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現実主義者はチートを拒絶する  作者: INGing
0章 プロローグ
1/7

生い立ち

仕事が休み、時間がある時に書いています。

書き溜めなし、スマホからの不定期投稿です。

拙作ですが、読んで下さった方の暇つぶしになれるように頑張っていきます。


今話は主人公のバックストーリー……というか生い立ちみたいな話です。

 とある建築会社での出来事。




「10……20……よし、これはまだ補充しなくていいな。こっちは……後1週間分程か、そろそろ発注かけとくか」



 オレは目の前に置かれた資材の数量を確認し終わると声に出す、倉庫にある資材の管理はオレの仕事だ。

 普段は社員である職人と共に現場に出ている事の方が多いのだが……まぁ、月に数度はこうやって資材管理や書類仕事の為に会社に残る事もある。



「おやっさーん!!ただいま戻りました!」



 そろそろ切り上げようかと思った頃、倉庫の入口側から声がかかった。

 この声はウチで一番古株の職人で、オレが居ない間に現場を任せているリョウだろう。



「おい、社長と呼べといつも言っているだろう?」


「へへ、さーせん!」



 ウチが会社になる前、オレが個人事業として仕事をしてる時から着いてきてくれているからか……リョウはオレの事を『親方』か『おやっさん』と呼ぶ。

 別にそれでも良いとオレは思うが、一応は対外的にも『社長』呼びを徹底するようにオレも言われている。

 誰にって?専務にだよ。



「ところで、おや……社長!この後シンヤと飯行くっすけど、社長も一緒にどうっすか?」



 そう言ったところで、リョウの後ろから小柄な少年が顔をだす。

 今年ウチに入ってきた、新入社員のシンヤだ。



「お、お疲れ様です……」



 入って数カ月、まだウチに馴染んで無いのかどこか所在なさげに挨拶してきた。

 ただでさえそんな感じなのに、特にウチは体力仕事だから疲れもあるのだろう……表情が少し暗い。



「おう、お疲れさん。リョウ、飯はいいけどシンヤの顔色が悪いぞ?まさか現場でシゴいたりなんかは……」


「いや!いやいや、無いっすよ!まだ身体も出来てないのに無理させる訳にもいかないっすから、材料運びとか掃除くらいしかさせてないっすよ!それだけじゃつまらないかと思って、現場に影響ない範囲で工具触らせたりはしてますけど……断じてシゴキなんかは無いっす!……な?シンヤからも何か言ってくれ!」


