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惑いの域  作者: 風雨
17/20

元凶

 改めて踏み込む決意を固めた逸海は隠し通路に足を踏み入れた。


「テンちゃんって真人さんと一緒にいたんだよね。ミイラの存在っていつ知ったの?」


周囲の土壁は先程まで通った通路と変わらないことに物珍しさを失ったヨウは疑問を口にした。


「伝聞としてテン一族に共有されている事情でして、私が知ったのは真人さんがこの高校に通う頃。逸海さんも入学されたので一帯を調べ直していたのですが、」

「怪異除けの結界があって認識していなかったんだね」


ヨウの言葉は正鵠を射ておりテンは再び項垂れた。テン対策、というわけではないが認識阻害されていれば仕方なきこと。逸海とてそれを責めるつもりはない。むしろ逸海の知らないうちにそれだけのことをしていたのだと感心している。


「ミイラは死者が死後に楽園に向かうために造るね。カタチとしてはキョンシーにちかいかな」

「博識と褒めたいが、エジプトの死生観をよく知らん。それにキョンシーの方もな」

「簡単に説明すると、ミイラは死んだ人は魂が抜けただけだから綺麗に保存されていれば楽園で生きられる。だから肉体を大切に保存しているって感じかな」


土葬の国では肉体をもつゾンビが生まれ、火葬の国では魂や骨が怪異として登場する。

同様にエジプトでは楽園に向かうために肉体を綺麗に保存している。そのためミイラが怪異として登場する。


「死後の世界で幸福に暮らすこと以外にも次の生を謳歌できるなんて考えもありますね」


テンの補足に逸海は適当に相槌をする。


「で、キョンシーってのは中国のジャンプするやつだろ?」

「あれは魂の抜けた身体に別の魂が入り込んで動くとされているんだよね」

「アメリカの映画のゾンビと一緒か?」

「ゾンビは浮遊霊が入り込む例もあるけど、一般的に流布しているのはウィルス性だね」


 ここが地下洞窟でなく下校途中であり、皆が同級生としてなら、こんな帰宅時間を過ごせたのかもしれない。それほどまでに日常に近づいた異常な三人組。

人間一人、怪異一人、両側に位置する者一人。雑談が日常の一ページの様にテンとヨウの話は全員の心に平穏をもたらし周囲を照らす光は地下空洞の最奥まで照らす。


 ここから先へ立ち入る者、命の保証はない。

地下空洞の一番奥に辿り着いた三人は厳重そうな鉄の扉の前に立つ看板で足を止めた。

幾度も曲がったため正確ではないが、この場所は恐らく体育館の真下に当たる位置。

 周囲に目を凝らすテンが何も言わない以上、他に隠し通路はなくここが本当の最奥。

怪異を寄せ付けない入口、人を寄せ付けない隠し通路を経て辿り着いた扉。

扉の上のプレートは錆びているわけでも、血飛沫に消されたわけでもない。ただの風化、時間劣化によって読むことができない文字が名残として存在している。

容易く開けることの敵わない鉄の両扉。

だがその作りは荘厳ではなく日常ではあまり見かけないだけの普通の扉である。


「では、私は先に入っていますね」


テンはお得意の空気と同化し姿を消すと先に扉の中を確認しに動いた。


「じゃあ俺達も入るか」


逸海はテンを追うように扉を押し込もうと手を掛けた。


「えっ⁉」


扉に触れた途端、逸海のツメが一直線に割れ血が噴き出した。

突如迫る激痛に思わず手を離し血が噴き出た指を服で拭い指を確認する。


「逸海、大丈夫?」


あまりの出来事に不安さを隠せないヨウが逸海の指を覗き込む。


「爪が割れた……だけではないよな、きっと」


鋭い痛みの正体は爪が割れた痛み。そこから我先にと血液が爪から噴出した。普段、爪を気にしていないことが祟ったと思うにはタイミングが良すぎる。

それを確かめるために逸海は逆の手で扉に触れる。


「ッツ」


やはり扉に触れた逸海の爪が割れそこから血が噴き出る。

不可解な現象に意識を向けようとするもズキズキと痛む両手の指の影響で集中できない。そればかりか痛みは引く様子はなく傷口が脈動しているように痛みが肥大化していく。


「逸海さん、扉に触れない方が……って遅かったですね」


テンが忠告と共に戻るも時すでに遅く両指の爪から吹き出る出血を抑えようと懸命に試行錯誤していた。気づけば足元に小さな血の水溜まりができておりその異様さを際立たせる。


