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転生した乙女ゲーの世界に知らないキャラがいた件 後

瞼の裏からでも分かるほど眩しい光を受けて意識が覚醒する。

起きて一番に目に入ったのは豪奢な装飾が施された煌びやかなシャンデリアとベッドの天蓋。

知らない天井だ・・・

ここどこ?

この場所に心当たりがない私は半身を起こして周囲を見渡す。

その弾みでシーツが捲れて気づいてしまった。


「えっ!?はぁっ!?」


今の自分が一糸纏わぬ姿だということに。有り体に言えば全裸だ。


「な、なんで!?」


ここはどこでどうして裸で寝ていたのかを思い出そうとしても何も思い出せない。

しかし、考えているうちに一つの可能性に行き当たった。


「まさか、フレグ様との初夜CG!?」


全年齢向けの福カンにそんなものはない。でも考えられるのはそれしかなかった。


「そっかぁ!転生したからエンディングの先も楽しめるのね!」


ようやく合点がいった。

それならこの無駄に豪華な寝室も裸で寝てたことにも説明がつく。

それはわかったけど部屋の主はどこに行ったんだろう?

戻ってくるまで寝ようかな?

そう考えたけど目が冴えて眠れない。前世も今も一般市民な私じゃこんな豪華なベッドでは落ち着いて眠れない。

二人どころか五人でも余りそうなメチャデカベッドに素肌を乗っけるなんて申し訳なさ過ぎる。

とりあえず何か着よう。

ベッドから見える範囲で服を探しているとドアをノックする音が聞こえてきた。

フレグ様だ!!


「はぁ~いっ」


出せるだけの甘い声で答えるとドアが開き・・・


「おはよう。メイリー」

「なっ・・・!!」


ガウンを羽織ったミアナが入ってきた。


「なぁーーーーーっっっ!!??えっ?ちょっ!ちょ待てよ!なんでミアナ!?フレグ様は!?」

「フレグ?あんなに愛を囁いてくれたのにもう他の人?・・・悪い女ね」

「はぁっ!?あ、愛!?」

「忘れてしまったの?」


愛がどうの言われたって心当たりが全くない。

そんな私をよそにミアナはガウンの帯を解きながらベッドに近づいてきた。

ガウンは衣擦れの音を立てながら床に落ち、その下の素肌が露わになる。絹のような滑らかな肌と均整の取れた肢体はまるで絵画のよう。

思わず見惚れてしまったもののはっと我に返り慌てて目を覆う。


「ちょっ!?なんで脱ぐの!?」

「初心ね。昨日飽きるほど見たじゃない?」

「記憶にございません!!」

「まぁひどい。でもいいわ」


目を覆う両手首が掴まれてあっという間に開かれる。

私の両手首を掴んだミアナはそのまま私を押し倒す。

私の視界が反転。視界の全てを一糸纏わないミアナに支配される。


「ミ、ミアナさん!?」

「また思い出させればいいだけだもの」


ミアナの声と体がゆっくりと降ってくる。

木剣を巧みに振るい男子顔負けの剣術を披露した細くしなやかな腕は見た目に反して力強く、力を込めてもびくともしない。

私に覆い被さるミアナの肌と熱が素肌越しに伝わってくる。

きめ細やかな白い素肌は一見すると精巧な人形のよう。けれど生きた人間の確かな熱をもって触れた部分を暖める。

まるで吸い付くようにぴったりと合わさった肌はとても暖かくて柔らかい。前世は永遠の乙女だった私にもこれが人に抱かれている状態だというのが理解できた。

シーツを捲りベッドに潜り込んだミアナは私の両手首を離して私の頭と腰に手を回した。

抵抗する意志がないのを感じ取ったのだろう。


「ふふっ、いい子・・・」


ふっくらとした唇が蠱惑的に揺れ、細く整った指が私の髪を梳くように撫でる。

少しずつ力が抜けていってるのが自分でもわかる。

それはミアナにも筒抜けだったらしい。腰に回していた左手を離すと私の顎に指を添えて軽く引いた。

顎クイだ。


「時間はたっぷりあるわ。めいいっぱい楽しみましょう・・・」


そしてミアナの顔が少しずつ私の唇に・・・



「どっせーーい」

「ほげあぁぁぁぁっ!!??」


まるで崖から突き落とされたのではないかという衝撃と共に今度こそ本当に目を覚ます。

見慣れた学校の寮だ。

ベッドから落ちた痛みに呻きながら振り返るとフレンカが何食わぬ顔で乱れたベッドを整えていた。


「おはようございます、メイリー。ベッドから落ちるとは大層寝相が悪いようで」

「いや、さっきどっせーーいって・・・」

「悪いようで」

「うん。おはよう。次はもっと優しく起こしてね」

「それは優しく起こして起きる方が言うべきことです」


素知らぬ顔ですっとぼけるフレンカに付き合ってても時間の無駄だと起き上がって着替えを始める。

最初はフレンカが手伝うと言ってくれたけど人に手伝ってもらう経験なんてなかったから着替えは自分でやっている。

さっきのは・・・夢?

