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惑いの域  作者: 風雨
13/20

怨嗟は続く

「タハハ、女の子って恋愛話が好きでしょ。だから……てへっ」

「個人の好みで恥かかされるなんて話あってたまるか。途中からはわざと話し続けただろ」


ヨウは舌を出しもう一度テヘッと愛嬌と憎しみを煽る表情で返した。

 テンはしばらく再起不能。照れが収まっても逸海の顔を見れば再燃する。負のスパイラルは意図も容易く断ち切れるものではない。テンの精神が勝つか、羞恥が勝つか。


「さて、テンが使用不能の間に気になることを解決しておくか」


赤面するテンの頭をガサツに撫でるとヨウの問題解決に思考を切り替える。


「ヨウの姿は両親には見えないのか?」

「と、私も思ったんだけどね。残念ながら両親には見えないみたい」

「そこを見落とすほどヨウは馬鹿じゃないもんな」

「その通り、見目麗しいだけではないんだよ」


家族だから見ることができる、と言われれば納得できる。しかし逸海はヨウと家族ではない。

親戚の可能性は捨てきれないが父方の親戚から嫌われている以上、交流を持つ機会は無に等しくヨウを知る機会はない。


「あぁそうだよヨウ。俺の隣の席らしいけどなぜ言わなかった?」

「だって逸海はあの時、俺の質問に答えろっていうから。聞かれていないからいいかなぁって」


言われてみれば、と質問した途端に反省する。

あの時逸海は自身の気になることを優先し、ヨウの個人的な話は度外視していた。

それだけの状況、思考が白紙化しても不自然ではないが。

逸海とヨウの事実確認を終えれば次の議題はテンを軸とした話に逆戻り。

しかし話し手が羞恥から立ち直れていないとあれば逸海の視線は不安定。周囲に耳を澄ましても誰もいない校舎に響く音は何かが軋む音と逸海の貧乏ゆすり程度。

昇降口近くのこの場所は視界を遮るものが多い。下駄箱は外の様子を隙間からしか窺わせない障害物、中庭を窺うにも窓がない。人の声もなく、電気も点いていない薄暗い閉鎖的な廊下は自覚すればするほど不気味な空間である。


