第22話 開戦
剣聖デンケルの埋葬を終え、リドールは質素な墓石の前で黙祷していた。
「王都に墓なんか建てるなよ。俺は、この山が好きなんだ」
デンケルは生前、笑ってリドールに話していた。
リドールが半年の厳しい鍛錬を経て、剣魔法を習得するのを見届けた後、デンケルは静かに息を引き取った。
兄上を支えてやってくれ、というのが最後の言葉だった。
◇◆◇◆
王都に戻ったリドールは、父の元を訪れた。
デンケルの死を告げると、ラウルスは「そうか」とだけ呟いた。
「父上のことを、最後まで案じておられました」
「……生意気なことを……」
ラウルスは、窓辺に立ち、空に目をやった。
抜けるような青空だった。
「リドール、すまない。外してくれるか」
ラウルスの目尻には光るものがあった。リドールは何も言わず、静かに部屋を出た。
◇◆◇◆
ちょうどその頃、精霊魔法の習得を終え王都に戻って来たマリアーナは、父セシウスの元を訪れていた。
「ただいま戻りました、お父様」
「久しいな、マリ……」
セシウスは、マリアーナを見て動きを止めた。
「……マリアーナ……その杖は……」
「……お母様のものです」
マリアーナの母アリエルは、自らの死期を悟った時、愛用していた魔法玉のあしらわれた杖を、メラニアに託していた。
いつの日か、もし娘が精霊魔法の道に進むことがあれば、渡してほしい、と。
「……そうか、アリエルが……」
セシウスは、マリアーナを見つめた。
――アリエル、私たちの娘は、もうこんなに大きくなったんだな……。
「その杖は、アリエルが師から受け継いだ、大切な杖だ。神代からの代物とも聞く。母に恥じぬよう、励みなさい」
「はい!」
◇◆◇◆
ラフィトは、その日の午後には、王都に向け故郷を発つことにしていた。
リドールたちとは、明日、王都で落ち合うことになっていた。
――もうこの家には戻らないかもしれないな……。
父との思い出が詰まった家だったが、ラフィトは、処分できるものは全て処分し、出発に備えた。
最後に、ラフィトはもう一度父の墓標に花を供えた。
「行ってくるよ、父さん。ぼくにも……仲間ができたんだ。みんなを守るために……父さんとの約束を、破ることになるかもしれない。ごめん、父さん……」
ラフィトは立ち上がり、歩き出した。
その時だった。
――なんだ!? この耳鳴りは? 頭が割れるように痛い……!
地面が割れるような轟音と、大気の震えが続いた。
――まさか……! 結界が……破られた!!!
◇◆◇◆
王都でも、結界の崩落はすぐに感知された。
重臣たちは、急ぎ王宮に召集された。
「事態はどうなっている?」
「何が起こったのだ!?」
「民衆の避難はどうする?」
その時、早馬の伝令が駆け込んできた。
「国王陛下に取り急ぎご報告です! 魔王軍の本陣と思われる大軍が、結界を破り王都に向かっております!」
次回予告:第23話 王都攻防
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