夢と呼ぶにはあまりにもリアルで肉感的だったあのひと時を思い出すだけで頬が赤くなって心臓がバクバク脈打つ。

私、ミアナとあんなこと・・・!!

女どころか男とすらしたことないはずなのにあの夢で感じた熱と感触は今でも体に残っている。

それだけでも十分に驚きだけど一番じゃない。一番驚いたことは・・・


「嫌じゃなかった・・・」


最後の瞬間、私はその寵愛に身を委ねようとしていた。

ミアナが絶世の美少女だから?それともあの空間の熱に浮かされてたから?

考えても答えは出ない。

悶々とした気分に苛まれながら着替えをしているとフレンカが懐中時計を見ながら言った。


「メイリー。今日は予定があるとおっしゃっていませんでしたか?」

「えっ?・・・あっ!そうだ!!私ちょっと街に行ってくるね!」

「でしたら私もお供を・・・」

「大丈夫大丈夫!地図は覚えてるから!じゃっ!いってきまーす!!」


鞄を引っつかんで急いで自室を出る。こればかりはフレンカを同行させるわけにはいかない。

何故なら・・・


「んふふ~♪待っててねフレグ様」


これからやることはフレグ様攻略RTAだからだ。




魔法学校のすぐ近くにはヒムジョイの街というそれなりに賑わっている街がある。

レストランや劇場、ブティック等様々な店があり休日ともなれば生徒達も集う憩いの場だ。

今日私がここに来たのはフレグ様ルートに入るためのフラグを立てるためだ。

街にやって来て浮かれているメイリーはここで怪しい男に騙されて連れ去られそうになり、そこに颯爽と現れたフレグ様が助けてくれるというイベントが発生する。

前回のフラグ構築は失敗したけど今回は成功させる!

燃えたぎる決心を胸に所定の位置でその時を待つ。しかし、待てど暮らせどフレグ様どころか怪しい男すら話しかけてこない。


「あ、あれ?」


どゆこと?もしかして、前のフラグ構築に失敗したから?だからイベント発生しないの!?


「そ、そんなぁ~・・・」


たまの休みに早起きした苦労が水の泡だ。

イベントが発生する時間まで待ってみたけど進展なし。

両肩に徒労と喪失感が圧し掛かる。

折角街に来たんだし何か美味しいもの食べてフレンカにお土産を買っていこう。

そう思って通りを歩き始めた・・・その時だ!


「・・・はっ!?えっ!?」


思わず物陰に身を隠して様子を窺う。だって、目の前にあのミアナがいるんだもの!


「ミ、ミアナ?なんでここに?・・・あっ、そっか」


どれだけ優秀でも中身は年頃の女の子。暇になったら街に繰り出して遊ぶくらいするよね。


「そうだ。何するか覗いちゃお~っと」


これも何かの縁。すぐさまミアナの尾行を開始する。

つかず離れずの距離を保っているおかげで向こうもこちらに気づくことなく通りを歩いている。

しかし、しばらく尾行しておかしなことに気づいた。


「あれ?何も見ないの?」


少し目を向ければ若い女の子が好みそうなブティックやアクセサリーショップ、美味しそうなスイーツが並んでいるのにそれらに目もくれず足早に歩を進めている。

遊びに来たんじゃないってこと?

不審な行動に首を傾げているとミアナが人通りの少ない路地に入った。


「やばい!」


見失っては大変だと慌てて追いかける。

通りを曲がって路地に入るがそこにミアナの姿はない。


「えっ?あれ?」


ついさっき曲がったばかりのはずなのにその姿は影も形もない。

一体どこに・・・?

近くに隠れていないか木箱の裏を見たり樽のふたを開けたりして探したけどどこにもいない。

一度ならず二度までも!また無駄な時間を過ごしてしまった・・・!