 ───────。


「ん? 何の音だ」


耳を劈く金切り音ではなく、必死に逃亡を図る足音でもない。

それなりの重量があるものが落下した音。それがこの近くから聞こえた。思いつくのは餓者髑髏が振り下ろした拳だが耳の残るあの恐怖の音とは違う。


「イヤアアアアアアアアアアア」


突然の異音と想像の恐怖に身を竦める逸海を追い詰める悲鳴が静かな廊下にこだまする。

声の主はおそらく紫月。悲鳴に聞き覚えはないが声色と現状から紫月の顔が真っ先に浮かんだ。


「ねぇ逸海、見に行っていようよ」


遊園地のイベントを見に行くように軽快な口調で告げるヨウ。普段の逸海であれば軽口は叩かないものの内心冷ややかな意見を持つが今は違う。

異常という言葉以上に異常な世界に呑み込まれ精神と肉体は限界を迎えている。

そこに不審な音が聞こえればヨウに対して侮蔑を考える余裕がなく恐怖が心身を蝕んでいく。さらに聞こえた音に対する候補が少なく予想をしても多くの疑問が残るばかり。

逸海は一歩目を踏み出す覚悟が決まらなかった。

 悲鳴に耳をピクリと動かしたテンは本来の存在意義の元、我を取り戻して周囲を警戒する。

重量のある落下音と悲鳴

二つの条件で記憶に検索を掛けて出てくる候補数は少ない。その中でも最も当たって欲しくない候補とすれば───


「逸海、もしかして人間が飛び降りた。なんて考えているの?」


返事はせずとも表情が全てを物語っていた。

なにも逸海は人の死を望むわけではない。死は恐ろしいモノとは理解している。

思春期特有の独特の死生観を持つことを誇るわけでもない。しかしこれまで繰り返されてきた恐怖の螺旋が思考を負へと誘い悲観に囚われる。

 逸海はヨウの言葉を肯定するように頷いた。認めたくはないが正解を言われ否定するほど幼稚な考えも持ち合わせてはいない。


「正直それ以外に考えがない。けど気になるのは、」

「誰が、どうして、落ちたかな」

「……逸海さん、私は先に様子を確認してきますね」


テンは言い残し空間に溶け込むように消える。守護霊とは聞いていたがその技術は守護霊特有のスキルなのか、テン特有なのかは甚だ疑問である。


「なんかお前、無頓着な顔しているけどさ」

「アイラちゃんの悲鳴だよ。それに逸海は私に時間を使うって約束したよね」


ヨウの無邪気な笑顔に逸海は先程の素っ頓狂な声よりも大きな舌打ちをした。

苛立ち。ヨウの脅しにちかい行為に対して、そして自身を苛む呪縛に対して。


「わかった、なら急いでいくぞ。最悪を想定していかなきゃならん」


この場合の最悪とは、落ちて生き延びている場合。生きていることが最悪なのではなく、それを救える可能性が潰えること。それこそ最悪である。

 二人は目を合わせるとゆっくりと、されど決して遅くない足取りで中庭へ繋がる角を曲がる。

二人は適当に周囲を見渡すが視界の範囲は限られている。

逸海の推測通り中庭には悲鳴を上げた紫月と額に汗をかき肩で息をする花蓮の姿。

二人の様子は逃走の末に摑まった警察と泥棒であり、突飛な出来事に驚き硬直している。

そして遠目から見ても顔色が悪い事がわかる。

他にも植込みの向こう側、石碑の裏側、北校舎と南校舎を繋ぐ渡り廊下も今の場所からでは確認できない。


「吾平先生、花蓮、どうした?」


二人が注視している場所は逸海の現在地より死角である。だが二人が意図的に視線を集めているならそこに異変の正体か、その断片が存在する。


「………あぁそうか。逸海、そこからこの窓のシミが見える?」


二人の元に辿り着く前にヨウはある場所を指さした。そこは植え込みの向こう側であり二年生が使用している教室の窓の一つ。ヨウの言葉に逸海は必死に目を凝らす。


「──────ッ⁉」


それは声なき声。音なき音であった。逸海が視認したのは赤色の液体。

窓ガラスの下から上へと吹き付けられた水滴。

赤い液体だけであれば候補はいくつも存在するが、先程の推定落下音と紫月と花蓮の視線の動きから察しが付く。否、初めから想像していたではないか。

 四人が見たモノは血に塗れた弱々しい人間。顔はコチラを向くが四人を捉えることのない虚ろな瞳、ピクピクと無意識に痙攣している折れ曲がった肢体、身体を打ち付けあふれ出る血液。


(……うっぷ)


逸海は思わず口元を抑えて瀕死の肉塊から目を背ける。

この有様はまるで、父親の死の姿に似ている。

思考よりも先に浮かび上がる悲劇に不快を抑えられなくなっていた。


「逸海君、大丈夫?」


トラウマを察した紫月は逸海に近寄り背中を優しく叩いた。従姉弟としてか、教師としてか。素早い対応に感謝しながら逸海は呼吸を整え落ち着きを取り戻す。


「ありがとう、姉さん」


高鳴る心音を落ち着けた逸海は目の前に横たわる生を手放しかけている人間に注視する。


(この顔はどこかで見たような………)

「逸海、この人」

「あぁクラス委員長だ。たしか神来社氷菜音だったっけ。どうして学校に?」

「神来社じゃなくて宇良糸ね。宇良糸氷菜音」


醜い有様を目撃した逸海は咄嗟に視線を上に逸らした。

それは醜態に対する嫌悪による逃避ではない。どこから落下したのか確認するためである。

この時、逸海が冷静を取り戻すのが早かったのは幼い頃の父の死が襲い掛かってきた影響。

現状より悲惨な現場は嬉しくない置き土産である。

二階、三階、四階。階層が上がる度に彼女の命の危機を悟る。落下による確実な死を求めるなら二〇mは必要である。だが当たり所が悪ければ数mでも命を奪う。

高さはあくまで危険指数の上昇でありいくら低くともゼロではない。

 五階の教室の窓。氷菜音が落ちたであろう位置はそこである。さらに教室の場所は逸海のクラスである。つまり彼女は自分の教室の窓から落下したというのが現状での判断である。


