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現実主義者はチートを拒絶する  作者: INGing
0章 プロローグ
2/7

チートは要らない

「どうですか?思い出すことは出来ましたか?」



 目の前に居る自称女神、それがオレに話しかける。



「……ああ、どうやらオレは本当に死んでしまったようだ」



 気が付いたら辺り一面真っ白な空間に立っていて、すぐ目の前には美女が微笑みながら佇んでいた。

 訳の分からない状況に混乱しかけたが、美女が突然「私の力によって、亡くなった貴方の魂をここに呼び出しました」なんて言うもんだから完全に混乱した。

 その後「私は女神です」なんて素面で受け止めたら病院を紹介したくなる自己紹介をされ、何が起きたかゆっくりと思い出す事を勧められて今に至る。



「良かった、これでようやく本題に入れます」


「本題?」


「はい、貴方をここへ呼んだ理由です」



 言われて「ああ、確かに」と納得する。

 死んだ筈のオレの魂をわざわざ呼び出したんだ、それには当然理由もあるだろう。

 もしそれがなく「ただ暇だったので」とか「貴方死にましたよ、ねぇ今どんな気持ち?」とかそんな嫌がらせじみた理由ならコイツは女神じゃねぇ、ただの美女だ(?)。


 っと、いかんな……ひたすら仕事ばかりしてきた弊害か、こんな絶世の美女と二人っきりと言う状況に慣れず思考が乱れそうになっている。

 ここは大人しく、相手の言い分を聞こうと首肯して続きを促す。



「私の守護する世界、貴方が住んで居た所ではない場所で……本日、とある魔術が行使されました」


「魔術……」



 普通に生活していたら聞き馴染みの無い言葉だ、幼い頃に触れていたアニメやゲームの中でしか聞いた事がない。

 とはいえ……それがどういったモノかは何となくで分かる為、質問はせずに小さく呟くだけに留める。



「その魔術の名は『英霊召喚』と言い、異世界より亡くなった者達の魂を召喚するものです」


「魂を……」



 と、ここまでの説明で疑問に思う所が出来た。



「えーっと、魂を召喚なのか?」


「そうです、()を召喚する魔術です」



 自称女神の美女はオレが何を聞きたいのか分かったようで、わざわざ魂を強調して話してくれる。



「肉体……はそもそも死んでるから存在しないとして、魂だけ呼び出されてオレ達に何が出来るんだ?」



 オレの素朴な疑問に、自称女神の美女は眉根を顰める。



「……何も出来ません」


「……え?」



 かもしれないとは思っていたが、実際にそうだと言われるとなかなかに堪える。

 死んだと思ったら訳の分からない所に呼び出され、何も出来ずただそこに在るだけ。


 拷問かな?


 しかも向こうさんに魂を感知する方法がなければ、成功してるのに気付かず延々と繰り返される可能性もあるんだろ?

 どう考えても地獄絵図じぇねぇか、それ。



「実際にはその様な虚無な事には成りません……その前に魂が変質し、レイスやゴーストといった魔物へと成り下がるでしょう」



 オレが感じていた不安を口にだしたら、さらにトドメを刺されました。

 可愛い顔してなかなかにエグい事を言う、勝手に安息を奪われた挙げ句に魔物化?

 もしオレがそうなったら暴れまわる自信がある、多分誰だってそうする。



「はい、なのでそうなる前に私が保護させて頂きました」



 なんだ、ただの女神か。

 自称とか言ってスマンかった、あんた本物だよ。



「ただ、魔術自体の効果を打ち消すには至らず……このままでは遠からず貴方達の魂は召喚されてしまいます」



 そ、そんな!上げて落とすとかそりゃないよ、あんたやっぱりただの美女だ(?)



「そこで、今回は特別に貴方達の身体を私が作ろうかと考えています」


「身体を作る……?」



 って、さっきから疑問を口に出す位しか喋れてねぇな。

 まぁ、女性と喋り慣れてないのもあるけど……まだ今の特殊な状況に慣れてないんだ、しょうがない。



「魂に最も適した形……つまりは生前の身体と同等の物を、もちろん希望が有れば容姿の変更も可能です」



 有り難い事に、新しい肉体に魂を込めて召喚先に送り届けてくれるらしい。

 つまりは生き返る事が出来ると言う事だ、感謝しか無いな。



「いや、元のままでいい。そもそも既に死んだ身なんだ、本来ならこのまま消えて行くのが筋ってもんだ。ただでさえ生き返る事が出来るって言うなら、それ以上望む物はない」


「そうですか、では貴方()生前の姿のままにしておきます。年齢は皆さん等しく、成人となる15歳になりますので」



 なんと若返りまでしてくれるらしい、生前は40になったところなので25も若返る。

 15歳と言えばシンヤと同じ歳……いや、もうすぐ16になるはずだっただから1個下になるのか。

 まさしく新しい人生と言ったところか、何だか逆に申し訳なくなってくる。



「有り難い話だが、本当に良いのだろうか?そもそも、女神様にここまでする義理は無いのでは。モンスターになるのは嫌だから、助かると言えば助かるのだが……そうなったとしても貴方の事を恨む事は無いぞ」