「よぉ。待ちなお嬢ちゃん」

「カル学の女がお供もつけねぇでふらついてるって話は本当だったんだな」

「流石は貴族様。いい服着てるねぇ」


がっくり肩を落として路地を出ようとした私の前に三人の男性が立ちはだかる。

えーーっと。これは所謂・・・チンピラってやつですか?

どう見てもガラのよろしくない殿方達は私に迫り路地の奥へと追いやっていく。

たちまち突き当たりに追い込まれ逃げるに逃げられない状況に。

知らない!私こんなイベント知らないよ!?


「なぁ貴族様よぉ。明日をも知らねぇ俺達平民にちょいとばかし心付けをくれねぇか?」

「別に金でじゃなくてもいいんだぜぇ?」

「俺、一回でいいからその制服着てみたかったんだぁ」

「えっ?」

「はっ?」


はい出ましたーー!!こういう輩がやることと言ったらカツアゲですよねぇ!


「わ、分かりました!お金を払えばいいんですね?」

「そうそう。聞き分けのいい子はモテるぜぇ」

「えー。俺その制服が・・・」

「お前は黙ってろ!!」


お金で解放してくれるならそれに越したことはない。幸いにも私には助けた近衛騎士のおじさんからもらった支度金の残りがある。

こんなことに使うのはいやだけど命あってのなんとやら。私は鞄からお財布を取り出して彼らに渡そうとした。

しかし、お財布を持った手を掴まれて壁に叩きつけられてしまう。


「いたっ!」

「なぁ~んちゃってぇ!金と女、片方だけなんてもったいないことできるか!」

「やっぱお貴族様は俺らとは体の作りが違うんですかねぇ?」

「俺制服着たい!」

「わかったよ!!」


男のごつくて大きな手が私の手首を絞め上げる。

こ、怖い・・・!!

それはこの世界に来て初めて覚えた感情だった。

自慢じゃないがこのゲームをやり込んだ私は魔物のどころか魔王すら怖くない。

奴らは金と素材と経験値をくれるカモだ。

そんな私がこんなチンピラに追い詰められている。

なんで何もできないの!?転生したらチート能力とかもらえるもんじゃないの!?


「まぁ、勉強代だと思って諦めな」


男の手が私の胸元に伸びる。なのに私は震えるだけで何もできない。


「た、助けて・・・!!」

「あら?こんなところにいたのね」


恐ろしさに閉じた目を開く。視線の先には悠然と佇むミアナの姿が。


「なんだてめぇ?」

「その子の友達よ。貴方達が見つけてくれたの?ありがとう」


つかつかと歩み寄ってきたミアナはスカートのポケットから何かを取り出して男達に握らせた。


「これはほんのお礼よ」

「き、金貨!?」

「俺初めて見た!!」


金貨に目が眩んだ男の力が緩む。その隙に拘束を離れた私の手をミアナが握る。


「・・・っ!!」


今朝の夢を思い出して思わず赤くなってしまう。


「さぁ、行きましょう?皆待ってるわ」


そう言って私の手を取って歩き出す。しかし、男達は諦めない。


「なぁお嬢ちゃん。もっと持ってねぇのかい?」

「あら?もっと欲しいの?」

「あぁ、欲しいね。金もお前みたいな女もなぁっ!!」


男の一人がミアナに飛びかかる。

体格差は歴然。力勝負に持ち込まれた勝ち目がない。


「はぁ。素直に受け取っていればよかったのに・・・」


ミアナはため息を吐くと男を避ける・・・のではなく真正面から突っ込んだ。


「馬鹿が!女の力で勝てるわけねぇだろ!!」

「力勝負ならね」


二人の距離は既に目と鼻の先。

やられちゃう・・・!!

咄嗟に目を閉じて顔を背ける。そんな私の耳にありえない音が響く。


「ぐぁっ!!」


恐る恐る目を開くとそこには何事もなかったように佇むミアナとその後方で倒れる男の姿が。

えっ?何が起きたの?


