表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/70

やってられるか、引退だ

 俺はジョブ無しだ。

 ジョブ無しは無能の印。

 

 でも、思ったんだ。ジョブが無いなら、自分で成ればいい。



◆◇◆◇◆◇



 薄暗く幅広い道。奥から物凄いスピードで迫る、無数の狼。

 一匹一匹がCランクダンジョンのボスと同じくらいの実力を持っている。


「私が魔法で殲滅するわ。マスター、足止めお願い」


「分かった」


 俺は手に黒い水晶を取る。


武器召喚サモン『大盾』」


 手に持つ黒い水晶が大盾に変化していく。

 武器召喚サモンは俺が望む武器に変わる魔道具である。絶対不壊の。


「『身体能力強化』『挑発』『障壁』」


 『身体能力強化』と『挑発』は付与術士の技。

 『障壁』は魔術士の技だ。


 ジョブ無しであるが故に俺はほとんどのジョブを扱える。


『グアァァァ!!』


 道いっぱいに広がり進んでいた狼が『挑発』の影響で俺の方へ来る。


 そして、狼は俺の構える大盾に衝突する。


『ッ?!』


 俺が吹き飛ばないことに驚いた様子の狼。


 まあ、身体能力強化しているし体に障壁も纏ってるからな。


「できた」


 凪沙の声が背中越しに聞こえた。


 やっぱり凪沙は呪文構築が早いな。


「おう。武器召喚サモン『弓矢』」


 後ろに矢を放ちながら下がる。

 狼は矢に阻まれ前に攻めあぐねる。


「『砲撃』」


 火炎放射器のように炎が狼を焼き尽くす。


 凪沙が魔法を消したときには魔物は既に灰すら残っていなかった。


「あ〜!アイスやりすぎだってば!魔石残ってないじゃん?!」 


 魔石を回収しようとした乃々愛が凪沙に詰め寄る。


「しょうがないじゃない。久しぶりのマスターとの共同作業に胸が踊ったのよ」


 凪沙は悪気がないように言うが、ちゃんと魔石は残しといてほしかった。

 お金ほしかったから。


「次は私の番だからね!」


 あ、これ一人ずつするやつね。



◆◇◆◇◆◇



 また、やって来た狼。


「マスター!援護よろしく!」


 乃々愛が剣を片手に特攻して行った。


 知らない人が見たら小学生が遊んでいるように見えるかも。


「『身体能力強化』『強化』」


 俺は、乃々愛に『身体能力強化』を。乃々愛の持つ剣に『強化』を付与した。


「えいやー!」


 ふざけたような掛け声で狼を次々に葬っていく乃々愛。声はふざけていても剣筋はきれいなんだよな。


武器召喚サモン『弓矢』。『貫通力強化』」


 乃々愛が仕留め損なった狼を遠くから弓で倒す。


 これを繰り返し、狼はだんだんと数を減らして行く。

 俺は、たまに矢を撃つだけで乃々愛の様子をずっと見ていた。

 そして、気になることがあった。


 あいつ、わざと魔石狙ってやがる。


 魔石とは、モンスターの心臓。

 魔石は回収し、ギルドに持っていけばお金になる。

 冒険者はその金で生活を送っているのだ。


 魔石はモンスターにとっての心臓だから、魔石を壊せば確実に死ぬ。

 だけど、金にはならない。


 あいつ、絶対に狙ってやがる。

 乃々愛の実力なら首をはねることもできるだろう。

 いや、むしろあんなに速く動く敵の小さい魔石を狙う方が難しい。


 はあ、もういいや。


 俺が仕留めた奴の魔石は俺のだからな!



◆◇◆◇◆◇



「次は私」


 美奈がボソボソと呟く。


「あいあい」


 目の前から来る狼。もう疲れた。帰りたい。


武器召喚サモン『剣』。『挑発』『身体能力強化』」


 いっぱいの狼が俺のところへ。きもい。


 俺は、狼の身体を次々に切断していく。


 さっきまで隣にいたはずの美奈はもういない。

 おそらく気配を消してモンスターの最後列にいるのだろう。


 後ろから無防備な背中から刺し殺す。

 他のモンスターは敵を探すがどこにもいない。


 そんな場面が容易く想像でき、思わずほくそ笑む。


 数分後、狼は一匹も残らず殺しきる。


 そして、やはり美奈も魔石を残していなかった。



◆◇◆◇◆◇



「それでは、よろしくお願いします」


 陽菜乃が微笑む。


 対する俺は、俺は……もうヤダ。


「やっぱり止めない?俺、ヤダよ〜」


「え?なんでですか?兄さん私だけやらないって、兄さんは監禁をお望みなんですね」


「やるに決まっているだろう」


 怒った陽菜乃に監禁されるのが一番怖い。


武器召喚サモン『ナックルダスター』。『挑発』『身体能力強化』」


 前から大量の狼が……来てしまった。


 俺はさっきから皆のジョブを生かした立ち回りをしている。


 だから、回復術士である陽菜乃に対しては、怪我をし続けなければならない。


 ちくしょう。

 陽菜乃の腕は信じている。だけども、痛いものは痛いのだ。


 もう、どうにでもなれ。


 ジョブは、拳闘士。


 ただただ殴って殴って、噛まれて引っ掻かれて。


 狼の癖して何故か体毛が硬いから殴るのも痛い。


 身体の欠損も陽菜乃によって一瞬で治される。でも、その一瞬の間の激痛がヤバい。


 どれくらい経っただろう。

 ようやく終わった地獄の時間。

 俺はもうボロボロだった。


 身体に外傷はない。陽菜乃が逐一治してくれたから。


 でも、精神的に疲れた。


 俺はもう二度とダンジョンには潜らないと決めた。

 引退です。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