「先生、救急車に電話は?」

「連絡はしたわ。あとは、」


逸海の視線を追う紫月は五階の窓が開いていることを確認する。


「なぁ花蓮……ってもういない」


情報を眺める視線を地面と平行に戻すとそこに花蓮の姿はない。慌てて視線を左右に動かすと視界の端に校内に侵入する花蓮の姿。逸海は小さな溜息を吐くと迷いなく花蓮の後を追う。

 紫月は救急車の案内など氷菜音の対応がある今、自由に動ける人材は逸海しかいないのならば紫月は引き止めることはできない。逸海は花蓮の後を追うようにして校舎内に侵入した。

 氷菜音が落下する前にも校舎内には侵入していたが今と昔では状況が違う。

静かすぎる廊下、人のいない教室に不気味さを感じていた昔。だが今は明確な目的がある。

さすれば他に意識を向ける余裕はない。

道中、テンが逸海とヨウに合流し花蓮の動向や現状を端的に説明した。

 珠ノ美高校は未知の力が働いている。それが顕著になったのはここ数日。

逸海が入学した頃から陰の気配が強くなっている。教職員、生徒が一斉に倒れたのもその一つであり、倒れなかった人は他の人よりもわずかに耐性があるから。

つまり怪異がいくら関与しようが不吉な気配が強すぎるため特定することができない。

 花蓮を追いかけ息を忘れて階段を駆け上がる。

五階に着くころには視界は微睡み全身で呼吸をする。いくら呼吸しても心臓は脈動が収まらず、肺は空気を取り込むがそのまま排出される。足の疲労は動くことを躊躇う。

事故現場の花蓮は肩で息をしていた。それなのにあの身軽な動きは好奇心の化け物。

後先考えない欲望の獣では? と考えてしまう。

 逸海は教室の前に辿り着くと花蓮は逸海が来ることを予期していたと云わんばかりにこちらを向いて手を振っている。予期しているなら待ってくれても、などと心で呟くがそれでは彼らしくないと自己完結する。


「ほら入るぞ、準備は良いか?」

「良くない、で突入を止めるなら答えるが、意味ないだろ」

「素っ気ないふりして俺こと好きだな」


この状況で軽口を叩ける花蓮の心情に辟易する。

 教室の扉を開ける。それだけの行為なのにどうしてここまで緊張するのか。

逸海と花蓮は視線を交わらせ確認を取るとゆっくりと扉を開ける。



「……何もない」


そこは昨日の惨劇から一日が経過しただけ。机や椅子は生徒が倒れる際に乱れたがそれ以外に特異なものはない。黒板や掃除用具入れに血の跡がこびりついているわけでも、テレビや時計が不規則な動作をしているわけでもない。

昨日のまま、変化のない光景が広がっていた。

逸海は乱れた机を越えて窓から顔を出す。下を確認すると垂直に氷菜音が横たわりその近くでは紫月がこちらを見上げていた。

五階からの落下時間は約二秒。窓枠を蹴らない限り別の場所から落ちたと考えられない。

そしてこの距離の落下は精神的に追い詰められていない限り実行することは躊躇われる。それこそ死を受け入れるヨウの様な思想の持ち主でなければ……。

否、ヨウは死を受け入れたが望んで身を投げたわけではない。死を強要され受け入れる以外に選択肢がない状況において、抵抗することも後悔することもなく受け入れた。

 兎にも角にも、ここから飛び降りる決断を逸海は理解できない。それは隣から下を覗き込む花蓮の驚愕した表情が物語る。


「一mは一命取る、なんて聞くがこの高さだと……」

(ここでも雑学が出てくるのか)


適当な言葉、駄洒落のつもりだったのかもしれない。だが素直な感想をモノローグで語る。


「俺も五mから落ちた身だけど倍以上から落ちた痛みは想像できないな」


昨日の逸海は体育館の二階から落下した。だが今回はそれとは規模が違う。


「花蓮は落ちた時の様子を覚えているか?」

「いや、吾平先生から逃げていたから上を見る余裕なんて。ただ落ちた時の音は聞こえたけど、木や植木に落下した音は聞こえなかったな」


花蓮の言葉に逸海は近くに植えられている植木と木を確認する。

木の枝に身を投げれば落下の衝撃を緩和することは可能。近くに生えている木を見つけたが、ここから五mは離れている。勢いをつけても枝に辿り着くころには地面に激突している。