「爪も触媒にされていたのでまさかとは思いましたが……兎に角、傷の手当てが優先ですね」


テンは逸海の指に触れとめどなく流れる血を抑え込み爪の修復をする。


「便利な力。テンって有能?」

「これはあくまで回復を早めるだけ。逸海さんの修復力がなければできないことです」

「つまり逸海が死んだときに蘇生はできないんだね」

「まぁ修復を早めるなら老けるのも早くなりそうだし多用は厳禁か。それで中はどうだった?」


手を開閉し痛みがないことを知ると話の主題を扉の中にいる怪異に話を移す。


「扉の中ですが憎悪に満ちていること以外は特に変わりありません。ただそれは怪異には安全なだけでやはり人間に対しては殺意以外何もないですね。それに───」

「ほほぅ、ということはやはり私が逸海の身体に入り込む必要があるわけだね」

「それでも身体から血が噴き出ることに変わりはないだろ。」


痛いのは嫌だ。と逸海はヨウが身体に入り込むことを拒絶する。


「先程、ヨウさんはミイラやキョンシーの話をされましたね」


テンの説明にほんの数分前の会話を思い出す。あれはたしかエジプトの死生観の話の時。


「中にいるのは結合双生児のミイラなんですが、」


結合双生児に逸海は首を傾げるがテンの言葉を遮る訳にもいかず知った顔で話しを聞くことにした。のだが、それに気づいたヨウが耳元で、


「一つの身体で二つの顔とか胴体が二つあること」


と、補足した。


「特別な力を持つ怪異。けれどもこのミイラではここから動けない。であればより健全な肉体であれば自由に動くことができる。だから探しているんです、魂の無い綺麗な肉体を」

