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第十九話「裏切り」

調査隊の帰還は民衆に大歓声をもって迎えられた。

だが見るものが見れば、その数が出発時と比べ減っていることがわかっただろう。

帰還兵の多くが負傷しており、調査任務の過酷さが伺い知れた。


「調査結果を申し上げます。魔族が大森林に道の建設を企てているというセルティア様の報告は事実でした。我々も魔族の尖兵と会敵し、交戦したため数十の兵を失いました」


玉座の間にて集められた王侯貴族たちの前で、調査隊の長を務めたシャリオンはそう調査結果を告げた。

セルティアとリリーベルト、そしてリイニャも今回は護衛として玉座の間への参列を許されていた。


「なんと!? 魔族侵攻は真であったか!?」

「大森林に道を…? そんなことが本当に可能なのか?」

「早く対策を整えねば人族にとって未曽有の危機となるぞ!」


報告を聞いた途端に、玉座の場に集められた貴族たちからざわめきが沸き上がった。

魔族侵攻に対して半信半疑である者たちが多かったために、動揺が広がった。


「大義であった。精兵を失ったのは我が国にとっても大きな痛手だが、いち早く魔族共の動きを知り得たこと人族のあまねく国々にとっての幸運である」


「はっ!」


王不在の場で取り仕切りを任された宰相のサザンが、シャリオン達の功績を称えた。


「また私からも皆に知らせるべきことがある」


宰相はそう言って集まった貴族たちのざわめきが収まるまで発言を溜めた。


「我らの王、シュバルツ三世様が崩御なされた」


告げられた王の崩御の報は、すでに知らされていた高位貴族たちと下位貴族たちで反応が二分された。

だが、人の口に戸は立てられぬという様に、王の死は下位貴族たちも知りえていた者が多かったためか、先ほどよりは場の動揺は小さかった。


「王位の継承に関する遺言もないため、至急新たな王を決めねばならぬ」


そして宰相は大賢者の提案した方法を皆に説明し始めた。


「傭兵王は四人の王子に決闘させ、己の後継者を選んだ。我らも傭兵王に則り、第一王子ダンウェル様と第一王女ミーティア様、それぞれに代理の決闘人を立てて競っていただく。そして勝利した者を次の王に戴くこととする。異論ある者はあるか」


告げられた王の選出方法には、驚きの声が上がった。

しかし傭兵王とその王子たちの決闘の話は、ローグリア王国の人間であればだれもが知るほどに有名であったため、貴族たちからはむしろ賛同の声があがった。


そんな中、シャリオンは立ち上がると、玉座の間に響き渡るような大声で語り出した。


「私は第三王女のセルティア様を次期国王に推挙し、私自身が代理の決闘人となることをこの場で宣誓いたします!」


「「えっ!?」」


突然のシャリオンの宣誓に、セルティアとリリーベルトは困惑の声をあげた。


「ま、待ってください、シャリオン! わたくしは王になるつもりなどございません!」


「貴女様は民を愛し、民に愛される才をお持ちだ。そして貴女様は大森林から奇跡の帰還を果たした上に、魔族侵攻の報も我らにもたらしてくださった。貴女こそ神に選ばれた方だと私は信じます」


