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転生した乙女ゲーの世界に知らないキャラがいた件  前編

 新入生代表の挨拶をやるはずだった推しは・・・見たこともない美少女に変わっていた





 好きなゲームの世界に入って思う存分楽しみたい。

 誰もが一度は思い描いたことがある夢だろう。

 私もそんな理想を夢見た一人だ。

 故郷から遠く離れた都会でしがないOLをやっていた私の心の支え。

 それは恋愛シュミレーションゲーム「福音のカンタービレ」、略して福カンだった。

 モブにも気合が入った立ち絵が用意されたこのゲームは恋愛シュミレーションゲームとしての完成度もさることながら戦略RPGとしての要素も強くRPGパートだけでもかなり歯応えがある。

 そんな素晴らしいゲームに出会った私が華やかなフィクションの世界にのめり込むのにそう時間はかからなかった。

 気づけばアルティメットマニアと呼ばれる鈍器の如きぶ厚さを誇る攻略本を愛読しグッズが出れば即チェックする筋金入りの福カンオタクと化していた。

 そんな私のオタク魂が神か仏か、はたまた悪魔にでも届いたのだろう。

 色々あって目が覚めると福カンの主人公、メイロイン・ヒエロフになっていた。

 社宅の天井とはまるで違う知らない木造の天井。

 福カングッズまみれの部屋よりもなお狭い寂れた部屋。

 まるで見覚えのない景色に最初は戸惑ったもののすぐにそこがメイロイン、メイリーの部屋だと分かった。

 アルティメットマニアに載っていたメイリーの部屋と間取りが同じだったからだ。

 誕生日に買ってもらった手鏡に映っているのは栗色の髪と深緑色の瞳を持った質素な恰好の少女。


「よっしゃあっ!!メイリーだぁーー!!」


 その事実に私は跳び上がって喜び両親を驚かせてしまった。

 ゲームの世界の人間になってしまったら普通なら驚いたり怖がるものだろう。

 だがしかし!異世界転生ものの小説も愛読している私に隙はない。

 むしろついに自分にもお鉢が回ってきたのだと小躍りしたくらいだ。

 歓喜のブレイクダンスを一通り舞ったところで部屋を見渡す。 

 家具は全て初期配置。

 ゲーム内通貨で買える家具やお土産等はなくローブや教科書等魔法学校にまつわるものもない。


「まだ入学してないってことね」


 福カンの導入はよく言えば王道、悪く言えばテンプレ。

 幼い頃から治癒魔法の才があり誰に教わることなく簡単な治癒を使えたメイリーはひょんなことから魔物討伐に赴いて負傷した騎士を治療する。

 その騎士が王宮の近衛騎士団長であることが後に判明。

 彼の推薦で魔法の才がある貴族の子息達が通うカルターラクル魔法学校に通うことになるというものだ。

 ちなみにその近衛騎士の息子も攻略キャラの一人に入っている。

 まだ入学していないなら今のうちからできることは何もない。

 そう結論づけた私は運命のその日が来るまでしがない平民としてこの世界を満喫することにした。



 私がこの世界に転生してから二年。ついに入学の日がやって来た。

 長かった!本当に長かった!!

 だってこの世界スマホもテレビもないんだもん!

 片田舎の村娘としての人生は現代人として生きてきた私にとって果てしなく暇だった。

 来る日も来る日も同じことの繰り返し。

 やることと言えば家の手伝いと時々負傷した人を手当するくらい。

 目新しいことも刺激的な出来事もない単調な日々を生きるだけ。

 ゲームやラノベではその辺りがほとんど書かれてなかったけど転生した人達もこの暇と戦ったんだろうなぁ。

 でもそんな日々とはもうおさらば!

 今日から私は唯一の平民生徒として薔薇色の学校ライフを楽しむの!

