表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中林さんの天球儀  作者: すたりむ
第1章:結婚詐欺編
1/70

0.英雄崩れと天才の話













「帰るんだ。いつか、わたしたちの世界へ」













 異世界に飛ばされたとき、人はなにを思うだろうか。


 まあ、人それぞれ、と言ってしまえば、それまでの話だろう。

 英雄になれると喜ぶ者もいれば、いままでの人生を失って途方に暮れる者もいるかもしれない。あるいはどちらでもなく、淡々と状況に対処するというのもあるだろう。

 俺の場合は、最初は途方に暮れていたように思う。なにがなんだかわからなかったのだ。

 ただ、守らなければいけない女の子がいて。

 その女の子が、『元の世界に帰る』という目的を持っていて。

 女の子を守って大冒険をして、一人前に魔術なんかも使えるようになっちゃったりして、次々と来る荒事も、なんとかくぐり抜けた。

 そんな体験をすれば、自分が『選ばれた英雄である』と思い込むのも、無理はないだろう。

 ヒロインを守りながら、異世界を旅する大冒険。そんな物語の主人公となって、縦横無尽に駆け抜けるのは、夢のような日々だった。


 なんと幸せな思い上がりだったのだろう。

 現実には、選ばれた英雄なんていない。

 俺が成功したのはたまたまだったし、誰に選ばれたわけでもなかったし、そもそも俺たちの人生は、物語ではなくてただの現実だった。

 俺はそんな勘違いの代償を、『失敗』という形で、否応なく味わうことになる。


 そして、ここにもう一人の女がいる。

 彼女が異世界に飛ばされたとき、なにを思ったか。それを、俺は知らない。

 そもそも、彼女は俺と違って、異世界でずっと苦労したタイプだった。大冒険など望むべくもなく、だからこそ、思い上がるような余地もなかった。

 しかし……と、俺は思う。

 そんな環境の問題ではないのだ。

 そんな環境の差などなくとも、彼女は思い上がったりはしなかっただろう。


 なにしろ、彼女は。たった一本の、質がいいとは決して言えない望遠鏡を与えられて、空を見つめ続けて。

 そしてある日、唐突に俺に向かって、こう言ったのだ。


『私たちは間違っていた。突如としてファンタジーな世界に呼び出されて、異世界召喚もの作品の主人公みたいな状況に置かれて、それでうっかり、異世界だと思い込んでいたのよ。

 だからいままで、誰も気づかなかった。私たちはみんなだまされていた。いや、正確には思い込んでいたの。この世界は、異世界なんかじゃない』



 これは、そんな俺たちの話。

 英雄になり損なった俺と、英雄になんて興味のなかった彼女が、この馬鹿げた異世界転移もどきの真実を暴き、地球へと帰ろうとする物語だ。

 それはとある朝、いつものようなアクシデントから始まる――

本日(2023/8/1)より更新開始。とりあえず初日はきりのいい場所まで、8時から2時間おきに22時まで連続更新します。

明日以降はしばらくの間一日一回、8時投稿となります。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