異世界転生
暗転した視界が徐々に明るくなっていき、目を開けて居られなくなり瞼をとじる。
次に開いた時は……そこは中世ヨーロッパの城のような、玉座の間だった。
辺りを見渡すと、オレと同じくキョロキョロしてる人間が十数名。
その外側には、俺たちを囲むようにローブ姿の人間が数名こちらに両手の平を向けている。
少し離れた場所に甲冑姿の騎士が、抜剣した状態でそれを胸の前で垂直に掲げていた。
なるほど、英霊召喚の魔術と言うのは大規模な『儀式』が必要だったのだろう。
コレがもし、平常時の様子だと言うなら仰々しいにも程があるもんな。
『…………、…………!』
状況把握に努めていたら、玉座の方から声が掛かる。
恐らく王様だろう、徐に立ち上がり両手を広げ喜色満面と言った表情だ。
にしても、何て言ってるか分からん。
言語のスキルは無いから今のオレは赤ん坊と変わらんぞ、バブバブ。
他の転生者達はどうなんだ……ともう一度辺りを見渡すと、金髪碧眼のイケメンが立ち上がり王様へと挨拶する。
「『お初にお見えいたします、クラウドと申します。こちらの事情は既に女神様より伺っております、何なりと用件を仰ってください』」
イケメン君はクラウド君と言うらしい、日本人ではないのか。
そう言えば女神様は『貴方がたの世界』とは言ったが、日本とは言ってなかったな。
オレのように黒髪黒目も転生者の中に数人いるが、何か逆に浮いて見えた。
王様の髪色も金髪だし、クラウド君はこの世界にかなり馴染んでるといえる。
それにしても、他の転生者の言葉が分かるのは言語スキルを持っているからなのか。
クラウド君はもちろん、他の転生者達のざわめきの声もハッキリと理解できる。
『…………、………………。…………!』
「『はい、そちらの石板に触れれば良いんですね?』」
こういった場では真っ先に声をあげた者がアルファになりがちだが、クラウド君の「私が勇者ですが何か?」と言う容姿も相まって向こうさんもクラウド君がオレたちの代表だと思って話をしている。
言葉が分からないオレにはどうする事も出来ないが、この状況を面白く思わない転生者は必ず居るはずだ。
そう思って様子を伺うと、数人が苦虫を噛み潰したような表情をしている。
恐らく「出遅れた!」とでも思っているのだろう、判断力と決断力でクラウド君にキミ達は負けたんだ。
こういった不満を隠そうともしない連中は、功名心が強く後々に逆恨みしたり足を引っ張って他人を蹴落そうとする奴らが多い。
絶対にそうとは言えないが念の為、しっかりと顔を覚えて極力関わらない様にしよう。
『……!…………、………………!』
「『ありがとうございます、この世界の為に微力ながら全力を尽くさせて頂きます』」
『……、…………』
「『はい、では失礼します』」
クラウド君が戻って来ると、オレが注視してた内の一人が立ち上がる。
「『次は俺だ!』」
短い赤髪を逆立てた灼眼の男、礼儀もなんのそので王様の元へと向かう。
途中すれ違うクラウド君を睨みつけるが、彼はそれを華麗にスルー。
「『っしゃー!見たかオラぁ!』」
何をしているかは分からないが、石板に触れた後クラウド君に向けて中指を立てている。
なんとクラウド君、コレもスルー。
いや、あの赤髪は多分バカなだけだ。
彼には功名心はあるだろうが陰湿さは見えない、気に入らないモノは気に入らないとハッキリ言ってしまう単細胞……いや、裏表の無い性格なのだろう。
何の反応も返さない事に苛立ちを覚えたのか、青筋をたてながら戻ってくる赤髪。
他の転生者達が次々と王様の元へと向かう途中、赤髪はずっとクラウド君に食ってかかっていた。
冷静沈着で判断が的確なクラウド君と、それに負けじと熱い競争本能を持った赤髪。
上手く打ち解ける事が出来たら、きっといいパートナーになるだろう。
まぁ、オレには関係無い話なんだが。
最後に向かう事になったオレは、その石板に触れると首を傾げる。
…………
……:…………
……:……
……:…………
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よ、読めねぇ。
お読み下さりありがとうございます。