 馬車に揺られて学校へと向かい、平民という身分では潜ることすら許されなさそうな豪奢な校門を抜ける。

 本物のメイリーはおっかなびっくり門を通って周りの生徒に笑われていたけど数え切れないほど周回した私にとっては勝手知ったる庭。

 魔法の杖どころかナイフ一本でも攻略できる自信を胸に入学式が行われる講堂へと向かう。


「あれよ。今度入ってくる平民の生徒って」

「すごい堂々としてない?」

「えっ?卒業生じゃないの?」


 外野が何かを言っているけど寛容な精神で許しちゃう。

 なんでって?

 もうすぐで私の最推し!メインキャラにしてパッケージを飾る我らがヒーロー!フレイリング・レッディオーナ様の新入生代表挨拶が聞けるんだもん!!

 フレイリング様、略してフレグ様は身分を隠して入学したこの国の第三王子だ。

 王位継承を放棄して好きなことを勉強しようと学校に入学してメイリーと出会い、色々あって復活した魔王との戦いで二人の兄と父を失いながらもメイリーと仲間達と一緒に魔王を打倒。

 なるはずがないと思っていた国王となってメイリーを娶るというのが個別ルートのトゥルーエンドだ。

 家族を失い失意に暮れるフレグ様がメイリーに励まされて再起して魔王に立ち向かう姿でティッシュ箱三つくらい消えた。

 あのルートをプレイして推さないのは無作法というもの。

 この世界に転生した時から私のやりたいことは決まっている。それはフレグ様ルート攻略RTA!!

  待ってろよ魔王!一ヶ月でぶっ倒して王妃になったらぁ!!

 でもフレグ様が王になったのはお父さんとお兄さん達が死んだからなんだよね・・・。

 やっぱ王妃はやめとこ。

 先生の指示で席に就いてその時を待つ。

 入学式が始まり、二千年は生きていると噂の仙人みたいな校長の挨拶にさしかかる。

 意識を刈り取り眠りへと誘う一本調子な言葉を鋼の精神で耐え、ついに待ちわびた時がやって来た。


「新入生代表挨拶」


 教頭が淡々とその時を告げる。

 新入生代表挨拶は入学試験を主席合格した生徒だけに許される挨拶で今年の代表はフレグ様。

 つまりフレグ様こそが並居る新入生の中で一番成績がいいエリートということだ。

 その実力は王子という立場だけでは説明出来ない。

 私が知らないだけで裏では途方もない努力を重ねてきたのだろう。

 その努力が実る瞬間を肉眼だけでしか見れないなんてもったいない!誰かスマホ持ってこい!録画して生配信してやる!全世界にフレグ様の勇姿を拝ませてやる!!

 クッ!なんかいい感じのチート能力とかでスマホ出せたらいいのに!

 なんてことを考えていると教頭が新入生代表の名前を呼んだ。

 そう、私の推しのフレグさ


「新入生代表、ミアレヴィーナ・セレディポリス」


 ・・・ま?はっ?


「だ、誰?」


 えっ?待って。ちょちょちょ待てよ!

 えっ!?ミアレヴィーナ?はぁっ!?誰それ!?フレグ様は!?そこはフレイリング・レッディオーナって言うところでしょ!?ミアレヴィーナって誰よ!?

 困惑する私をよそに事態は淡々と進んでいく。

 舞台袖から現れたのは見たこともない美少女だった。

 漫画やゲームをこよなく愛し、美形キャラを見る目が肥えた私の目をもってしても美少女と言わざるおえないほど美しい女の子が優雅な足取りで壇上を歩く。

 そして舞台の真ん中に着くとその一挙一動に見惚れる私達に臆することなく一礼した。

 正直、彼女が何を話していたか全く覚えていない。

 頭がパニクってそれどころじゃなかったからだ。

 白磁器のようなきめ細やかな美しい肌。

 父の実家の畑で秋になるとたわわに実っていた風に揺れる稲穂のような豊かなブロンドの髪は肩の辺りで綺麗に切り揃えられ、良き実りをもたらす肥沃な大地のような茶色の瞳は同年代とは思えないくらい倒錯的な色香を漂わせている。

 厚すぎず、それでいて柔らかく健康的な桃色の唇が新入生代表として恥ずかしくない堂々とした言葉を紡ぎ、メイリーのそれよりも細くしなやかな美しい指は時折交えられる身振り手振りに合わせて会場を魅了する。

 まさに全身魅了デバフ持ちのパーフェクトガール!