「魂の無い綺麗な肉体を持つ存在ね」


逸海は中空に浮遊する霊体に視線を移す。


「いやぁ綺麗な肉体だなんて逸海も男だね。たしかに胸やお尻の大きさも形も綺麗な自負はあるけれど自己認識ではなく異性から言われれば嬉しくもなるよ。それに────」


嬉しそうに肢体をくねらせる死体に死んだ魚の目をした逸海はヨウを鼻で笑いテンに話を進めるように促した。


「恐らくはヨウさんの身体を求めているのでしょう。ですが魂だけ乗り移っても意味は──」

「身体を抑えたのであればとっくに身体を移り変えているんじゃないか?」

「ミイラの呪詛の効力範囲からしてヨウさんの身体に乗り移るには時間がかかる。乗り移るまでに時間を作るために封印した、というのが妥当な考えかと」

「なるほど、手始めに封印して、力が戻った時に肉体に戻るってことか。そして放置すればヨウの身体で殺戮を繰り返すわけか。ところで、テン」

「はい、なんでしょうか?」

「それだけ凶悪な怪異なのに正体を知らないのか?」

「……………」


逸海とて世界的に有名な日本人を挙げろと言われれば全員は無理でも分野で絞れば浮かぶ。テンもこれほど凶悪な存在なら否応なく知っているのでは、と逸海は訝しんだ。

 目は口ほどに物を言うし、沈黙は金なりという言葉を否定する。口を閉じたテンは涙を堪える子供のような潤んだ瞳は肯定することを躊躇い、否定することを拒否する。

近くで自己肯定感が強い女の自慢話に対して耳を折り曲げることで拒絶し、逸海は逸海で真横から聞こえる肉体美自慢に辟易しつつも僅かたりともテンから視線をはずはない。


「それはそうだよ。有名になったのは二〇〇五年頃と二〇二〇年頃。テンのような純正の怪異じゃなく、俺の強い怪物自慢を聞いてくれって感じで作られ怪異だからね」


黄金比の肢体の説明を終えたヨウは聞き手のいないことに不満気に頬を膨らませながら会話を遮ったが、ミイラの正体を知っている口ぶりである。

逸海は声を出さずに眉を上げて驚きを示すとヨウは頷いた。


「とりあえず入ろう。大丈夫、私がいれば逸海に被害はないから」

「いや、肉体に被害はあるんだよ。身体が戻って全靭帯断裂とか笑えないぞ」

「私の身体を求めているってことはこの私は霊体なの。私が身体に入れるということはその肉体は魂が存在しないことと同義。そうじゃなきゃ浮遊霊は誰の身体にだって入れるよ」

「魂の入れる肉体は死んだ肉体。つまり人間への憎悪の対象ではないというわけですね」

「………概念がわからん。理屈もわからん」

「魂の無い体は人ではなく死体なの。そうでなければこの怪異は適当な人間に乗り移って話は終わり。それをしないこの怪異に取って魂の有無が重要な意味を持つってこと」

「えっと、俺が死人だから、ヨウが魂を入り込んでもキョンシーになるから問題ない?」


逸海は自分の発言を理解せずに口に出す。そのためヨウもテンも首を傾げながら必死になって理解しようと試みる。


 逸海への説明のために二人はあれこれと手を変え品を変え説明する。

要約すれば、相手の土俵で戦うため影響はない。ということだがそれが難しい。

魂が入れる肉体とは魂が宿っていない肉体である。その状態が『死体』であり魂の抜けたヨウの肉体は死体と同義である。逆説的に、魂が入れる肉体は『死体』である。

逸海の身体にヨウが入れるということは、逸海の肉体は魂の抜けた身体であると言える。

 では魂の抜けた肉体は人間として扱われるのか。

気絶した人間は生者の中では人間扱いする。しかしこの怪異はその状態を人間として扱わない。

それはこの怪異が『人間』に対して身体を乗っ取らないことにある。

この怪異は人間にのみ明確な殺意を持つ。そのため人間とそれ以外の区別は明確に定義される。その境目は、外部から魂が入り込める空間が存在するか、否か。と二人は推察した。

そして逸海の肉体がミイラと判定されれば、人間に対して効力を発揮する呪いは意味がない。


「だから私が逸海の身体に入れることで逸海の身体は人間ではない肉体になるの」

「強引な理論ですが、人間にのみ効果を発揮するならそこには明確な境界線が存在します」


二人の言葉を大雑把に理解した逸海は困惑を隠しきれない表情で何度も頷いた。それは納得せざるを得ない空気を感じ取ったに等しく。逸海の頭では今でも同じ思考を反芻している。

それともう一つ。


「俺が部屋に入る意味は?」


逸海がこの扉の奥には入れる理由を踏まえても逸海が進む理由がない。

無事を確保できたから? 好奇心が疼くから?

そのどれもが逸海の中では否定できる。

 逸海の肉体の判定が人ではなくなり怪異の影響を受けないとして、テンが解決できるならそれで済む話。逸海以上に動けるテンがいれば十分。逸海が役立つとすれば人間の身であることを活かすこと。つまりヨウが身体を乗っ取る必要がなくなり、これまでの説明が無意味となる。


