第16話 剣聖デンケル
――叔父上……。一体、何が……。
「まあ、座れ。長旅疲れただろう」
リドールは黙って頷き、テーブルの丸椅子に腰掛けた。
「色々と、聞きたいこともあるだろうな」
デンケルは、肩掛けを羽織りながら言った。
「だが、まずこちらから聞かせてくれ。リド坊、何をしにこんな山奥まで来た? 物見遊山でもあるまい」
リドールは、魔族の襲来のこと、防護結界のこと、そして銀髪の一族のこと、包み隠さず説明した。
「私は、仲間と共に外界に出ます。そのためには、魔族に対抗し得る力が欲しいのです」
「なるほどな、それで剣魔法を、か……」
「リド坊、すまないが、俺は剣魔法を教えるつもりはない」
「なぜですか、叔父上? お身体がすぐれぬなら、私がお世話いたします。口頭でご指南いただけるだけでも有難いのですが……」
デンケルは、力なく首を振り言った。
「そうではないんだ、リド坊。剣魔法そのものが、体を蝕むんだ」
「……それはどういう……」
「剣魔法は、人に扱える代物ではない、ということだ」
◇◆◇◆
「リド坊、お前はそもそも剣魔法について、どこまで理解している?」
「魔力によって、剣を顕現させる魔法である、と。現在使用できるのは、叔父上だけだと聞いています」
「少し訂正しようか。剣魔法は、魔力だけでなく己の生命力を消費する」
「え!?……それはまさか……」
「使用者の寿命を代償とするんだ」
リドールは言葉を失っていた。
デンケルは、静かに続けた。
「俺は、剣魔法の研究の過程でそのことに気がついた。いわゆる、禁呪の類の魔法体系だと。文献すらほとんど残っていないのは、そのためだろうな」
「リド坊、俺は兄上の大切な跡取りに、禁呪を教えるわけにはいかんよ。わかってくれ」
◇◆◇◆
日も落ちてしまったため、リドールはデンケルの山小屋で夜を明かし、明朝出発することにした。
夕食を終え、暖炉の前で叔父と甥は、王族としてではなく親族として、言葉を交わし合った。
おそらくこれが最後の機会になるのだろうと、ふたりとも思ってはいたが、口にはしなかった。
兄上には内緒だぞ、とデンケルは、ラウルスの子どもの頃の事なども話して聞かせた。
楽しいひとときを過ごし、ふたりは床についた。
しかし、リドールはなかなか寝付けなかった。
デンケルが穏やかな寝息を立て始めた頃、リドールは静かにベッドを抜け出し、表に出た。
頭上には、満天の星が煌めいていた。
リドールは地面に寝転がり、夜空を眺めた。
――叔父上は、何を思い、ここで研究を続けたのだろう……。
山小屋に戻ったリドールは、ふと本棚に置かれた古い冊子が目に入った。
リドールは、何気なくそれを手に取り、開いてみた。
そこには、デンケルの研究の記録が記されていた。
次回予告:第17話 未来のために
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