(な、なんなのよあの女はぁーーーっっ!!??)


 ここが講堂じゃなきゃ間違いなく絶叫していたと思う。それを耐えたことだけでも褒めてもらいたいくらいだ。

 こうして、フレグ様攻略RTAの出鼻は挫かれミアレヴィーナという美少女への謎だけが残る入学式は終わった。



「っていうわけなのよぉ。もう頭真っ白になっちゃって」


 その夜。

 学校の寮に用意された部屋に帰った私は今日あったことを専属メイドのフレンカに話した。誰かに話さなきゃやってられないからだ。


「はぁ・・・」


 話を振られたフレンカはすごく困ったような顔で短い相槌を打つ。


「どこかで見たことあるような気がするんだけど全然思い出せないんだよねぇ。あー、ここにアルティメットマニアがあったらなぁ」

「はぁ」

「聞いてる?」

「はい。あの、私達はどこかでお会いしたことがあるのでしょうか?」

「なんで?」

「とても気さくに話されるので会ったことがあるのかと」

「あっ、やば・・・」


 意味を理解して慌てて口を閉じる。

 周回しまくった私にとってフレンカはマブダチだけどメイリーとは今日が初対面。

 いきなりフレンドリーに話しかけられたらそりゃドン引きよね。


「ごめんね。周りに平民の子がいないからつい・・・」

「左様でしたか。ヒエロフ様はセレディポリス様のことが気になるのですか?」

「メイリーでいいよ。貴族ってわけじゃないんだし」

「流石にそれは・・・」

「じゃあ命令。これでいい?」


 最初は困ったように顔を伏せていたフレンカも私が本気だと分かると渋々頷いてくれた。

 ずるい言い方だって分かってる。

 でも、大好きな人によそよそしくされるのはやっぱり悲しい。


「気になるのかな?フレグ様を差し置いて新入生代表なんてあるまじき事態だよ」

「フレグ様?」

「フレイリング・レッディオーナ。本当ならその人が新入生代表だったの」

「何故そのようなことが分かるのですか?」

「えっ?・・・あっ!噂!そう噂してる子がいっぱいいたからすごく優秀な人なのかなって」

「はぁ」


 あっぶなー。断言するのはおかしいよね。

 異世界転生したことがバレたりはしないだろうけど変な子って思われたら仲良くなれないかもしれない。

 今後はメタ知識をひけらかすのは控えよう。


「・・・あっ!そうだ!ねぇフレンカ」

「はい。何でしょうか?」


 努めて冷静に振舞っているけど顔が少し引き攣っている。

 きっと嫌な予感を感じ取ったのだろう。残念だけどそれは当たっている。


「フレンカって他のメイドと話したりすることあるよね?」

「はい。職務の途中で顔を合わせたりする程度ですが」

「じゃあミアレヴィーナのメイドにあいつのこと聞いてきてくれない?」

「・・・」

「露骨に嫌な顔しないでよ」

「誠に申し上げにくいのですが、何故セレディポリス様のことを知りたがるのですか?」

「どゆこと?」

「ヒエロ・・・メイリーはレッディオーナ様が新入生代表でなかったことが不満なのでしょう?」

「うん。まぁ・・・」

「ではセレディポリス様のことを知る必要はないのでは?意にそぐわない結果をもたらした方のことを知って何の得があるのですか?」

「それは・・・」


 忘れてた。フレンカって結構ズバズバいう子なんだっけ?