「俺が乗り込むってことは死ねって言っている事と同じだぞ。それでも行くのか?」


逸海には確信がある。二人がこの言葉に対して頷かないことを。

 逸海は二人で行くように促した。

ここは怪異に対しても入ってこられない結界が張られていた。ここに入ってこられる怪異はゼロではないが多くはない。二人がすぐに帰ってくるなら問題ない。


「その言い辛いのですが、私だけでは決心が鈍るといいますか」

「内容は?」

「見てもらった方が早い……と言っても納得してくれないですよね。えっと………」


テンは逸海の説得のために必死になって言葉を探す。テンへの恩が逸海の罪悪感を誘い困惑するテンに心が揺るがされる。


「私の晴れ舞台を見ていただきたくて、せっかく強大な怪異を倒すんですから」


テンのキッとした真剣な表情は言葉以上のものを伝える。まるで物語の結末を知るように、まだ知らない読者をせっつき促している。


「………わかった。そのかわりすぐ終わらせて帰るぞ」


テンの話では部屋の中のミイラは人間に呪いを撒くが怪異に対しては無力。ミイラは動けないためことが済むのはすぐだろう。そう判断し、これ以上の問答を避けた。


「なら逸海、私と交わろうか」


モジモジとウブな姿を演出するヨウと顔が死んでいる逸海。


「お前もキャラ変か。下ネタは受けが悪いから別に転向しろ」


適当に悪態をつくと逸海は覚悟を決めた。

 喉奥に指を入れられたように、水が鼻に入ったように、友人にカンチョウされたように。

外部から体内に異物が入り込む瞬間には全身に嫌悪感が走り必死に抵抗しようと変な緊張が走る。胃から込み上げる吐瀉物が食道を塞ぎ呼吸を止める。肛門は体外へ追い出そうと動くが他のモノが出ないように出口を閉ざす。

当然、それらの抵抗など意味を成さず逸海の肉体の主導権はヨウに奪取された。

だが今回は事前申告の元、逸海も覚悟を決めている。身体を奪われても不安なく、自分より優れた人間が自分を操作するのだからという卑下が地震を安堵させる。

それにこの状態になれば『自分の肉体が死体』であるかどうかも確かめられる。

好奇心ネコを殺す、というが吹っ切れた人間は何をするかわからない。それこそ自傷行為だろうが関係なく欲望を満たす。

 逸海はテンと顔を見合わせて頷き合うと鉄の扉に手を掛ける。

扉に触れて三秒間。何か変化が起こるか確認するが爪が割れる様子も他の影響もない。

 逸海の身体は逸海が使用している最中は人間である。しかしヨウが入り込めば逸海の身体はミイラと同じ扱いになることが証明された。ヨウが半死半生の様に、逸海の肉体も人間でありながらヨウと交われば怪異となる。


「それじゃあ、ミイラの姿とテンの雄姿を拝みに」


予想通り重たい扉だが開けられない重さではない。お腹に力を入れながら足を前に動かし全身で錆びついた扉を押すと脳まで響く耳障りな音とともに扉がゆっくりと開く。


「……ふぅ、思った以上に重たかった。逸海、筋トレしなよ」


扉を開け終えると逸海は身体を正常に戻そうと大きく息を吸い荒い呼吸を整える。

 部屋の中は予想以上に狭く部屋の中心に棺桶が置かれているだけの部屋。棺桶を安置するためだけに作られたと誇張する部屋の作り。不気味さだけが蔓延る部屋、視線は他の何物でもない棺桶だけに自然と引き寄せられる。


「逸海さん、これが呪いの正体です」


いつの間にか移動していたテンが逸海を棺桶の前に招くと躊躇なく蓋を開ける。


「オォ、思ったよりミイラだね」

(よく見れるな、俺はこういうのは苦手だぞ)


逸海は目の前のミイラから思わず視線を外すが、ヨウとテンは研究者の様に隈なく観察する。

 肉体からは水分がなくなり枯れ枝の様な細い四肢。骨が露出しその肉体には生は存在しない。臓器を失った腹部は凹んでおり肋骨だけが肺の存在を証左として残している。

そして一番の特徴は顔が二つ存在することにある。

右を向く顔と左を向く顔。本来は一つしかない頭部が二つあることに違和感を覚えるが二つの表情は苦悶のみ。それは自ら望んだ即身仏の姿ではなく望まぬ死を選ばされた犠牲者と物語る。

誰が見ても憎悪を感じ取らせる表情は一連の騒動を引き起こしたと納得するにふさわしい。


(……腕は四本、足は……踵がないのか)


片目を閉じていた精神の逸海だが怖いもの見たさにチラチラとミイラを眺める。


(ヨウは何か知っているようだったが?)