それに、


「「飛び降りる理由がない」」


逸海と花蓮の意見は一致していた。

 世の中に絶望し死を望む人間は存在する。多くの命が失われた場所は『心霊スポット』として生者にとっての娯楽、好奇心の対象物となっている。

生と死は表裏一体。常に生の周りに存在している。だがそれらを意識することは滅多にない。

 では氷奈音はそれほど人生に絶望を感じていたのか。

それは逸海も花蓮も知る由もない話。人の心など口に出して尚真実かどうか不明。本心など自分にもわからないことだってあるのだから誰が知るのか。

だが昨日までの様子からすれば彼女がそう簡単に命を投げ出すように思えない。

花蓮の様に好奇心に素直であり、恐怖に呑まれることなく最適な行動をとる冷静さを持つ。

逸海の所感では彼女が自ら命を投げ出すとは考えられない。

 逸海は窓際から離れて荒れた教室を慎重に歩いて思考する。

正しくは、花蓮と距離を取りヨウとテンに話を聞きたかった。

窓の反対側、教室の扉の前まで来ると逸海は教室を見渡し考えを深めていく。

自ら飛び降りたのではないとすれば可能性は二択。

一つは、誰かに突き落とされた可能性。これを成立させるには氷菜音が自ら学校に来なくてはならない。だが逸海、花蓮と例外が存在する以上彼女が学校へ来る可能性は有り得る。

もう一つは身体を乗っ取られた状態で飛び降りた可能性。


「つまりヨウは何か関与していないのか?」


逸海の猜疑の視線はヨウに向けられる。とは言っても本気で疑っているわけではない。

あくまで犯人候補であり、知りたいのはこの案を掘り下げた結果浮かび上がる可能性。

落下した音、紫月の悲鳴を聞いた時、逸海はヨウと一緒にいた。つまりヨウが分裂しない限りこの考えは否決されることは結論付けられている。


「うーん、逸海以外にも試したけど全員が駄目だったからなぁ。血縁、知り合い、私の認知。憑依の条件はそのくらいかな。テンちゃんは?」

「私は変化が取り柄ですから。二、三人に化けられても生者を操ることができませんよ」

「つまりテンなら氷菜音の関心を引いて連れ出して突き落とすことも可能ってことだよな」


何にでも化けるテンは氷菜音が関心を惹くものに変化することで学校へ来る口実を作ることができる。逸海と同じ場所にいながら分身が突き落とすことも可能になる。

アリバイを作りながら実行可能。人間では不可能だが、目の前にいるのは人間ではない。


「……テン、殺したいほど憎んでいたんだな」


目の彩度が落ちた逸海の瞳は落胆を物語る。


「えぇ違いますよ。たしかに分身すれば逸海さんの手順で落とすことは可能です。ですが私がやった根拠がないじゃないですか」


逸海の言葉に食い下がるテンは証拠を出せと言わんばかりに高圧的な態度をとる。


「あーぁ、テンちゃん。その言葉は犯人しか言わない言葉だよ」

「いえ、証拠がない限り私が犯人と言えないのですから」


テンの言葉通り、証拠、証明は不可能。

なにせこの教室もしくは落下した中庭に逸海がいたわけではない。

そして証拠があろうとも専門家が必死に捜査をして見つける代物であり適当に散策する逸海には確たる証拠にはならない。あくまで参考程度。


「………冗談だ、許してくれよテン」


牙をむき断固否定するテンを宥める。このまま煽り続けると嚙みつかれる気がする。それならまだましであり、逸海の想像もつかない報復があるならば逸海は受け入れることしかでいない。

許しを請う逸海はテンの傍に行き頭を撫でる。子ども扱い、と憤怒する可能性も視野に入れたがテンとの関係性からしてそれはないと考えた。

逸海はテンをムカデに投げつけ時間を稼ごうとした。例えムカデがテンの作りだした幻影だとしてもその行為自体は赦されない非道な行い。他にもゴミのように扱い謝罪の一つも無いにも関わらずテンは無邪気に接してくれのだから。

テンの毛並みは想像以上に心地よい手触りであった。手櫛をしても、上から撫でても手に残る気持ちよさが癖になる。撫でられているテンの怒りは鎮まり逸海の撫で方に満足がしたのか尾を振って喉を鳴らす。


(なら他の可能性になる……けど)