シャリオンはそう話すと、セルティアに歩み寄りその眼前で跪いた。

混乱するセルティアとリリーベルトだったが、更に集まった貴族たちを驚かす出来事が続いた。


「僕もシャリオン殿に同意です。セルティア様こそ、次代の王に相応しい」


「あたしも同意するぜ。セルティア様を次代の王へ推挙する」


そう言って、青獅騎士団団長のアッシュゲルと魔砲騎士団団長のクロエもシャリオンと並んで、セルティアの前に跪いた。


ダンウェルとミーティアの支持者であったはずの二人の背信は、その場にいたすべての貴族たちに衝撃を与えた。

ダンウェルとミーティアはそろって顔を青ざめさせており、その裏切りが予想外であったことを物語っていた。


「我ら三宝剣はセルティア様を支持する。ダンウェル様、ミーティア様の代理の決闘人として、私に挑む者あらば歓迎しよう」


シャリオンはそう言って玉座の間にいる者たちを見渡して見せた。


その眼力に臆して、ほとんどのものが目を伏せる中、ダンウェルが一歩前に出た。


「俺自身が決闘人として出よう!」


ダンウェルは鬼の形相で三宝剣を睨みつけ、そう宣言した。

するとシャリオンは柔和な笑みを浮かべ、たしなめるように口を開いた。


「ダンウェル様。王位継承戦には代理の決闘人を立てるというのが決まり。仮にも次代の王を志す方が、その決まりを自ら破ろうというのは感心致しませんな」


「ほざけ! 貴様ら奸臣、まとめて俺が斬り殺してやろう!」


今にも剣を抜きそうな勢いのダンウェルを無視して、シャリオンは宰相に向かって訊ねた。


「宰相殿、私はダンウェル様と決闘を行っても一向に構いませんが、どうなされますか」


「…ダンウェル様。決闘人には代理の者を立てる。それが此度の王位継承戦の決定事項です。第一王子といえど、その決定は覆せません」


ダンウェルも王子にしては優れた武人だが、シャリオンと決闘を行えば間違いなく殺される。

それを理解している宰相は、ダンウェルを諫めた。


「シスカーン、私の代理の決闘人としてシャリオンに挑むことはできるかしら」


「…すまねえ、お嬢。大賢者から此度の王位継承戦の決闘に関わることを固く禁じられている」


シスカーンは目の前で行われる背信劇を苦々しく見つめながらも、ミーティアに首を横に振って返した。


「なるほど、王に毒を盛ったのは三宝剣だったか」


一連の流れを見てリイニャは謎が解けたとばかりに、つい口に漏らしてしまった。


「ど、どういうことですか、リイニャ様?」


「ミーティアとダンウェルを土壇場で裏切り、セルティアを新王に推挙して、この国の実権を自分たちで握ろうというのが三宝剣の策略だろう。そのために邪魔な前王に毒を盛って殺したと考えれば合点がいく」


セルティアとリリーベルトにそう語ったリイニャを、シャリオンは怒鳴りつけた。


「エルフの小娘! 余所者の分際で妄言を垂れるのも大概に致せ。我らは真にこの国を想い、セルティア様こそが国を正しい道へと導いてくださる方と信じているのだ!」


怒気のこもった口調でそう告げたシャリオンだったが、リイニャは無視してセルティアに語りかけた。


「セルティア。貴女はこのまま王になりたいか?」


「…いいえ、わたくしは王座を望みません」


「であれば、ダンウェルとミーティア、どちらが新王に相応しいかを今、選べ」


「ならば、ミーティア姉様を」


「承知した」


リイニャは頷くと、振り返ってミーティアに声をかけた。


「ミーティア。私を貴女の代理の決闘人に選べ」


「リイニャ殿!?」


リイニャの言葉を聞いて、リリーベルトが悲鳴のような声をあげた。

父とリイニャの決闘など、決して望むものではなかった。


「すまんな、リリー。貴女の父を殺すことになるかもしれぬ」


「………ご武運を祈ります、リイニャ殿」


しばらくの沈黙の後、リリーベルトは目に涙を浮かべながらもまっすぐリイニャのことを見つめ、激励の言葉をかけた。

そんなリリーベルトの姿を見て、父であるシャリオンはわずかに顔を歪ませていた。


「わかったわ。エルフ族のリイニャ。私は貴女を代理の決闘人とします。シャリオンと決闘を行い、勝利しなさい」


「任された。だが、私からも一つ提案がある。宰相殿」


そう言って、リイニャは宰相に向き直ると、三宝剣を指差し、不敵な笑みを浮かべた。


「シャリオンだけでは勿体ない。三宝剣の三人全員と決闘で戦いたいのだが、よろしいか?」


「「「「なっ!?」」」」


突然の出来事の連続に息をひそめて事態を見守っていた貴族たちも、リイニャの提案には驚愕の声をあげた。


「そ、それは無謀というものだ。なぜ自ら不利になるようなことを望むのだ?」


「元より私の望みは強者と戦うこと。そのためにこの国に来た。そして負けるつもりは微塵もない」


宰相はリイニャのその豪胆さに呆れるとともに、不快感を覚えた。

ローグリア王国が誇る最高戦力たる三宝剣を一人で倒せると、エルフの娘は言い放った。

それは王国に対する侮辱ともとれる発言だった。


「セルティア様、ミーティア様。どうなされますか?」


宰相は判断を二人の王女に任せた。


「わたくしはリイニャ様がそう望むのであれば、三対一の決闘で構いません。そしてリイニャ様が勝つと信じます」


「…セルティアがそう言うなら、リイニャの好きにさせるといいわ」


宰相の予想に反し、王女二人はリイニャの提案を受け入れた。

三宝剣の三人はそれを屈辱と感じたのか、リイニャを睨みつけ、剝き出しの殺気を向けた。

久しく浴びていなかった濃厚で重みのある殺気が心地よく、リイニャは思わず笑みをこぼした。

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