「は、はい!リョウさんは優しくて、すごい良くしてくれてます!」



 オレの指摘を慌てて否定する、そんなリョウよりもさらに慌てた様子のシンヤ。

 自分のせいで先輩に非ぬ嫌疑が掛かっている、そう思ったからこそなのだろう。


 まぁ……。



「知ってるよ、リョウに限ってそんな事はあり得ない。シンヤが暗い表情してるからからかっただけだ、すまんな」



 長年オレの子方として一緒に仕事してきてるんだ、プライベートでの付き合いもあるしリョウの人柄は良く知っている。


 オレの言葉にシンヤはホッとしたような表情を浮かべ、リョウは「勘弁してくださいよ〜!」とか言っているが顔は笑っている。

 とまぁ、ここまでがオレ達の鉄板ネタだ。

 リョウの方だってオレが本気で言ってない事くらい分かっている、分かった上であえて慌ててシンヤを一緒にからかっていたんだ。



「疑った詫びに、その食事代はオレがだそう」


「あざーっす!ゴチになります!」



 財布から幾らかの現金をリョウへと渡す、もともと出すつもりだったがこう言って出すとシンヤも気兼ねなく奢って貰う事が出来るだろう。



「あれ?社長は行かないんっすか?」


「ああ、まだ資材チェックが残ってるからな」



 金だけ渡されてリョウも疑問に思ったのだろうが、残念ながらオレは行けない。



「いやいや、水臭いっすよ。だったらオレも手伝うっす!」


「もう就業時間は過ぎてるんだ、お前らはとっとと帰れ。最近は専務が時間外労働がどーたらとか煩いんだよ」



 個人事業でやってる時は労働基準法だとかはあんまり気にせずやってきたが、会社になってからはそうはいかない。

 昔もリョウには先に帰るように言っても自発的に残って手伝ってくれてたから、今もその時のクセが抜けないせいか勝手にサビ残しようとしてきて少し困る。



「あー……コウちゃんがそう言うなら仕方無いっすね、社長もあまり遅くならないように」


「ああ。後2時間もすれば終わるよ、でも飯には間に合いそうにない」



 リョウは申し訳なさそうにアタマを掻いている、そんなに気にしなくても良いのだがそこはリョウの性格なのだろう。



「わかりました、じゃあ……お疲れ様です!お先です!」


「お、お先に失礼します」


「おう、お疲れさん。明日もよろしく頼む……ってコウジ、お帰り」



 オレに挨拶して帰ろうとした二人、その後ろから職人とは思えないスーツ姿の男が倉庫に入ってきた。



「ええ、ただいま戻りました……兄さん」



 オレの弟で、この会社の代表取締役専務のコウジだ。



「コウちゃん!お疲れ!」


「リョウ、会社では専務と呼んで下さいと何度言ったら」


「いや、おやっさんもコウジって呼んでたじゃん!」


「おやっさんではなく、社長。いくら私の幼馴染で親友とはいえ、会社内では分別をつけてください」



 コウジが帰って来るなりリョウが煩い、まぁコウジは外回りの仕事もそこそこ多いからなかなか会えないからな。

 たまに会えた時は嬉しくなるんだろう、幼稚園来の親友でもあるわけだし。



「ところでリョウ。食事は構いませんがシンヤ君は未成年です、居酒屋などには連れて行かないようにお願いしますよ。あと、会計時には領収証を忘れず貰って下さい。あと……」


「わかってる!わかってるよ、相変わらずコウちゃんは細かいなー」


「私が細かいのではなく、リョウが大雑把すぎるのです。だいたいこの間も……」



 リョウとコウジがギャーギャー騒いでいるなか、残されたシンヤはポカーンとした表情で二人を眺めていた。

 まぁ、普段のコウジは物静かだからシンヤもこの変貌ぶりに驚いているんだろう。


 5分程二人が言い争ったあと「おーい、そろそろシンヤの腹が限界だぞー」と言うオレの言葉で二人が我に帰る。

 当のシンヤ本人は「え?いや、僕は別に……」みたいな感じで狼狽えていたけどな、まぁ二人をとめるダシに使わせて貰ってスマンな。

 コウジもシンヤの前で醜態を見せてしまったとでも思ったのか、それ以上は何も言わずリョウ達を見送る。


 二人が帰ったあと、倉庫内にはオレたち二人。



「兄さん、気持ちは分かりますが……あまりシンヤ君を特別扱いしないで下さい」


「ん……ああ、そうだな。社員は他にも居るんだし、シンヤばかり目にかけてたら悪いよな」



 あたり前だが、ウチの会社にはオレを含めたさっきまでの4人以外にも社員はいる。

 と言っても全部合わせても10人も居ないが、その中でシンヤの事は特に気にかけていた。

 具体的にはオレの右腕とも言えるリョウを側につけて、仕事もプライベートもシンヤに無理させないように頼んでいる。


 今日の食事だって、オレがシンヤを誘うようにお願いしていた。



「まぁ……シンヤを見てるとどうしても、な。昔のオレとカブるというか、ほうっておけないというか」



 シンヤは今年に中学を卒業したばかりで、まだ誕生日も来ていないので15歳だ。

 そんな若さで建築業界での仕事は無理がある、という訳では無い。

 ウチの社員は大概が中卒だし、何ならこの業界はそう言うやつの方が多い……リョウだって中卒だしな。


 オレが言ってるのは、シンヤの家庭環境のほうだ。


 シンヤは去年両親を亡くしている、事故だったそうだ。

 頼れる親族も居なく当時中学生だったシンヤにはどうする事も出来なかった、卒業まで残すところ数カ月といったところで教師に相談するのも憚られたのか一人で路頭を迷う事に。

 それをオレが拾って、ウチの会社で雇う事にした。


 社宅を用意してやり、そこに住ませて学校にも行かせた。

 自活出来るように、卒業後すぐに現場に連れて行った。

 諸々の面倒な手続きとかはコウジに任せっ放しになったが、ここ数カ月で生きていくには問題ない状況まで持ってこれた。


 オレとカブる、と言ったのはウチも両親が居ないからだ。


 オレたちの方はさらに深刻だ、オレ一人だけじゃなく当時5歳のコウジの命も両肩に掛かっていた。

 何社もの建築会社に尋ねては住み込みで働かせてくれと頭を下げ、ようやく雇ってくれた会社も正規雇用ではなく日雇い契約のようなもの。

 保証も何もなくオレたち二人の生活費なども引かれて、手元に残るのは雀の涙ほど。

 それでも生きていく事が出来て、コウジを学校に通わせられたのだから当時の社長には感謝している。

 身元もわからない、子連れのガキを雇ってくれたのはあそこだけだしな。


 それから10年、オレが25歳でコウジが15歳の時には技術もしっかり身に付いた頃に独立した。

 当時の社長の勧めで、一人親方として仕事を請けないかと。

 社長の利益としては請けた仕事をコッチに丸投げして、幾らかの手数料を取るだけで良いから自分の社員らには他の仕事をさせられる。

 こちらの利益としては今まで日当という形で貰っていたお金が現場単位で入って来るので、上手く納めれば収入が格段に増える事。


 オレは2つ返事でオーケーした。


 コウジが中学を卒業する時「僕も働く!」と言って効かなかったが、その頃には多少余裕もできた為「お前は進学しろ」と根気よく宥めた。

 コウジはオレと違いかなり頭の出来が良く、このまま肉体労働させるのはかなり勿体なく感じた。

 お前にはそっち方面でオレを助けて欲しい、と言ったら「それが兄さんの為になるなら……」と折れてくれた。


 代わりと言っては何だが、コウジの同級生のリョウがオレの子方となった。

 ちゃんとした会社じゃないし、正規に雇うって訳にもならないし保証も何もないぞ?と言ったら「いいっす!オレには学が無いんで、どうせ何処で働いても一緒っす!ならコウちゃんのお兄さんの世話になりたいっす!」と言ってきた。