テンも候補の一人である。身内だからと犯人から外すことは事実を見落とす。

 逸海は窓際に近づき付近の床や窓のサッシ、窓の外の縁に目を凝らす。逸海が探しているのは掌に残るテンの毛。それと似た痕跡を探すために端まで目を配る。テンが犯人ではないことを断定するため。このことを話さなかったのは最悪を想定してのこと。

テンを捕らえる場合、気取られてしまえば捕まえることは不可能。

人間程度なら威圧だけで無力化可能な力を持ち、変幻自在の姿を持つ。獣耳と尻尾は逸海が見分けるための目印なれば本気で化けた場合は識別することはできない。

だからこそテンではない痕跡を探す。テンの毛は触るだけでも手に残るほど抜けやすい性質。激しい衝撃が加われば毛の一本や二本が落ちる。


(とりあえず見当たらないか。コロコロでもして確認するのが一番だが……)


下手に現場を荒らせば逸海や花蓮が犯人になる。本来はここにいるだけでも危険。だが教室であれば痕跡はいくらでもある。

 救急隊が到着する数分前。逸海と花蓮は教室から離れ中庭に戻った。

現場でわかったことは、五階の高さから飛び降りる判断は常人には不可能。

この地に蔓延る負の怨嗟が氷菜音の心を蝕み死へと誘ったことだけ。

 ヨウとテンはまだ五階の教室で怪しい痕跡を捜索している。

二人は誰にも見えない特性を持つ。そしてヨウは浮遊ができるため逸海の確認できない場所も事細かく確認することができる。そして、テンもヨウも逸海の思考を読み、鋭い思考の持ち主。怪しい場所、嫌な気配は逸海よりも二人の方が得意とする分野である。

 救急隊は慣れた手つきで死の間際の氷菜音の対処を行っていく。

後から来た警察に対して紫月は現場の説明のため逸海と花蓮を連れて事情聴取。

本日二度目の事情聴取に逸海の精神は何も感じない程に疲弊していた。

なぜ高校にいるのか。現場の様子。氷菜音との関係性。

必要事項をしつこい確認と共に説明していく。

 人生において滅多に経験することのない花蓮はワクワクした様子で説明し、逸海は花蓮に任せて最低限の説明でことを済ませる。花蓮の存在を鬱陶しく思うが精神が参っている時にはこの元気に助けられる。

 解放されたのは数時間後。事情聴取を行い、現場の検証を経て再度聴取。


太陽は天頂から傾き山に差し掛かる。西天は赤く染まるこの時間は春の陽気も身を刺す寒さに変わる。

心に靄がかかるが解放されると心地よさを覚えてしまう。罪悪感と解放感の同居に心情はおろか表情まで曖昧なカタチになってしまう。

 紫月の命令でこの場で解散となるのだが、花蓮の奔放の性格を捨て置けないため家まで連行することになった。そのため逸海は珠ノ美高校に置いてきぼりとなった。

警察は校内で事件の証拠を捜査している。が、教室には生徒の髪の毛や指紋が数多存在する。決定的なものは見つかるだろうか。

 逸海は校門前で大きな欠伸をした。酸素を取り込み次の行動を明確にしようと空を仰ぐ。


「なにかあったか?」


合流したヨウは首を横に振った。


「何もない。現場からわかることは彼女が自ら落ちたことくらいかな」


そこにテンも合流するが、その表情からは手がかりがないことを物語る。


「………やっぱりこの土地の影響なのか」


昨日と今日だけでどれほどの人命の危機が訪れただろう。逸海の周りだけで発生するならまだしも逸海のいない場所でも発生しているのが現状。なれば忌み地の影響だろう。

 いち早くここから離れた方がいい。されどこの事態に気づいている人間は逸海を除いて存在するのか不明。偶然の連続で事故が起こった可能性もある。

しかしここ数日でより強大な力が生まれた影響も。

 日が山に隠れる時間帯『黄昏時』。別名『逢魔時』、この時間は人ならざる存在に出会う時間。草木も眠る丑三時も怪異と遭遇することで有名な時間帯であるがコチラは大抵の生物は寝ている時間であるため遭遇するというよりも襲い掛かってくる時間帯。

とどのつまり、黄昏時は通り過ぎるモノ全てが危険因子を孕んでいるため気を抜けば逸海もソチラの仲間入りである。


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