言語学の教師
「ケンイチさん!もっと自分を大事にして下さい!」
王様含む貴族たちに自ら「是非に世話させてくれ」と言わせる事に成功したオレは、しばらくの間王宮に住む事になった。
他の転生者達は今から冒険者として登録するとかなんとかで、一人を除いて騎士に連れられ王宮の外に行ってしまった。
何でも魔物の討伐をするにあたり、冒険者として活動した方が何かと都合が良いそうな。
倒した魔物の素材をギルドで買い取って貰い云々、色々と説明されたけどよく分からん。
そもそもそれって狩人の仕事じゃね?冒険要素はどこにある?など、素朴な疑問をぶつけてみたら「そういうもんだから」と言われて首を捻ってしまった。
まぁ、彼らが自活出来るならそれはそれで良いかと無理やり納得した。
この世界の人は嫌いだけど、転生者達の事は気にかかる。
彼らがどう思っているかは知らんが、オレの中では「オレと同じ被害者」だという意識があるせいだろう。
ともあれ、これ以上彼らの事に気を割く余裕はオレには無い。
先ずは自分の事、それから余裕が有れば他人の事。
余裕の無い自分が、余裕のある彼らを心配するなんておこがましい。
さっそくにとオレは王宮内の図書室に案内される、言葉だけでは無く文字も一緒に覚えた方が効率がいいからだ。
そこを教室代わりにし言語を学ぶ、教師役は先程通訳してくれた黒髪ちゃんだ。
良いのか?と聞いたら「私が力になれる事でしたら」と、笑顔で頷いてくれた。
ホンマええ子やで〜、等と思っていたら先程のセリフを少し怒りながらに言われた。
「ごめんごめん、別に死にたがってる訳じゃなくて。この世界の人に、迷惑をかけたく無かったから……」
ウソです、どうにかして安全安心な環境を手に入れるかしか考えてませんでした。
とは言えないので、苦笑いして誤魔化しておく。
「気持ちは少し分かりますが……」
「いきなり知らない場所に来て、皆が何を言ってるのかも分からなかったし……ちょっとネガティブになっていたかもね、もう二度と言わないよ」
オレ以外の全員、オレが女神様に会っている事を知らない。
だから黒髪ちゃんは、何も分からない状態で周りの人間が自分の処遇を考えていたら……なんて想像をしているのだろう、徐々に顔色が青くなっていく。
実際にはそうじゃなくて、なんなら自分から望んだ状況な訳だけど。
……黒髪ちゃんには、って言うか誰にも言えないなコレは。
「まぁ、とにかくこれから生きていく為にも頑張って言葉を覚えないとな?」
「そ、そうですね!ケンイチさんが言語習得するまで、私つきあいますから!」
話を変えようと声を掛けたオレに、そう言って黒髪ちゃんは両手を握ってポーズをとる。
ホンマええ子やで〜。