第14話 リドールの決断
ラフィトの言葉を聞き、皆は押し黙った。
結界の崩壊は、ほぼ確定的であるように思われた。
マリアーナが口を開いた。
「ラフィト、結界の綻びを、部分的にでも繕うことはできないの?」
ラフィトは、少し考えてから言った。
「試してみないと何とも言えませんが……。一時的な応急処置くらいであれば、何とかなるかもしれません」
「ただし、それも今回のような単発の、狭い範囲の綻びに限られます。今後、おそらく結界の綻びは、時間とともに加速的に増えていくと思います。そうなれば、人手が足りなくなるのは、時間の問題です」
「盤面は詰んでおるか……」
「お待ちください、父上」
リドールが立ち上がり言った。
「こちらから、うって出ましょう」
皆、驚いてリドールを見た。
「うって出る、だと? それはどういう意味だ?」
「こちらから、魔王の拠点を叩きに行くのです」
「ばかな……。魔族の恐ろしさは、そなたも身に染みて分かっておるだろう」
「承知の上です。しかし、魔族の脅威に怯え、いつ解かれるともわからない結界を頼りに、細々と暮らしていくことが、民の幸せだとは思えません」
「……それはそうだが……」
「いつまでも、過去の遺物に守られるだけの国ではいられないのです」
「それにこちらには、ラフィトがおります」
リドールは、ラフィトの方に向き直って言った。
「ラフィト、また力を貸してもらえるだろうか?」
「……それはもちろん、お役に立てるのであれば……」
「でも、どこまでやれるかは、正直分かりません。敵の力も未知数ですから」
「それについては、俺に少し考えがある」
「ちなみに結界は、あとどれくらいもちそうだ?」
「正確には分かりませんが、今回の綻びを修復したとして、もってあと1年くらいではないでしょうか」
リドールは、少し考えた後、言った。
「父上、私は剣魔法を習得しようと思います。今回の魔族との戦闘で、単なる魔法戦では、魔族相手に通用しないことが分かりました。剣魔法を鍛錬し、半年後、ラフィトと共に外界に出立します」
「ちょっと! 私は置いてけぼり?」
黙ってリドールの話を聞いていたマリアーナが、心外という表情で言った。
「私抜きで話進めないで。トライアドでしょ?」
「いや……しかし……」
「大体、男の子ふたりで、ご飯とかどうするの? どうせ、栄養の偏ったものばかりで済ますくせに」
「め、飯なんか適当に……」
「絶対ダメだからね! 私もついてく。これ決定だから」
「ちょっと待て、マリー! どれほど危険な旅だか……」
「わかってるよ! そんなのわかってるに決まってる。だからでしょ!」
マリアーナは、ふぅと一息ついて言った。
「私だって、足手纏いにならないように、あと半年頑張るから」
マリアーナの性格をよく知るリドールは、あきらめて言った。
「わかったよ、マリー。力を貸してくれ」
ラウルスは黙って目を閉じた。
――リドールよ、そなたも信のおける友たちを得たのだな……。
「わかった。国のことは、我とセシウスに任せよ。存分にやるがよい」
◇◆◇◆
「王子は、知らぬ間にあれほど大きくなられたのですね」
リドールたちを見送った後、セシウスは言った。
「生意気になりよったものよな」
「殿下の若い頃によく似ておられる」
「お前はいつも……」
ラウルスは、言いかけて笑った。
セシウスも笑った。
「セシウス、お前とこのように笑い合うのも久しいな」
「我々も、若い者たちに置いていかれぬよう、いましばらく頑張るとしましょう」
次回予告:第15話 それぞれの道
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