「よくもやりやがったな!」

「制服剥いでやる!」


仲間が倒されて怒り狂った男達がミアナに殺到する。

二人の手には鈍く煌くナイフが。刺さったら怪我どころでは済まない。


「ミアナ!」

「・・・?」


私の呼びかけにきょとんとした表情を見せるミアナ。その隙にリーダー格の男がミアナ目掛けてナイフを薙ぐ。

ミアナはそれを大きく仰け反って回避。宙を切ったナイフは路地裏の壁に激突。


「いってぇっ!!」


その反動で男がナイフを取り落とす。

すかさずナイフを拾ったミアナは剣術の授業で見せた華麗な剣さばきで男の喉元に切っ先を突きつけた。


「退きなさい。折角の金貨を治療費にしたくないでしょう?」

「うぐぐ・・・っ!」

「兄貴!」


ナイフを構えたもう一人の動きも止まる。

ナイフを突きつけられた男は両手を上げてゆっくりと距離を取る。もう一人も地面にナイフを置いてそれに習う。

す、すごい・・!あっという間にやっつけちゃった

その光景に夢中な私は気づかなかった。忘れていた脅威がすぐそこに迫っていたことを。

突然首に太い腕が巻きついた。意味も分からず呆然とする私に突きつけられる鋭利なナイフ。


「動くな!武器を捨てるのはお前の方だ!」


私にナイフを突きつけた男が叫ぶ。最初にミアナが倒した男だ。

その声にミアナが振り返る。

それを見ていた男達も形勢逆転と見てにやついた笑みを浮かべた。


「さっさと捨てろ!でなきゃこの女に一生ものの傷がつくぞ!」

「すればいいんじゃない?」

「はっ?」


えっ・・・?今なんて?


「そこまでして助けたいわけじゃないわ。後は好きにしなさい」

「えっ?ちょっ!」

「じゃあねヒエロフさん。貴女のことはできるだけ覚えておくわ」


ナイフを捨てたミアナは小さく手を振ってさっさと帰ってしまった。

嘘?そんな・・・!!


「待って!助けて!!」


必死に手を伸ばすがミアナは止まらない。その姿はすぐに見えなくなってしまった。


「へっ、薄情な友達だな」

「おかげで金貨にありつけたんだ。友情様様だぜ」

「また邪魔が入ったら面倒だ。アジトに運ぶぞ」

「いやぁっ!離して!!」


精一杯力を込めて抵抗しても歯が立たない。

原作知識があるっていうだけで完全に舞い上がって忘れていた。チート能力もなく魔法の杖も持ってない私は果てしなく無力だということに。

男達は私の体を軽々と持ち上げてどこかに連れ去ろうとする。ただ震えて泣くことしかできない私の目の前で・・・男達が真っ黒な水のようなものに包まれた。


「・・・はっ?」


あまりにも予想外な事態に呆然としていると黒い水が私の体を包んで男から私を引き離した。

黒い水は私を優しく地面に置くと男達を包んでいた水と一緒に地面に溶け込むように消えていった。

水から解放された男達は地面に倒れ込む。

死んだのかと一瞬焦ったけど表情はとても穏やかで胸は静かに動いている。眠ってるだけらしい。


「えっ?な、何あれ?」


福カンにあんな魔法はなかった。水の魔法はあるけど黒い水を自在に操る魔法なんて聞いたことがない。

今のは何?誰が使ったの?