 どうして知りたいのか?改めて聞かれるとこっちだって分からない。

 動機を言語化するのは難しいけど一番しっくり来る理由は多分・・・


「知らないからだと思う」

「と、申しますと?」

「私はあのミアレヴィーナって奴のことを何も知らない。いい人かもしれないし悪い人かもしれない。私の友達になってくれるかもしれないし敵になるかもしれない。それが分からないから知りたいんだと思う」

「まるで他の方のことは知り尽くしているような口ぶりですね」

「そ、そんなことないよ?」


 嘘です大体知ってます。

 ほとんど縁のないモブはともかく名前ありのキャラは大体把握してる。

 フレンカが本当は没落貴族の子だってことも。


「とにかく!何か分かったら教えてよね。おやすみ」

「おやすみなさいませ」


 正直疲れたから今日はもう寝る。

 フレンカが明かりを消して部屋を出て行ったのを確認して目を閉じる。

 今目の前にアルティメットマニアがあったら夜通し読み返してミアレヴィーナの正体を知るヒントがないか探していたことだろう。

 しかし、実家のベッドの何十倍もふかふかで暖かい布団の前にはそんな勤勉な精神も儚いもの。私は寝たという実感すらなく眠りに就いた。




 翌朝。

 メイリーとしての学校生活がいよいよ始まる。と言っても授業の内容も今日起こるイベントも全部頭に入ってるから新鮮味なんて全然ないんだけどね。


「さーて。過去は忘れて未来だ未来。早速フレグ様のフラグを立てにいくぞー!」


 一限目の授業をサボってだだっ広い校舎を練り歩く。フレグ様のフラグはいくつかのルートをクリアすると発生するようになるイベントで立てられる。

最初のフラグを立てる条件は初日の一限目に中庭に行くこと。

 つまりフレグ様攻略RTAをするにはしょっぱなから授業をサボらなきゃいけない。

 他のルート攻略はまだだけどもしかしたらフレグ様のフラグを回収できるかもしれないと思った私はフレグ様がサボってる中庭へ移動する。

 その道中、校庭を歩く二人の人影を見かけた。

 まずい!先公だ!!

 サボりがバレてはたまらないと慌てて隠れて様子を見る。

 どうやら生徒らしい。

 ほっと胸をなで下ろした私はあることに気づいてその二人を追った。

 だって、その内の一人があのミアレヴィーナだったんだもん。


「新入生代表様が初日から遅刻なんていいご身分ね」

「ごめんなさい。後で何か奢るわ」

「あんたは昔からそう。ちょっと目を離したらすーぐ迷子になるんだから。危なっかしいったらないわ」

「カレアには感謝しているわ。どんな時も貴女が見つけてくれるんですもの」

「褒めたって奢りは消えないわよ」

「あら?その程度で相殺されるなんて心外だわ」

「減らず口叩いてたら置いてくからね!」

「もぅ。カレアはせっかちさんね」

「ミアナがぼけーっとしすぎなのよ!」


 二人を尾行しながら地獄耳で会話を盗み聞く。カレアと呼ばれた女子生徒はミアレヴィーナととても仲が良いらしい。

 代表挨拶の時は品行方正なお嬢様を地で行っていたミアレヴィーナが年頃の女の子のように冗談を言ったり茶化している姿はとても新鮮でかわいい。

所謂ギャップ萌えだ。


「あのカレアって子、どっかで見たような」


 後姿しか見えないけどあのウェーブのかかった薄紫の髪には見覚えがある。

 どうにか顔が見えないものか。

 そう思っていると神様が私の行いを見て下さっているのかチャンスをくれた。カレアが校庭に咲いた花を振り返って見たのだ。

 その顔を見た瞬間、私の脳内に紫電が閃いた。

 お、思い出した・・・!!

 ウェーブのかかった長い薄紫の髪、愛おしそうに花を愛でる藍色の瞳。

 あの子は、いや!あいつは・・・


「悪役令嬢カルステア・ボルドゲート!!!」

おはようございます

こしこんです

かてじょも一段落ついたので気軽に楽しめる短編を書いてみようと思い立って書いてみました

全3話+おまけの構成を予定しているので空いた時間にさっと読めるようなものに仕上げられたらいいなと思っています

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