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第十八話「王位の継承」

宰相であるサザンの取り計らいによる国王崩御は公にされず、限られた者たちにのみ知らされた。


玉座の間に集められたのは、王位継承権を持つ三人の王子と王女、侯爵家以上の大貴族の当主、三宝剣の魔砲騎士団長と青獅騎士団長の二人、そして魔導塔の長である大賢者。


調査隊の長として大森林を調査中のシャリオンは不在であったが、ナイトライト家の名代として一人娘のリリーベルトの参席も認められた。


一方のリイニャは当然余所者として参席を認められず、大人しく王城も端にある中庭で一人日課の素振りをしていた。


「よお、エルフの嬢ちゃん」


「ミーティアの護衛の…確かシスカーンといったか」


そこに声をかけてくる者があって、振り返るとミーティア傍付きの魔法使いの男が立っていた。


「結局、セルティアの嬢ちゃんはどっちの派閥に入るか決めたのかい?」


「ダンウェルの話を聞き、まだ悩んでいた様に見えた。だが、国王の死でそれどころではなくなったというところだろう」


「まあそーだよなあ」


わざとわしいため息を吐く男に、リイニャは尋ねてみた。


「この先この国はどうなるのだろうか」


「お嬢とダンウェルが手を取り合わなければ国は二つに割れるだろうが、隣国への侵略の是非で対立する二人だからそれも難しいだろうなあ」


「王は遺言で後継者の指名をしているのではないか?」


「あったとしても捏造だとして、指名されなかった方が即座に軍をあげるだろう。王様もそれくらいはわかっていたはずだから、まず後継者指名はないねえ」


「そんなものか」


いずれにせよ、国が荒れることは止めようがないのだろうか。

セルティアやリリーベルトのことを思うと、リイニャも歯痒さを覚えた。


「ま、俺もここだけの話、お嬢とダンウェルどっちがより優れた王となるかなんてわからないしねえ」


「そうなのか?」


「政治不干渉を信条とする大賢者の弟子として、本来なら派閥争いに関わるつもりなかったんだ。ダンウェルが魔導塔の魔法使いたちにも従軍せよなんて言ってこなきゃ、傍観に徹してたなあ」


「貴方は例の大賢者の弟子だったのか…大賢者とは何者だ? 三宝剣と同格の魔法使いか?」


「大賢者は元三宝剣。この国を築いた傭兵王の時代に三宝剣の一人として仕えていた御歳三百歳を越える生きる伝説さ」


となると、大賢者は己と近しい年齢なのかも知れない。更に言えば一刀斎が傭兵王を殺したあの夜、足止めをしていたリイニャと戦った相手方の戦士のうちの一人だったかも知れない。


「人族としては長生きだな」


「エルフ族の血が少し入ってるって話さ。あと魔法で加齢を抑えてるはずだ」


流石に三百年以上前のことだし、リイニャの顔を覚えてはいないだろうが、決して大賢者なる者とは顔を合わせないようにしようと、リイニャは密かに心に決めた。


「俺をミーティアの補佐役兼護衛につけたのも、大賢者本人じゃなくて魔導塔のお偉方の判断さ。しっかし今回ばかりは大賢者自ら動くかもなあ」


「ほう、大賢者が動けば派閥対立を食い止められるのか?」


「大賢者は今代の三宝剣の三人を同時に相手取っても、恐らく五分以上の戦いをする。それくらいの怪物だ。王族といえどその武力を前に歯向かえねえ」


「故に政治への不干渉を貫いているわけか。それほどの強者なら戦ってみたいものだ」


前言撤回。

リイニャは俄然、大賢者への興味がわいた。

三宝剣のシャリオンとアッシュゲルはかなりの遣い手だった。

それらを上回る実力の魔法使いとなれば、素晴らしい死闘が見込めるだろう。


「…大賢者に何かしようってなら、その前に俺があんたを殺すぜ」


途端にそれまでの飄々とした雰囲気は霧散して、剥き出しの殺意を向けてきたシスカーンに、リイニャはニヤリと笑いかけた。


「いいな。貴方とも立ち合ってみたいと思っていた。先日のミーティアとの会談の場。貴方の気配は近くになかったはずだが、突然背後に現れた。あれは噂に聞く移動魔法か?」


「…己の手の内をさらす魔法使いはいないぜ。嬢ちゃんこそ、魔法を斬ったな? 剣で魔法を斬るなんざ、聞いたことないぜ」


「実は私もよくわかっていないのだ。師匠から受け継いだこの刀は、魔を祓う力が宿っているらしい」


「聖剣の類か? それが本当なら国宝級の代物だな」


殺意をぶつけたのにむしろウキウキした様子のリイニャを見て、シスカーンは毒気を抜かれたのか、大きくため息をついた。


「まっ、俺もあんたみたいなおっかないのとはできるだけ戦いたくないのさ。ただ、大賢者とはサシで戦えると思わないことだ」


そう言い残して、シスカーンは歩き去っていった。



 *****



「――調査隊が戻るまで王の崩御は秘匿し、王位継承の決定も保留とせよ、か」


セルティアたちから玉座の間で話し合われた内容をリイニャは聞かせてもらっていた。


「そして魔族侵攻が真実であった場合、王位継承権を巡り、内戦を起こすことは許さぬと大賢者様が発言されたことで、事態は一変しました」


「沈黙の賢者とも言われる方が口を開かれたので、誰もが驚いたんですよ! ボクも大賢者様の声は初めて聞きました!」


セルティアに続いて、リリーベルトも少し興奮した様子で語った。


「しかし、そうなるとどの様に次の王を決めるのだ?」


「大賢者様は初代国王である傭兵王を引き合いに出されました。力を貴ぶ傭兵王は後継者を決める際、玉座を狙う四人の王子に決闘するように告げ、勝ち抜いた第三王子が二代目の国王となったのです」


「己の子供を決闘で競わせるとは、一代で国を建てた傑物らしい常人離れした思考だな。まさか大賢者はダンウェルとミーティアに決闘をしろと告げたのか」


「いえ、さすがにそれでは勝負が見えていますので、各自代理の決闘人を立てて競わせ、勝った方を次の国王とする選定方法をご提案されました」


「ダンウェルやミーティアは納得していたのか?」


「納得はされていないでしょう。ですが、宰相様や大貴族の方々も大賢者様に賛同されたため、従わざるを得なくなったと思います」


「そうか。ならば内戦は回避できそうだな。よかったなセルティア、リリー」


リイニャは二人の頭を撫でながらそう言うと、二人もほっとしたように微笑んだ。


「それにしても代理の決闘人か。ダンウェルは青獅騎士団長を、ミーティアは魔砲騎士団長を代理の決闘人として立てるだろうな。三宝剣同士の本気の戦いを見られるとは楽しみだ」


リイニャは思いがけず面白い展開となったことで上機嫌となったが、ふと真剣な顔をして考え込みだした。


「待てよ…となれば、セルティアが王位継承戦に名乗りを上げれば、私も代理の決闘人として出られるのではないか? そうすれば三宝剣と戦えるのではないか!?」


そういって目を輝かせたリイニャは、ガシッとセルティアの両肩を掴んだ。


「頼む、セルティア! 私が三宝剣と戦うために、王になってくれ!」


「そんなことのために王になる人がいますか!? リリーも何か言ってやってください!」


全力で首を横に振って拒絶するセルティアは、リリーベルトにそう助けを求めた。


「セルティア様が玉座を望むなら、ボクも全力でお支えしますよ!」


「んもうっ、二人して! わたくしは王になるつもりなど、更々ないんですってば!」


セルティアは顔を赤くしながらそう叫んだのだった。

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