「怪我はない?」


かけられた声に振り返ると開いた本を片手に持ったミアナが立っていた。

それは夜闇に浮かぶ澄んだ湖のような色の本。福カンのアルティメットマニアどころか考察サイトでも見たことがない。

ミアナが本を閉じると本はあっという間に消えた。


「消えた!?」


驚く私の元に歩み寄ったミアナは勢いよく頭を下げた。


「ごめんなさい!相手を刺激せずに貴女を助けるにはあぁするしかなかったの」

「えっ?えっと・・・」

「本当にごめんなさい。怖い思いをさせてしまったわね。私にできることならどんな償いでもするわ」


何でもする。普段の私だったらん?今何でもするって言ったよね?と茶化してただろう。

でも、余裕のない今の私にはそんなこと言えるはずがなく・・・


「うっ、うぅ・・・。うわぁーーーんっっ!!」


恥も外聞もかなぐり捨ててミアナに抱きつく。

多分香水の匂いだろう。芳しい花のような香りが恐怖で震える私の心を少しだけ和らげてくれた。


「ありがとう・・・!!ミアナっ・・・!」

「当然のことをしたまでよ」


ミアナを強く抱き締めながら心に沈み込んだ恐怖や絶望を涙として吐き出す。

そんな私をミアナは嫌な顔せず受け入れてくれた。




「ごめんね。制服びちゃびちゃにしちゃって・・・」

「気にしないで。もう大丈夫?」

「うん。ありがとう」


一通り吐き出して泣き止んだ私はミアナと一緒にカフェに来ていた。

この店は地元の人の間で有名な隠れ家的な店でアルティメットマニアに載ってた設定集を見てから一度は行きたいと思っていた場所だ。


「ごめんなさい。無理をしてでも助けるべきだったわ」

「もういいよ。それじゃミアナが危なかったんだし」


確かにすごく怖かったけど冷静になって考えればそれしかなかったようにも思える。

相手は武器を持っていて私が人質に取られている。

そんな状況なら無理に挑むより相手を油断させた方がいい。納得はできるけど怖いものは怖い。

運ばれてきた暖かい紅茶で未だ震える体を温めているとミアナが話しかけてきた。


「1つ聞いてもいいかしら?」

「何?」

「私達、どこかで会ったことがあるのかしら?ミアナって呼ばれるほど親しくなった覚えはないのだけど」

「ぶふぅっ!!」


危うく紅茶を噴き出しかけた。

し、しまったぁ・・・!!言われてみれば初対面じゃん!!また悪い癖が出ちゃったぁ。


「えっと・・・。あっ!お友達がそう呼んでたからそんな名前なのかなって」

「友達?もしかしてカレアのこと?」

「多分そうかな?」

「ふーん」


いまいち納得していないような雰囲気だったけどそれ以上は何も聞いてこなかった。


「そうだ!自己紹介がまだだったよね?私は・・・」

「メイロイン・ヒエロフさん」

「・・・っ!?知ってるの!?」

「同じ新入生ですもの。覚えているわ」

「えぇっ!?まさか全員覚えてるの!?」

「えぇ。でも顔と名前だけよ」

「十分すごいよ・・・」


どんな記憶力してるんだこの子?


「ヒエロフさんはこの街に慣れてるの?」

「メイリーでいいよ。さんもいらない」

「分かったわ。足取りに迷いがなかったようだけど、メイリーは街のことよく知ってるの?」

「うん。ちょっとだけ」


嘘です。街の地図はほとんど頭に入ってます。

それを聞いたミアナはくすりと微笑んである提案をしてきた。


「よければ貴女の時間を分けてもらえないかしら?」

「どういうこと?」

「メイリーの街巡りに付き合わせて欲しいの。お金は全額私が持つわ」

「えぇっ!?そんなの悪いよ!」

「怖い思いをさせてしまったお詫びよ。嫌なことは忘れてめいっぱい楽しみましょう」

「でも・・・」

「そんな気分じゃないなら一緒に帰りましょう。今度は命に代えても貴女を守るわ」


穏やかな笑みを浮かべるミアナだけどその瞳は真剣そのもの。本気で私を心配してくれてるのが心から理解できる。

本音を言えばもう街を楽しむなんて気分じゃない。あんなことの後に浮かれて遊べるほど私は強くない。

でも、好奇心とは恐ろしいもの。

あんなことがあった後なのに私の好奇心はミアナについて知りたがっている。彼女が何者なのか?さっきの魔法は何なのか?

少しでも手がかりを得たいと思っている自分もいる。


「・・・うん。私でよければ案内するよ」

「ありがとう、メイリー」


屈託のない笑顔を直視できず思わず目を逸らす。心に余裕ができたことで今朝の夢を思い出してしまったのだ。

うぅ、平常心平常心。


「・・・?」


ミアナが不思議そうに顔を覗き込んでくる。そんな彼女から目を逸らし、平静を保つので精一杯だった。




こうして始まったミアナとの街巡りは・・・本当に楽しい夢のような時間だった。

思った以上に話が合ったからだ。

平民のことも学んでいるのか、はたまた生来の洞察力か。貴族のお嬢様なはずなのに世間ズレした様子はなく、安いアクセサリーを楽しげに眺めたり一緒にスイーツを買い食いしたりと私も肩肘を張らず自然体で楽しめた。