「うん、多分名前はリョウメンスクナ。二〇〇〇年以降にネットで語られる都市伝説だね」


 リョウメンスクナ。

名前の由来は古代日本、大和朝廷時代の八色の姓の一つである宿儺からという説ともう一つ。日本神話とされる日本書紀に記載される存在に『両面宿儺』がある。

その姿形は、一つの身体に顔が二つ。踵がくっついており膝の裏であるひかがみが存在しない。


「その容姿を真似して作られたのか、似ているから名付けられたのかは不明だけどね。このミイラは大正には存在しているから犠牲になったのはさらに前かな」


 このミイラの恐るべきことはその力にある。

リョウメンスクナがいる場所では天変地異が発生する。時には火山の噴火、時には津波、時には地震。大規模災害の中心にはこのミイラが存在している。

厄災を招くミイラ。それがここ数日、珠ノ美高校周辺で起きる怪異の元凶である。

そしてその力は時間と共に膨れ上がっている。つまり、


「放っておけばみんな死んじゃうかもね」


ヨウの口調は他人行儀で恐ろしさを感じないが内容だけで危険が迫っていることが分かる。


(天変地異なら本来は人間以外も殺したいんじゃないのか?)


噴火や津波で害を被るのは人間だけではない。津波が来れば魚や近くに住む動物にも被害が出る。噴火も然り。されどこの怪異は人間に対して執着を見せる。

逸海が明癒の家を訪れた時、猫がノンビリじゃれていること。巣へと帰る鳥たちの群れが羽ばたいていたこと。犬の遠吠え、鳥のさえずり。あらゆる場所から動物の声が聞こえてきた。

問題はもう一つ。観察し終えたテンの結論である。


「死んだものを殺すにはどうすればいいと思いますか?」


その言葉に逸海の肉体と精神はテンに睨むように意識を向ける。


「ミイラを破壊しても死んでいるのだから意味がない。されど生きている状態にするには屁理屈をこねても無理がある」

(意味ないのか? だって遺体を処理すれば───)

「死んだ人を殺しても死んだことは不変だよ。それこそ呪術やらで魂を浄化させられれば話は別だけども、話の流れからすれば難しいんだろうね」

(あぁ? ならテンは嘘ついてまで俺をここに連れてきたのか)


テンが逸海にここに来るように仕向けた言葉。


「私の晴れ舞台を見ていただきたくて、せっかく強大な怪異を倒すんですから」


テンは端からミイラであることを知っていた。そして扉の中に入った時に確信した。

死したものを殺す手段がないことを。


 殺すとは生きとし生けるものから生を奪い、死を与えることを指す。

つまり死んだ存在を殺すことは矛盾する。共喰い、同化、吸収、祓魔なら話は異なるが、テンは化ける、化かすことにあり、最低限の護身以外に持ち合わせがない。

その最低限の護身も真人や逸海を守るものであり自己犠牲もやむなし、という精神である。


 発生した呪いとミイラの関係は時間と共に薄れていく。

湖に石を投げ込み波紋を作る。その波紋の原因は石であるが、その石と発生した波紋は次の瞬間には無関係である。石はそのまま湖に沈むだけだが波紋は広がり続ける。

呪いもまた同じ。ミイラから発生した呪いはミイラから離れると手に負えない。

だが石を投げ込み続けるのであれば波紋は無限に生まれることになる。

つまりこのミイラをどうにかしなければ厄災は永遠に続くことになる。


身動き一つとれない魂の状態である逸海は今にも動き出しそうな不気味なミイラを睨みつけながら解決策を捻出しようと思考を巡らせては無力を嘆く。特別な力があればこの状況を解決できたはず。しかし持っていないものを嘆いても始まらないと意識の中で首を振る。


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