 まぁ、体力は有りそうだしとりあえずは日雇いの非正規で雇う事にした。


 その後は順調に仕事を熟し、収入も安定したのでコウジを大学へと進学させた。

 相変わらずオレの為になるならと言うのが理由らしいが、兄としてはそのままいい企業にでも就職してくれた方が嬉しい。

 そんな気持ちを知ってか知らずか、在学中に建築士などその他諸々の資格を習得し卒業と同時に企業した。

 おめでとうと言ったら「?兄さんの会社ですよ?」と来たもんだ、どうやらオレを社長に据えた会社だったらしく寝耳に水だったからかなり驚いた。


 それから5年、経営などはコウジの手腕によって上手くいっている。

 ぶっちゃけオレは今まで通り、新たに増えた従業員と共に現場に出てるだけだ。


 そんな中出会ったシンヤ、何とかしてやりたいとついつい気にかけてしまう。



「ええ、ですから気持ちは分かるんです」


「そろそろ自活出来るようになってきたし、これからは変に意識しないように気をつけるよ。リョウにも他に任せたい現場があるしな」



 リョウにならシンヤを任せられると言っても、他の社員には任せられないと言う訳では無い。

 ウチの社員は気の良い奴らばかりだし、そろそろ色んな職人と一緒に現場へと出てもらうのも良いだろう。



「……そうですね、先方からもリョウは来ないのかと打診が何件かありますし。そろそろ潮時です」


「分かった、なら来月から向かわせると伝えておいてくれ」


「分かりました。ではそろそろ私も失礼します、社長もいい頃合いで。お疲れ様でした」


「ああ、お疲れさん」



 言いたい事は言ったとばかりに、コウジは倉庫から出ていった。

 倉庫の扉が閉まるまでそれを見送り、オレは中断していた資材チェックを再開する。



ーーーーーーーーーー



 夜の10時、予定よりも長引いてしまったがついに資材チェックが終わった。

 倉庫の鍵を会社の所定の位置に戻すと「おつかれさん」と、誰も居ない社内へと声をかける。

 当然のように誰からも返事は帰って来ないのだが、オレは一つ頷くと戸締まりもせずに会社を後にした。



「あー、遅くなったな。飯はどうしようか……」



 家に向かって帰る途中、車を運転しながら独り言を呟く。

 残念ながら今まで仕事ばかりの人生だったからか、今尚独身を貫いている。

 このまま真っ直ぐ帰ったところで待っている人も居なければ、温かい食事なども無いのだ。

 普段は自炊しているが、たまに遅くなるこんな日は外食で済ます事もある。

 コウジは高校時代に付き合っていた同級生の子と大学卒業と同時に結婚した、今では1児のパパさんだ。

 一度コウジの彼女から紹介されて付き合った子は居たのだが……如何せん学生と社会人とじゃ時間も趣味も価値観も全てが合わず、何より10も歳が離れている事もありお互い燃え上がらずそのまますぐに別れた。



「リョウ、まだ起きてるかな。流石にシンヤは帰しただろうけど……あいつの事だ、恐らく今頃居酒屋で一人酒でもしてるかもな」



 ちなみにリョウも独身だ、あいつは自炊などはしないから毎日外食している。

 そのせいか、毎月のように給料日前は金欠でヒーヒー言っている。

 そこそこの給料は払っているはずだがな、一体普段からどんだけ呑んでいるのやら。



「次に何処か停める場所があれば、リョウに連絡するか」



 等と考えながら車を走らせ、交差点の信号が青なのを確認して進入した。


 と、その時けたたましいクラクションの音が鳴り響き運転席側の窓から眩しい光が差し込む。

 慌てて右を見ると、大型のタンクローリーが減速もせずにこちらへと向かって来ていた。



「……え?」



 突然の光景に頭が真っ白になり、オレが何かを考えるよりも先に激しい衝撃をうけた。

 どうやらそのまま衝突したらしい……らしいというのは、衝突した瞬間にはもうオレはこの世にいなかったから曖昧なんだ。




 え?じゃあ今どうやって思考してるかって?


 そう、問題はそこなんだよ。

 ここまで長くなったけど、それは今自分の死因について詳細に思い出そうとした結果なんだ。


 ……目の前に居る、自称女神とやらにうながされてね。

お読み下さりありがとうございます。

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