そんな親近感が湧く一面があってもやはり貴族。ミアナのエスコートは完璧で終始ドキドキしっぱなしだった。

歩く時は常に左側の半歩前。私の手を恭しく取って歩くその立ち振る舞いはまさに貴婦人そのもの。

どの店に行っても何を見ても財布を出すのはミアナで言葉通り本当に何でも奢ってくれた。

高いなーと興味本位で見てただけの腕輪すら即金で買おうとしたのは流石に止めた。いくら罪滅ぼしとはいえそんなものまで買ってもらうのは申し訳ない。

そのおかげで帰る頃には恐怖心がすっかり成りを潜め、代わりに街を遊び尽くした充実感で満ち溢れていた。


「はぁ~遊んだ遊んだ!」

「とても楽しいひと時だったわ。ありがとうメイリー」

「そんな・・・。ミアナのおかげだよ。私のお財布じゃあんなに豪勢に遊べなかったし」

「ふふっ。元気になったみたいでなによりだわ」

「うん。ありがとう」


襲われそうになった恐怖は消えてないけどミアナのおかげで大分落ち着けた。あのまま帰ってたらベッドの中で一人震えていたかもしれない。

学校行きの馬車に揺られて帰路に着く最中、買ったものを確認している私にミアナが声をかけてきた。


「メイリー」

「ん?何?」

「手を広げて」

「っ?こう?」


言われた通りに右手を広げる。ミアナはその手に小さな紙袋を置いた。


「なにこれ?」

「開けてみて」


わくわくしながら袋を開ける。中に入っていたのは黄色い花の形をした髪飾りだった。


「綺麗・・・!ありがとう!」

「どういたしまして。楽しませてくれたお礼よ」

「奢ってもらった上にプレゼントまで・・・。これも高いやつなんじゃない?」

「いいえ。それは露店で買ったものよ」


そう言われて思い出す。そういえば、露店を見てた時になにか買ってたっけ?それがこの髪飾りだったんだ。


「一目惚れして買ったの。メイリーに似合うかなって」

「付けてもいい?」

「えぇ。じっとしてて」

「へっ?」


その意味はすぐに理解できた。髪飾りを手に取ったミアナが急接近してきたからだ。

ち、近い・・・!!

あの夢を思い出して心臓がバクバク高鳴っている私のことなどお構いなしに髪飾りをつけてくれた。

しっかりとついたことを確認し、鞄からコンパクトを取り出して開いた。


「ほら!とてもよく似合っているわ!」

「うん!すごくかわいい!ありがとう!」


鏡に映る私の髪には先ほどの髪飾りが。華やかな黄色い花は栗色の髪も相まって秋の草原に咲く一輪の花のよう。

それから帰るまでの間、私達は街での思い出を語り合って過ごした。




「でね!ミアナって貴族のお嬢様なのに全然気取ってなくてすごく話しやすいの!なんて言うのかな?浮世離れしすぎてないっていうか、地に足がついてるっていうか・・・」

「はぁ・・・」


馬車が学校に着くとミアナは宣言通り寮の部屋まで送ってくれた。

別れを惜しみながらも帰った部屋ではフレンカがいつも通りの無表情で出迎えてくれた。もうちょっと愛想があってもいいんじゃないかと思うけどいつもと変わらない鉄面皮が今では安らげる。

お土産を渡して今日あったことを話しているとフレンカが口を挟む。


「メイリー」

「何?」

「先ほどから疑問に思っていたのですが、貴女はセレディポリス様をどう思われているのですか?」

「どうって?すごく優しくていい人だと思うよ。私を助けて街巡りにも付き合ってくれたし」

「左様ですか。まるで恋する乙女のようでしたので恋慕の情を抱いているのかと・・・」

「れ、れんっ!?ないない!!いくら強くて優しくてかっこかわいくても女の子だよ!?そんな・・・」


そう。そんなことはありえない。だって私には最推しのフレグ様が・・・様が・・・


「あ、あれっ?」

「メイリー?」


フレグ様とのイベントやCGを思い出そうと頭を捻る私の脳内に浮かぶのは全く別の記録。

チンピラ相手に顔色一つ変えず立ち向かったミアナ、一緒にスイーツを食べて満面の笑みを浮かべるミアナ、そして今朝見たあの夢の・・・


「嘘!?思い出せない!?」


そんなはずはない。フレグ様と過ごした日々はしがないOLとして忙しなく働く自分にとって癒しだった。生きる糧だったはずだ。

イベント名を思い浮かべればすぐにテキストとCGが出てくるし台詞を見るだけでどのイベントかすぐ思い出せるくらいやりこんできた。

アルティメットマニアがなくても思い出せるほどどっぷり浸かってきたフレグ様との日々が昨日今日会ったばかりの小娘に負ける?そんなはず・・・


「なんで?なんでミアナが出てくるの・・・?」


ここまで来たらもう認めるしかない。私、メイロイン・ヒエロフは・・・


「ミアナのこと好きになっちゃったの?」

もちっとだけ続くんじゃよ

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