『シックス』
ボスを倒した後、俺たちはダンジョンを上がっていた。
俺たちに会話はなくなっていて、無言で歩いている。時々迫ってくるモンスターは俺が倒す。
俺は今強い達成感と安心感と、それを上回るサタンへの強い恨みが心を占めていた。
アイツ、魔石壊しやがった。実質Aランクのボス。しかもイレギュラー。そんなやつの魔石を持って行ったらどんな額になっただろうか。
ああ、クソ。マジで使えねぇじゃん。
「……じま」
もう絶対にアイツは使わん。二度と使わねぇ。
「佐木島!」
「はいっ!」
柊木さんが急に大声出すからびっくりした。
「あ、いや、驚かすつもりはなくって……」
怒っているのかと思いきや、急に小さくなる。
「それで、どうしたの?」
「……その、今までバカにして本当にごめんなさい。謝って赦されるとは思ってない。だけど償いはさせて?」
なるほど。そう来たか。
でも償いね。別にいらな……
「あ、じゃあ俺のパーティーに入ってくれない?」
人数が増えればもっと稼ぎが良くなる。
そして、俺はもっと楽ができる。
「……え?だ、ダメだよ!私なんかじゃ!私は弱いし、酷いことしてきたし」
クソ、断られた。だがしかし、俺はここで諦めるような男じゃない。
「酷いことは確かにされたが気にしてない。だから柊木さんも気にするな。そして、実力のことなら大丈夫。努力でどうにかできる」
「……できないよ」
「できる。何故なら俺はジョブ無しだからだ。才能の欠片もなかった俺だが今ではAランク冒険者だ。その意味が分かるだろ?」
そう。人間は努力次第でいくらでも強くなれる。まあ、その努力が死ぬ程キツイんだが。
「うそ……あの『マスター』がジョブ無し?」
柊木さんは親底驚いている。
「そう。今の実力は関係ないんだよ。だから、俺のパーティーに入ってくれない?」
あ、違うか。もうこうしよう。
「いや、俺のパーティーに入れ『シックス』」
「っ?!は、はいぃ『マスター』」
少し前くらいから気づいていたけど、柊木さんは命令に弱いみたいだ。
今も顔を赤くしてハァハァ言っている。
性癖かな。
「それで、柊木さんの本当のジョブって何?」
柊木さんが驚いたような表情を見せる。
「……気づいてたんだね。私の本当のジョブは弓士。でも、家系が剣士の血筋で弓は持ったことすらない」
なるほど。柊木って、あの柊木だったのか。
柊木とは、Bランク、Aランク冒険者を多く輩出している有名な家系だ。
おそらく、弓士として産まれた彼女に家での居場所は少なかっただろう。
「それでもいいよ。俺が弓術を教える。
俺のパーティーは全員仮面とコードネームがあるから正体はバレないようになっている。だから、家系を気にせずに弓を扱える」
「ど、どうしてそこまで……」
「それはもちろん俺が楽す……んん、君が才能溢れる人だから」
危ねー、うっかり本心を出すところだった。
別にバレてもいいけど今じゃない。
「ありがとう。これからよろしくね、修くん」
まあ、俺のパーティーには後衛が凪沙一人だったからちょうど良かった。
「ああ、よろしくな……柊木さん」
よろしくするのは、俺を除くパーティーメンバーだがな。
あと、柊木さんの下の名前分かんなかった。
「……わ、私のことは千代って呼んで」
お、ナイス。
「ああ、分かったよ千代」
千代にパーティーのことを説明しながらダンジョンを後にした。
試験はもちろん不合格。
魔石消失したからな。
それに、Cランクダンジョンのボスを倒したなんて言ったところで信じる奴はいねぇだろう。
ああ、補習面倒だな
◆◇◆◇◆◇
「と、言うことで仲間となった柊木千代、もとい『シックス』だ。ジョブは弓士」
俺はパーティーホームにて皆に千代を紹介している。
「ひ、柊木千代です!皆さんの足を引っ張らないように頑張ります!」
同じパーティーメンバーだってのに硬い千代。そんな緊張しなくていいのに。
まあ、そのうち慣れるだろう。
「『ノア』の岡本乃々愛だよ!ジョブは剣士!好きなものは修!よろしくね!」
色々とうるさい。
「『アイス』の河瀬凪沙。ジョブは魔術士。後衛が私以外にいなかったからちょうど良かった。よろしくね、千代」
おい、既に緊張しているのにさらにプレッシャーをかけるなよ。
本人に悪気がないのがたちが悪いわ。
「『シロ』、東雲美奈。暗殺者。よろしく」
「きゃあっ!」
千代の背後から現れた美奈。背後にいたことを知らなかった千代は悲鳴を出していた。
お前、人の背後に気配を消しているのやめような。
「『ヒナ』の佐木島陽菜乃です。ジョブは回復術士です。よろしくお願いします、千代さん。
そして、兄さん。また女を連れてきましたね。監禁しますよ?」
すぐに監禁しようとしないで下さい。
「よ、よろしくお願いしますぅ」
ほら、お前らのせいで千代が涙目なってる。
パーティーメンバーと千代の初対面はそんなふうにして終わった。