『マスター』
「はあ〜」
ため息混じりに俺は仮面をつける。
手に丁度収まるくらいの黒い水晶を持ち家を出る。
ダンジョンに潜るのは何ヶ月ぶりだろうか。
最後に潜ったのは、二ヶ月前か。
確か、ゲームに課金したかったけどお金がなかったからしょうがなく。
家から徒歩5分もかからずギルドに辿り着く。
ヤバい。ギルドに行くのも久しぶりだ。
今から逃げようかな。逃げ切れそうではあるが、次顔を合わせた時が怖いな。
クソ、行くよ。
俺たちはギルドに足を入れる。
シーン。
騒がしかったギルドが俺たちを、正確には俺を見るなり静かになった。
おいおい、なんだよ。俺の顔に何かついてんのか?
仮面以外ついてねぇぞ。
まあ、原因は分かっている。腐っても俺、Aランクだしな。しかも、最速最年少の。
「マスター、ダンジョンはどれにする?」
凪沙が俺に聞く。
「どれでもいい」
簡単なやつ、と言いたかったけど何か言える雰囲気じゃないな。
「じゃあじゃあ、Aランクダンジョンにしよ!」
は?!ええ?!
Aランクぅ?!ヤダよ面倒だし。
ここは、ちゃんと断ろう。
『おいおい、Aランクダンジョン行くらしいぜ!』
『凄えな!流石パーティー全員Aランクだ!』
『カッコいい!』
「よし、行くぞ」
クソ、断れねえ。
もういいや。これが終わったら半年はダンジョンに入らねえからな。
◆◇◆◇◆◇
修たちが去っていった後、ギルドでは『夜』の話で盛り上がっていた。
『夜』。1年前に結成されたパーティーだ。
当時はパーティーに所属する全員が仮面をつけている異色のパーティーだった。今も変わらないが。
その上、全員の背丈から平均年齢が低いことが予想でき、このギルドでは注目を浴びていた。良い方ではなく。
ギルドの全員が、彼等がどのくらいで死ぬか予想し賭けをしていた。
しかし彼等の片鱗を感じ始めたのは早かった。
彼等がパーティーを結成して、1ヶ月。たった1ヶ月でランク昇格の試験を受けに来てたからだ。
昇格試験は、格上のモンスターと戦い、その中で立ち回りとかを評価するもの。
本来、1番下のランクの冒険者は薬草採取くらいしかしてないから、ランクアップに1番時間がかかると言われている。
早くても半年だ。
最初は無謀だと笑った。彼等を。
その日、世界に化け物が現れた。
小さな身体から速く重い剣撃を繰り出す剣士、『ノア』。
圧倒的な呪文構築速度と火力を誇る炎属性魔法の使い手、『アイス』。
気配を消すことに関しては他を寄せ付けない程の実力を持つ、『シロ』
四肢の欠損ですら数秒で治癒する回復術士、『ヒナ』
彼女たちは1ヶ月という短い期間でAランク冒険者へとなった。
しかし、世界が震えたのは彼女たちではない。
彼の存在だ。
たった5日。それだけの期間でAランクへと登りつめた少年。
有名になった今でさえ不明のままであるジョブ。
そもそも、そんな人物なんて存在するのかと都市伝説と化している程だ。
世界が畏怖する彼の名は、『マスター』。
『夜』のパーティーである。
◆◇◆◇◆◇
「へっくしょん」
やべ、今何か悪寒した。
「どうしたの?」
凪沙が心配したように聞いてくる。
「……何か風邪みたいだ。今日はやめとかない?」
よっしゃ帰れる!
「嘘だ!」
「嘘でしょ?」
「うそ」
「監禁しましょうか?」
はい、無理でした。
あと、陽菜乃。お前、第一声のほとんどに『監禁』って入るってるんだけど監禁好きなの?
気になるけど、聞いたら絶対に監禁されるからやめとく。
はあ。どうして俺のパーティーには、こうクセの強い奴が多いんだろうか。
まあ、全員俺が選んだんだけど。
もっと俺を見習って……やっぱり見習わないで。
たぶん、彼女たちの性格を歪めた一因、俺だわ。
「じゃあ、行くぞ」
俺たちはAランクダンジョンに足を進めた。