔をしたナツツさん。

 一体何だろうと思っていると、

「その、呪いの回数ってどうなっているの? 自分で分かるようなモノなの?」

 と言ってきたので、ここはカウンターの説明をしつつも、自分も数を確認しようとすると、なんと表示されている数字が”00000”のままだったのだ。

 でも一人で驚いていてもアレなので、まず説明することにした。

「この僕の、左腕に、付いているモノは……多分カウンター、というモノで、僕がツッコミをする度に、数が増えていく、数を数えていくモノ、なんだと、思うんだけども……増えていないです……」

「じゃあツッコミのキレが悪いんだ! もっとガッツリとツッコんで大丈夫だから! もうホント、毒草にソフトタッチくらいガッツリと!」

「いや、全然、やわやわの、タッチで、ガッツリじゃ、ないです……」

「……カウンターってヤツ、増えたっ? いや増えてない! やっぱりガッツリ感が足りないよ!」

 そう悔しそうに地団駄を踏んだナツツ。

 いやでもそんなガッツリ感が足りないということなのだろうか、クラッチさんが言っていたニュアンスがどうのこうのみたいな話が脳裏をよぎる。

 もしかすると何か違うツッコミなのではないだろうか。

 いや違うツッコミって何? という話だけども。

 まあ僕のことは良いとして、今は

「料理以外に、掃除とかも、いくらでもできるけども、どうかな……?」

「そっ! 掃除もしてくれるのっ? すごい! 嬉しい! じゃあそれもよろしく頼むね!」

 嬉しそうにただただ小躍りをしているナツツ。

 それはそれでいいんだけども、台所の様子が良く見ると少しおかしい。

 ガスコンロというか、IHヒーターというか、そういったモノが無くて、そういったモノがありそうなところに大きな鉄板のような石がある。

「火ってどうやって扱うの?」

「……知らないの?」

「いや多分、僕の世界と違う感じで……」

「そういうことか! この石に火が出ろって念じると火が出るよ! 止まってと念じれば止まってくれるし! ちなみに水は私が毎日川から運んでくるから大丈夫だよ!」

 というわけで試しに僕は火が出ろと念じると、なんと本当に石から火が出たのであった!

「すごい……本当に、こんなことで、火が出るんだ……」

「そうだよぉ! ちなみにお金持ちの家には水が出る石もあるんだよぉ!」

 やたら得意げな表情をしているナツツさん。

 まあ多分この世界の基本中の基本だろうから、そんなことで驚く僕を見ることが楽しいんだ。

 そんな感じで僕はこの世界のことをナツツさんから教えてもらった。

 掃除道具は普通に僕の世界と同じく箒や雑巾のようなモノで、少し素材は違ったけども、同じように扱えた。

 木や布製品は大体僕がいる世界と同じ感じで、でも機械の類が一切無く、電話は無かったけども代用品があった。

 それも石で、念じると声を届けることができるらしい。

 でもナツツさんの家にはそれが無かった。

 電話は話石と言われて、高価らしい。

 家のことを大体覚えた僕はナツツさんと一緒にこれから外へ出る。

 もっといろんなことを教えてくれるという話だ。


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