 そもそも召喚した者達が悪い、オレはそう思う。

 モンスターになったらなったで、ソイツらには償って貰うが女神様に対して思う事は無い。



「私の守護する世界が貴方達の世界に迷惑をかけた、ならばそれは私の責任でもあります。私の権限で出来る限り、貴方達の要望には沿いたいと思います」


「なるほど……」



 子供の不祥事は親の責任、部下の不祥事は上司の責任。

 世界の不祥事は女神の責任と言う訳か、上に立つ者として最良の心構えだとは思う。



「それで、貴方は何を望みますか?」



 だが、それにかこつけてこちらの意見を押し通す様な事はしない。



「特に何も」



 オレのその言葉を聞き、女神様は少し目を見開いた。

 しかし、すぐに元の微笑みに戻すと。



「分かりました、貴方がそう望むのであれば特別な物は何も授け無い事にしましょう。3種類の基本スキル、言語・鑑定・収納だけ授けて……」


「いや、それも要らない」



 女神様が何やらスキル?とか言う能力を授けてくれそうだったので、オレは慌ててそれも辞退しておく。

 それを聞いて、ついに女神は驚愕の表情を隠す事が無くなった。



「し、しかし……これらが無いと貴方は生きて行く事すら難しいと思いますが。今回の転生者の方皆にお渡ししてますので、これ等は何も特別な物では無いですよ?」



 最初に特別な能力などいらないと言ったせいか、女神様はオレが特別な何かを嫌っていると思ったのだろう。

 違う、そうじゃない。

 オレだって自分が人より優れている物が有れば嬉しく思うし、少しは顕示欲だってあるし優越感に浸る事もある。



「転生者にとっては、だよな?現地の人も産まれた時から持っている、そんなありふれた物か?」


「いえ、言語は成長と共に覚えていくものですが……鑑定は自らスキルを伸ばしていかなければいけませんし、収納は……今は誰も使えないであろう、空間魔法を覚えねばなりません」



 だよな、本来ならば長く苦しい自己鍛錬によって身につく物。

 ならば、それを貰う事はオレにとって不正(チート)と言える。


 特別なのは良い、でも不正は駄目だ。

 今までの経験上、ほんの少しの手抜き・ズル・不正であってもそれ等が良い方に傾いた試しがない。

 むかし同業者に聞いた話で、たった1本の規格違いのネジを使っただけで全工程やり直す羽目になったのを思い出す。

 その業者はかつて無い赤字を叩き出し、その後潰れたと聞く。


 もっと大きい話だと、鉄筋コンクリート造の建物で鉄筋の数を減らしたせいで倒壊したなど。

 そうなってはお金だけの話ではなく、他者の命をも巻き込む話になる。


 だからオレは、不正を徹底的に嫌うのだ。



「言語は頑張って覚えれば良い、鑑定だってない人の方が多いんだ。収納に至っては転生者だけ、そんなズルい能力オレには要らない」



 キッパリと断ったオレに、女神は困った様な表情を浮かべ「ズルでは無いのですが……」と呟いたがそれは無視する。



「……分かりました、それが貴方の要望なのであれば」



 オレに引く気が無いと分かったのか、女神は軽く嘆息するとそう言ってくれた。



「ただでさえ”生き返えってる”時点で他の死者よりも不正してるかもと思っているんだ、これ以上はオレの心が耐えられない」


「……そうですか、貴方の人柄は良く分かりました」



 女神は困った人を見るような、しかし優しげな表情を浮かべオレを見る。

 そんな折、オレの身体が淡く光だした。



「そろそろ召喚の力が強まってきました、これから向かう場所には大量の転生者がいるでしょう。その者等は貴方と同じ境遇の方たちです、何か有れば頼るといいでしょう」


「ああ、そのあたりは上手くやるから心配しないでほしい。女神様には感謝しかない」



 オレの言葉に女神は初めて”笑顔”を見せてくれた。

 おいおい、微笑みでも破壊力抜群だったのにそれは反則だろう?

 まだ身体は出来上がってないが、もし心臓があったら爆発してたぞ?



「それではお気をつけて」


「女神様も……って、神に何言ってんだオレ?」



 そんなセルフツッコミに、クスクスと女神は小さく笑ってくれた。

 そんな和やかな別れを済ましたのち、オレの身体を纏う光は一層強くなり……そのまま視界が暗転した。





















「とても誠実で、面白い考え方をする人でしたね……」



 女神は誰も居ない空間を見つめ呟く、そこには先程まで一人の男がいた。

 他の転生者達が当然の権利だとでも言いたげに女神へ様々な要望を告げる中、ただ一人だけ女神である自分を労うかの様な言葉。



「感謝しかない……でしたか」



 女神は本気で世界の不祥事は自分の責任だと思っている、なので別に転生者の要望に沿う事には何ら不愉快に思ったりしない。

 それが例え欲望まみれの、傍からみたらゲスとしか言えないような類のものであっても。


 なんら()()な感情は抱かない。



「……ふふ、コレは不正なんかじゃ有りませんよ?私の”興味”と言う感情を引き出した、貴方への報酬です」



 女神は先程まで男が居た空間へと軽く手を振るうと、そこには先程まで居た男の姿が映る。



「無い物は要らないと切り捨て、地に足着けた考えを持つ……現実主義者(リアリスト)の貴方が、私の世界でどうやって生きていくのか。しばらく、様子を見させて貰いましょう」


 そう言って微笑みを崩さず、男を観察しはじめた。



 言い忘れていたのだが……女神が管理する世界とは、剣と魔法が交差する所謂『ファンタジー』の世界である。

お読み下さりありがとうございます。


主人公は現実主義では有りますが、功利主義では有りません。

あくまで建設的な考えを持ち、自分の力で得た物を良しとする男です。

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